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2 明らかに誘導尋問してくる神様

「――おい、起きんか」


 誰かにペチペチ、と頬を叩かれる。

 突然の衝撃で、急速に意識が覚醒していく。


「……?」


 ゆっくりと目を開けると、金髪で、白い布で身体を包むように隠した巨乳の女性がしゃがんでいてあっ、奥見えそう……


「残念、見せんぞ」


 キュッと股を閉められる。


「チッ」


 悔しい表情を隠さず出して、舌打ちをする。

 みせてくれたっていいじゃん。別に減るもんじゃないし。


「そういう訳にもいかん。神にも威厳という物がある」


 あぁ確かに威厳とかプライドは減少するね確かに。

 でも、気付かれなきゃ減らないのでは?


「もしソイツが精工なモデリングで偶像を作ってみろ。現実を見せつけられた信者が発狂して自殺するかもしれん。それは困るのだ」


 あぁ、アイドルがトイレ行かないとかそういう奴ですか。

 でも分かる、分かるよ。フィギュアの大事な所まで精工に作り込まれ過ぎてると、「モデラーの執念ヤバすぎだろ……」って萎える時あるもんね。


 ……というか、なんで心読まれてるんです?


「それは私が神だからに決まっているだろうが」


 そう言うとその自称神様の女性は立ち上がり、神々しい光を背中から放つ。


「お主も早く起き上がらんか」


 自称神様は顎で起立を促す。


 いや、いやいや。

 俺さっき、トラックに引かれたてピチピチなんで、パッ、と立ち上がるとかちょっと厳しいと思いますよ?

 だってど真ん中に捉えられましたからね。

 それはもう綺麗な放物線を描いて、地面にキスしてトマトジュースをぶちまけたと思いますよ?

 俺は立てない理由を必死に言い訳する。


 別に頑張って覗こうとしている訳じゃないぞ?


 自称神様はため息をつき、俺の背中を掴むと、無理矢理立たせた。

 ああああああああああ痛い痛い痛……あれ? 痛くない!

 ぜんっぜん痛くない! 凄い! 魔法!?


 俺は身体を見回して、一切の怪我がない事に気付く。スーツも破れていない。

 何故? と自身に問いかけていく末に、一つの結論に至った。


 ハッ、これはまさかいわゆる走馬灯とかそういう物なのでは……?

 記憶には無いが、いつの間にか深層心理に眠っていた、金髪巨乳美女と出会いたいという俺の願望が具現化して…………

 うおおおおおおおおおお俺の妄想力ナイスううううううう!!!

 〇っぱいさいこおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!


 一人、心の中で叫び、身体で喜びを表現する。


「……お主は、中々肝が据わった男のようだな。神である私を無視するとは」


 少し苛立った様子で腕組みをする自称神。


 いや無視してる訳じゃなくてこれが俺の通常運転というか。

 正直なところ、仕事しすぎてハイテンションになってると言う所が大きいと言いますか。

 喋らずも答弁出来るのを良い事に、テレパシーを楽しむ俺。

 こういう不思議現象って良いよネ。


「……ふん、それくらい分かっている、神は全てを見通しているのだ。そしてお前が、これから選択する運命も」


 どうやら神様は俺との対話が面倒になったようで、脈絡もなく2つの条件を提示する。


「まず1つ目。輪廻転生。これは言わずとも分かるな?」


 まぁはい。宗教信じてなくても有名ですしね。


「そして2つ目。異世界転生。お主が住んでいた世界とは別の世界に生まれ直し、なんか特別なスキルとかもらってなんやかんやする奴だ」


 説明雑ッ!


「いや、お主の世界でも異世界転生は有名だろう? 出版されたりしてるだろう。だから、細やかな説明程度は省いても良いだろう?」


 ま、まぁオタクの端くれとして異世界転生が何なのか知ってはいますけど、神様の役割的にそういうのどうなんです?

 間違えて殺しちゃったスマン、とか人類の進歩しなさに激怒したりとかしないんですかね?


「……お主のような一個人を怒った所で、気晴らし以外の何の意味があるというのだ。神は常に公平である。悪も善も全てひっくるめて是とするからこその神なのだ。万物を管理するならば、そのどちらも慈しまねばならん」


 うわぁ、気高い。

 俺は無言で拍手する。


「うむ、もっと称えるとよい」


 俺の心からの拍手に、神様も満更でも無いらしい。


「まぁそんな事はどうでもよい。というか会話も面倒だ。早急に選べ。元の世界か。異世界か」


 まぁ、考える必要も無いけど一応思考しておく。

 異世界か。一体どんな世界なんだろう。

 まず異世界物と言ったら魔法だろう?


 神様がテンプレすら省く所から、まず間違いなくハイファンタジーで魔物が居て、そんで今回は死んでるから転生な訳だ。

 つまりは、強くてニューゲームを楽しめるという訳だな。

 しかし大体は中世ヨーロッパ風味な世界に転生する羽目になるから、農民に生まれると農民のままで……

 いや待て、農民に生まれても冒険者ギルドとかがあるな。

 無理矢理出奔して、冒険者登録して、チートスキルを使って生活していくのも有りだな。


 既に異世界転生した後の事しか考えていない俺の脳内に、女性の苛立った声が入りこんでくる。


『は や く き め ろ』


 すみません異世界転生で。

 ビビった俺は即座に返答した。


「……分かった。次はスキルだが、まぁこれも運命で決まっておる。好きな物を言うと良い」


 神様はひらひらと手を振り、大きく欠伸をする。

 ちょっと、俺の門出なのに気だるげなその表情なんなの?

 その横顔メチャクチャときめくんだけど。


「神なのだから当然だ」


 早くしろ、と急かさせ、俺は黙考を始めた。

 神様から貰えるスキルについてだ。

 ここは安定の賢者か? 強い魔法が使えて頭も良くなる。


「……前に転生させた者に、賢者を希望した者がいたな」


 へぇ、その人はどうなったんですか?

 参考の為に聞いておく。


「……6歳の誕生日の時、つい思考した世界の終焉を未来視してしまって、そのまま発狂死した。凡人が天才になる力を望むなど、烏滸(おこ)がましい。与えられた才に押しつぶされるだけに決まっているだろうに」


 神様はやれやれ、といったポーズを取る。


 ……よし、賢者はパスだな。俺の脳では耐えられないだろう。

 なので、別のスキルを選ぶことにする。

 次は、安定の剣士か。ここはやっぱ剣聖とかだろうな。ズバッッ、バシュッッ、的な。

 身振りで剣士っぽく動く。


「それを望む者も居たな」


 ……どうなったんです?


「うむ、剣豪特有の見切りや間合い、死生観などの思考に身体が付いて行かず、決闘にてバッサリと切り伏せられた。哀れなものよ。努力の積み重ねこそ最強の剣を作るのだ」


 ……け、剣聖もパスだな。

 まぁ魔法の世界だし、剣が使えなくたって生きていけるさ。

 次、次は……


 少ない脳みそを動かし、思いつく限りチートなスキルを考える。

 じゃあ、農業――


「隣人に恨まれ殺されたな」


 ぎ、技術者――


「その者を狙った戦争が世界大戦にまで発展した。ソイツは自暴自棄になり自殺したな」


 ……錬金――


「金の価値が落ちすぎて王家に囚われ最終的に処刑された」

「ロクな末路がねぇじゃねぇかッッッ!!!!!!」


 閉じていた口を開き、心の叫びを言葉にする。


「当然だとも。チートなスキルを手に入れても、思考が凡人レベルの人間には荷が重すぎる。それを扱える者こそ一握りの天才という事だ」


 じゃあ、俺に向いてるスキルってなんなんだよ……

 俺は全てを論破されたように感じてしまい、諦めの感情のまま神様に尋ねた。


「……ならば一度、過去を遡るのが良いだろう。人の人格は過去の出来事により形成される。その中で光る物こそ、その者の持つべき才能という事だ」


 なるほど。

 でも思い出すの大変なので手伝ってもらえません?

 小学校の頃の記憶とか、もう九割消し飛んでますよ?


「神に指示を出すか。……まぁよい」


 神様が俺に手を向けた。

 すると俺の身体から映像や写真がブワァッ、と広がっていった。

 運動会でビリになった時の映像や、おもらしした時の写真、告白して振られた時のムービー……って碌なモンがねぇぞ俺の人生。


「平凡な男だな。……ふむ、しかしこれは中々」


 神様はそう言うと、一つのムービーを手に取る。

 そして再生。


『……クク、我が魔眼は今も尚終焉の未来を見続けている。そしてそれを知る俺だけがその終焉を救う』


 バンッ!


 俺は神様の手からそのムービーをはたき落し、全力で踏みつける。

 何もありませんでした、イイデスネ?


「私は良いと思うぞ? クク……」


 神様は怪しげな含み笑いをし、まるで自身すら操られているだけの存在だという雰囲気を……やめろホントやめて下さい。

 まってホントにこれだけは勘弁して。黒歴史なの。

 これに戻るとかホントに死んだ方がマシなのもう死んでるけど!

 身振り手振りで止めて欲しい事を伝える俺。


「諦めろ、お主の人生の中ではソレしか目立つ物はない。そしてそれに見合うスキルもある。クク……」


 神様は相変わらず含み笑いをしながら、一つの単語を空中に浮かべる。

 この人絶対最初覗こうとしてた事怒ってる……

 俺はそう訝しんだ。


 それはともかく、空中に浮かんだ単語は“魔法創造”。

 いわゆる魔法系統のチートだ。


「これを私はオススメする。クク、お主の思考など既に私の掌の上。逃れる事など出来はしまいて……」


 不敵な笑みを浮かべながら魔王ムーブする金髪巨乳の神様。

 なんなんだこの絵面は。


 ……ちなみに、末路とかそんなんは無いんですか?


「これは自由に魔法を使える訳ではないからな。新魔法を開発してそれを世界に刻めるだけだ」


 なるほど?


「利用した物は精々大成出来るくらいだろうよ。凡人にも扱えるとは素晴らしいスキルだ」


 なるほど、説明とかは?


「まぁ、詳細な説明は、お主が六歳の洗礼を受けた際にもう一度しよう。……してどうする? 神の宣告を受け取るか?」


 神様は浮かぶ単語をズイッと近づけてくる。

 俺はまだ受け取らず、気になる事を質問していく。


 ……他の魔法チートとかには出来ませんか?

 文字使いとか、無詠唱とか。


「それこそ魔法創造で作ればいいだろう」


 あぁ確かに。

 魔法創造あればなんでも出来るな。

 つまり大体の魔法の上位互換って事か。


 ……なら、魔法系統なら追加で付けて欲しい物があるんですけど。


「なんだ、言ってみよ」


 所持魔力が多くなるスキルが良いですね。

 超魔力とか、無限魔力とか。

 魔法を創造出来ても魔力不足で使えない、なんて事になると困るので。

 ……後、叡智の書とかも付属して貰えません?

 語彙力無いんで。


「はぁ、欲張りな男だ。だが、魔力は安心せよ。神の加護がある限り魔力が尽きる事は無い」


 本当ですか!?

 それは助かる。


「……後は叡智の書か。お主の世界の国語辞典で良いか?」


 神様の手の上に、ポンッと、見た事ある感じの赤い国語辞典が出てきた。


 ……もっとこう、さぁ。

 鎖で封印されてる本とか、ルーンな文字で書かれた本とかさぁ。

 まぁそんな物出されても読めないから要らないけど。

 出来れば神様。

 違う物をお願いできますでしょうか。


「……なんだ」


 呆れ顔になる神様。


 ……その、スマホ貰えません? 

 魔力で充電出来て、元の世界のネットに繋がってる系の奴。

 こう、神様パワーでなんとかして欲しいんですけど。


「お前は神を何だと思っているのだ。まぁ出来るが」


 そう言うと、国語辞典を消して、スマホと充電ケーブルを出してくれた。

 ケーブルのコンセント部分は吸着シートになっていて、素肌に貼り付くようだ。


 ふふ、これで中世で一番ネックだった娯楽については解決した。

 現代人である俺にとって、中世は楽しみが足りなさすぎる。

 まぁ、死と隣り合わせというスリルを楽しめるかもしれないけど、それはそれとして、だ。


 スマホをゲットできて安心した俺は、神様が選んだスキル、魔法創造を快く受け入れる。

 空中に浮かぶ文字が俺の身体に入り込み、身体がポウと光に包まれ始めた。


 お、これから転生するって事かな?

 テンプレについては良く分かっているつもりなのでそう考えておく。


「はぁー……ホントに、手のかかる男だった」


 神様はダルそうに肩を叩く。

 今すぐにでも元の場所に帰りたい、と動きや表情から伝わってくる。


「そうだ。疲れた。頑張ったから敬え」


 あ、はい。

 お疲れさまです。


「よろしい」


 許されたようだ。

 俺はそのまま足元から消えていっていたが、ふと、いくつかの質問を思い付いた。


 あ、そうだ。

 最後にいくつか聞いておきたい事があるんですけど。


「なんだ?」


 次に生まれる時もやっぱり男なんですか?


「それは生まれ変わってからのお楽しみだ」


 そうですか……じゃあ、貴方は本当に神様なんですか?

 俺の素朴な疑問を聞いて、神様は少しだけ真面目な表情で問答を始めた。


「では、此方から聞こう」


 はい。


「お主はいつの間に私の事を『自称神様』と呼ばず、神様と理解したように話していたのだ?」


 ……?


「凡人には難しい質問だったか。

 ……神とは、疑問を思う前に、見た瞬間から神だと理解出来るのだ。

 理解する必要など最初からない。

 トリック、催眠などという物で騙される物ではなく、

 その存在が神だと、自然に身体が理解してしまうのだ。

 まぁ、いずれお主にも分かる」


 …………???

 分からん。


「分からんでいい。いずれ分かると言っている」


 そ、そうですか。

 因みにスリーサイズは?


「上から96、60――……ッ、女性にそんな事を聞くのではないこの愚か者めっ」


 ポコン、と裏拳で頭を叩かれたタイミングで、俺は光に包まれて消滅した。

 残された神様は、はぁ、スケベめ、と呆れると、机と椅子を出現させ、そこに座る。


「……全く、面倒な男を管理する羽目になった物よ」


 ついでに出したお茶を飲み、軽く一息ついて、ふと思い出した。


「……あぁ、()()()()が、あの男の()()()と密接に関係している事について、説明するのを忘れていたな。ま、六年後でよいか」


 そう言い残して、彼女も消失した。

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