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30 SSR 剣技の精霊の召喚に成功しました。 後編

 二人の少女と一騎の精霊のパーティは夜も深まる時間帯にも関わらず、次の村に向かって歩を進めていく。


「……ナターシャ様、私達の目的地は何処なのでしょうか」


 クレフォリアが聞く。


「えーっと、最終目的地はスタッツ国かな。最初は……ツギーノ村。スマ……魔道具にはこの道を進んでいくと辿り着くって表示されてるね。まぁその途中で睡眠取るけど」


「そうなのですか……」


 少し顔が曇るクレフォリア。

 その表情を見てナターシャが心配そうに聞く。


「……何か不味い事でもある?」


「…………いえ、道中の事を思い浮かべていまして。やはり野宿でしょうか」


「そうなるね。安全は確保できるんだけど、寝場所を確保する良い魔法知らなくてさー……」


 困ったように腕を組むナターシャ。

 その様子を見てクレフォリアが微笑みながら話す。


「……ふふ、なら私、良い魔法を知っております。野宿用のテントを出現させる魔法ですっ」


 おぉ、良い魔法知ってるなぁ。

 精霊魔法といい、クレフォリアちゃんって物知りだなぁ。俺も見習っていきたい。


「なら楽しみにしとくよ。樹洞(じゅどう)で寝るのは辛かったからね」


「ふふ、ご安心くださいませ。快適な眠りを約束致しますわ」


 更にぎゅっと腕を抱きしめられる。あぁ幸せ。

 赤城恵(ナターシャ)はえへへと幸せそうな笑みを浮かべ、先を急ぐのであった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



(先程の光といい、青い炎の柱といい、一体何だったんだろう……)


 そう思いながら走っているのはユリスタシア・リターリス。

 ナターシャを連れ戻す為に森を切り拓きながら爆走していたナターシャの父だ。


 つい先ほど戦ったオークがあまりにも強かった為につい楽しんでしまい、ナターシャに距離を放されてしまった。

 追跡魔法を使えないリターリスは、剣士としての勘を頼りに森を走って魔物に出会っては斬り伏せている。


(正確な気配察知でも出来ればよかったんだけどなぁ……ナターシャってまだ小さいから森の魔物の気配に紛れて分かんないんだよね……まぁそれでも近づけばある程度は分かるけども……っ)


 走りながらズバァッ、と目の前に居た魔物を斬る。

 通りすがりに犠牲になるゴブリン。血をまき散らしながら真っ二つになって地面に転がる。


(……まぁ、僕の勘としてはさっきの光ったり、炎が上がった場所が怪しいって言ってるね。ここは闇雲に走らず、勘を信じて動くべきか……!)


 先ほど炎が上がった方角に向かう事に決めるリターリス。

 その方向へ暫く走っていると、誰かが居る気配を察知。


(……男が9人居るな。それも全員寝てる……。こんな森の中で寝てると魔物に襲われるぞ。何があったんだ……?)


 更に速度を上げるリターリス。

 少しして到着した彼が見たのは、街道にて気持ちよさそうに爆睡している男達の姿だった。

 全員が手足をロープで縛られている。


「ホントに何があったんだ……?」


 リターリスがその場に踏み込む。

 そして、一番近くで寝ている男の顔を確認する。


「……あっ、コイツ」


 この顔には見覚えがある。コイツは確かエンシア王国で指名手配されていた男の一人だ。

 他の男の顔も確認する。どいつもこいつも国の張り紙で見た顔ばかり。


「まさかコイツら……“血と酒の盗賊団”?」


 そう、ナターシャが無力化したのはエンシア王国内で最近その名を轟かせていた犯罪グループのメンバー達。

 出会った人間の身ぐるみを剥いだ上で必ず斬殺するという凶悪さから、構成人数の少なさにも関わらず早急な討伐隊の結成が望まれていた奴らだ。

 そいつらが両手両足を縛られた状態で寝かされている。


「……一体誰が……あれ、この足跡……」


 荷馬車近くに何故かある四角い土の塊に、6〜7歳の子供の足跡。もしかしたらここにナターシャが来たのではないかと予測する。


 その可能性を白黒はっきりさせる為に周囲を捜索し始めるリターリス。

 街道を調べ尽くしても手掛かりは無かったので、先程の荷馬車を調べる事に。

 荷馬車には馬が二頭付けられていて、荷台の中には大きな袋と、手足を縛られた盗賊が寝かされている。奇怪だ。

 内部をくまなく探したリターリスはある物を見つける。


「……これは。」


 それは女性の物であろう、銀色の長い髪。リターリスは可能性が深まる音を感じる。

 そして寝ている盗賊を退けようと、横に転がした時に気付く。

 

 荷台の床板に挟まっている、オレンジと赤の小さな布切れ。

 この彩色はナターシャが着ていた服と同じだ。この場に居た可能性がさらに深まる。

 しかし確信には至れない。そこでリターリスは、とっておきのアイテムを使用する。


(……古い友人から貰った物の一つだけど、まさか使う日が来るなんてね……)


 リターリスは腰に付けたポーチから、小さな鈴を取り出す。


 この鈴は遠憶の鈴と言う。

 使用者が手に持つ物に向かって振ると物から記憶が吸い出され、動画のようにその一場面を見る事が出来る。当然色付きだ。

 これを使えばナターシャが居たかどうか確かめる事が出来る。


 リターリスは早速オレンジと赤の布切れに向かって鈴を振る。

 すると布地から記憶が粒子となって吸い出され、ナターシャが金色の髪の少女に押し倒される場面が映像化される。

 見知らぬ少女は震えながらナターシャに抱き着き、ナターシャは優しく少女を撫でている。

 残念ながら、金髪の少女の顔は髪に隠れて見えなかった。

 そして投影が終わり、ナターシャ達が霧散して消える。


(……良かった、ナターシャはここに居たのか)


 これで森で迷子になっている線が消え、リターリスは安心する。


(誰が盗賊を無力化したのかは分からないけれど、ナターシャがここに居た事は間違いない。そして金髪の少女も居ないという事は共に行動しているはず。でも何処に向かったんだろう。……やっぱりツギーノ村かな? なら、急いで追いかけないといけないけど……)


 リターリスはナターシャが向かったであろう街道の先を見つめる。

 でもなぁ……と呟くリターリス。


(ナターシャが家出した理由が“お父さんに殺されそうなのでマルスの所に逃げます”だもんなぁ……。多分このまま追いかけてもまた逃げられるだろうなぁ……。訓練の内容厳しくしすぎたかなぁ……)


 興が乗り過ぎた事を後悔する。

 しかし、父親としてなんとしてでも娘を連れて帰らなければならない。ベリアちゃんも心配してるし。

 仕方ない、今度会ったら話合いは諦めて問答無用で連れて帰ろう、と決意するリターリス。


 決意新たに急いでナターシャを追いかけようと思うも、領主の責務としてこの盗賊達を放置する事が出来ない。

 しかし可愛い娘が行き倒れてしまうのはもっと困る。死活問題だ。

 暫く腕を組んで考えていたリターリスだが、一つのいい案が思い浮かぶ。


 ……そうだ。盗賊達を馬車に乗せて運んでしまおう。ナターシャは徒歩だ。荷馬車でも追い付く。

 そしてツギーノ村に着いたら村長に話をして、エンシア王国への運搬を代わってもらえば済む。

 自身の勘が正しければ途中でナターシャも捕まえられるし一石二鳥だ。


 そうと決めたリターリスは早速馬車に盗賊を積み込む。

 積み終わるとすぐさま御者台に乗り込んで馬二頭を操作し、ツギーノ村へ繋がる道を進む。


(待っているんだぞナターシャ。今度は優しく訓練してあげるからね……!)


 ナターシャが待ち望んでいない訓練への情熱を胸に、リターリスは手綱を引くのであった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「……寒っ」


 ブルっと悪寒を感じるナターシャ。


「大丈夫ですかナターシャ様。何処からか隙間風が……?」


 寄り添うクレフォリアがナターシャを気遣う。


「……いや、なんか嫌な予感がして。でもテント魔法って便利だね」


 現在ナターシャとクレフォリアは、街道の中央に小さなテントを出現させ、その中で休んでいる。

 床にはふわふわの毛布が分厚く敷き詰められていて座り心地も抜群だ。

 ナターシャがアイテムボックスから取り出したクッションもあるので快適に眠れるだろう。

 そしてナターシャの魔法のお陰で内部は温かく、決して凍える事も無い。


「……私は少し暑さを感じます。それに、ナターシャ様と一緒に居ると胸がドキドキして……」


 ナターシャに頭を預けてくるクレフォリア。その行為に赤城恵(ナターシャ)もドキドキする。

 うぅ、ホント困る……なんでこんなに積極的なのさクレフォリアちゃん……。

 7年ほど少女として生きてきた物の、親族以外の女性から純粋な好意を向けられるのは初めてなのだ。耐性が全くないのでどうしても狼狽えてしまう。

 やっぱ彼女いない歴年齢という事実は重い……逃げの一手しか思いつかない……! とナターシャはクレフォリアに睡眠を促す。


「……じゃ、じゃあ、そろそろ寝ようか。明日も早いし」


「はい。……初夜ですね」


 言い方ァ! と心の中でクレフォリアに突っ込みつつナターシャは横になり目を瞑る。

 クレフォリアもナターシャと向かい合う形で横になり、吐息を感じる距離まで近づいてきて……


「……近くない?」


「……そうでしょうか?」


 目を開けるとクレフォリアの顔が間近で見える。

 暗闇でも光るようなウェーブの掛かった金色の髪に、澄んだ青い瞳や綺麗な肌、美しく形の良い唇がよく見えてその、困る。

 ナターシャはスス、と後ろに下がるがクレフォリアがズイ、と近づいてくる。

 ……えっ? 何? お休みのキスでもしないといけないの?


「……ね、寝るね?」


「はい。お気になさらずお眠りください」


 無理だっての……、と思いつつナターシャはもう一度目を瞑り、テントに隠匿の魔法をかけておく。外では斬鬼丸が火の番してるから大丈夫だと思うけど、一応ね。


「……じゃあ、お休み」


「……おやすみなさいませ」


 ナターシャの魔法により姿を消したテントは、朝日が昇るまで姿を現す事は無かった。

2分割した残り。

遠億の鈴は鳴らすと反対の手に持つアイテムから場面の記憶を抜き出してその場に表示するアイテムです。

チリンチリンとカワイイ音が鳴ります。

アイテムと本来の場所さえ揃えばその当時の状況再現に利用出来ます。

古い友人に貰ったアイテムは7つほどありますがその1つです。

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