3 転生成功!……成功?
……目を覚ます。
なんだこの感覚は。
ふわふわした感触と、揺り籠のような揺れの中、俺の意識が目覚める。
目の前は事故直前の暗い夜の街ではなく、見知らぬ木の天井。
……いや実家が木製だし割と見た事あるかも。
声を出そうとしても声が出ず、動こうにも腕や足をばたつかせるだけで何も出来ない。
そして聞こてくる、耳触りの良い、優しい女性の声。
「あらナターシャちゃん、起きたのね。おはよう」
ふわりと身体が浮く感覚がして、声の主の顔が目の前に現れた。
(……うっわめっちゃ美人やん)
思わず引くほどの美人。外人って日本人から見ると大概美人に見えるけど、それ以上。
俺の少ない脳みその知識で言う所のハリウッド女優とか、そこら辺の美人。
「どうしまちたか、お腹ちゅいてまちゅかー?」
女性が俺を上げ下げする。
視界が上下し、部屋が見えたり女性の上半身が見えたり……あ、胸大きい。好き。
そんでめっちゃ下半身ふわふわする。
あと、『女性に赤ちゃん言葉で喋りかけられるとなんか興奮する』って意味が少し分かった気がする。
語彙力の少ない俺の脳みそではこれ以上の表現はむづかしい。
そこに1人の乱入者。
「あ、お母さん! ナターシャ起きた!?」
小さな男の子が女性に近づく。
「えぇマルス。ナターシャちゃんが起きたわ」
そこから2人は楽しそうに話を始める。
しかしナターシャか。推測するに俺の名前なんだろう。
……いや待てよなんでやねん。脳内で突っ込む俺。
覚えている所では俺の名前は赤城恵。確かに『お前の事めぐみって呼んでいいか?』とか、クラスメイトの男子に熱い目線で言われた事はあるけども、断じて女の子ではなかったハズ。
しかし考えていくとハゲ部長の目線や後輩の頬も赤く染まってたり、その気はあったのかも……
とかどうでも良い事を考えていると突如、下腹部に違和感を覚える。
(あ、これあかんやつや)
その違和感は痛みに変わり、次第に門付近へと迫る。
我慢しようともがくも力が入らず、ただ手をばたつかせるだけに終わる。
(あかん待って誰か助けてそこの美人さん助けてあっだめ出ちゃう……!)
精一杯の抵抗虚しく、気持ち良い解放感に合わせて脆く砕け散ったプライドとブツが吐き出されてしまった。
そして女性の前で粗相をしてしまったという羞恥心と絶望で、俺は心の底から叫ぶように泣いた。
「おんぎゃあああああああああああああああっ!!!!」
これが転生先の少女、“ユリスタシア・ナターシャ”として生きていく俺の初めての想い出であり、多分一生忘れられないであろうトラウマだ。