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52 一日目:エンシア王国の冒険者ギルド

 ナターシャとユーリカは手を繋ぎ、入ってきた城門から続く大通りの歩道をまっすぐ進んでいく。歩道沿いに立つ中世ヨーロッパチックな家々が視界の横を流れる。

 途中にある十字路では馬車に轢かれないよう気を付けながら道を横断する。でも俺の歩幅的に間に合うか厳しかったのでそこだけは姉がお姫様だっこしてくれました。ちょっと恥ずかしいねコレ。


 その道中で見る武装した冒険者達の姿を見て、ナターシャは姉に疑問を投げかける。


「お姉ちゃん、エンシアの冒険者って皆強いの?騎士団よりも強い?」


「そうね……流石に騎士団と冒険者じゃ天と地くらいの差があるけれど、下の方ではゴブリンに苦戦する人、上には単独でドラゴンを討伐する実力を持った人も居る。もっとも、そんな上の方の人間は国家騎士団に招待されたり、国のお抱え冒険者になっている事が多いから滅多に出会う事は無いわね。緊急事態が起こるまで自由にクエスト受けられないのが殆どよ」


 強いっていうのも大変なんだね。


「そんな強い冒険者の人達は何処に住んでるの?」


「宮廷貴族達と同じエリアで国からの給付金を貰いながらのんびり生活しているわ。ただ冒険者としての血が騒ぐのかしら、たまに国を抜け出しているみたいで一定区域の魔物が全滅してたり、匿名で大型魔獣が冒険者ギルドに届けられたりするからそれで抜け出したとバレるみたいよ」


 自由だなぁ……。


「お姉ちゃん自身の強さは冒険者的にどれくらい?」


「うーん……アイアンくらいじゃないかしら。魔物と戦う実地研修はまだ一回しか行った事がないからあまり分からないわ」


 アイアン。なんじゃそりゃ。


「それって強いの?」


「それは冒険者ギルドで聞きなさい。……ほら、着いたわよ」


 姉が立ち止まり右を向く。ナターシャも手を繋いだまま同じく右を向くと目の前に“冒険者ギルド‐エンシア王国本店‐”という大きな看板を掛けた建物が見える。

 入口は広く、両開きのスイングドアで出入りしやすそうだ。入口の左右には割と大き目の木窓が複数付いている。

 そして中からは盛り上がるような声も聞こえてくる。たまにゴン、と木を打ち合わせる低い音が鳴るので昼間から飲み明かしているのだろう。

 ナターシャはおぉー……と歓心の声を上げ、石造りの大きな建物を見上げる。

 木窓付の4階建ての大きな建物だ。他の建物と比べても明らかに技術レベルが違う。少し古臭い感じ。


「ここは白い壁の建物じゃないんだね」


「当然よ。この冒険者ギルドはこの街でも一番古い建物なんだから」


 そうなんだ。


「何年物?」


「エンシア王国が生まれた初期に誕生した物だから大体六百年前ね。魔法で劣化しないようにコーティングされているらしいわ。この国の観光名所の一つよ」


 建物の劣化防ぐとか物理法則無視しすぎだろ魔法。まぁそれでこそ魔法だが。


「……魔法って凄いね」


「ホントにね。この劣化を防ぐ魔法は既に失伝しているみたいで、どういった魔法なのか知っている人は誰もいないと言われているわ」


「へぇー……」


 そんな魔法があったら食べ物の保管とか便利そうだよなぁ。どんな魔法なんだろう。


 因みに魔物を乗せた荷台や馬車は冒険者ギルドの隣の建物に列を作っている。そして魔物の引き渡しが終わったっぽい人達は黄色い紙を持って冒険者ギルドに入っていく。黄色い紙は討伐証書かな。とっても合理的だね。


「さ、中に入るわよナターシャ。さっさと住民登録終わらせて明日の準備しましょう」


「はーい」


 ……住民登録という冒険者ギルドにあるまじき言葉を聞きながらもナターシャは姉に手を引かれて冒険者ギルドの中に入っていく。

 二人の後ろにいるにもかかわらず一言も喋らない為に存在感の無くなっていた斬鬼丸もその後に続いて中に入る。


 中の様子だが、ナターシャが思っているよりも冒険者ギルドをしていた。

 その内装に興奮したのか凄い凄いと言って跳ねながら姉にぎゅっと抱き着く。

 姉のユーリカはそんな妹を微笑ましく見守り、頭を撫でる。


 内装は外の見た目と違いほぼ全て木製。

 入ってまず最初に目に入る物は冒険者ギルドなら必ず存在する受付カウンター。

 とても大きな半円形のカウンターの中央には巨大な木の柱が立っていて、それがこの建物の大黒柱だとナターシャは推測する。

 中では三人程の受付であろうギルド職員が冒険者への対応と書類の処理を行っている。三人共美人だ。

 カウンターの右側には跳ね上げ式の出入り口。受付の右後ろの壁には階段があり、たまに職員が降りてきて受付の黄色い書類を回収しては二階に戻っていく。

 受付から少し離れた場所、位置的には右側だが少し横にへこんだエリアには巨大なボードが立てられていて、複数の冒険者がそのボードを眺めている。

 たまに張り出されている紙を剥がして受付へと持っていく人が居るのであれがクエストボードだろう。


 受付の左側はフリースペースとなっている。窓から差し込む光が中を照らす。

 しかし大事なのはそのエリア受付側、壁の代わりにある施設。

 そこには冒険者が仲間と共に座り、飲み食いしながら歓談し交流を深め、情報を仲間内で共有し他人と交換し合う場所。

 そう、冒険者ギルドには必ず付き物の酒場が経営されていた。

 少し段の低くなっているその酒場では男女問わず様々な装備を整えた冒険者がテーブルを囲い、クエスト達成を祝って打上げを行ったり、金や酒で情報を聞き出している様子など見ているだけでとてもワクワクする。

 遂に我慢できなくなったナターシャは姉から離れてその酒場の中を見に行ってしまう。斬鬼丸も後ろに続く。


「あっ! ちょっとナターシャ!」


 ユーリカも急いでナターシャを追いかける。


 酒場は受付エリアから手摺てすりが付いている横長で二段くらいの階段を降りた位置に存在していて、食堂部分だけでも結構広い。

 調理場も合わせると多分この建物の一階部分の殆どを占めていると思う。


 食堂にはナターシャの感覚で2m程の長椅子とテーブルが六つ、酒場の奥には丸テーブルに四つの椅子を添えた物が五つ。

 食堂の中に居るウェイトレスは七人程で、部屋の右側には横長のカウンター。

 近くには背の高い椅子が5個程並んでいて一人バーテンのような男性が待機している。男性の後ろには棚があり、高級そうなガラス製のボトルが並んでいる。


 ボトルの並ぶ棚の右側には大きな出入口があり、中の調理場で作られた料理がカウンターまで運ばれてくる。

 頭に三角巾を結んで被り、ディアンドルのような服装のウェイトレスが料理を丸い木製のトレーに乗せて注文通りにテーブルへと運んでいく。


 調理場出入口の右の壁とカウンターの奥には蛇口付きの大きな樽が二つ縦に設置されていて、専属のスタッフ二名がウェイトレスの注文を聞いて個数分の飲み物を木のジョッキに注ぎカウンターに出す。

 ウェイトレスがたまに物凄い量を一度に持っていくのを見てナターシャは驚く。

 カウンターの反対岸、食堂の左側には螺旋階段があり二階に上がれるようだ。なんの階段なのだろうか。


 とそこまで見た所で姉に捕獲され、連れ戻される。

 姉に俵担ぎで運ばれるナターシャを見た冒険者はいつもの事のように微笑ましく見送る。

 ナターシャの後ろに付いていた斬鬼丸もその後に続く。


「もう、油断も隙もないんだから……。あんまりウロチョロしちゃ駄目よ?」


「はーい」


 担がれながら返事を返すナターシャ。


「えっと、斬鬼丸さんもナターシャの後ろで見守るんじゃなくてしっかり止めてくれないと」


 そして後ろに続く斬鬼丸の方を向き、少し怒るユーリカ。


「……ふむ、ナターシャ殿に対する殺意を感じなかった故そのまま随伴する事を選びましたが、不味かったでありますか?」


 少しとぼけた感じで答える斬鬼丸。

 ユーリカは問い詰めに掛かる。


「不味いに決まってるじゃないですか。ナターシャが誰かに絡まれたらどうするつもりだったんですか?」


 その言葉を聞き少し考えた後、斬鬼丸はこう告げる。


「その人物の首を斬り落とそうかと」


「駄目ですよ! 殺人は犯罪ですよ!?」


 サラッと怖い事を言う斬鬼丸に驚いて止めに掛かるユーリカ。

 周囲でその様子を見ていた冒険者も驚きサッと顔を逸らす。


「ハハハ、冗談であります。普通に静止し、威嚇するつもりだったであります。基本不干渉を貫いた方がナターシャ殿の成長に役に立つと思った故」


「それもそうですけど……それではナターシャが間違いを犯した時に指摘出来ません。護衛対象が危険な場所に突っ込まないよう止めるのも護衛としての役目です。見守るだけが護衛ではないんですよ?」


 斬鬼丸はユーリカの言葉を受け、兜の下部分に触れながら考える。


「……一理あるでありますな。ですが、拙者は余りナターシャ殿の行動を制止するつもりはありませぬ。寧ろその方が有益だと感じているであります。色々と愉しめそうですからな」


「もう、斬鬼丸さんも召喚者のナターシャそっくりだわ……」


 兜の中の光が横に伸び、傍目からは笑っているように見える斬鬼丸。

 ユーリカはその様子にため息をつきながらもナターシャをもう一度注意する。


「ナターシャも安易に危ない所に入っちゃ駄目よ。皆が皆優しい訳じゃないんだから」


「はーい」


 生返事を返すナターシャ。反省してまーす。


「返事だけは一丁前ね……。まぁ良いわ、早く登録しましょ」


 姉はナターシャを降ろし、今度は逃がさないようしっかり手を握って受付カウンターに戻る。

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