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50 一日目:エンシア王国への旅路とその見た目

 エンシア王国に向かうナターシャと斬鬼丸。

 ナターシャはアイテムボックスから取り出したクッションを尻に敷き、帆馬車の裏から斬鬼丸と共にぼーっと外の景色を眺めている。

 2台の馬車が余裕ですれ違える程幅の広い街道沿いに見える景色は枯れた草原。

 枯れて乾燥した雑草が麦畑のような様相を醸し出していて秋の収穫祭を思い出させる。

 村の外に出た事の無いナターシャにとっては見慣れているようで初めての光景。

 物珍しさと前世の記憶が相まってつい眺めてしまう。


「……あ、魔物」


「そうでありますな」


 枯れた草原では極彩色の牛のような魔物が群れを作り歩いている。

 何が楽しくてあんなハッピーな見た目になったんだろう。

 冬場で、しかもこんな所で何を食べて生きているんだろう。

 そして食べれるんだろうか。


「……あの牛って食べれるのかな」


「狩りの時間でありますか?」


「いや要らない」


「そうでありますか」


 斬鬼丸は上げていた腰を下ろし、また外を眺める。

 多分狩ってきてって言ったら喜んで狩りに行くだろう。

 牛を食料にするってそれもうカウボーイだね。乗り物もまさにそれだし。


 ナターシャは幌馬車の淵に頬を乗せて、ただただのんびり過ごし時間を潰す。

 馬車の中には御者の男性が用意したであろう食材や調理器具と食器、水が入った樽、火打ち箱、燃料の薪が雑に纏められていて、彼の荷物も麻袋に入れてこれまた雑に放置されている。

 御者も分かっているのだろう、エンシア王国までの分なので随分少ない量だ。幌馬車はスッカスカである。


 ユリスタシア家領からエンシア王国まではおよそ30㎞。

 今は朝の9時くらいで、到着時刻は大体5時間後の14時。昼の2時だね。

 ちなみにこの情報はさっきスマホで見た。便利。


 到着まで5時間って事は、30を5で割って時速6kmくらいか。のんびりだね。

 自動車なら1時間もかからねぇぜ。


 まぁそんなに急いで何処行くの、って話になるので、こうやってゆっくり揺られて向かうのも悪くない。


 そしてそのままのんびり代わり映えのしない景色を眺めていると遂に変化が。

 端的に言うと牛の種類が変わった。そう、今まで極彩色だった牛がツートーンカラーの牛に変化したのだ。しかし赤と緑。クリスマスかよ。


 暇を持て余したナターシャは後ろから景色を眺めるのを止めて馬車の前から顔を出し、エンシア王国が見えるか聞く。

 御者はまだまだ先だと言い、ナターシャは残念そうに顔を引っ込める。


 そしてやる事もなくただカラフルな牛のような魔物を見つめる作業に移る。

 ……少なくとも後4時間は揺られっぱなしか。旅って暇なんだなぁ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 牛が遂に単色になり、ようやく見た事のある黒や白が出始めた頃になるとナターシャも斬鬼丸も景色を見るのに飽きてきた様子。

 いやまぁ牛の色が変わればそれなりに話題にはなるけども、


「ナターシャ殿」


「どしたん」


「牛の色が二色から三色になっているであります」


「せやね」


 程度の物。流石に牛だけじゃ飽きるわ。というかどんだけ牛が居るんだよこの草原。牛以外の魔物を見せろ牛以外を。サファリパークならクレームで即日閉園物だぞ。


 御者の男性も何も言わず黙々と自身の仕事を行っているが、たまに暇そうに欠伸をしている。

 まぁこんだけ平和だと欠伸も出るだろうよ。


 ナターシャもそろそろ暇つぶしにスマホを弄ろうかと模索しているが、祝福ギフトの効果がどの程度なのかまだ分かっていない以上そう簡単には使えない。

 持っていて当然だ、と思われるんだっけか。良く分からん祝福だよね。


 ナターシャは背中に背負うリュックサックを前に向け、中を漁る振りをしながらアイテムボックスを起動。母親が用意した干し肉を取り出しておやつ感覚で食べ始める。

 それが羨ましいのかポツリと漏らす斬鬼丸。


「……ナターシャ殿が羨ましいであります」


「食べる?」


 一枚差し出すナターシャ。

 斬鬼丸も手に取り兜の口部分を開き、齧れるか試している様子。


「……やはり食べれないでありますな」


 残念そうに干し肉をナターシャに返そうとする。

 それにアドバイスを投げかけるナターシャ。


「斬鬼丸、食べるんじゃない。食べ物を取り込むという意識を持つんだ」


「なるほど?」


 ナターシャの暇つぶし込み込みの適当な指示を受け、斬鬼丸も思考錯誤し始める。

 干し肉を手に持ったまま兜の中に入れて意識を集中させ、む、とかうぬぬ、とか唸っている。

 その様子を見て楽しむナターシャ。これが愉悦……?


 そんな風に斬鬼丸の応援しながら時間を潰していると馬車がゆっくりと停止する。

 どうやら一旦休憩して食事にするらしい。ちょうどお腹空いてきてた所だったしラッキーだね。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 御者の男性によって作られた食事は簡素な物だった。

 干し肉を入れた野菜のスープとパンだ。お代わりは自由との事だけど少女だしそんなに食べれないと理解した上での言葉だろう。まぁ実際そうだけど。


 パンは中の身まで茶色っぽく、小麦の皮や粒混じりのパン。

 何のパンか聞くと挽いた小麦を振るいにかけずそのまま作ったパンとの事。後で調べたけど所謂全粒粉パンって奴らしい。

 味はシンプル。小麦の甘味とほのかな塩の味。そしてまぁ何と言うか、香ばしい風味のパン。

 一つ言うならお母さんのパンが恋しい。バターと蜂蜜を下さい。


 スープの味も少し塩味が足りないかな。

 干し肉と一緒に食べれば塩分は丁度いいけど、まぁ旅の食事ってこういう物なんだろう。

 こういう簡単な食事って旅の途中っぽくてリアルだよね。まぁ実際に旅してるんだけどさ。


 パンが少し食べ辛いのでスープに付けてふやかしながら食べ、とりあえずささやかな反抗として1杯だけスープをお代わりしてお腹いっぱいになったナターシャ。

 斬鬼丸に手伝って貰いながら帆馬車に乗り込み、アイテムボックスから追加で取り出したクッションを枕に睡眠を取る。他にやる事無いし。


 次に目が覚めた時はエンシアに着いてると良いなぁ……。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ナターシャ殿。ナターシャ殿」


「ん……なに……?」


 斬鬼丸に揺すられて起きたナターシャ。


「御者殿にそろそろ起こした方が良いと言われた故、起こしたであります」


「……そっか。エンシアにはもう着くの?」


はい。かなり前からエンシア王国が見えているであります」


「ほんと?」


 斬鬼丸の言葉に体を起こして御者台の方を見る。すると道の先に大きな城壁が見えるではないか。


「おぉぉ……!」


 立ち上がって御者台に駆け寄り、身体を乗り出してその景色を見る。


 辺り一面は広大な麦畑。畑には等間隔でうねが作られ、複数の農民らしき人がグループを作りながら整列して生える麦を踏む作業を行っている。

 そして目の前の聳えるのは巨大な城壁。地平線のおよそ7割を埋め尽くす程の広さを持つそれが目の前に見えている。大きいなんてもんじゃない。死ぬほど大きい。東京ドーム何個分だアレ。


「あれがエンシア王国かぁ……!」


 ナターシャは御者台に乗り上げバタバタと足を揺らす。

 斬鬼丸も立ち上がりナターシャの傍に付く。


「うむ、とても大きいであります。さぞ強い騎士団を持っているので御座ろう」


「そういう物なの?」


「如何にも。武力とは国力。軍事力が強大である程大きな国を維持できるのであります」


「そうなんだ」


 斬鬼丸のうんちくを何となく流しつつ、ナターシャはエンシア王国に辿り着くまでそのまま御者台に座る事にする。

 草原の時と違って人や馬車の通りがあるお陰で飽きが来ないや。

 馬車とすれ違う際、それに乗る商人が此方を見ていたので愛想を振りまく。心なしか商人も嬉し気だ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 エンシア王国の城門が目の前に迫ってきた。

 城壁の前にはかなりの幅の堀があり、水が溜まっている。


 城壁の素材は石。綺麗に隙間無く作られているが、水に浸かっている部分は全てコンクリート製。

 所々に空いている半月型で金属の柵が付けられた穴には常に水が流れ込んでいる。


 城壁はなんというか、高い。何メートルあるんだこれ。

 今の俺が多分10人居ても高さが足りないと思う。

 城門もそれに負けないくらい大きい。横幅だけでも帆馬車三つ分はあるね。

 そこから城門と同サイズの巨大な木製の橋が倒されて地面と王国を繋いでいる。

 この国の技術力どうなってんだよ。


 そして目の前では城門の検問を待つ商人やその馬車。

 更にはなんかカッコイイ鎧を着た人も列に並んでいる。

 珍し気に検問を待つ人々を見回しているとナターシャの目に止まる一団が。


 ……ん? お、おぉ! 冒険者だ! 冒険者が居る!


 ナターシャが見つめる先には木製の軽装を付け、先端が直角三角形な槍を持つ尖がった髪の男性や、花の蕾のような杖を持ち、黄色いローブに身を包んだ女性。

 そして自身の身体程もある大きな斧を手に持ち、金属製の胸当てを付けた大柄の男が。


 昔ゲームとかアニメで見たのと同じ見た目だ! 本当にここは異世界ファンタジーの世界なんだ!


 と散々魔法を使ってるのに今更異世界ファンタジーだと実感する少女、赤城恵ナターシャ

 身体の動きからも感情が溢れていて、足のパタパタや身体が左右に揺れるのを止められない。


 冒険者達も此方に気付いたようでナターシャのご機嫌そうな動きを見て顔が優しく和らぐ。

 女性に至ってはコチラに手を振っている。


 ナターシャも手を大きく振り返し、女性もその様子を見て楽しく笑うと前を向く。


 はんはんと楽しく鼻歌を歌いながら城門の検問を今か今かと待つ。

 この城壁の中の街並みはどんな感じなんだろうなぁ。

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