4 3歳児の苦悩と26歳児の煩悩
赤城恵がユリスタシア・ナターシャとして生を受け早3年。
これは彼女(彼)が真の魔王へとなる為の準備期間の物語である……。はず。
俺のトラウマから三年。
いやまぁ、三年間毎日同じ状況に陥るといい加減トラウマも軽減するかと思ったけど、別にそんなことなかったね。
より深く心に刻まれた訳だ。
そして、スキルは6歳になるまで使えないらしい。
最強の3歳児になりたかったなぁ。ク〇ヨン〇んちゃんみたいな。
で、ユリスタシア・ナターシャとして生を受けて三年目。
ここ最近話せるようになった俺は、毎日欠かさず文字の勉強をしている。
この世界の言語は日本語と発音は一緒だが、使用する文字がミミズがのたくって絡まりあって出来あがった草のようなものを使用しているのだ。
よって俺は死に物狂いで勉強に勤しんでいる。
読み書き出来ないと人生詰むからね。
「じゃあナターシャ、この文字はなんて読むんだい?」
板に書かれた文字を指さすのは、俺の今生での父親であるユリスタシア・リターリス。
見た目は金色の髪をした、爽やか系の少し頼りない感じのイケメンだが(俺には外人補正で全員イケメンに見える)、その剣の腕は国家騎士団長級。魔物討伐、鎮圧した暴動も数知れず、その功績を称えられて王家に爵位と領土を与えられたという訳だ。
つまり将来の剣術指南役という訳だな。
まぁ魔法使い予定なんで学ぶ機会は無いと思うけど。
前衛とかマジ良いっす。怖いんで。
細かな情報を知ってる理由?
大人の話し合いに召集されて相手に愛でられるのが今の俺の仕事だからさ。
「りんご!」
そして俺は的確に文字を読み解き、記憶の果てから答えを探し出した。
これこそが真の賢者に至る為の一歩なのだ……
「偉いなぁナターシャは。ほら、ご褒美に切ったリンゴをあげよう」
「おいしー!」
ナターシャ用に、と一口サイズに切られたリンゴを食べて叫ぶ。
へへ、この一口の為に勉強して……いや違うからな決して飴に釣られて勉強始めましたとかそんなんじゃないからな。
あ、甘い物はまだスマホを操作出来ない俺にとっての貴重な楽しみなんだよ。
これが無いと『り゛んごー!』ってぐずって泣くぐらい楽しみにしてるんだからな。
……というかスマホ。スマホだよ。
今何処にあるのかホントに分からん。
マジであれないと魔法作れなくて詰むんですけど。
クソ、転生と同時に与えられるものじゃないのかよ金髪巨乳の神様。
例のあの作品見習えよ。
あ、因みにユリスタシア家は貧乏貴族で、俺は次女。テンプレだな。
そんで何故か、西洋と違って名字が前に来るらしい。
まぁ日本語話してるし、どっかで文化がゴチャ混ぜになっているんだろう。
あぁあと、姉と兄がいて2人とも超美人とイケメン。
そして俺ことナターシャちゃんは、母親の血を色濃く受け継いだ顔付きに、綺麗な白銀の髪。
とどのつまり美人だ。
人生イージーだね。
美人ってだけでカーストが一段階あがるのだ。
それに、女の子に生まれたせいなのかそのおかげなのか、性欲が減衰してしまった。
いやまぁ幼女だから、“私何も分からないよ”的な無垢ムーブ決めやすいし?
じゃれつきついでに姉貴にセクハラしても何も思われないし?
母親が優しいお陰か乳離れをしなくて済んでいるので、毎日おっきなおっぱいを楽しめるしで良い事づくめなのだが……何か違うな、とふと思う事が多くなった。
俺の欲求ってこの程度で満たされて良い物なのか。
もっとこう、世界を救いながら、ハーレム作って楽しむとかすべきなのではないのだろうか。
異世界物の主人公のように。
そう思う最近の赤城恵は将来の自分像を固めるべく、時間を見つけてはお絵描きに専念している。
「あらナターシャちゃん、何を書いてるの?」
遊んでいるナターシャを見つけた母親のユリスタシア・ガーベリアが、長い銀色の髪を揺らしながらナターシャの近くにしゃがみ込んだ。
そして目の前で服に包まれた大きな胸が揺れる。おぉ眼福。
「しょうらいのゆめー!」
そう言いながら書いている紙の上には阿鼻叫喚の地獄絵図。
赤とか黒とか茶色とかの色とりどりのクレヨンを使って作られたこの世の終わりである。
……まぁ、3歳児程度の画力じゃあ表現力なんてたかが知れてるわけで。
個人的には魔王になって、この世界を支配しよう! ……とか思ってこの絵を描いた訳だが、母親はただ人をいっぱい書いた絵だと理解したらしい。
「あら、人がいっぱい居るのね。どれがナターシャちゃん?」
「これー!」
そう言って中央に居る、堕天使の翼を付け、漆黒の角を生やし、重力無視したマントを着ている俺……の予定なのだが、画力があれすぎて何が何だかわからなくなっている物を指さす。
「あらあら、じゃあお友達がいっぱい出来る絵なのかしら。ふふ、村の子達と仲良くできると言いわね」
超好意的解釈。
どうやら母親にはとてもファンシーな絵に見えるようだ。
……いや、どう考えてもファンシー色ないぞこの絵。
基本的に赤と黒と茶色しか使ってないし、この赤い色に巻かれてる人の形をした何かとか明らかに中央の俺に従うべく土下座してるよね?
どうみても友好の証じゃなくて服従の誓いだよね?
駄目だ。
やはり異世界人は俺と思考回路が違うのかもしれない。
きっと血みどろの戦争も経験しているに違いない。
この程度で地獄などと呼べはしないのだろう。
俺は創り上げたこの世の終わりみたいな絵を、とりあえず父親の机に仕込んでおく。
幾多の戦いを制した彼なら、この絵の真意を理解してくれるだろうと淡い期待を寄せて。
暫くして絵を発見したリターリスが、それを手に取って呟く。
俺ことナターシャは物陰に隠れて反応を窺う。
「……おぉ、この絵はナターシャが書いたのか。偉いなぁ。将来は画家かな? この真ん中の黒い物体はなんだろう……魔物かな? あぁ、そうか! これは魔物に立ち向かう人々を表してるんだな!? 僅か3歳にしてここまでの絵を描けるとはナターシャは天才じゃないか!?」
俺の絵を見て狂喜乱舞している。
違うんです。その魔物が俺なんですよお父さん。
必死に念話を試みるがあの時のようにはいかないようだ。
やっぱり神様って凄い。
改めてそう思うけどスマホ寄越せや。
……駄目だ、やはりあれを地獄だとは認知されてない。
少ししょぼくれた様子で廊下を歩いていると、兄であるユリスタシア・マルスに出くわす。
銀の髪に金髪がメッシュで入った、父親譲りの爽やかな風貌。
年齢は俺と3つ違いらしいので、そろそろ洗礼の時期が来るはず。
一体どんなスキルを貰えるのか気になるね。
「ナターシャじゃん。こんな所で何やってんの?」
「うぇっ!? え、えっとね、えっとね……。」
3歳児の脳みそを必死に動かして言い訳をしようと思考を巡らすが駄目だ、まったく答えが出ない。
「なんだナターシャ。見てたのか」
その声を聞いたのか、隣の書斎からリターリスも顔を出す。
そして俺の後ろから「あら、ナターシャ」
俺の姉だ。名前をユリスタシア・ユーリカ。
父親の髪色を受け継ぎ、母親の顔つきを受け継いだ金髪ブロンドの完璧超人だ。
僅か10歳にてハンデありだが父親と互角に剣を交える武の才を持っている。
ちなみにスキルは剣術Lv2、身体強化Lv2、会話術Lv3。
他にも持っていると聞いたが詳細は知らない。
まぁ、この若さにしては十分すぎる程のチートの塊だ。羨ましい。
そして胸のサイズはまだまだだが、母親がアレだ。間違いなく育つ。
……でもそれだと、俺も母親並みに育つって事なのか?
一体どうなるんだろう。
で、最後の穴を埋めるように「あらら、みんな集まってどうしたの?」母親のガーベリアも現れた。
くっ、四方を囲まれた。四面楚歌だ。
全員が一同に俺に視線を向ける。
「あう、えっと、その……」
俺は必至に弁明を試みるが思考がまとまらず、こんがらがっていき、仕方なしに最終手段を出す。
「う、うぅぇっ……びえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
プライドをかなぐり捨てて全力で泣く。
これこそが幼女に許された真の特権であり、強者を弱者へと変貌させる唯一のスキルだ。
いやー、若いと気軽に泣けるから楽だわ。
これが大人になると感情が鈍くなって中々泣けないんだよなー。
でも久しぶりに見た電〇男は全話クソほど泣いたなぁ。
映画版は大したことないけど、ドラマ版は主役がオタクっぽくてめっちゃ感情移入出来るんだよな。
集合した4人は、突然泣き始めた俺の機嫌取りに必死になり、俺はリンゴ半分を条件に機嫌を直す事を確約した。
俺は貰ったリンゴを小さな口で齧り取りながら、リビングの椅子の上で足をバタつかせて喜ぶ。
いやー、果物は良い。
リンゴも現代に居た頃とは甘さ控えめだけど、精神年齢は29歳な俺には丁度良い甘さだ。
子供舌だけど、趣味趣向は大人なんですよ?
だけども、それで調子に乗ってお祭りでスパイシーな鶏肉食べて、辛すぎて吐き出した事があるけども後は想像にお任せしよう。
そんな風に、6歳までのんびりリンゴを飴にされ、勉強と将来像の思考に時間を費やす事になるのだが……
赤城恵は6歳の洗礼にて、魔法創造のデメリットについて知る事になる。
覚えてろあのパツキン女神。
いつか俺の仲間に入れてやる。
……でも、今の俺は女だから、ハーレムじゃなくて百合天国になるのだろうか。
まぁ、どうでもいい話か。まだ心は男だし。
そう、赤城恵は未だ知らなかった。
他の性として生きる弊害という物を。
スキル貰うまではカットカットカットォ!
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