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36‐閑話 およそ半日ぶりの自宅

森を抜け、ようやく見慣れた我が家に。

ナターシャを見つけた事を伝えてベリアちゃんを安心させる事が出来たけど、訓練継続出来そうにないなぁ。

また家出しちゃうかもしれないし。困ったなぁ……。

 森の中の街道を進み、ようやく森を抜けようという所。


 出口には槍を持った男が3人程居て、検問をしている。

 服装は騎士のような鎧を着た見た目ではなく、布の服の上に木製の胸当てなどの軽装備を付けている。どうやら農村の村人らしい。


 しっかり仕事してるなぁとリターリスは感心する。

 治安維持の一環として毎日検問をするように指示しておいたのをしっかりやってくれているみたいだ。

 暫くすると荷台に乗るリターリスの姿に気付いた一人の村人が駆け寄ってくる。

 リターリスも手綱を引いて馬を止め、対応する。


「リターリス様、お疲れ様です!」


 槍の石突を地面にトン、としてリターリスに力強く挨拶する。


「あぁお疲れ様。検問の調子はどうだい?」


「順調です。今の所エンシア王国で指名手配されている人間は入れてません」


「じゃあ僕がその初めてになるかも。血と酒の盗賊団を捕獲したんだ」


「なんと! 流石リターリス様です! 急いで村に行き、牢付きの馬車をご用意致します! 見張りは要りますか!?」


「いや、もうやってくれてる人がいるから大丈夫。それよりも早急な馬車の手配を頼んだよ」


「分かりました!」


 失礼します、と村人が言って簡易検問所に向かう。

 その村人が事情を話すと、伝令役であろう村人が走っていく。

 しっかり指導した甲斐があったとリターリスも安心してため息をつく。


 そして馬を動かし、森の出口で検問する村人に挨拶をして検問所を通り過ぎる。


 冬の麦畑を見ながら暫く進むと、目的地が見えてくる。


「……やっと着いたか」


 御者台に乗っているリターリスが呟く。

 見慣れた景色と共に、見慣れた家が目に入る。


 石垣に囲まれた庭と、庭に生える一本の木。葉が散ってしまっている。

 そして天然の粘板岩スレートを薄く切って整形した物を並べた屋根には煙突が二本付いていて、外から見える木の軸組の間には漆喰が綺麗に塗られている壁。

 二階建てになっており、各部屋の窓には木製の戸が付いている。窓は上下に4つづつあり、一階の中央部には二段ほどの小さな階段と玄関が見える。

 庭の外ではユリスタシア・ガーベリアが夫であるリターリスの帰りを不安そうな表情で待っていた。

 そして、リターリスの乗る荷馬車を見つけると手を振って叫ぶ。


『おかえりなさーい! ナターシャは見つかったのー?』


「ただいまー! 見つけたよー! 荷台で寝てるー!」


 リターリスもガーベリアに向かって叫ぶ。

 その声を聞いて、安心した様子を見せるガーベリア。


 家の前でリターリスが手綱を引き、馬車を止める。

 そして御者台から飛び降りてガーベリアを抱きしめ、良かった、良かった、と互いに言い合う。

 まぁ齢7歳の娘が夜中に家出するなんて両親からすればとんでもない話だ。当然である。


 抱き合うのをやめるとリターリスはガーベリアに道中の軽い説明をする。

 そして見つけた盗賊の事を説明する。


「……それと、ナターシャを追いかけている途中で指名手配されている盗賊を捕獲したんだ。だから僕はこのまま荷馬車で村に寄らないといけないんだ」


「……分かったわ。パパ、気を付けて」


「大丈夫。自分で言うのもなんだけど僕は強いからね」


 二人軽く笑い合うと二手に分かれる。ガーベリアは御者台の方から荷台を覗き、ナターシャの姿を確認して笑顔になると急いで家に戻る。色々と準備があるのだろう。

 リターリスは少女二人を起こす為に荷馬車の後ろから荷台の中へと入る。

 さて、斬鬼丸さんには……


「……村までの見張りが必要でありますな?」


 斬鬼丸に思っていた事を言われる。


「えぇ。すみませんが、村まで同行して貰えませんか?」


「構いませぬ。ですが、ナターシャ殿に許可を取って欲しいであります」


「ナターシャにですか……? 分かりました。」


 不思議に思いつつも斬鬼丸との会話を終えるリターリス。どんな理由があるのだろうか。


 そしてリターリスは既に目を覚まし、目を擦っているクレフォリアを先導してユリスタシア家へと導くのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「……ナターシャ、着いたよ」


 目が覚める。父の声がする。

 ナターシャは再び揺り起こされて覚醒する。

 でも少し眠い。低血圧系少女。


「もう少し寝させて……」


 ナターシャは毛布を被り眠ろうとするがそうは問屋が卸さないと毛布ごと抱えて起こされる。

 毛布にくるまれたまま立ち上がらされたナターシャは疑問を呈する。


「……もうお家?」


「そうだよ」


 リターリスがポンポンとナターシャの頭を撫でる。

 ナターシャの銀色の髪がふわふわと反発する。


「……クレフォリアちゃんは?」


「先に降りて家の中に居るよ。ナターシャも早く戻りなさい」


「うん」


 辺りを見渡す。近くに居るのは父と斬鬼丸、そして悔しそうな顔で沈黙している盗賊の山。荷台の外には見慣れた家が見える。


「……お父さん一人で盗賊運ぶの?」


「いや、国まで運ぶのは村の人に代わってもらう予定だ。村までの道中は斬鬼丸さんと一緒に行くことにした」


「そうなんだ」


「ただ、斬鬼丸さんがナターシャに許可を取りたいと言っているんだ。何かあったのかい?」


 その質問に少し目を逸らして考える。

 確か、斬鬼丸に“私達を守って”ってお願いを言ったな。だから一時的に離れる許可を求めてるんだろう。

 しかし割と自由だな斬鬼丸。でも自主性を持ってるのは良い事だと思う。


「……あぁ、私達を守るって言ってくれたからだと思う。だから離れても大丈夫か心配なのかも」


「なるほど。じゃあお父さんは村に行く準備をするから、そこにいる斬鬼丸さんにもう大丈夫だって言っておくんだよ。後、ちゃんとお家に居るように。良いね?」


「うん、分かった」


 リターリスは荷台から飛び降りて急いで家の中に入っていく。

 ナターシャは毛布にくるまれたまま斬鬼丸に近づき、話しかける。

 長い毛布の裾がズルズルと床を擦っている。


「斬鬼丸、大丈夫?」


「問題ありませぬ。父上から事情は聴きましたか?」


 斬鬼丸は近くのナターシャに目もくれず盗賊を見ている。


「うん聞いたよ。でも、もう少しお願いに縛られてるのかと思ってた」


「……はて?」


 首を傾げる斬鬼丸。ちょっとかわいいかも。


「まぁ気にしないで。じゃあお願いの変更ね。斬鬼丸、“お父さんと共に盗賊を村に届けて”」


「御意。終わった後はナターシャ殿の所に戻ります故、お気遣いなく」


「分かった。……でも、ちゃんと戻ってくるんだ。てっきり村に届けた後旅に出るもんだと思ってた」


 荷台の壁に寄りかかるナターシャ。


「……いえ、拙者はナターシャ殿に仕える身。その指示に従うだけであります。

 ただ、旅に出たくないのかと聞かれると、出てみたいという意思があります。

 ……しかし、戻れる場所が無いのはやはり困るであります。

 拙者は精霊ではありますが、元は人の身。

 どうしても故郷の一つや二つは欲しいと思ってしまうであります。」


 感慨深い感じで頭を軽く上に向ける斬鬼丸。カシャ、と音が鳴る。


「……なるほどなぁ。意外と寂しがり屋さんなんだね、斬鬼丸」


「ハハ、お恥ずかしながらまだ右も左も分からぬ身故、人との繋がりが欲しいのです。

 それに、ナターシャ殿達にはまだまだ学ぶ事が多いであります。暫くお世話になるかと」


 ナターシャへ向き、胡坐をかいたまま礼をする斬鬼丸。そしてすぐに盗賊に向き直る。

 なんか武士っぽくてカッコイイ。西洋甲冑だけど。


「まぁ私魔法使い予定だからそんなに教える事ないと思うけどね。お父さん任せたよーっと」


 ナターシャは斬鬼丸と盗賊の横をすり抜けて荷台を降りる。

 ポフン、という音を立てて毛布が乾いた地面に当たる。


 いやーいい天気だ。雨とか雪が降らなくて良かった。

 まぁ天気予報を見た上で家出したから大丈夫だと思ったんだけど、まだまだ甘い気がする。今後の為にもクレフォリアちゃんのテント魔法改造しないとなぁ。

 後はアイテムボックスの魔法か。家族に見せられないのが大変だった。今回の説明で使えるようになったと宣言すればいけるだろう。他は……


 今回の反省点を思い返しながら玄関へと向かう。

 するとガーベリアが玄関のドアを開け、外に出てくる。

 毛布にくるまれたまま歩くナターシャに気付き、駆け付ける。


「ナターシャちゃーん!」


 そしてナターシャの傍に来ると、膝をつき思いっきり抱きしめる。

 ナターシャの顔が母の胸に埋もれる。


「もうっ! 心配したんだからっ!」


 非常に心配した声だ。まぁそうだよね。俺7歳だし。

 ナターシャも毛布の中から無理矢理手を伸ばして抱きしめ返し、心情を説明する。


「……ごめんなさい。どうしても訓練嫌だったから」


「なら、お母さんに相談してくれれば良かったのに。お母さんの事嫌いになっちゃった?」


「ううん、大好き。でもお父さんの訓練は嫌い」


 その言葉を聞き、母ガーベリアはナターシャの頭を撫でる。


「分かったわ。パパにはあんまり訓練しないように言っておくから、もう家出しないでね? お母さん、寂しくなっちゃうから」


「うん」


 ガーベリアはそのまま暫くナターシャを抱きしめ続ける。

 ナターシャも抵抗せず受け入れる。コッチにも非があるからね。

 ……ただ、鼻呼吸出来ないせいで口呼吸になり、ハァハァと声を漏らしてしまうのが変態のようで気に食わない。俺は変態じゃねぇ。


「じゃあ、お家に入りましょうか」


「うんっ」


 ガーベリアはナターシャと手を繋いで家に入っていく。

 季節はもう秋の終わり。いくら日が差していると言っても今日はとても寒い日だ。

 庭先の木は既に葉が散って裸になっており、庭の景色はナターシャが居なくなったユリスタシア家の様子を表しているようだった。

はい。色々後の展開用にプロット増やしてたんですが感想での指摘通りだな、と思ったのでデウス・エクス・マギナる事にしました。ただ、チートをばらす訳じゃないです。ご安心を。

なんで若干シリアス寄りナターシャの策略込み込みの予定が一気にギャグに振り切れます。

この作品が割と伸びたのってやっぱギャグ込みだと思うんで初心に戻ります。


後、寝不足で仕事中死にそうになったんで書き直しついでに少し投稿開けます。ごめんなさい。

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