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258 終戦後の日常

 邪気眼少女の極唱魔法エクスペルによって装置は完全に破壊され、戦争は終わった。


 グレオリオン元帥はユーシア団長によって捕縛され、奴隷商人のアルベールと共に国家反逆罪として奴隷刑に処された。

 国際法上はガーネット公爵家の本流貴族がスタッツ国の君主だからだ。


 次はエンシア北方のエルリックでの顛末。

 イクトルは逮捕後も全力で逃亡を図ったため、裁判を待たずに斬首刑に処されたらしい。

 罪状はエンシア宮廷議長――ヘレオス王太子の奴隷化。

 クレフォリアの母であるヘレンという女性が軟禁されたのも彼の仕業だった。

 彼の部下として動いていた諜報組織は二重スパイで、エンシア国家騎士団への情報提供をする代わりに一つの密約を結ぶと、エルフォンス教皇国の更に東――故郷の地へと帰っていった。

 何を約束したのかは分からない。


 処刑までの動きがスムーズだったのは、ヘカトリリスという奴隷商会の裏切者と【グランツ】というエンシアの宮廷魔導士組織が協力し合い、彼らの悪事を事細かに調査していたからだが――俺がその情報を知っているのは、魔眼:因果観測眼(ラプラス・アイ)に目覚めたからである。


 ……しかしまさか、エンシアでの誘拐未遂事件が『奴隷商が有力者を狙った悪事を働いているかもしれない』と騎士団に疑問を抱かせるためだったとは。

 被害にあった身からすれば、怖いから止めてくれと言いたい所だ。

 まったくもう。


 まぁ、どうでも良い説明や愚痴はこれくらいで。

 ここからは、それから数日後の話だ。



 ナターシャはフミノキース最北方の施設――スタッツ国軍本部の病院にて、ちょっとした話し合いをしていた。

 彼女の隣にはクレフォリアが居て、目の前にはクレフォリアの祖父――エンシア王国君主のアルフォンス・エンシア・エイルダム・ヴィスタンブルドが居た。

 サンタさんのように恰幅の良い国王様は、ナターシャに質問した。


「……して、君が二発目の極唱魔法エクスペルを撃ったのは本当なんじゃな?」

「はい」

「そうじゃったか」


 君が次代の魔王候補になる子じゃったか、と国王は感心していた。

 国王はそれだけが知りたかったようで、それ以上は何も聞いてこなかった。

 少しして、面会時間が来る。


 ナターシャとクレフォリアは病室へと真っ先に駆けこんで、窓の外を眺めていた緋色の髪の女の子――エリオリーナの元に向かった。

 ベッドに横になっていた彼女は、二人の友人を見ると柔らかな笑みを漏らした。


「……こんにちは」

「エリナちゃんこんにちは~~!」

「お元気そうで何よりですわ~~!」


 三人は仲良さそうに話し始める。

 隣の病床では、彼女の父親である赤髪短髪の男性――ガリオリウス魔導隊長と、エンシア国王が軽い雑談をし始めた。


「久しいのうガリウス」

「ええ、お久しぶりですユリウスⅢ世様。……正気で会うのは二十年ぶりですか」

「……それほど長かったか」

「はい。この度はご迷惑をお掛けしました」


 魔導隊長は深く頭を下げる。

 国王は手で制して、こう返答した。


「いや、お主は気に病むな。悪いのは旧元帥と奴隷商じゃ」

「そう言って頂けると心が休まります」

「うむ、しっかりと休息するのじゃ。これからのお主は、主権交代やらなんやらで忙しくなるからのう。はっはっは」

「ははは、なんとも手厳しい……」


 国王は楽しそうに笑ったが、魔導隊長は乾いた笑いを漏らした。

 表面上はまともに見えるスタッツ国だが、元帥と保守系左派による世論操作により、一般人と魔導士の間には厚い対立の壁・価値観の相違が出来ている。

 魔法の一切を使えず、理解しようともしなかった元帥は、数々の政策によって魔導士達から財と職業の自由を奪い、二度と這い上がれないよう徹底的に冷遇したのだ。

 魔導士――特に大賢者ウィスタリアに対する深い嫉妬が根底にあった、と聞く。

 それでも魔導士がこの国に残ってくれているのは、ひとえに大賢者が残した言葉のお陰だが、いつまで持つか分からない。


 他にも、無計画な運河建設によって、エンシア王国への入国方法が制限されてしまった。

 結果として出稼ぎ労働者への斡旋業・賃金の中抜きが横行してしまい、貧富の差は拡大。

 そして出稼ぎにも行けず、冒険者にもなれなかった貧民は、次第に街の南方へと追いやられてゆき、旧市街がスラム街と化してしまう始末。

 更に、重税から来る反乱によって、一部の地方都市が国からの独立を求めている、とも聞いた。


 彼はその全てを引き継ぎ、解消していかなければならないのだ。

 ため息の一つや二つが出て当然なのだが、公爵家の矜持として出さなかった。

 しかしそれでも願望は漏れてしまう。


「せめて、スタッツの東を治める魔導士家が来てくれれば――」

「我々を呼んだか?」

「――!」


 彼が横を向くと、青髪の青年魔導士が病室の入口に立っていた。

 青い布地に白いラインの入った軍服と、暖かそうな防寒マントという身なり。

 青髪の男性はエンシア国王に深く一礼すると、次は魔導隊長に向かって名乗った。


「スレイト・クェイトイン・ジークフリートだ。我が祖先、ウィスタリアの預言に従って馳せ参じた」

次話は明日か明後日です。

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