表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/263

25 鎖に繋がれた少女

荷台の上で出会う二人の少女。

その出会いは偶然か。はたまた運命か。

 見つめ合う二人の少女。

 先に口を開いたのは鎖に繋がれた少女。


「……なぜ……あ、なたは、ここに……?」


「……えっと、た、たまたま馬車を見つけたからそこに入って眠ろうかって……」


 ははは、と笑って誤魔化そうとするナターシャ。

 しかし鎖の少女は自身の状況を良く分かっているようで、ふっと笑いナターシャの嘘を見抜く。


「……うそ、ね。だって私は……盗賊に、襲われた、んだもの……っ」


 少女の身体が怒りと悲しみで震える。悔しそうに下唇を噛み、再び俯く。


 あー、やっぱ誤魔化せないよなぁ……。多分盗賊を無力化したのもバレてる。

 でも、なんでこの子には魔法が通じてないんだろう……。荷台の中に居たお陰かな?


 ナターシャは笑うのをやめてふぅ、と息をつくと真面目な顔に。

 鎖の少女に近づいてしゃがみ、顎を持ち上げて殴られた痕を確認する。


「……なに、を……」


 突然の行いに戸惑いを隠せない少女。

 対するナターシャは、平然とした顔で傷痕を見る。


「んー……? 傷の確認。じゃあ、ちょっと動かないでねー……」


 少女の左頬には強く痣が残っている。きっと盗賊に抵抗した際にぶたれたのだろう。でも、治せない怪我じゃない。

 ナターシャは手を離し、少女に高位回復魔法(ハイヒール)を掛ける事に決める。

 あぁちなみにこれ筋肉痛治す魔法ね。めっちゃ便利。


「“我が崇高なる神よ、その癒しの鼓動を分け与え、此度に起こりし傷痕を、その大いなる加護で目の前の信徒を癒し給え。その痛みを無くし給え”――“神癒息吹ハイヒール”」


 ナターシャの手から癒しの波動が放たれ、鎖の少女を温かく包み込む。

 すると傷がみるみると治っていき、数秒後には綺麗な頬になる。


「……な、なにを、したの……?」


「回復魔法。これでもう痛くないでしょ?」


「え、えぇ……」


 少女は頬を触り、痛みが無くなっている事に気付く。


「……ありが、とう。貴方の優しさに、感謝を……」


 感謝して微笑みながらも、どこか哀愁の漂う表情を浮かべる少女。


「どういたしまして。」


ナターシャは笑顔で対応し、少女の名前を聞く。


「……それで、お名前は?」


「…………言え、ないの。私は、奴隷になっ、てしまった、から」


 鎖をじゃらじゃらと鳴らしながら少女が腕を動かし、胸元を開く。

 少女の胸元には、赤い色の見た事のない紋章が刻まれていた。


「……これは、奴隷紋。刻まれた人間の、自由を剥奪、するの。人権、は勿論、意思と、記憶も……。この紋の、効果で、生まれた町や両親の顔、自分の、名前すら思い出せ……なくなる……うぅっ……!」


 痛むのか頭を抱え、呻る少女。


「大丈夫……?」


「……えぇ、奴隷、紋の制約で、会話に、支障が出て、いるの。少し、無理しす、ぎたみたい……」


 少女は後ろに寄りかかり、大きく深呼吸する。

 ナターシャはその姿を心配そうに見つめる事しか出来ない。


 どうしたら良いんだろう……。

 当然助けてあげようという思考が最優先で浮かぶ。というか最初からその思考しか無かった。

 ヒールかけてハイ終わり、なんて出来る程俺は冷酷無慈悲じゃない。

 考えが決まったら即行動だ。少女に鍵の在り処を聞いてみる。


「……その、貴方に掛かってる鎖の鍵を持ってる人って誰?」


 少女は無言で御者台に座る男を指差す。ナターシャもその指示に従って男の服の中を漁る。

 すると男の懐から黒い鉄製の鍵束が見つかった。多分これだろう。少し生暖かいのが腹立たしい。


 ナターシャは鍵を使い少女の鎖の鍵を開ける。


「……これで自由だね。じゃあ一緒に――」


 ナターシャは少女の手を掴み立ち上がらせようとする。

 ……しかし少女は座ったまま、悲しそうに首を振る。


「……私の、今の所有、者はその男……なの。だから、逃げら、れない。紋章の制、約で……縛られて、いるの……」


「そんな……でも、離れるくらいは出来るんじゃ……」


 少女は目を瞑り、無言で首を振る。

 そして少女はナターシャの手を優しく握り返し、礼をする。


「……ありがとう。貴方への、御恩は忘れ、ません」


 ナターシャは悔しさで空いている手を握り締め、その握り拳のまま、口元を隠して思考する。


 運悪く盗賊に捕まり、奴隷にされて、そのまま沈みゆく少女の所に偶々表れてしまった俺。

 それはつまり、運無き少女にとっての最後の命綱。弱きを助ける正義の味方。

 ここを逃せば誰も助けてくれず、きっと盗賊達の慰み者で終わって、最後は捨てられて死ぬ。


 ……折角出会えた縁なのだ。こんな所で見捨てるなんて嫌だ。

 それに、女の子にカッコ悪い所なんて見せたくない……!


 ナターシャは口元近くにある人差し指の側面を噛み、方法を探る。

 魔法創造で奴隷紋を消す魔法を創る……? でも、どういう単語を使えばいい。

 隷属? 従属? 服従の証? 只の消えよでは効果が弱い。消滅でも多分まだ足りない。

 末路? 幕切れ? おしまい? 赤城恵(ナターシャ)の脳内で必死に組み立てられていく魔法。

 そして1つ思いつく。


“隷属の証よ、その効力を失い、消却せよ”


 今の俺の脳みそで創り上げた魔法。とても拙い気がするが、試しに使う。


「……ごめん、ちょっと奴隷紋を見せてくれる?」


「……えぇ。どう、ぞ」


 少女が胸元を開き、紋章を見せる。まずはファーストチャレンジだ。


「“隷属の証よ、その効力を失い、消却せよ”!」


 ポウ、とナターシャの手と紋章が輝く。

 その様子に期待してしまう赤城恵(ナターシャ)。い、いけるか……!?


 しかしパンッ、という音と共に魔法が弾かれる。

 その少なくない反動でナターシャが飛ばされ、横転してしまう。


「ぐぅ……っ!?」


「……だ、大丈、夫……?」


 少女が心配そうに四つん這いで近づき、倒れたナターシャを気遣う。


「……だ、大丈夫。ありがとう」


 倒れた身体を起こしながら、近くに座り込む少女の手を握るナターシャ。

 やっぱり、まだ足りないか……! ナターシャは悔しそうに親指の爪を噛む。

 やっぱり魔法の効力が足りないんだろう。思いつきの魔法だけで切れる程簡単な魔法ではないのかもしれない。でも、何が足りない?


 隷属の証は間違ってないと思う。やっぱり効果を打ち消す部分の言霊が足りないんだろうか。

 効力を失いを別の言い方にする? どう言う? 奴隷だから鎖か? 鎖につながれし者?

 消えよの部分は? 消滅? 抹殺? それとも燼滅(じんめつ)? ……燼滅(じんめつ)は駄目だ、それでは紋章が焼き付いてしまう。

 色々と考えていく中で、再び1つの詠唱を創り出す。


「……“隷属の証よ、その全てを滅消し、鎖に束縛されし者の自由を今此処に!”」


 再び創り上げた魔法も弾かれ、反動で怯むナターシャ。


「ぐぅ……!」


 片目を瞑り、反動を耐える。


「……な、にを?」


「け、“隷属の証よ、紋章の持ちし効力よ! その全てを滅消し、鎖に束縛されし者の自由を今此処に返却せよ!”」


 少し文章を増やして詠唱した魔法も弾かれ、今度は胸に痛みが走る。


「うぅ……っ!」


 胸を押さえ、呻くナターシャ。


「……貴、方……」


最初は何をしているのか分からなかった少女も、次第にその意図を読み取り、もう止めて欲しいという意思を伝える。


「……もう、いい。十分、よ」


「……いや、まだ何かあるはず……何か……!」


 それでもナターシャは諦めない。必死に脳みそを回し、単語を捻り出して文章へと練り上げる。

 必死に考え、何度も魔法を試し、その度に失敗して反動を受ける。

 そんな姿を見ていられなくなった少女が最後の声を告げる。その言葉は、とてもつらい現実だった。


「……貴方の、凄さ、は分かった。でも、詠唱、ま、ほうだけじゃ、奴隷、紋は、解除、出来ない」


「でも……っ!」


 まだやれることはあるハズだ、と言いかけたナターシャの口に指を当てて止める少女。

 悲痛な目線を向ける相手に対し、ニッコリと笑って見せる。


「……いい、の。これは、私の運、命だと、思うから……」


 その顔は笑う体裁を整えてはいる物の、途方もない悲壮感で溢れていて、無力という罪をナターシャに突き付けてくる。

 お前に少女は救えない。お前の力では此処までが限界なのだ、と。


 しかし、それでも赤城恵ナターシャは。

 目を瞑り、深呼吸して覚悟を決める。

 そして、本当の自分で少女に答える。


「……確かに、俺には君を救えない。知識も無いし、平凡だからね」


 自身の無力さを悔いるような表情をして、いつもより低めのトーンで言葉を話す赤城恵ナターシャ

 先程までと違う口調に少女が少し驚くが、赤城恵は思うままに言葉を紡ぐ。


「……でも、もし、もしもだけどさ。神様と一緒に魔法を創れるとしたなら。……どんな不可能な事だって、可能になっちゃうと思わない?」


少女を見て、ニシシと不敵に笑う。


「……? 神、様……?」


 少女は不思議そうな顔で赤城恵を見つめる。隣に居る白銀の髪の少女の言っている事の意味が分かっていない様子だ。

 赤城恵は収納魔法を唱え、異空間からスマホを取り出す。


 ……さてさて。困った時は神様の使いに聞くに限るよね。

 さっそくスマホの電源を入れ、LINE(神)を起動。天使ちゃんと連絡を取る。


ナターシャ

[天使ちゃん居るー?]


天使ちゃん

[はいはーい天使ちゃんだよー♪]


ナターシャ

[奴隷紋の解除魔法一緒に考えて欲しいんだけどー。]


 赤城恵による相談(チート)行為が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ