53 一日目:求)冒険者登録とランク上げの詳細 前編
ギルドの受付に向かった姉と妹と剣技の精霊。
まず姉のユーリカが受付嬢に話しかける。
「すみません」
「はい。冒険者ギルド、エンシア王国本店へようこそ」
受付嬢は心地いい声の挨拶と共に笑顔で返答してくれる。
「今日はどんなご用件でしょうか?」
「妹の住民登録をお願いしたくて」
「エンシア王国への国民登録ですね。代筆は必要ですか?」
「いえ、文字は書けます」
ユーリカは代筆を遠慮する。
「分かりました。ではまずこの用紙に登録者様のお名前と、王都内なら居住区、それ以外なら領地名をお書き下さい」
受付嬢は羊皮紙と羽ペンの刺さったインク壺を差し出す。
姉は羊皮紙の指示通りにサラサラッと書き、提出。
「はい。では登録者本人かどうか確認致しますので、妹様を私の見える位置まで持ち上げて貰えますか?」
先程から頭の先だけぴょこっと出ていたナターシャが斬鬼丸によって持ち上げられる。やっと姉が何してたのか見えるわ。
羊皮紙は通常の物ではなく魔術的な物。
書類の偽造や持ち出しを防止する為に、ギルド職員以外の人間には触れられなくなるなど色々と制約が書いてある。
そして羊皮紙の傍にベルのような物が置かれ、受付嬢が話しかけてくる。
「貴方がユリスタシア・ナターシャさんですか?」
「はい」
少しの間沈黙が流れる。
「……はい。確認が取れました」
質問だけで本人確認が終わってしまった。あのベルは何かの魔道具なのだろうか。
受付嬢はベルと羊皮紙を回収し、羊皮紙に大きな判を押す。すると羊皮紙に書かれた文字が一瞬輝く。何か魔術的な効力を発揮したのだろう。
判を押し終わった羊皮紙には赤い線で出来たマークが押されている。
なんというか、角張った刺々しい三つ葉のクローバーのようなマークだ。
「これで国民登録は終わりました。初登録であるナターシャさんの為に冒険者ギルドの説明に移りますね」
受付嬢はカウンターの中から一冊の本を取り出すと説明し始める。
「この冒険者ギルドはエンシア王国により運営されている組織です。登録者はエンシア王国民と認められ、エンシア領土内、または友好関係にある国・領地を自由に行き来出来る権利と、エンシア国民である事を証明する身分証明書を得られます。
身分証を何かしらの理由で紛失した際は必ず冒険者ギルドにお申し付け下さい。
職員が魔法により身分証の遠隔消滅を行います。
身分証の再発行には銀貨5枚を要求すると共に厳重注意を行いますので、紛失しないようにお気をつけ下さい。
冒険者ギルドはこの本店以外にも複数の支店があり、ギルド登録を消された場合には他の支店でも同様の作業を行う事が出来ます。ただし身分証の消滅を行っていない場合、登録書の制約により登録が出来ません。
国民登録は初回に限り無料です。次回以降は銀貨3枚を要求致します。
持病や怪我で期限が切れそうな場合は冒険者ギルドにお問い合わせください。登録抹消までの期限を最長6か月まで延長致します。
エンシア王国領土内、またはその影響下にある街や国家とは様々な取り決めにより、冒険者ギルドに登録している人間からは通行税を取らないという法令が定められています。面目を変え、強制的に通行税を支払わされたなどという違反行為が発生した場合には最寄りの冒険者ギルドにお申し付け下さい。
その代わりとして登録者は冒険者ギルドに年会費を納税、もしくは定められた期限内に冒険者ギルドで発布されるクエストを受ける事が義務付けられます。
もし年会費を支払わず、定められた期間内にクエストを受けなかった場合登録が抹消されますのでご注意下さい。
国民としての登録期間はランクによって変わります。
上から順に
白金
金
銀
鉄
青銅
銅
とランク付けされています。
現在のナターシャさんのランク、銅では、年会費を支払わず、一か月ほどクエストを受けなかった場合、国民としての権利を失います。
しかし、銅ランクのクエストは騎士団が訓練として毎日魔物掃討を行う森での薬草採取や、街中での清掃業務などが多いので誰でも簡単にクリアできますよ。
他の支店でも必ず同じような危険の少ないクエストを用意しています。ご安心ください。
ランク毎の登録期間を知りたい場合はお気軽にお尋ね下さい。
そして年会費ですが、どの地方のギルドからでも支払えます。ですが一律で銀貨8枚となっています。
支払い日から一年間は国民登録が削除されません。
いつ支払ったか忘れた場合は最寄りの冒険者ギルド受付にご相談下さい。丁寧に対応致します。
最後になりますが、エンシア国民として登録した人間は模範的な態度で過ごす事が推奨されます。
あまり暴力沙汰や犯罪行為をしないように行動して下さい。
目に余ると判断された場合は容赦無く投獄されます。反省を促す為数日間禁固刑を受けますのでご注意下さい。以上です」
結構ガッツリとした説明を受け理解が出来ず茫然とするナターシャ。
「……つまりどういう事です?」
受付嬢もざっくり掻い摘んで説明する。
「冒険者ギルドに登録した特典として、ギルドの存在する領地と友好国との間なら通行税無しに自由に行き来出来ます。その為の身分証明書も貰えます。
国民全員にランクがあり、ナターシャさんは現在銅ランクです。
今のランクなら年会費を払うか、月に一度クエストを受ければ登録が維持されます。
年会費は何処で払っても銀貨8枚です。
最後に、驕らず、人として真面目に生きましょう、という事ですね」
どうも分かりやすいまとめをありがとうございます。
「年会費のお支払はどうなさいますか?」
受付嬢は年会費の事を聞いてくる。
ナターシャは父から預かっていた銀貨袋を懐から取り出し、銀貨8枚をカウンターに提出する。
「これでお願いします」
「はい、丁度お預かりしました」
銀貨を受け取った受付嬢は誰かのサインとギルドのマークが押してある新しい羊皮紙に今日の日付と年月を記入して、ナターシャの名前の書かれた羊皮紙と一緒に置く。
「では身分証明書を発行致します。少々お待ち下さい」
受付嬢はカウンター内で作業し始める。羽ペンを持ち、文字を書いているようだ。
書き終わると小さな判子を持ちポン、と押す。
「……はい、出来上がりました。これがナターシャさんの身分証、冒険者カードになります」
受付嬢からナターシャのフルネームとギルドの証明、そして登録日と小さなさっきのクローバーマークの印が押された茶色く堅い紙製のカードが手渡される。
スキルとかの詳細は書かれていない。本当にただの身分証だ。
「それと、ナターシャさんのランクを表すタグです。お受け取り下さい」
受付嬢から銅のプレートが付いたドッグタグを渡される。
「無くさないよう注意してくださいね」
「はーい。」
ナターシャは両方受け取りとりあえず左に付いている巾着袋に入れる。
そして斬鬼丸に降ろしても良いよと伝えて降ろして貰う。わきと二の腕の内側がちょっと痛ぇ。
「登録作業はこれで終了になります。この後のご予定が開いているようでしたら、クエストの受注などは如何でしょうか?」
にこやかにクエストを進めてくる受付嬢。仕事の顔だ。姉はその申し出を丁重に断る。
するとナターシャが手を挙げる。
「受付さん。いくつか質問しても良いですか?」
カウンターの下からナターシャが話す。
少女っぽい声質だ。
「はい、なんでしょう」
受付嬢も微笑ましく対応する。
手を降ろして質問していくナターシャ。
「鉄ってどれくらいの強さですか?」
ナターシャの質問に少し考えてから話す受付嬢。
「うーんそうですね……。単独で中型魔物を倒せるレベルでしょうか。大体の方がこのランクで落ち着きますね。冒険者では鉄が平均的なランクになります」
「中型魔物ってどんなのですか?」
「えぇと、オーク辺りですね。鉄ランクの方はそれを1対1で単独撃破出来る程度になります。普通の人から見たら相当強い部類に入りますね」
「なるほど。」
つまり姉貴クッソ強ぇじゃん。異世界人ヤバすぎだろ。
「……ランクを上げるにはクエストを受け続けていれば良いんですか?」
少し真面目に聞き始めるナターシャ。声のトーンが少し下がって少女らしさが消える。
姉は驚いた様子でナターシャを見つめる。
最近敢えて前置き書かないようにしてるマン
後長いので分割。




