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34 父親に嘘の状況説明する為に全力を尽くす7歳の少女の様子 中編

クレフォリアに嘘の状況を刷り込み、何とか土台を整えた赤城恵ナターシャ

クレフォリアと共に嘘の状況説明の為の設定を作っていく。

 抱き着く体勢をやめ、再び隣に並んだクレフォリアに話しかけるナターシャ。


「……まずは奴隷紋の所からだね。神様の事を言うと魔道具の事だってお父さんが分かっちゃうから別の人にしないといけないんだけど……」


 敢えて思いつかない振りをする。そうする事でクレフォリアの発言を誘うのだ。

 ……と言うのは建前で、そろそろ脳みそが限界である。

 少しだけ休ませてほしい。


「そうですね……。ここは、熾天使アーミラル様の恩恵という事にしては如何でしょうか」


「アーミラル様の……?」


 なるほど。天使ちゃんの恵みって事で万事解決してしまう作戦か。良いんじゃないか?ちょっとズルいけど。


「……はい。ナターシャ様がアーミラル様の言葉を聞いたと言われていたのでそれが宜しいかと」


「……そうだね、その作戦で行こう」


 他に思いつかないし。


「……では、どう説明しますか?」


「そうだなぁ……」


 と考え込むフリをして脳みそを休ませる。

 マジ疲れた。もう無理。甘い物が食べたい。

 ナターシャはポケットからビスケットを取り出す。

 それを見たクレフォリアが不思議そうな顔をする。


「……それは?」


「……ビスケット。ちょっとお腹が空いて。もうお家に帰るし今の内に食べちゃおうかなってね」


 クレフォリアちゃんも食べる? と言ってクレフォリアにも手渡し、母の手作りビスケットを仲良く食べる。

 皆が想像してるように薄い生地を堅くなるまで焼いた物だ。

 糖分控えめだけどもこのビスケットは特別にバターが入っているのでそれなりの味。後5枚ほどあるのでのんびり楽しもう。


 脳みそを休ませる為、じっくり味わいながら食べる。

 クレフォリアと分け合いながら食べ、暫く食休みと称して休憩した後、再び説明用の設定を考えていく。

 馬車が家に辿り着くまでまだまだ時間はある。ゆっくり考えていこう。


 精霊魔法はまだ自然集束で済むけど、奴隷紋は悪魔が要る限りどうやっても人為的にしか解除できない。

 つまり、ここで奇跡成分多めに演出するのがベストか。

 父親を見る。馬の操作に集中している。まだバレていない。

 ナターシャはクレフォリアに小声で話しかける。


「……説明、大体思いついたよ」


「……どのようにしますか?」


「……まず、盗賊をスリープミストで無力化した私が、

 荷馬車の中に居るクレフォリアちゃんと出会った。

 私は鎖を外して一緒に逃げようと言ったけど、

 クレフォリアちゃんは奴隷紋の制約で縛られていて逃げられない状態だった。

 自力で何とかしようと色々試したけど上手くいかなくて、

 クレフォリアちゃんも自身を見捨てるように言った。

 それでも、見捨てられないと思った私は必死に神様に祈った。

 “目の前の少女に奇跡が起こって欲しい”と」


「……そうですね。ナターシャ様の言う通り奇跡を求めて居なかったかと言えば嘘になります。……あの時投げかけて頂いた言葉は、本当に待ち望んでいた言葉でした。ふふっ」


 ナターシャの説明を聞いて色々と思い出したのか、少し切ない表情をしてから楽しそうに笑うクレフォリア。


「……あ、アレはまぁ……うん……。そ、それで、私の脳裏に天使様の声が響いた。

 それは必要な代償の事と、奴隷紋を詠唱魔法のみで解除する為の魔法を伝える内容であり、

 私はそれに一縷の望みを掛けて魔法を実行した、と」


「……良いのではないでしょうか。あぁでも、悪魔との取引はどういたしましょう」


「……あぁそれね。うーん……」


 えぇと、悪魔との取引だよなぁ……。

 ナターシャは取引の内容をもう一度思い出す。


 まず、リンゴ木箱2つだろ? それとブロックボアー20頭。……でもブロックボアー20頭どう出したんだって聞かれるよな。

 アイテムボックスで出したって言うしかないか……。

 でも、決闘事件からまだ4か月だぞ?収納魔法持ってる、なんて言ったらスマホをそこに隠してたんじゃないかとバレるんじゃないか……?


 顎を右手の親指と人差し指で挟んで思考するナターシャ。

 クレフォリアはナターシャの隣で考えるナターシャをただ見ている。じっと。


 一応お姉ちゃんが勘違いだったとは言ってくれてるけどそれで両親が納得しているかどうかは分からない。

 ここはアイテムボックスの事も伏せるべきか……。

 ……ならいっその事、悪魔との取引は一度伏せて……いや、伏せると斬鬼丸の説明が矛盾するかもしれない。取引した事は言わないといけないな。

 つまり、悪魔とはリンゴ2箱で契約と所有権を消して貰ったけど、完全な消滅には至らなかった。

 奴隷紋の契約は天使様に切り替わったけど、取引で出会った際の貪欲さから何れ接触してくると思う。その為にもアイスハインズ30頭を用意しておきたい……と説明か。よし。


「……奴隷紋の解除魔法は成功したけど、悪魔の居る空間へと導かれた。

 そこで私はリンゴの木箱と引き換えにクレフォリアちゃんの制約を解除する事に成功した。

 でも悪魔は奴隷紋自体の削除はしなかった。

 そして奴隷紋の削除にアイスハインズ30頭を要求されて私がそれを飲んだ、っていう感じで」


静かに言い終わり、クレフォリアへ向く。


「……何かを沢山出していた事は何故隠すのですか?」


クレフォリアも純粋な問いを投げかけてくる。まぁ読み通りだ。

……とっても頭悪い方法だけど、これしかないな。


「……クレフォリアちゃん」


「は、はい……」


 クレフォリアの両肩を掴むナターシャ。クレフォリアはその行動に頬を赤くし、戸惑うような仕草をしてから目を瞑ってコチラを向いて唇を持ち上げ……ナターシャも吸い寄せられるように口を尖らせ……って違う!


 ナターシャはその返答の代わりにクレフォリアの耳元で囁く。


「……私と、取引してくれる?」


「……取引、ですか?」


「うん」


ナターシャは耳元から離れ、説明する。


「……実はね、取引の時に使った魔法は神様に教えて貰った物なんだ。だから説明に使えない」


 目を伏せ、深刻な顔で伝える。

 これは本当の事だ。しかしクレフォリアちゃんが神様=魔王様だと勘違いしているのがここで生きてくる。

 いやー、魔王様便利だわー。人類の味方かどうかは分からないけど。

 というかそもそも人かどうかも分からないしどうしてもゲームで見た感じのイメージが強い。〇ラクエとかのああいう感じの。

 でもクレフォリアちゃんが不快感とか恐怖を示してない所から多分悪い存在ではないと思う。多分ね。


「……お父様と繋がってしまうからですね。……では、伏せておきましょう」


「……ありがとう。それとね、クレフォリアちゃんには私の代わりにその魔法を披露して欲しい。アイスハインズ30頭も保管しておくにはその魔法じゃないと出来ないから」


「……分かりました。どんな魔法なのですか?」


「……収納魔法っていう異空間にアイテムを補完できる魔法なんだ。それをお父さん達の前で実演して欲しい」


「……聞いた事の無い魔法ですね。詠唱はどのように?」


 ナターシャはクレフォリアの近くで囁く。

 クレフォリアは聞いた後、試す為に小声で詠唱してみる。


「“万物に影響されぬ秘匿されし宝物庫よ、常に我が眼前に在りて、その門を開け放”――ッ!?」


 クレフォリアの目の前でバチバチッと音がしたと思うと、そのまま崩れるようにナターシャに寄りかかる。

 その音に御者台のリターリスも気付き、顔を此方に向ける。


「……な、何の音だい?」


「うん、ちょっと魔法の練習してたんだ。静電気を作る魔法で」


「そうか。……あの時みたいな事にならないよう、気を付けるんだぞ」


「はーい」


 にこやかに返答するナターシャ。

 クレフォリアの顔が見えないように移動させた結果、膝枕する事になる。


 ナターシャはクレフォリアの耳元で囁くように心配する声を掛ける。


「……大丈夫?」


「……もう少しだけ、このままで」


「……分かった」


 少し息が荒いクレフォリア。ナターシャのふとももに頭を任せながら倒れ伏している。

 ナターシャはこうなった原因を考えてみる。

 詠唱はほぼ言い切る直前だったよな。相性? クレフォリアちゃんには合わない魔法なのかな?

 でも魔法使えるみたいだし、使えないって事は無いと思うんだけどなぁ……。


 考えるもいまいち思いつかない。

 暫くして復活したクレフォリアが身体を起こし、理由を話す。


「……すみませんナターシャ様。私が制御するには魔力が足りないようです……」


 あー……そっち。ここで自分の魔力チートの事を思い出すナターシャ。

 今まで何も思わず使ってきたけど、ブロックボアー50頭以上入れてもまだ余裕のあるアイテムボックスなんて普通の人からしたら魔力が足りないよね……。

 じゃあ、クレフォリアちゃんには劣化版を渡すしか無いか……。


「……じゃあ、ちょっと待ってね。使えるレベルの魔法教えるから」


「はい。申し訳ありません……。」


 ナターシャは自分の脳内で詠唱を組み立てる。


 ……アイテムボックスの魔法は多分空間魔法の一種。

 魔力を消費するポイントは現実時間の影響、空間の容量、入口のサイズ、開く場所。

 魔法創造(厨二)Lv1から修正出来るって事は神様もこれくらいなら問題無いと思って設定付けているハズ。つまり人に広めても大丈夫という事だ。


 まずは……消費魔力を減らす為に時間の影響は消してしまおう。

 後で俺のアイテムボックスに入れ直せば済む話だし。


 次は容量か。多分これが一番魔力を食うな。クレフォリアちゃんが何歳かは分からないけど、チート無しの俺の魔力と同じとして考えたら多分荷台に置いてある大きな袋一個分が限度。

 つまり宝物庫からかなりランクダウンして宝箱辺りかな?


 次は入口。これは常に開く必要は無いから、“目の前で開け”くらいで良い。


 纏めると、“秘匿されし宝箱よ、目の前で開け”か。

 これだとアイスハインズ30頭収納するのは難しいな。でも詐欺(ペテン)は出来る。

 クレフォリアちゃんが開いて閉じて、もし確認で物を入れようってなった時は魔力を使用せず詠唱だけして貰って、俺のアイテムボックスを無詠唱で唱えてクレフォリアちゃんの近くに開けばいい。

 よし、これでどうにかなる。ハハ、道は開けたぞ。


 ナターシャは早速魔法をクレフォリアに教え、使用出来るかの確認をする。


「じゃあ、教えた通りにやってみて」


「はい……“秘匿されし宝箱よ、目の前で開け”。」


 ギィ、という音と共にクレフォリアの目の前で開いた空間が馬車の速度と同じくらいの勢いで二人から離れていく。


「置いて行ってしまいました……」


 斬鬼丸を通り抜けた空間は、発動した場所に置き去りにされていく。


「……うん。でも使えそうだね。閉じる時は“秘匿されし宝箱よ、閉じろ”で良いよ」


 分かりました、とクレフォリアは閉じる詠唱をして仕込みは完了。


「じゃあ、今のを説明の際に見せてくれるだけで良い。もし容量の確認を言われたら私の収納魔法をクレフォリアちゃんの近くに開く。その時は魔力を使わずに詠唱だけを言ってね」


「はい。……自由に場所を変えて今の魔法を使うなんて、ナターシャ様は凄いお方なのですね」


「まぁね。伊達に神様に魔法授けられてないって事さ。それなりの練習はしてる」


 フフン、と少し威張った表情を見せる。

 クレフォリアはナターシャに尊敬の念を込めるような目線を向ける。

 まぁおよそ1年くらいはただ引きこもって魔法の創造に時間費やしてただけなんですがね。

 あぁちゃんと村の同世代の子と交流してましたよ? 週1くらいで歌劇団に入って演技の練習してました。


「……じゃあ、私の条件は以上。報酬はそうだね……何か望みはある?」


 ナターシャがクレフォリアに聞く。


「……いえ、ナターシャ様がお決めください。私はそれに従います」


 クレフォリアはあくまでもナターシャに一任するようだ。

 まぁ、特に思いつかないしなぁ。適当で良いか。


「……分かった。なら“何でもお願い事1つ聞く”なんてどう?」


 するとクレフォリアがニッコリと笑う。


「……えぇ、それで構いません。私も何をお願いするか考えておくことにします」


 お金が欲しいとかなら盗賊から奪った金貨とか渡せばいいし、死んでほしいとかそういう出来ない事は拒否すれば良い。

 それに所詮子供のお願い事だし大したことじゃないだろう。


 しかし、クレフォリアのお願いを聞いた時のナターシャは、別の条件にすべきだったと思い知る事となる。

長いです。そして読むのが大変だと思います。

主人公が頭良く見えるかもしれないですが必死さがナターシャの少ない脳みそを動かしています。後若さ故の柔軟性。

所謂火事場力って奴ですね。モン〇ンなら火事場力+2付いてると思います。

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