43 説明会本会場 後編
追伸:矛盾点を修正
「そのままの意味だよ?」
キョトンとした態度で答える。
まぁ人為的だけど生まれた経緯は大体事実だし。
「……えぇと、ナターシャの話からすると、斬鬼丸さんが人類史上初めて精霊になった人間だという事になっちゃうんだけど……」
「うん」
「うんじゃないが……」
片手で頭を抱えるリターリス。
「でも、突然魔力がいっぱい集まって出来たんだもん。そうとしか言えないよ」
無知ぶるナターシャ。
へへ、さっきまでのお返しを受け取るがいいお父さん。
リターリスはナターシャに問い詰めるのを諦め、本人である斬鬼丸を向いて質問する。
「……精霊、というのは本当なんですか斬鬼丸さん」
静かに聞いていた斬鬼丸もカシャリと頷き言葉を話す。
「如何にも。拙者は無銘の剣技の精霊。世界に伝わる剣術や技、それらを使用する剣士への信仰を具現化した存在であります。……元となった人間の名前も教えた方がいいでありますか?」
斬鬼丸はリターリスに聞き返す。
「いえ、そこまでは……。でも本当に精霊なんですか?」
未だ半信半疑のリターリス。
斬鬼丸は一つ良い事を思いついたようで手の平にポンと拳を置く。
「……では、拙者の精霊としての力の一端をお見せ致しましょうぞ」
と言うと斬鬼丸はぐっと身体に力を込める。
すると甲冑の隙間から青い炎が漏れ出してたちまち大きくなり、斬鬼丸の背中からぼうぼうと立ち昇る。
おぉ、なんか力をオーバーロードしてる状態とか強い存在が憑依してるみたいでカッコイイ。
「この炎は、昨日の夜見た物と同じ……」
リターリスも思い出したように呟く。
「これが拙者の精霊としての力の一つ、“浄化の炎”。無念に沈んだ人間の想いを譲り受け、魂を天国へと送り届ける葬送の炎であります」
へぇー……と斬鬼丸を見ながら感心するナターシャ。
斬鬼丸の精霊としての側面って、剣士である事とは別に道案内人とかもあるのかな。
ほら、悪鬼羅刹に天誅を下す闇の剣客的な意味での。
「因みに、生きてる人が炎に触れると魂に燃え移るであります」
……なんだと!?
「ざ、斬鬼丸! 危ないから出すのストップ!」
「御意」
シュオォォと炎が消える。あ、危ないなぁもう。
斬鬼丸は他に説明する手段を考えている様子で物思いに耽るポーズを取っている。
そして思いついたのか話し出す。
「……他に見せられる物と言えば剣技か拙者の身体のみ。それ以外に自身を証明する手段が……あぁ、一つあり申した。拙者は精霊故、人に憑依する事も可能であります。試されますかなリターリス殿?」
兜の中の青い光を強くしてリターリスを見る斬鬼丸。
リターリスは曖昧な笑みと笑い声でその場を濁してから話す。
「ハハ……遠慮しておきます……。ですが、斬鬼丸さんが精霊だというのは一旦信じようと思います。今出して頂いた炎は、昨日見た巨大な炎の柱と同じ色をしていましたから」
「……そうで御座るか。無念」
残念そうに肩を落とす斬鬼丸。
絶対お父さんの身体でなんかやろうとしてたよね。
リターリスは質問の相手を斬鬼丸からナターシャに変える。
「……それでだけどナターシャ。斬鬼丸さんは何故ナターシャに従っているんだい? クレフォリアちゃんと一緒にやったなら、クレフォリアちゃんにも従うんじゃ?」
それも一理あるよな。
まぁ予測済みなのでサラッと言う。
「えっとね、斬鬼丸が出来た時、どちらが創造主?かって聞いてきたんだ。その時、クレフォリアちゃんが怖がってたから、私が前に出て私が創ったよって言ったの」
「そしたらナターシャに従ったと?」
「うん。あと不思議な事があってね、斬鬼丸が出来る途中でクレフォリアちゃんの胸にある紋章が変わったんだよ。ね?」
ナターシャはクレフォリアを見る。
クレフォリアも頷く。
「はい。お見せしましょうかリターリス様」
クレフォリアが胸元に手を掛けたのをリターリスが止め、代わりにガーベリアが見る事になる。
リターリスから見えない場所でガーベリアに紋章を見せるクレフォリア。
「……どうですか? 奴隷紋とは違った模様ですよね?」
「……本当だわ。奴隷紋じゃない形になってるわパパ」
ガーベリアは確認してリターリスに伝える。
「ふむ……何故か理由は分かるかいナターシャ」
突然嘘検知モードで質問するリターリス。
……いやなんでさ! 俺なんも悪い事してないじゃん!
「えっと、熾天使アーミラル様が関わってるんじゃないかな?」
「ナターシャ、そんな曖昧な答えじゃ……」
リターリスが言い直させようとした瞬間に全員の脳内に響く声。
『……その通りっ! 全ては私と神の御業だよっ♪』
パァァ……とテーブルの上から光が降り注ぐ。
何だ何だ、と全員が天を仰ぎ見るとそこにあったのは神々しい空。
天井がいつの間にか白い雲と光り輝く眩しい空にすり替わっていて、何かが出現すると共に白い羽が舞い散り始める。
そして、無数に存在する翼の生えた小さな人影に囲まれるようにして舞い降りる一人の存在。
ゆっくりと地上に降り立つそれは後光を浴びて神聖さを演出する。
『あ、ゴメン。このままだと時間かかっちゃうよね。今サクッと降りるから!』
周囲の小さな人影が慌て始めると同時に中央の存在がヒュンッと落ちてくる。
だんだん近づいてくるその存在はどんどんと速度を増しってやっべぇあの速度……!
「み、皆、テーブルから退避ィ!」
ナターシャが叫ぶと同時に全員立ち上がりテーブルの周囲から逃げ出す。
その直後にズゴォン!とテーブルに腕を組み、仁王立ちで突き刺さる存在X。
ガーベリアの声により全員が暖炉の前に集められ、リターリスが代表として未だ仁王立ちする人影へ話しかける。
「……貴方は、誰ですか?」
「……ふっふっふっ、私を何方と心得る。」
テーブルに突き刺さった存在Xは不敵に笑いながら当然のように話し始める。
服装は未だ上空であたふたしながら降りてくる人影達と違い、若干ピンクな色のニットの肩出しセーター。テーブルの下には短めの黒地のスカートが見える。
首には黒地のリボンと十字架付きの黒いチョーカーを付けていて、腰には翼が付いている。
「ここに降臨せしは天使最高位、今最も神に近いとネットで話題! 最カワモテモテ☆ラブリーな天使!」
バッ、右手の親指と人差し指でV字を作り顎当ててカッコよく決めるピンクダブル団子ヘアーの少女。
「その名を熾天使アーミラル! 神の命によりただいま降臨しましたっ!」
バァン!と舞い降りた天使の顔がドアップになりそのどや顔が画面を占めて……ってそうじゃねぇ!
「なんでもっとゆっくり降りてこなかったの!? テーブルぶち抜いてるじゃん!」
突然の展開にナターシャは突っ込んでしまう。
そのツッコミに平然と対応する熾天使アーミラルを名乗る者。
「いやいや、ゆっくり降りるのって結構面倒なんだよね。なんというかこう、滑り台の左右に足当ててズリズリ滑っていく感じの辛さがあるの。こう、分かるよね?」
元現代人の赤城恵には分かりやすい解説をどうもありがとう!
でも今そういう状況じゃないし他の人戸惑ってると思うんだけど!?
「って、そういう話じゃないんだよね。確か魔道具の事で……えっと、ちょっとまってねメモ見る……あれ?ポケットに入ってない……おーい! 誰かメモ持ってない!?」
上空に居る人影を呼ぶと、人影の一つが近づいて来てピンクダブルお団子の耳元で囁く。
「あーなるほどそういう流れね分かった。……コホン。」
近づいた小さな人影はそのままお団子ヘアーの近くに待機する。
今だテーブルに突き刺さったままの少女はリターリスの方に向こうと……あ、色々と引っかかって向けないようだ。
「あっ、ちょっと待って。ゴメン誰か助けて! 抜けないのこれー……!」
びぇぇと泣き始めるピンク髪の少女。
上空から翼の生えた沢山の小さな人影が救出に動く。
「ゆ、ゆっくりね? ゆっくり抜いてね? スカートずり落ちちゃうかもしれないから……そうそう良い感じ良い感じ……」
紐で腰を縛って持ち上げられたり手とか服を持って引っ張って貰ったりしながら引き上げられるピンクヘアーのポンコツ娘。
そしてようやく引き上げられるとテーブルの上に立ち、再び宣言する。
「私こと熾天使アーミラルは、神の命によりユリスタシア・ナターシャに恩恵を授けに降臨したのです!」
「……どういう事ですか?」
リターリスが聞く。
「えっ?」
「えっ?」
えっ?
すると近くで待機していた人影が耳元で囁く。
「……なるほどっ。んーっと、全てはナターシャという存在の未来を我らが主がお認めになられたからです! その支援を行うと天界が決めたのです!」
「……えっと、すみません、いまいち状況が掴めません。」
リターリスが困ったように頭を掻く。
「えっ? えぇと、神の奇跡を見せにですね……」
……なんだこのぐだりっぷりは。
やっと本番で御座います。
リビル「出番まで暇やな……せや!熾天使様に連絡したろ!」
↓
熾天使「なんか面白そうやな……せや!代わりに降臨したろ!」
リビル「ファッ!?」
↓
熾天使「よろしくニキーwww」
ナターシャ「なにわろとんねん」




