39 状況説明時の演出って何?いるの?
とりあえずリビルを天使だと認めて話をする少女二人。
リビルが言う説明の演出とは一体なんなのだろうか。
「説明の演出……ですか?」
クレフォリアが疑問符を浮かべる。
掴んでいた手を解き、姿勢を正したリビルが脳内に語り始める。
『はい。魔道具が表に出ない為に情報を隠す事も重要ですが、バレても言い訳が出来る状況を創り上げるべきです。ナターシャ様を知らない人ならば適当にあしらう事が出来ますが、身内となるとそうはいきません。なので購入者のリターリス様を含め、ナターシャ様の身内の方には魔道具が神からの恩恵だと理解していただく事に致しました』
「神の恩恵……」
クレフォリアがそう呟く隣で、ナターシャは顎を触り考え込む。
……なるほど、魔道具の出自が一周回って正解に辿り着いた。
魔道具に掛けられるギフトの効果がどれ程かは分からないけど、もし説明する事になっても正直に神に授けられたと言える。それに両親に説明してしまえば他人に対する裏付け用のバックも揃う。良い提案だと思う。
「……でも、ナターシャ様はリターリス様の為にお母様には秘密にしたいと言っておられました。大丈夫なのでしょうか」
『……えぇ、問題ありません。その為のわたくしです。お二人が状況説明している最中に私が降臨し、何も言わずナターシャ様に魔道具を授ける事で神の恩恵っぽさを演出します。お二人は呆然とされるだけで問題ありません。ナターシャ様は両親に聞かれた際に適当に“貰った”と言っていただけるだけで構いません。後は我が主の力で何とかなります』
リビルの作戦に困惑して軽く眉を顰めるナターシャ。
……いや、それで良いのか?
いくら中世っぽい文明レベルで魔法がある世界って言ってもそんなワザとらしい偶然を信じてくれるのか?
いやまぁ、それ以外道は無いんだろうけどさ。
お父さん本当は魔道具の事知らないけど知ってる設定になってるし。
でもそんな簡単なトリックで信用してくれるんだろうか……
「なるほど、確かにそのような奇跡が起これば信じざるを得ませんね。リターリス様も悟られることでしょう」
クレフォリアもそれなら仕方ないという表情で頷く。……えっ、そんなもんなの?
やっぱ元現代人の俺の思考の方がおかしいんだろうか。もうなんか分からんくなってきた……
ナターシャは思考が整理出来なくなり、疲れたように額に手を当てる。
『……えぇ、道筋が決まりましたね。下手に練習するとお二方の新鮮な反応が減ってしまう為、わたくしは本番までアイテムボックス内で待機致します。では、これにて失礼します』
そう言うとリビルは異次元の扉の中に入り手を振り、微笑みながら異空間に消える。
……なんか今の消え方絶対バットエンド系の消え方だよね。主人公を逃がす為に囮を買って出て、「じゃあね、○○」って言いながら化物とか異空間の穴に食われるヒロインと同じだよ。
まぁ何度かに分けてじゃなくて一発で消えてるから生存フラグは立ってるし大丈夫だろうけど。
僅かな間に何故かとても疲労したナターシャはそのまま後ろに倒れ込む。
ギシッ、とベッドのサスペンションが軋む音がしてマットレスが凹む。その反動でベッドの頭側に置かれていたクッションがポウンと跳ねる。
「大丈夫ですか?」
クレフォリアも同じように後ろに寝転がり、横向けになって此方を見る。
少し癖っぽい金色の髪がベッドに広がり、青く澄んだ瞳はナターシャの姿を映し出す。
「……何か疲れた。お父さん帰ってくるまで寝ます」
「分かりました」
銀髪蒼眼の可憐な美少女(ココ重要)な俺は全然少女らしくない掠れた声を出しながら、目を閉じて眉間のマッサージをする。
まぁ、神の恩恵を演出するなら唐突に起こる感じで良いんだろう。
……ただなぁ。そんな緩い感じで神の奇跡だーってなるのかな……?
宗教に疎いからそういうのは分からないんだけど、やっぱ信徒としてはそういう不思議現象が起こるだけで信じやすいんだろうか。
ナターシャちゃんとして7年生きてみた感じでは、この世界は中世ヨーロッパ風味だという事は分かる。
中世って事は時代背景的に整合性とか合理性とかよりも無知や潜在的恐怖によって宗教的理論が優先されることだってあるし、そういうもんなんだろう。というかそう思っとこう。もう分からん。
ナターシャは眉間マッサージを止めるとそのまま手をほっぽり出して休息を取る。
左手が適当に投げ出した際にクレフォリアの手に触れ、クレフォリアはふふっ、と嬉しそうな声を出して指を絡めてくる。
完全に絡めとられた左手からはクレフォリアの温かさが伝わり、目を瞑っているせいで視覚以外が鋭敏になったナターシャの感情を擽る。
これ、クレフォリアちゃんが自分の家に戻るまで続くんだろうなぁ……。
と思いながら諦めたように眠りにつくナターシャであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
村から続く幅の広いあぜ道を歩く二人の男性らしき姿。
一人は革の装備に一本の刀を帯刀するという軽装備で、もう一人は西洋甲冑に身を包み、シミターのような曲剣を二振りと腰に短剣を装備している。
「……いやー、斬鬼丸さんのお陰で村まで安全に運搬する事が出来ました。ありがとうございます」
リターリスが片手を自身の後頭部に当て、軽く撫でながら話す。
「いえ、お気遣いなく。必要だと思った故付いて行ったまでであります」
斬鬼丸はガシャ、カシャと音を立てながらリターリスに続き歩いていく。
「そう言えば、斬鬼丸さんは何処の出身なんですか?」
軽い感じで斬鬼丸に尋ねるリターリス。
「拙者ですか? ……拙者の出自は……」
斬鬼丸は自分の生まれを考える。
(今の拙者が出来上がったのは間違いなく昨日の夜。つまりあの森が出生地。
では、その前の、精霊になる前の拙者は一体何処で生まれ、何処に住んでいて、どういう風に暮らしていたのであろうか……)
精霊としてではなく、“ゲイル”という人間としての事を考えてしまう斬鬼丸。
(一体、どういう風に過ごしていたので御座ろうな……。
命を懸けてまでクレフォリア殿を守るに至ったその中核たる想いは、一体どうやって生まれたので御座ろう……。
それだけ大切で、楽しかったのであろうか。だからこそ守ろうと決めたのであろうか。
記憶が薄れてしまった拙者にはまるで分からない事であります……。
……何れ、思い出す事が出来るのでありましょうか……。)
無言で歩き、考え込む斬鬼丸。
そんな黙り込む斬鬼丸の様子を見て、リターリスは話題を間違えたのかもしれないと不安になる。
(やっぱり、冒険者の方っていろんな事情があるからなぁ……。斬鬼丸さんもそんな内の一人だったのかも。
甲冑を着てるし、何処かの国で騎士をしていたのは間違いないんだろうけど、国を抜けて冒険者にならざるを得ない理由でもあったんだろうか……。うぅ、選択肢間違えたなぁ……)
気まずい雰囲気が男二人の間に流れる。
そんな時、リターリスの目に見慣れた光景が入ってくる。
「……あっ、も、もう家が見えてきましたよ斬鬼丸さん! ……そうだ! お、お酒とかお好きですか? 今なら自家製の蜂蜜酒がありますよ! この後一緒に一杯どうです?」
場を和ませる為、お酒の話題を出して話を切り替えようとするリターリス。
斬鬼丸もその言葉を聞き、返答する。
「……ふむ、蜂蜜酒でありますか。悪くないであります」
しかし不安事項がある。
この身体は既に人間ではなく純粋な精霊。そんな存在が飲み食い出来るのだろうかという不安だ。
……まぁ、神でも食事をするのでありますから、精霊である拙者が食事出来ない、なんて事は無いと思うでありますが……でも少し不安であります。これもまた、生まれ持った試練という物でありますか……
先程までの自己内での問答を忘れ、頭の中が蜂蜜酒で満たされる斬鬼丸。
そして一応兜の口元がしっかり開閉するかを確かめた後、斬鬼丸はリターリスと共にユリスタシア家へと入るのであった。
サクッと書いた物。
本当はもう少し内容を煮詰めようか迷いましたが疲れるのでやめました。




