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32 お持ち帰りの刑

父親に見つかってしまったナターシャ。

盗賊が山積みになっている馬車に乗せられ連れて帰られる。

はたしてどう言い繕うのか。

「何……ッ!?」


 斬鬼丸はリターリスの余りの速さに反応出来ず、慌てて振り返る。

 そしてすぐさま引き離さんとして、ナターシャに駆け寄ろうと――


「よ、夜ぶりだねお父さん」


 引き攣った笑みでリターリスに話しかけるナターシャ。


「あぁ。迷子になったかと心配したぞぉー?」


 父であるリターリスはその場でしゃがむと、笑顔でくしゃくしゃとナターシャの頭を撫でる。

 最もその笑顔は完全に張り付いた笑みで、内面に沸き起こっているだろう怒りを想定してナターシャはアハ、アハ、と乾いた笑い声を上げる。


「……何と。リターリス殿とナターシャ殿は親子であり申したか。これは失敬」


 斬鬼丸は出していた殺気を収め、ゆっくりとリターリスに近づく。

 判断が早いのは精霊だからなのだろうか。


「……ならば、もう少し早く伝えてほしかったであります。てっきりナターシャ殿の付き纏う追跡者かと……」


「……あ、す、すみません斬鬼丸さん。どうも、ナターシャの父のユリスタシア・リターリスです。最初は警戒していた物で、色々と伏せて会話させて貰ってました……」


 斬鬼丸に振り向き、ナターシャに向けていた怖い笑みをやめて普通に笑うリターリス。


「……まぁ構わないであります。ただ、(いず)れ剣を交えてみたいものであります」


 斬鬼丸の瞳が青く嗤った様に見える。リターリスもアハハとナターシャのように笑う。


「……あの」


 その会話に混ざり込む一人の少女。


「……貴方がナターシャ様の御父上なのですね」


 少女はテントから出て、リターリスにその顔を見せる。

 リターリスは驚愕の表情を浮かべ、驚いて下がろうとするのを少女が近づいて止める。

 そして耳元で何かを話す。


「……お……とは……つに。」


「……か……分かりました。」


 リターリスはその言葉に了承の返事を出す。

 何を話したのだろうかとナターシャは疑問符を浮かべる。

 そして少女、クレフォリアが離れるとリターリスは立ち上がり、ナターシャに向かって告げる。


「……ま、まぁ、積もる話はあるけれど、ナターシャ」


「……な、なぁに?」


「……家に帰るぞ」


「…………はい」


 ナターシャは盗賊が満載された馬車に乗せられ、家に帰る事になった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 荷馬車の中、未だ気持ちよさそうに眠る盗賊の山の端で囚人となったナターシャは震えながら処刑台への到着を待つ。

 ナターシャの隣にはクレフォリアが座り、その近くの斬鬼丸は胡坐を組み、盗賊を見張っている。


 やっべぇ……お父さんガチおこじゃん……。

 あんな顔見た事ねぇよ……イタズラで兄貴と一緒にお父さんの剣持ち出した時よりも怒ってるよ……。


 膝を抱え、青い顔でガクガクと震えるナターシャに寄り添うクレフォリア。


「……大丈夫ですかナターシャ様」


「……あ、あんなに怒ってるお父さん初めて見た……」


 クレフォリアはブルブルと震えるナターシャを抱きしめ、優しく包み込む。


「……大丈夫です。私はいつでもナターシャ様の味方ですから」


 その行動に少しだけ冷静さを取り戻すナターシャ。


 ……ま、まぁ家出したのはお父さんが原因だし?

 そこら辺突いて行けばお父さんも流石に黙るだろう。


 すると、丁度いいタイミングで、父リターリスがナターシャに質問する。


「……家出した経緯については僕も悪い所があるとは思うからあまり強く言えないけど、荷物も持たずにどうやってスタッツ国まで行くつもりだったんだい」


「う、ご、ごめんなさい……。……ぽ、ポケットにお菓子入れてたからそれでご飯はなんとかしようって」


本当は多少の食料をアイテムボックスに入れてるけど、それは秘密だ。

ナターシャの言葉を受け、リターリスは呆れた口調で注意する。


「……そんなんでどうにかなる訳ないじゃないか。スタッツ国は家から馬車で一週間もかかる距離なんだぞ?」


「だ、だってお父さんが殺そうとするから……」


「うっ……。そ、ま、まぁ、帰ってから色々聞くからね。クレフォリア……ちゃんと斬鬼丸さんに出会った経緯とかも」


 父は痛い所を突かれたのか、黙って馬を操る事に集中する。


 そしてナターシャは、父の言葉でクレフォリアと斬鬼丸との出会いの説明を思考……し、しこ……

 ……で、出来るかァァァァァァァッッッ!!!!!!!


 鬼気迫った表情で頭を抱える赤城恵ナターシャ


 どう説明すれば良いんだよ! まず盗賊を無力化した所から説明しないとダメじゃねぇか!

 僅か7歳の娘が盗賊無力化して捕まっていた少女の奴隷紋の制約を解除した上に無念に散った男を精霊として昇華させましたなんて言って誰が信じるんだよ!


 というか説明に当たって新たに魔法創造した事を両親に説明しないとダメじゃねぇか!

 それに悪魔と取引した事や天使に契約変更した事を説明する為にスマホやアイテムボックスの説明もしなくちゃならない……! それに精霊を顕現させる為の魔力の説明も……! や、やべぇ、詰んでる……!

 僅か7歳にして転生者バレの危機を迎えるナターシャ。


 だ、ダメだ。それでも何とか言い逃れ無くては……! なんて言えば良い? どうお父さんを説得する!?


 必死に脳みそを回して考え始める。


 と、盗賊は知らないと良い通そうか? ……い、いや、クレフォリアちゃんが俺が無力化した事を知っている。それでは矛盾してしまう。

 つまり盗賊の無力化はどう足掻いても自身がやった事を言う必要がある……!

 でもどうやって説明する……!? 夢現乃境界線(ドリーム・ワールド)は新しく創った魔法……!

さ、酒に睡眠薬を盛った……? 7歳の少女が睡眠薬手に入れられる訳ねぇだろ……! そもそも酒樽なんてあの場になかっただろうが……!


 言い訳を考え、頭を抱えて唸るナターシャ。

 その様子を傍から眺めていたクレフォリアが心配そうに声を掛ける。


「……大丈夫ですか、ナターシャ様。」


「……だ、大丈夫、だよ……。ちょ、ちょっと考え事をね……」


 ナターシャは問題ないと告げるが、その表情、口調は明らかに切迫した状況なのだと示している。

 状況を理解したクレフォリアは少しだけ笑うと優しく、ゆっくりとナターシャの手を取る。


「……私はいつでもナターシャ様の味方です。考えるのを私もお手伝い致します。どうぞお話しください」


「うぅっ……」


 しかし言い淀むナターシャ。当然だ。この説明には自身の秘密(チート)が3つ全て関わっている。

 これがバレれば必ず利用しようという人間が現れる。まず間違いなくマトモに暮らしていけないだろう。例え好きな子でも、こればかりは……


「……ご、ごめん、これを話す訳には……」


 気軽に話す訳にはいかない。クレフォリアから顔を逸らすナターシャ。

 しかしクレフォリアはナターシャの頬を両手で包み、自身の方へ向かせる。

 

 「ひぇ?」


 困惑するナターシャ。微笑むクレフォリア。

 その後クレフォリアは、一言の許可も無くナターシャの頬をむにむにし始める。な、何を……。


「……く、くれひょりあひゃん」


 むにむにされて、言葉をしっかり話せないナターシャ。

 クレフォリアは無言でむにむにし続ける。


「にゃ、ひゃめ……」


「……落ち着きましたか?」


 ようやくむにむにするのをやめ、ナターシャの前に正座するクレフォリア。

 ナターシャも少し気が散って、落ち着いたような気がする。


「……う、うん」


「……ナターシャ様。どうかお話しいただけませんか。私は、もっとナターシャ様の事を知りたいのです」


 その言葉に少しドキッとするナターシャ。少し前の出来事を思い出す。


「……どうかお一人で抱え込まないで下さい。私はナターシャ様にこの身を2度救われたばかりか、願いすら叶えて頂きました。その優しさへの感謝の為、この身に代えてでもお手伝いをすると誓ったばかりです。例え業火の中であろうと、ご一緒致します……っ」


 そしてぎゅっと抱きしめられる。

 ナターシャは少し赤面し、抱きしめ返そうかあたふた。

 そして、実質告白紛いの言葉を真摯に受け止めながら思考する。


 ……確かにもう、俺だけじゃこの状況を説明するのは無理だ。盗賊無力化の時点で魔法創造の説明をしなくちゃいけないし。

 でも、クレフォリアちゃんが状況の偽装に加わってくれれば状況は一変する。

 事件の当事者がコチラの味方なのだ。多少の欺瞞(ダミー)法螺吹きホラフェイクを入れても当人が肯定すればそれが事実だとまかり通る。

 今考えうる限りで他に道は無い。ならばもう、逃げ切る為に手伝ってもらうしかない……!


 ナターシャは眉をキッと引き締め、クレフォリアを抱きしめる。


「な、ナターシャ様……っ!?」


 クレフォリアも驚いたのかビクッと身体が震える。

 秘密(チート)は話せないが、二人の隠し事を創る事なら出来る。

 自身が隠したい情報の為、クレフォリアちゃんにも協力してもらおう……!


 そして真面目な表情をしてクレフォリアの耳元で囁く。


「……クレフォリアちゃん」


「……なんでしょうか」


「……誰にも言わないって約束出来る?」

……こういう心理戦苦手なんですけどどうしても書かないといけないのが辛い所ですね。

まぁ頑張っていきまっしょい

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― 新着の感想 ―
[一言] この主人公、簡単にハニートラップに引っかかりそう… 最初に一気に押しつつ、大丈夫と思わせた情報から少しずつ聞き出していくのがコツとの噂。
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