253 年末大将戦 転句②【スキルの詳細 - ウィロー最後の切り札】
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所持スキル一覧
剣術Lv10 身体能力Lv1
魔法適正LvEx 回避術Lv5
会話術LvEx 中二病LvEx
詳細鑑定Lv1(MP100)
異次元収納(MP1000):Legend
神の加護:Legend
魔法創造:Unique
熾天使の紋章:Unique
初代魔王の血筋LvEx:Legend
未来は我が手中に有り:Fate
過去は我が魂に在り:World
称号スキル
魔女の熟練操縦術(箒):Rare
装備ボーナス
終式封印
(INT+200,DEF+300,RES+200,蓄積強化
※蓄積強化完了※
終式封印開放で効果発揮)
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上から順に見ていくが、スキルは下記のような感じだった。
剣術Lv10・身体能力Lv1・魔法適正LvEx・回避術Lv5は説明不要の効果だった。
会話術LvExは口の上手さと嘘の見分け方を示すスキルで、中二病LvExは嘘を真実のように感じさせるスキル。
この二つを隠し持っていたお陰で、俺は他人に嘘を貫き通せた。
「何とも中二病だねぇ……」
詳細鑑定・異次元収納も見た目通りなのでカットするとして、神の加護は運気の上昇だ。
なんとステータスの上昇値・伸びしろにも作用するらしい。
「いや乱数の女神様じゃん……」
ギャンブラーに好かれるってそう言う意味かよ。
いやまぁ、俺も崇めてた時期はあったけども。ソシャゲのガチャとかで。
そして魔法創造。
俺という原石が神の手を離れた事で、ようやくユニーク化したようだ。
これで何の制限もなく魔法を創れる。
無詠唱や、文字そのものに意味を込める単語魔法でも思いのままだ。
「――まぁ、前世との縁を切る魔法は永劫封印される事が決まったけど」
前世の思い出は大事だからね。
これからも組織の長として頑張っていく。
……たまに正気に戻ってクッソ恥ずかしくなるのは諦めるさ。
そして――――
「――初代魔王の血筋LvEx」
コイツがあの“???の血筋Lv5”の正体だった。
再洗礼によって初代魔王の血が完全に覚醒したらしい。
つまり、パパンかママンのどちらかが魔王の系譜か。
ママンが本命だけど、最近は無能追放のパターンもあるからパパンも捨てがたい……
「……でもまぁ、うん、今は気にしなくてもいいや」
それよりも、次の二つのスキルの方が気になるんだ。
ナターシャはトントン、とステータスをタッチして、未来は我が手中に有りと過去は我が魂に在りの説明と効果の内訳を表示させた。
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未来は我が手中に有り
????:Passiveが、覚醒によって
真の姿を現した物の片割れ。
この閉塞世界を滅亡の淵から救った
真の証明であり、
どのような難敵で在っても情け容赦なく、
粒子や魂、残留思念の欠片すら残さず消滅させる
次代魔王固有のスキル。
魔王フェレルナーデの魔の手からは
絶対に逃れられない。
効果
因果律操作 世界法則強制 全次元干渉
無限大威力 空間操作 絶対破壊
虚数破壊 存在否定 魂魄消滅
光子分解 思念破壊 逃亡拒絶
直死 即死etc...
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「……――――」
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過去は我が魂に在り
????:Passiveが、覚醒によって
真の姿を現した物の片割れ。
全ての未練を解消し、新たな生を謳歌すると決めた
少女の心に存在する自尊心。
それは異世界において、
誰にも破れぬ最強の盾――心象世界となった。
ユリスタシア・ナターシャのみが持ちうる固有スキル。
効果
超威力攻撃・概念攻撃完全無効
状態異常・精神汚染完全無効
因果律操作無効 法則強制無効
次元干渉無効 即死無効 無敵etc...
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「――いやもう“ぼくがかんがえた最強無敵スキル”なんよ。あははは」
思わずそう呟いて笑った。
このスキル考えた奴馬鹿じゃねーの?
「はは……でもま正直、とってもいい気分だ」
俺が世界で一番強いっていう証明だからね。
これからはどんな奴でも実力で黙らせてやるさ。
最後は……
「この蓄積強化って何?」
何かを溜めて強化するってまでは分かるけど、その効果が分からん。
ナターシャは気になってタップした。
「――!」
なるほどなるほど、これは強い。
まさかこの包帯と眼帯にそういう意味があったとは。
だから終式封印なんだな。なるほど。
「――さて」
確認はこれくらいで十分だろう。
ナターシャは戦争に戻る事にした。
箒に軽く飛び乗って、憤怒の形相を浮かべる敵軍を睨みながら、静かに呟いた。
「“目覚めよ”」
その独白は魔法へと代わり、停止していた全ての時間が動き出す。
風が吹き、皆が動き始め、激しい喊声と猛進の音が世界に戻った。
ドドドドドド――――
『『ウオオオオオオオオオオオオオ――――――』』
「食イ破レ――――――ッ!!!!」
『食イ止メロ――――――ッッ!!!』
両軍共に武器を振り流し、振り上げ、激突するまであと三歩。
そこでナターシャは一つのスキルを使用した。
「――“未来は我が手中に有り”」
『オオオ――――』
その刹那、世界が一瞬だけ止まり、ナターシャだけが動いた。
包帯だらけの左手で前方を払う。
『――!? グァアアアアア――――――……ッッ!!!』
その一動作で少女の前方は薙ぎ払われて、敵主力は土砂と共に遥か上空まで吹き飛ばされた。
彼らは謎のダメージに耐え切れず、青い光になって消えていく。
その光景はまるで、次代魔王の真なる誕生を祝う打ち上げ花火のようだった。
「ハッ、他愛もない」
ナターシャは組織の長ムーブをしながら、箒にしがみついてスピードを上げ、またしても大穴が開いた敵軍中央を突っ切った。
◇
ここでウィローに視点が移る。
作戦、“常識破り”が発動した瞬間の場面からだ。
「ギギギ! 敵ゴーレム軍壊滅! このまま攻城開始トノ事――」
「おおおっ! ようやっと私の威光を示し――」
「――ギッ!?」
彼がそう喜んだ途端、戦場の映像がブレて消えた。
イビルアイのギョロっとした目に戻る。
「……えっ!?」
それに戸惑ったのか、彼は思わずイビルアイを両手で掴んだ。
更に掴まれた当人から最悪の知らせが入った。
「ギギギギ! 前線カラノ緊急速報! 緊急速報!」
「な、何が起こりましたッ!?」
「攻城ヲ仕掛ケタ途端ニ、敵ノ砦ガ大爆発ヲ起コシマシタ! 状況ハ不明デスガ、主力軍壊滅ノ可能性大!」
「ななななんですと――」
ド―――――――ン……
「――うぐぉッ!? 本当に爆発が……!?」
「何ガ……!?」
「爆音……!?」
ざわつく本陣、上空を吹き抜けていく爆風と衝撃波。
消失した前線からの情報。
「クソッ、一体何が……ッ!?」
ウィローにも何がどうなっているか皆目見当が付かなかったが、このままでは不味い、と本能的に分かった。
なので最後の切り札をここで切ると決めた。
「――チッ、おいそこのお前! 種子鷹の本体を出撃させて前線で暴れさせなさい! 今すぐにだッ!」
「エッ!? シ、シカシ、ソンナ事ヲスレバ……!」
近衛兵は何かを知っているようで、戸惑う様子を見せる。
そんな彼に対して、ウィローは蔑んだ目をしながらこう言った。
「――おや? 君は近衛兵なのに、私の言う事を聞けないと言うのですか?」
「ヒィ……ッ!? ハ、ハイィッ! オオセノママニ――……!」
粛清を恐れた近衛兵は、任務を完了するべく本陣の外に走っていった。
「それで良いのです、全く……ッ!」
彼は指揮棒をババンッ、と椅子の手すりに叩きつけた。
そして彼は、連絡が来るまでの間にイビルアイを分身させ、前線を偵察するように差し向けた。
それから十秒後、準備が整ったとの連絡が入った。
彼は早速、指揮棒で主戦場方面を指し示した。
「――さあ征け! 我が最強の切り札“プレデタープラント・ドラゴン”よ!」
そう言い放った彼の頭上を、今度は赤い竜影が飛び去っていく。
巨大な翼を羽ばたかせるドラゴンの肉体は、歪な植物で出来ていた。
「さあ刮目しろ籠城軍……! そして私の才にひれ伏せローワン……! 貴様たちが幾ら足掻こうとも、王種を越えた竜種には敵うまい……ッ! ふははは……ッ!」
ウィローは袖で口元を隠しながら後に訪れる戦略的勝利に、そして自身の才能に酔いしれた。
(迂回部隊がハビリス村に到達するまで、あと二分だ……ふふ、それまで耐えれば私の勝ちです……)
◇
『抜けた! 魔王候補が抜けたぞ――――!』
ナターシャが中央に風穴を開けた事で、“常識破り”の第二段階が開始された。
『副官ハルヤと、リズール司令官指揮下の者はここに残り、敵主力を殲滅せよ――! シバ王太子の先遣隊は魔王候補に続け――――!』
『ウオオオオオオオオオ――――ッッ!!!』
ナターシャの後続にはシバ王太子率いる先遣隊――斬鬼丸とクーゲルを含む約百名が続く。
そして残りの混成軍――シュトルムとリズールを含む約千九百名は残留したのち、敵軍の包囲殲滅を狙う。
殲滅の後は、敵の本陣を急襲する第二波となる算段だ。
いわゆるテスタ村での意趣返しという奴である。
「オークヨ! 敵ヲ喰ライ尽クセ――――!」
「ハビリス族よ! 自らの使命を果たせ――――!」
「「「ウオオオ――――ッッ!」」」
ナターシャの一撃によって士気が爆上がりした混成突撃軍は、自らの土地を自らで守るべく、今までの鬱憤を晴らすべく、喜び勇んで敵軍に追撃を仕掛けた。
『ク、クソォッ……!』
『ヒ、ヒルムナ! 所詮ハ未訓練ノ兵ダ! 敵ヲ迎エ撃テ――――!』
『オオオ――――ッッ!!!』
ウィロー主力のオーク兵たちも負けじと雄叫びを上げた。
彼らは総数を四千、次は二千、最後に千人にまで減らしたにも関わらず、それでも徹底抗戦の意志を示したのだ。狂気の沙汰である。
「喰らえ――ッ!」
「小人族ガ! 死ねッ――――」
しかし残念な事に、作戦が発動した時点で勝負は付いているのだ。
ガキンッ!
「――何ッ!?」
「へっ、効かねぇなぁ――ッ!」
「グオオ……ッ!?」
そう、リズールの防御結界によって。
敵オークの攻撃は見えない結界に阻まれて、ハビリス族の男性を傷つける事が出来なかった。
更に――――
「巻き起これ疾風、天に轟け暴風よ――――我が真名――――“蒼穹の嵐”の真の力を今此処に示す――――!」
武器の双剣“双対喰刃”に緑の風を纏わせたシュトルムが、長い詠唱(特に意味はない)を終えて真の力を発揮した。
「喰らい尽くせ双対喰刃ッ! この戦場の全てをォォ――――ッ!!!」
『ウワアアアアアアアア――――――ッッ!?』
彼女が回転しながら武器を振り回すと、左右に蒼色の大竜巻が発生した。
その一対の竜巻は味方には効果が及ばないようで、戦場を移動しながら敵兵だけを巻き上げると、次はお互いに引かれあい、近付き始めた。
「いっけええええ――――――ッッ!!!」
『――アアアアアア――――――……』
そして遂に、竜巻は戦場の中央で合体して巨大竜巻になった。
回転は勢いを増して、青い光がドンドン生まれていく。
「これで終わりだッ! ――――最終奥義・蒼嵐怒涛ッ!」」
『グアアアアア――――――――……ッ!』
最後は、天高く飛び上がった彼女の斬撃によって竜巻は消し飛ばされ、集められた敵兵は猛烈な勢いで地面に叩きつけられた。
この一撃によって、敵主力の数は半数以下となった上に、強制的に戦場の中央に集められ、千九百もの混成軍に容易く包囲殲滅される運びとなった。
それもこれも、練度の高い敵を攪乱しつづけ、指揮系統を完全に混乱させるための作戦だった。
「今だかかれ――――!」
『ウオオオオオオ――――――ッッ!』
『ウワッ、ウワアアアアア――――――……ッ!?』
その目論見は上手くいったようで、敵は完全に意気消沈した。
後は少しづつ押し潰していくだけである。
『――ォォ――――……』
「――ン?」
しかしだ、賢い敵はそういう場合の対応策も用意しているのだ。
ここに至ってようやく、最初にリズールが伝えた未確認の援軍百体の集合体――種子鷹の母体、“プレデタープラントドラゴン”が姿を見せた。
『ギャオオオォ――――ン……――』
「「「――!?」」」
全長は約五十メートル。
茶色の蔓をむりやり編み込んで作られたようなドラゴンの顔と、胸部の赤く巨大な実を包み込むような赤い茨で出来たトカゲ系統の体躯に、合計で四対ある根っこの塊のような前脚と後ろ脚。
表皮の代わりなのか、全身は尖った赤鱗棘と赤硬葉で覆われていて、背中から生えた二対の巨大緑葉翼はゆっくりと羽ばたいていた。
そして、顔部分にある双眸には、目玉の代わりに白い光球が入っていた。
『――オォォ――――ン……』
「ナンダ、アレハ……!?」
「ドラゴン……!? でも植物……!?」
あれこそウィローの最高傑作、竜種・暴侵食茨樹だ。
ドラゴンは主戦場の遥か上空を旋回し始め、その虚ろな双眸で地面に這いずる蟲のように小さな人影を見下げると、大きな咆哮を上げた。
『ギャオオオォ――――――――ンッ!!!』
「ヒィッ!?」
「何をするつもりなんだ!?」
混成軍が身構えると同時に、天空に居る大空母からの無差別攻撃が始まる。
空母の胸中に存在する赤い実――生産プラントが八つに裂け、内部から多量の種子鷹が湧き出して、地上に向かって急降下をし始めたのだ。
『『『ピィィ――――――ッ!』』』
「「「ひぃぃっ!?」」」
『ソンナ、ウィロー様……!』
『ア、アァァ……コノ世ノ終ワリダ……』
総数にして五百体、いや一千は居るかもしれない。
シードホーク達が地面に落ちながら鳴く声は、さながら悪魔のサイレンのようで、地上に居る混成軍、更には敵主力の残存兵までもを恐怖させた。
「……ウィローという御仁はとんでもない魔物を創り上げたのでありますなぁ」
「ああ、悪魔に魂を売っただけはある」
だが、シバ王太子率いる先遣隊――その中に居る斬鬼丸とクーゲルは、敵機が急降下する様子を眺めながらそう会話していた。
何故彼らはここまで平静を保っていられるのか。
それは先頭の少女が真の魔王候補だからと知っているからだった。
『――“小型魔物如きが囀るな”』
地上にその一声が響くと同時に、上空から迫っていたシードホーク一千体は右から順に爆発して、瞬く間に全滅した。
爆発の赤い光が地上を照らし、風と熱が僅かに吹き荒れる。
「全くもって度し難い……まさかこの異世界で空中空母を創り上げるとは……」
森に侵入する手前で停止したナターシャが、スキルで敵を屠ったのだ。
彼女は強い怒りの表情で、優雅に空を飛ぶ赤い茨竜を睨んでいた。
すると焦った表情のリズールが近付いてきた。
『――我が盟主、少し宜しいですか?』
「どうした?」
『あのドラゴンもどきに対抗するために、暗黒の月曜日最高幹部の内、あともう一人をこの場に残して頂きたい所存です。どうか、良き人材をこちらに』
「そうか……」
そうお願いされたので、ナターシャはこう言った。
「ならば私が残ろう。――シバ先遣隊。お前達はここで少し待て」
「ワ、分カッタ」
「む、ナターシャ殿。それで間に合うでありますか?」
「大丈夫だ間に合う。それに――――」
ナターシャは先遣隊の最後尾に移動すると、背後を見ながら静かに答えた。
「――別に瞬殺してしまっても構わんのだろう?」
そう話す少女の背中は、とても自信に満ち溢れていた。
まだ遅れる!!!くそう!!!
次話は12月25日。午後10時~11時です。
24時制で22時~23時。




