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31 朝の斬鬼丸

火の番を任された斬鬼丸。

今回は斬鬼丸がどんな見た目なのか、などの説明回だぞ。

「……」


 一人、いや一騎寂しく火の番をする甲冑。

 その名は斬鬼丸。ゲイルという男性の想いを核に、ナターシャの魔力と剣士が使う剣技への信仰を利用して生まれた精霊である。


 その姿は綺麗な銀色の西洋甲冑。

 ほぼ全身余すところなく金属なのだが、肘や膝などの関節部の内側は可動域を広げる為に革で作られていて、外側の大事な部分は金属の当てが付いている。

 肩や腰には見栄えが良くなるよう装飾が施されており、植物の蔦が育っていくような模様はとても上品だ。

 メインである兜は一筋のスリットが入っていて、そこから青い光が瞳のように見える。

 後頭部にかけては丸いシルエットで、顔の部分はくの字の出っ張り。

 口部分は開閉式で、水玉模様の空気穴。頭頂部には金属の丸いとさかと共に赤い房が付いている。


 一応天使の制約によって縛られている物の悪魔と違い割と緩い制約なので、自由に考えて言葉を話す事が出来る。


(精霊故であるが、眠くならないというのはなんとも不思議な物であるな……)


 燃え続ける焚火に時折路肩で集めた枝を折って投げ入れ、消えないように見続ける。


(……しかし、これもまた精神修行の一環となり得る。ただ無心に火を見つめるというのも悪くないものである)


 その思考回路は基本的に戦闘と修行に利用されており、その視る世界は顔の確認などはするものの強者か弱者かどうか程度にしか相手を分類していない。

 要は戦い以外は割とどうでもいいと思っている精霊なのである。

 剣技の精霊なので戦いを求めるのは仕方ない事なのだとは思うが、もう少し他の事に思考を使うべきなのではないのだろうか。一応精霊なのだから。


(……ム、魔物。一匹。左手の方向…………無念、離れていったであります)


 最も、そのおかげなのか彼の感覚は常に研ぎ澄まされていて、近づこうとする存在の気配から位置、次の行動までも読み取る事が出来る。

 現在は自身の感覚を拡張し、何処まで遠くの魔物を察知できるかという修行を行っている。決して仕事ついでに遊んでいる訳では無い。


(……そろそろ地平の向こうが明るんできましたな。朝日が昇る頃で御座ろう)


 カシャ、と甲冑を鳴らしながら顔を上げ、地平の果てを見る。

 空は黒から青く、青から赤く変わっていく場面だ。


(……平和というのは良い事でありますが、拙者にとっては退屈で仕方ない。突然強者が現れて勝負を挑んで来て欲しいであります)


 ゴウゴウと燃える焚火を棒で突き、パチパチという音を鳴らす。

 彼の後ろにはナターシャ達の眠るテントがあるはずなのだが、火の番を初めてから少しすると突然姿を消してしまった。

 気配も消えてしまったので少し動揺した斬鬼丸なのだが、ナターシャ殿の魔法であろうと思考するとあぁ成程と納得して火の番をしている。自身を創り上げた存在なのだ。その程度出来て当然なのだろう。


 そのまま再び魔物の気配でも掴もうと警戒網を広げ始めた所、道の先から9人の人間の気配が近づいてくる事に気付く。


(……この気配、拙者が生まれた場所で感じた気配と同じであるな。しかし一応に眠っておる。どうやって移動しているのであろうか……)


 その答えはすぐに分かった。一人の男が御者台に乗り馬を操っているのだ。

 斬鬼丸は立ち上がり、道の中央まで歩き立ち塞がる。このまま通られたら主が轢かれてしまう。


 御者台に乗る男もそれに気付いたようで、馬車を止め、御者台から降りて近づいてくる。


「……あぁ、おはようございます。旅の方ですか?」


 その少し頼りなさそうな男が斬鬼丸に尋ねる。

 斬鬼丸はその男を見て驚いている。


(……なんだこの男は。存在感や気配という物を全く感じられない……不可解。ナターシャ殿の魔法といい、この世界には驚かされるばかりである)


「……貴公は、何者でありますか?」


 斬鬼丸は逆に聞き返す。


「えっ、僕ですか? えっと、リターリスと言います。貴方は?」


 男はリターリスという名前を話す。成程、覚えておこう。

 この男、まず間違いなく実力を隠している、と斬鬼丸は察知する。

 そして礼儀を忘れない為、斬鬼丸も返答する。


「……拙者の名前は斬鬼丸と申す。最近旅を始めたばかりである故、こうして火の番を任されていた」


「あぁなるほど。お連れの方が居るんですね……あれ? 誰も居ませんけど?」


 リターリスは斬鬼丸の後ろを見るも焚火以外に何もない事を指摘する。


「……やはりそう見えるで御座ろう。拙者もナターシャ殿の魔法と気付くまでは驚いていたであります」


「へぇそうですかナターシャ……えぇっ!?」


 リターリスは驚いて一歩下がる。


「そ、その、斬鬼丸さんはナターシャと旅をなされているんですか?」


「……如何にも。拙者は護衛役を任されているであります」


「……あぁ成程。だから盗賊を容易く……」


 何かをブツブツと呟くリターリス。


「……如何なされた」


「えっ? あぁいえ。その、ナターシャは今どこに?」


「……其処に」


 斬鬼丸は焚火の近くを指差す。


「……何もないですよ?」


 リターリスが再びそう告げたその時、彼の背後から朝日が昇る。


「……いえ、其処に居るのであります。魔法で姿を隠しておられる故に見えないのでしょう」


「えっ、ナターシャってそんな魔法も使えるのか…………なら、戦っている最中に死角から意表を突く事も出来るな……ふふ、楽しくなってきたぞ……」


 ナターシャの才に驚きつつ、更なる剣術を考え付くリターリス。コッチは求めてないっての。

 その様子を見た斬鬼丸は、首を傾げながら相手の正体を予測。


(……先程からこのリターリスという男は何を言っているのであろうか。決闘……刺客……? まさか、ナターシャ殿をつけ狙う(やから)なのでは……?)


 ほぼ合っているようで間違っている思考に至った斬鬼丸は、威圧感を高めてリターリスを見る。

 リターリスもその殺気に気付きビクッとなり、目が真剣な物になる。


「……どうされましたか斬鬼丸さん。とても怖い感じですね」


「……いや何、拙者もナターシャ殿が何故旅を始めたのかという理由を聞き忘れておりましてな。今、その理由を理解した所であります」


 その言葉にリターリスはギクッ、とする。


(……あっ、ま、まさか斬鬼丸さん、ナターシャに僕の事とか色々と聞かされてるんじゃ……それに気付いて怒ってるのかな? た、確かに7歳の子に剣山での修行は早すぎたと思うけど……!)


 リターリスは自分の非を認めた上で、敢えて対峙する道を選ぶ。


「……そ、そうですか。でも僕も引くつもりはありません。彼女を連れ戻すのが僕の今の目標ですから」


 そう言うと右足を一歩後ろに下げて構える。

 剣は構えない。構えると間違いなく死闘になる。

 斬鬼丸さんは僕が今まで戦ってきた強者ツワモノと同じ匂いがする……!


「……拙者としても引いて欲しいという気持ちが半分ほどあります。少女達に血を見せるのは好ましくないと思う故」


 斬鬼丸も相手に対応する型で徒手空拳の構えを取る。

 本来ならば、話でケリをつけるのが大人の対応。そうして善か悪か判断するべきだろう。

 

 ……だが。斬鬼丸はもう、そんな事などどうでもよくなっていた。


「……しかし、それとこれとは話が別で御座ろうな。リターリス殿。拙者は今、貴公と戦いたくて仕方がない……ッ!」


 斬鬼丸の兜の中の瞳の光が強くなる。

 殺気が波動となり、周囲を揺らして近くに隠れていた動物達が逃げ惑う。

 この男は、拙者の本気をぶつけるに値する。そういう類の人間だと本能で理解したのだ。


 リターリスはその殺気を受けても尚、落ち着いた口調でこう告げる。


「……真剣は使いません。命を無駄にしたくない物で」


「良かろう。貴公がそれを望むなら拙者も徒手にて相手を――」


『……あー……良く寝た。今もう朝……? って外さっむ!』


『あらナターシャ様、開けてしまうと温かい空気が逃げてしまいますよ?』


 プチッ、プチッという音がして斬鬼丸の背後の空間が開き、二人の少女の姿が現れる。

 そしてフワァ、と開いた空間を中央にして、消えていたテントの姿も出現。


 主の目覚めを察知した斬鬼丸は、リターリスを見つめたまま状況説明する。


「……ナターシャ殿起きられましたか。今取り込み中故少々お待ち頂けますかな」


「えっなに? バトル? ……ってぇ!?」


 ナターシャは対戦相手の姿を見て驚く。

 対戦相手は速攻、斬鬼丸の前から姿を消し、ナターシャの前に現れる。


「……お は よ う ナ タ ー シ ャ」


「……オハヨウゴザイマス」


 此処に、父親と家出した娘の会合が果たされたのであった。

はい。元はもう少し先で出会う予定でしたが辻褄が合わなくなるのでここで一度世界線収束しました。

まぁこれは想定内です。だって両親の許可得てませんからねナターシャ。

リターリスも旅はまだ早いと思う訳ですよ。まだ7歳ですしね。

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