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28 君の名は。

奴隷紋の制約が無くなり、自分の事を話せるようになった少女。

ナターシャはまず名前を聞くことに。

「……私の名前、ですね」


 少女は赤城恵ナターシャに改めて向き直り、自身の名前を告げる。

 ウェーブがかった金色の髪がふわりと揺れる。


「私の名前はアル・クレフォリア。クレフォリアとお呼びください」


「クレフォリアちゃんね。よろしく」


 ナターシャはクレフォリアに握手を求め、クレフォリアもそれに応じる。


 ……まぁこのやり取り片手ずっと握られたままやってるから両方の手で握手する羽目になってるんですけどね?

 いや全然手離してくれないどころか指絡めてくるんだよクレフォリアちゃん。ドキッとしちゃうから困る。

 でもやめて欲しく無いと言うのが俺の童貞力を表してると思うもう女の子だけどぉ!


 ナターシャの心の中の葛藤を知ってか知らずか、クレフォリアは更に強い好意を示す。

 握手した手の指までも絡めとり、小さく微笑む。


 赤城恵(ナターシャ)はどう反応して良いのか分からず、若干引き攣った笑みを浮かべながらへひ、と変な声を出す。

 クレフォリアは更にナターシャの両の手を持ち上げ、向かい合う形で指を組み合わせ、頬を赤く紅潮させながら少しづつ近づいて来て……あっちょっとまってこれダメ! まだそう言うの早いと思う!


 と、熱い視線と行為に耐え切れなくなったナターシャはついに目を逸らしてしまう。


「……どうかなされましたか?」


 楽しそうに微笑むクレフォリアが聞いてくる。


「いや、まぁ、ちょっとね……」


 適当に言い繕うナターシャ。クレフォリアから手を離す。

 その行動に残念そうな表情を浮かべるクレフォリア。


「……えっと、じゃあそろそろこの場を離れようか。盗賊が復活したら困るし」


「はい。……あぁでも、少しだけお待ち下さい」


クレフォリアはそう言うと、御者台に座る男の腰に付いている小さな鞄を漁り、何かを回収する。


「……何かあったの?」


「……はい。この男には大事な形見を奪われていたので」


 なるほどなぁ、と納得するナターシャ。

 ついでなのでクレフォリアの力も借りて男を荷台に引っ張り出し、手と足を縛る。

 これで盗賊は全員無力化。もう要は無いので脱出を促す。


「よし。じゃあ一緒に逃げよう」


「はい。ナターシャ様とならどんな所へでも向かいましょう」


 愛の逃避行をする恋人のような台詞を並べるクレフォリアと共にナターシャは荷台から降りる。

 多分吊り橋効果だろうからクレフォリアも暫くしたらもう少し落ち着くだろう。……まぁ悪い気分じゃないけどもさ。


 二人は荷台を降り、ナターシャはNAVIを見る為に早速スマホを起動する。

 クレフォリアは何を思ったのか、横転した荷台の裏手へと小走りで駆け寄っていく。


「何かあるの?」


 裏手に入ったクレフォリアに理由を聞くも、返答が無い。

 不思議に思ったナターシャは、荷台の裏へ歩いていく。理由を確かめるためだ。

 少し進むと、金色の髪が見えた。


「あ、クレフォリアちゃ……ッ!?」


 話しかけようとしたその瞬間、ナターシャは絶句する。


 そこには、物言わぬ血まみれの人形達。

 横転した荷台の裏手は惨劇の後であろう、撒き散らされた血飛沫と共に5人の遺体があった。

 クレフォリアは、彼らの為に祈りを捧げていた。


 ナターシャは息を呑んで、何とか言葉を絞り出し、か細い声で聞く。


「…………この、人達は?」


「……馬車で知り合いになった方々です。……どうか神様。彼らの魂を天国へとお導きください」


 再び祈るクレフォリア。何と健気な少女なのだろうか。

 その後ろに居るナターシャは、初めて目の当たりにする凄惨な光景から目を離せなくなってしまった。


 遺体は背中や胴を斬られた傷と共に、致命の一撃としてみな喉元を掻き切られている。

 その中でも酷いのがフルプレートの甲冑を着た遺体。

 兜と胴体は皮一枚を残して切り離され、仰向けに倒れた鎧の隙間からは血が(にじ)みだし血だまりを作り、一部焦げ付いた鎧の脚は繋ぎ目から()ぎ取れて内部が見えて――


 あまりにも凄惨過ぎて気分が悪くなり、ナターシャはえづく。

 容赦なく胃液が込み上げて来て吐き出しそうになり、身体が勝手に前かがみになる。

 しかし声を挙げたり、中身を出したりはしない、祈りの邪魔をしない為だ。


 そんな風に何とか耐えていたのだが、祈りを終えたクレフォリアに気付かれてしまった。


「……な、ナターシャ様。大丈夫ですか?」


 自身の恩人に駆け寄り、背中をさするクレフォリア。とても優しく、温かい手だ。

 ナターシャは大丈夫、と言いながら言い訳する。


「……うん。こういうのは耐性ないからつい吐き気がね。でももう大丈夫」


 強がっているが、顔がかなり強張っている。動揺しているようだ。


 ……やっぱそうなるよな。盗賊に襲われたって事は。

 分かってはいたけど実際目にするとキツイ。ホント吐きそう。

 これが異世界の現実って事か。


 口元を手の甲で拭き、クレフォリアに話しかける。


「……クレフォリアちゃんは平気なの?」


「……いえ、でも、それより先に感謝を言わなければならなかったのです。……彼が身を挺してくれた事で、私の命があるような物なのですから」


 そう言うとクレフォリアはナターシャから離れ、西洋甲冑を着た遺体に向かい歩いていく。


「……ゲイル、ありがとう。貴方の勇気のお陰で私は命を救われました。そして、ナターシャ様という奇跡に出会えました。……せめてもの報いとして、最後の想いだけでも家族の元に届けます」


 クレフォリアはゲイルと呼ばれた遺体に手を向け、魔法を詠唱する。


「“空よ、大地よ、世界に満ちる全ての魔力(マナ)よ。此処にその力を集め、我が魔力と共に精霊と化して彼の想いを昇華させよ。精霊化シルフィース”」


 クレフォリアの手に向かい、甲冑から光が溢れ出す。

 それは、集まって一つの小さな光の玉となり、クレフォリアの周囲を浮揚しはじめる。


「……その魔法は?」


「……精霊魔法です。この光の玉はゲイルの願いを核として、私の信仰心と魔力を糧に存在を固定しています。……出来れば、彼自身を精霊にしてあげたかったです。そうすれば、両親に姿を見せる事が出来ますから」


 自身の力不足を悔いるクレフォリアの肩に光の玉が止まる。

 クレフォリアは人差し指で小さく撫でる。

 ナターシャはそれを聞いて、良い事を思いつく。


「……人を精霊にするには、信仰心と魔力さえあれば出来るんだね?」


「はい。……ですが難しいと思います。人を精霊化させるには強力な信仰と共に、膨大な魔力を必要とします。信仰だけでも教皇様レベルの物が必要です。私にはとても……」


「……大丈夫。1つだけ良い手があるよ」


ナターシャは人差し指を立て微笑む。


「……一体どんな手が?」


「その前に、ちょっと魔法の改良させてね。クレフォリアちゃん、精霊魔法の詠唱教えてくれる?」


 クレフォリアがナターシャに詠唱を教え、ナターシャはそれをスマホにメモする。

 ……今日の俺は冴え渡ってる。これもクレフォリアちゃんの好意のお陰だね、と心の力を厨二病へと変換して単語を変え、文章を追加し、新たな魔法へと創り変える。

 当然天使ちゃんへの質問も忘れない。


ナターシャ

[精霊魔法って奴隷紋と結び付けられる? 〇ateの〇呪みたいな感じでさー]


天使

[天使ちゃん的に言うと止めといた方が良いと思うよ? 悪魔と契約する事になるし]


ナターシャ

[でも奴隷になってた子の紋章隠すには新しい紋にするしかないじゃん?]


天使

[そうだねー……なら天使ちゃんと契約する? そしたら紋章も変わるし。それに今なら送料無料だよ☆]


ナターシャ

[何を送るのさ……。つまり奴隷紋の契約を悪魔から天使ちゃんに切り替えるって事?]


天使

[そゆこと♪ “熾天使アーミラルの名の下に”って入れてくれれば契約変更出来ますっ。これこそ熾天使の権限っ!]


ナターシャ

[軽いね……。そういうのでいいの?]


天使

[もちろん♪ まぁ精霊を隷従させる代わりに死んだら魂回収しに行く契約だけどね☆]


ナターシャ

[悪魔と変わんねぇなオイ]


天使

[酷い! ちゃんと天国に連れていくもん!]


 そんなこんなで新たな精霊化魔法を創り上げたナターシャ。というか天使ちゃんの名前ってアーミラルって言うんだ。覚えとこ。

 そして再び少女に向き直り、世界を嘲笑い口上を述べる……とかはそんな事はしないからな? 今この状況でそんな事出来る余裕ないし。


 ナターシャは甲冑を着た遺体の傍に近づき、クレフォリアの近くにしゃがみ込んで遺体に手を向ける。

 そしてクレフォリアに魔法の説明をする。


「……今から使う精霊魔法は、クレフォリアちゃんの奴隷紋の効力を利用して精霊を従わせるんだ。ついでに契約を従属の悪魔から熾天使に切り替える。手伝ってくれる?」


 その説明に驚いた表情を見せるクレフォリア。


「……こんな短時間でそんな魔法を創るなんて。ナターシャ様は凄いのですね。更に、熾天使様と契約までも。神の信徒としては寧ろありがたい事です。……でも、勝手に契約変更したら従属の悪魔が怒るのではないのしょうか?」


 不安げな表情で聞いてくるクレフォリア。ナターシャの事を心配しているようだ。


「……まぁ、いずれ向こうから私に接触してくると思う。その時までにアイスハインズ30頭用意しておけば問題ないよ」


 ナターシャは少し曖昧な表情を浮かべてクレフォリアに答える。


「そんな数、ご用意出来るのですか……?」


 未だ不安が残る顔でナターシャに問いかけるクレフォリア。

 ナターシャは不敵な笑みを浮かべて話始める。


「……まぁね。これでも魔法は得意なんだ。なんとかなるさ」


 そして、お互いの不安を吹っ切るようにクレフォリアに笑いかける。

 クレフォリアはそんなナターシャの気持ちを理解し、左手を掴んで両手で包み込む。


「……我が身の不幸を引き受けてくれたのみならず、代償まで引き受けて下さり感謝が尽きません。もう、何と言えばよいのでしょうか……。今の私に出来る精一杯の恩返しは、ナターシャ様が悪魔に連れていかれないように精一杯お手伝いするという事だけ。だからこそ、例えこの身に代えてでも、ナターシャ様をお助け致します」


 意思の籠った強い瞳でナターシャを見つめるクレフォリア。

 ナターシャもその気持ちを受け取り気持ちが和らぐ。ちょっと重いけどね。


「……ありがと。じゃあ、そのまま手を握っててね」


「はいっ」


 ナターシャの左手がぎゅっと更に強く包み込まれる。

 ……ふふ、純粋に嬉しい。


「じゃあ、行くよ――」


 ナターシャは、新しく創り直した精霊魔法を詠唱する。


「“真の剣士の至る道、研鑽の末に辿り着く剣技の境地。古今東西無双の英雄の力が、技が、その信仰が、今此処に集結する――”」


 ポウ、と甲冑を着た遺体が眩い光に包まれる。

 世界中で信じ、崇拝されている剣技、剣士への信仰。今回はそれを利用する。

 何でも両断する技量を持つ剣士が存在する世界だ。その信仰は生半可な物じゃない。


「“無念に沈んだ男の想いを核とし、無銘の剣技の精霊と成りて、我が魔力を糧に顕現せよ。隣人(しょうじょ)が持つ紋章の新たなる主、熾天使(してんし)アーミラルの名の下に服従せよ――”」


「……あっ、ゲイル……」


 クレフォリアの肩に止まっていた精霊が、光に誘われるように遺体へと戻っていく。

 精霊が甲冑に触れ、浸透すると眩い光は次第に青く変わっていき、甲冑から漏れ出ていた血が青い炎を出して燃える。

 それと同時にクレフォリアの紋章がまたしても赤く輝く。恐る恐る胸元を覗くクレフォリア。

 奴隷紋が新たなる模様に変更されていく。呉のような模様が消え、ハートマークに三本の剣が刺さり、両側には鳥の翼を象形化したような模様が3対も入る。


「も、紋章が変化しました……」


「うん、それが天使の紋章だと思う。天使ちゃんは良い人だし大丈夫だよ」


「そうなのですか……?」


 ナターシャの言葉を聞き、優しく胸に手を当てるクレフォリア。嬉しそうだ。

 そして血を燃料にしていた青い炎は辺りの血飛沫にも引火、次第に燃え広がり、その場にある全ての遺体を巻き込んで燃え始める。

 ……これは想定外。


「……危ない、下がろう。巻き込まれちゃう」


「は、はい……」


 ナターシャとクレフォリアはその場から下がり、青い炎から逃れる。

 ……だが、これで最後の仕上げだ。ナターシャは術銘を口にする。


「“さぁ、新たに創られし精霊よ。その真の姿を見せよ。“無銘乃剣神霊ゴッズフェヒター・シルフィース””」


 術銘を口にすると炎は激しく燃え滾り、上空にまで届く青い火柱となる。


「……綺麗」


 クレフォリアはその様子を目にしながら呟く。


 その炎は、魂を天国へと送る葬送の炎。

 盗賊達に無残にも殺された人々への鎮魂歌(レクイエム)のようだった。


 青い炎は遺体のみならず、倒れた荷台をも巻き込み、燃料として燃やし尽くした後、次第に小さく凝縮されていく。

 そして完全に収縮した後、その場には銀の西洋甲冑が立っていた。兜の隙間からは青い光が瞳のように漏れている。

 その甲冑は、男の声で二人の少女に問いかける。


「……問おう。貴公が私の創造主か?」

百合要素だぞ喜べ(暴言)

クレフォリアちゃんは好意を行動で表してくれる良い子です。ただちょっと行動が激しいだけです。

後毎回ナターシャが剣神なってたらキリが無いと思ってたので剣神要素創りました。

後悪魔との契約を破棄して天使ちゃんに切り替え。これも神様パワーチートって奴ですよ。

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