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249 年末大将戦 承句① 【いつも月夜に米の飯 - 旧道での攻防戦】

 で、色々あったけど参謀本部に到着した。

 ナターシャは魔王候補らしく、後ろに仲間を侍らせながら、バァン、と勢いよく木扉を開いて中に入った。


「帰還したぞ――――!」

「「「うぉオオ――――ッ!?」」」


 当然ながら、会議場の参謀たちは驚いた。

 何故なら夜食を食べている最中だったのだから。

 食べ終えていたのはローワンくらいである。


「……ん?」


 そこでふと、彼らが手に持っている食べ物が気になった。


「――おい、そこのお前!」

「ハ、ハイッ!」

「その手に持っている食べ物は何だ!?」

「握リ飯デス! 夜食ノ!」

「何!?」


 米!? 米だと!?

 この異世界で握り飯が食えるだと!?


「それを私にも喰わせろーっ! 私は美味しそうな物には目が無いんだ――!」

「タ、沢山アルノデ、ゴ自由ニ――……!」

「――ハハ、相変わらず元気なお方だ」


 部屋の最奥に座っているローワンは、ナターシャの可愛い暴虐さを笑った。

 そして近くの参謀に指示を出し、自分の近くに彼女の席を用意させると、こう言った。


「――ではナターシャ様、こちらにお越し下さい。僭越ながらこのローワンが、食事ついでに戦況を教えましょう」

「良いだろう! ……お前達も我に続け! 彼から戦況を聞くと良い!」

「「「了解」」」

「行くぞッ!」


 ずんずんと進むナターシャの後ろには、斬鬼丸・シュトルム・ツリー・アイスが続いた。

 そして、銀髪の魔王候補が席に座ると、


「よし、それでローワン。こちらの戦況は――」

「夜食デス、ドウゾ」

「――どう……うはっ、はぁあぁぁぁあぁ~~~~……っ!」


 おにぎりを山のように積んだ皿が目の前に置かれて、一瞬で彼女を魅了した。


「お手拭きもお使い下さい」

「うん!」


 ただの八歳女児に戻ったナターシャは、早速おにぎりを一掴みしてパクつき、『ご飯美味しい!』という感情を全身で表現し始める中、ローワンはハビリス村籠城戦の戦況を語る。



「――戦況報告は以上ですな。簡潔に言いますと、北方はハビリス族の奮闘により善戦していて、南方は先ほど、二百名のオークを増援に出した所です。ナターシャ様の方は如何でしたかな?」

「ご飯美味しい!」

「ほう、それはそれは良い情報ですな。オークの味覚と人間の味覚が合っているという事ですから。今後の交易に期待が持てそうです。ハハハ」


 おにぎりを美味しそうに食べているナターシャを見て、ローワンは裏工作の成功を確信した。

 リズールから『我が盟主マイロードが変に無邪気な時は、作戦が成功した場合だけですので、まともな返答が返ってこなくても熟考せずに安心して下さい』と事前に言われていたので、そう思った次第だ。


「――して、旧道での接敵はいつ頃でありますか?」

「そうですな……」


 そして斬鬼丸が、主の代わりに会話を繋げてくれた。

 ローワンは少し考えて、『もう接敵して、戦っている頃だろう』と答えた。


「では、増援は必要で?」

「それはもちろん。一騎当千の活躍をして頂けると嬉しい限りです」

「――との事であります、ナターシャ殿。どうされますかな?」

「ほむ……」


 ナターシャはおにぎりを食べながらこう指示を出した。


「ひゃはひゅりーふぉふぁいふはひゅふへひ」

「何ですと?」

「んっん……」


 戸惑うローワン。ナターシャは飲み込んでから再度言った。


「ツリーとアイスは出撃だ。それで構わないか?」

「私は戦えるならどこでも良いのだわ」

「拙もツリーと一緒なら」

「よし向かえ。敵軍の度肝を抜いてやれ……はむっ」

「「ラジャー!」」


 ツリーとアイスは急いで南方へと向かった。

 ついでにカメラとマイクに指で指示を出して、二人を追尾させた。

 その時の二人は、部屋を出る前に一人の参謀に止められて、何かを手渡されていた。


「何これ? バッチ?」

「参謀本部直属である事を証明する物です。お二人様は新顔のようですので、会話を円滑にすすめるためにお使い下さい」

「そう、分かったわ」

「感謝でござる」


 二人は証を貰って、そそくさと会議室から出て行った。


「――素早い判断に感謝致します。では、お三方はどうされるおつもりで?」

「わふゃふぃはひはほほふぇふぁはあふ」

「な、何と?」

「……ジークリンデは“私たちはここで戦う”と言った。減った戦力の穴埋めをするつもりだ」

「なるほど、それは有難い申し出ですな。是非お願いしたい」


 ローワンは軽く頭を下げた。

 ナターシャは二個目となるおにぎりを口に収納して、指示を出した。


「ふぁんひはふ、ふゅふるむ、ひぁひにひっへ」

「何と?」

「御意」

「分かった」

「え?」


 主の指示を受けて、斬鬼丸とシュトルムは会議室を出た。

 残されたナターシャはお手拭きで手を拭くと、目の前のローワンに尋ねた。


「……あの、もしかしてお味噌汁とかってあります?」

「え? ……あっ、ええ、もちろんありますとも。――おい、誰か彼女にスープを!」

「ハイ、オ待チ下サイ!」


 参謀の一人が、部屋の隅に置かれた鍋とコップ置き場に移動し、コップに温かい味噌汁を注いだ。

 鍋はナターシャのコタツ魔法の熱源を利用して、常時保温されている。


「ドウゾ、火傷に気ヲ付ケテ下サイ」

「ありがとう」


 彼らがナターシャのために動くのは、リズール・アージェントという有能な指揮官の主人だからというのもあるが、八歳児の我儘程度で怒るような性格ではない、という優しさの表れでもあった。

 少女は受け取ったコップを両手で包みながら、ネギ入りの味噌汁をズズズ、と啜る。


「はぁ……この素朴な風味が良い……」


 八年越しの和食で、つい郷愁の念(ノスタルジー)を感じた元日本人の転生者は、幸せそうにほろりと涙を流すと同時に、彼ら旧宰相派――引いてはオーク国とテスタ地方を、個人的な信条に基づいて未来永劫保護すると決めた。



 そして南西の旧道――とは名ばかりで、樹木の根に浸食され始めている半壊状態の山道にて。

 僅かに差し込む月光と、大多数を占める闇の中、南方工作部隊と部隊長のトコが、狩人と協議しながら敵を待っていた。


「狩人。初撃ハ、イツ仕掛ケルベキダ?」

「そうだな……一つ目の罠は敵軍の中央で起動する。その後、相手が混乱している内に、弓の一斉射で先頭に奇襲を仕掛けろ。次の作戦は後で伝える」

「分カッタ」


 狩人は対話こそ苦手だが、こういう戦術的な会話は得意だった。

 親から劣勢で戦う事前提の戦い方を教え込まれていたので、彼の判断はとても的確だった。


「……会議中ニ失礼シマス」


 そこで偵察に出ていた一人の薄い褐色肌のハーフエルフ――は言いにくいので、略してダークエルフが帰ってきた。この作戦のために一昼夜かけて洞窟に引き籠り、肌を焼いたらしい。


「――トコ部隊長、敵傭兵部隊ノ本陣ヲ発見シマシタ。旧街道ヲ進ンダ先ニアル、小サナ湖畔ニ陣ヲ構エテイマス」


 彼女達がトコに敬意を払うのは、彼女が由緒ある血統――オーク王家の血筋だからであるのと、自分達と同じハーフエルフだからだ。

 更に、彼女の悲しいほどに不遇な境遇と、それでも心折れずに生きてきた精神力も相まって、彼女への共感が強かった。そんな彼女達の優しさが、トコの心を部隊長たらしめていた。


「良クヤッタ。敵本陣ノ残留戦力ハ?」

「ゼロデス。全員デ旧道ノ攻略ニ乗リ出シテイテ、総数ハ丁度二千デス」

「現在地ハドコダ?」

「全行程カラ見テ、一割ホドノ位置デス」

「分カッタ、引キ続イテ偵察ヲ頼ムゾ」

「ハイ、失礼シマス」


 偵察班の彼女は急いで任務に戻った。

 因みに、この地域は初見であるはずの彼女達が暗い森の中を迷わず進めるのは、“木霊の道導べ”という目的地の位置を知らせる呪詛を利用しているのと、狩人による徹底的な指導の賜物だ。


「――ダ、ソウダ。狩人、敵ガココニ来るマデ何分ダ?」

「敵がどれだけ道筋を覚えているかによるが、早くて三分、遅くても五分ほどだろう」

「モウ少シカ……皆、射撃ノ準備ハ怠ルナ」

「「「ハイ!」」」


 トコの指示を受けた南方工作部隊は、背の矢筒から矢を抜き、弓に番えて待機し始めた。


『――ココヲ登レ』

『足元ニ気ヲ付ケロ――』


「!」

「……さて、そろそろか」


 狩人がそう呟くと同時に、足元にある旧道の奥で、松明の炎が揺れ動いた。

 しゃがれた男性オークたちの声と、ザリザリ、ザッザッ、と地面を踏みしめる音が、静寂な森に鳴り始めた。工作部隊にも緊張が走る。


「――全員、その場で伏せろ。許可が出るまで喋るな」

「分カッタ。全軍シャガメ」


 部隊長のトコは全員に伏せの指示を出し、仕掛け時を待った。

 オーク傭兵部隊は、奇襲や罠がある可能性を露ほども考えずに、順調に旧道を進み続ける。

 全員が腰に片手斧、手には松明と盾を装備していて、道が狭い影響か、細長い隊列だ。


『……ン?』


 途中、彼らは不思議な物を見つけた。

 何やら文字が書き込まれた石碑で、統一言語で『この先、忌み地。進むべからず』と書かれていた。

 彼らは鼻で笑った。


『ハッ、ナンダコリャ?』

『アレダ、オークニヤラレタ、人間ノ遺言ダロウサ』

『ハハハハ』


 彼らは無学ゆえに石碑の意味を理解出来ず、その場を通り過ぎた。

 それから数分後、敵部隊の中腹が石碑辺りに差し掛かった時、狩人が指を鳴らす。


『?』

『誰カ指ヲ鳴ラシタカ?』


 人工的な音に、ふと進軍が止まる。

 トコは途端に身体を起こして、ローワンから渡されていた、しわがれて節くれた化け物の指のような形状のトラップ起動装置――ナナカマドの呪詛杖で敵を指し示した。


『ナッ!?』

『地面ガ、揺レテ――――』


 その瞬間、彼らの足元に封じられていた魔法――“呪詛・串刺し地獄”が発動した。

 溢れた紫のモヤが敵軍中腹の地面から漏れだすと、


 ズドドドドド――――――

『ギャアアアア―――――……!?』


 突如生えた鋭利な木の槍が、敵傭兵の身体を足元から貫いた。

 致命傷を受けた二十名ほどのオークが、青い光になって消えていく。

 それと同時に罠も自壊した。槍がボロボロと土に帰っていく。


『ナ、ナニガ、何ガ起コ――――』


『ギャッ!』

『グエッ!?』


『――何ッ!?』


 難を逃れた傭兵長らしきオークが困惑していると、先頭からの悲鳴が響く。

 闇夜のせいで目視出来ない矢が、自軍を襲い始めたのだ。


『ク、ク……ッ!』


 不味い、このままでは不味い……!

 傭兵長は恐怖で真っ白になりそうな頭を何とか動かして、大声で叫んだ。


『敵ノ奇襲ダ――――! 盾ヲ構エロ――――!』

『ウオォオオオオ――――……!』


 傭兵団はこれ以上の被害を防ぐべく、全軍に盾を構えさせた。

 彼らの盾は粗末にも良い性能とは言えなかったが、敵の矢を防ぐには十分だった。

 傭兵長は松明を掲げて前方を注視し、即座に進軍を決めた。


『前ニ進メ――! 敵ノ矢ガ当タラナイ前方ノ崖マデ、突キ進ムンダ――!』

『オオオ――――!』


 どこに進めばいいか分かってからの傭兵部隊の動きは早かった。

 我先にと駆け出して、崖下へと集まる。


「やれ」

「分カッタ」


 しかし、その崖にも当然ながら罠が設置されていた。

 槍付きの柱が横から迫り出してきて、傭兵たちを再び串刺しにしたのだ。


『ギャアアア――――……!!!』

『ウォォ……!?』


 傭兵長は間一髪で避けられたが、彼の仲間がまたしても犠牲になった。

 いくつかの松明が消えて、その代わりのように青い光が夜の森を照らす。


『クソッ、仲間ガ……!』

『傭兵長、ドウシマスカ!?』

『クゥ……』


 しかし、彼らにも引くわけにはいかない理由がある。


『此処デ引ケバ命ハ助カルダロウ。ダガ、里ノ永住権ヲ手に入レルニハ、コノ旧道ヲ攻略スルシカ無イ……!』

『デハ……!?』

『アァ、進軍ダ……! オ前達、覚悟ヲ決メロ……!』

『ハイ!』


 傭兵長は不退転の覚悟を示し、全軍にもそれに沿った指示を出した。


『全軍、ココカラハ走レ! 速サデ敵ノ罠ヲ掻イ潜ルゾ――!』

『オオ――――ッ!』


「狩人。ココノ罠ハモウ無イゾ」

「分かった。次の迎撃地点に移動する」


 真夜中の旧道にて、敵傭兵部隊と工作部隊の攻防戦が始まった。

 傭兵部隊は何故か覚悟が決まっていて、罠や奇襲を受けて総数を減らしつつも、次第に旧道の奥地へと侵入していった。



 それから数刻後、最終防衛ラインに移動していた工作部隊の前に、二人の美少女が現れた。


「こんばんはなのだわ」

「緊急事態に失礼でござる」

「「「――!?」」」


 第六使徒、樹槌のツリーと、第七使徒・氷刀のアイスだった。


「誰ダ、オ前達……!」


 部隊長のトコは、出来るだけ声を抑えて威圧した。

 二人は身振り手振りで敵ではないと示し、北方からの援軍だと伝えた。

 トコの隣の狩人は、少し訝しみながら聞いた。


「その証拠は?」

「はい、参謀本部から貰ったバッチよ」

「でござる」


 ツリーとアイスが証を見せた事で、全員安堵した。

 快く仲間に迎え入れられる。

 そこでツリーからの援軍情報が寄せられた。


「えっと、私達の遥か後方――蛇の細道っていう場所に援軍二百人が待機しているのだけど、どうするつもり?」

「彼らが必要ならば、拙が呼びに行きましょう」

「ソウカ……」


 トコは狩人を見た。

 彼が首を左右に振ったので、こう答えた。


「生憎ト、コノ山中ヲ大多数デ行動スルノハ難シイ」

「なるほど。それで?」

「最終防衛地点デ、陣ヲ張ルヨウニ言ッテキテクレ」

「分かったわ。アイス、行ってきて」

「お任せを――ニニンが忍法、“瞬間移動の術”!」

「「「――!?」」」


 アイスはシュン、と姿を消した。

 またしても驚かされたが、彼女達がクーゲルやヒールと同じ十傑作というゴーレムだと分かると、ほどほどに納得を示した。そういう物なのだと。

 その一分後に戻ってきたアイスが、援軍も了承した事を告げた。

 彼らは最終防衛ラインの突破を防ぐべく、先んじて簡易陣地を構築するようだ。

 わずか二十人では、何故か修羅と化した敵傭兵部隊を押し留めるには心許なかったのでありがたい。


「それで、どこに行くのよ?」

「今は最後の迎撃地点に移動中だ。ついて来い」

「分かったのだわ」

「合点承知」


 南方工作部隊は、ツリーとアイスを加えて決戦の地へと移動した。



 敵傭兵部隊は、その総数を半分以下――約九百人ほどまでに減らしつつも、ついに最終関門である蛇の細道、その入口前へと辿り着いた。元は貨物の集積場だったからか、ちょっとした広場になっている。彼らは木陰や、山の斜面に隠れて様子を伺った。


「ハァ、ハァ……」


 傭兵長が見つめる先には、煌々と周囲を照らす松明と、盾と槍を装備したオークたちが待ち構えていた。背後には今まで自分達を苦しめてきた当人であろう、ダークエルフの弓兵たちも構えている。

 防御柵もあるので、あそこが最後の砦に違いない。


「ハ、ハハ……モウ少シダ……!」


 あそこを突破して敵の懐の中に入れば、永住権が手に入る……!

 ウィローとその部下のように、毎日好きなだけ飯を食って美味い酒を飲めるんだ……!

 ゴールが見えてきた傭兵部隊は、皆一様にそんなことを考えていた。


「ハハ、ハハハ……!」

「ヘヘ……!」


 彼らが永住権を欲しがるのはそれだけが理由だが、大食漢のオークにとっては魅力的過ぎる条件だった。

 一番手前に居る傭兵長はバッ、と後ろを振り向いて、仲間を鼓舞した。


「サァ、コレガ最後ノ戦イダ! ヤツラヲ蹴散ラシ、敵ノ本丸ニ入ッテ存分ニ暴レルゾ――!」

「「「オォ――!」」」

「行クゾ――――!」

「ウオオ――――!」


『敵ガ来タゾ――――!』


 彼らが意気揚々と広場に躍り出た時には、先ほどまで居なかった、浅緑の髪をした少女が腕を組んで待ち構えていた。


「あっ! やっと来たのだわ!」


 樹槌のツリーだ。

 とても嬉しそうだった。


「人間!?」

「構ウナ! 押シ潰セ――――!」


 数十人の傭兵オークが、ツリーに向かって突貫する。

 彼女は待っていましたとばかりに左腕を横に伸ばして、自身の武器を召喚した。


「――“召喚指令(オーダー)生命誕樹槌(セフィロトガベル)”!」


 すると、伸ばした手の先に闇夜をほんのりと照らす、緑の茨が全体に絡み合った儀礼大槌が現れた。

 

「ナッ、デカ――――!?」

「そぉ~~……れっ!」

「「「ギャアア――――……!?」」」


 ツリーは大槌をグッと後ろに振りかぶると、容赦なく前方を薙いだ。

 突貫を仕掛けた傭兵たちは纏めて後方に吹っ飛ばされて、後続の味方に受け止められた。


「ダ、大丈夫カ!?」

「ダイジョ……ヒグッ――ウグ――!?」

「ガ――アァ――!?」

「エ……!?」


 無傷に見えた彼らだったが、突然、頭部や身体の一部がぼこぼこと盛り上がり始め、

 

「――ピデブッ!」

「何――グァベシッ!?」

「タワバッ――」


「ヒィィ――――ッ!?」


 奇形の容姿と化した瞬間、身体が膨張に耐え切れなくなり、仲間の傍で爆発四散した。

 その後、飛び散った肉片が青い光になって消滅していく。


「エ、ナ、何……」

「ナ、仲間ガ、目の前デ……」


 勢いを潰された上に、深刻なトラウマを追った傭兵オークはようやく我に帰って、怯えた表情で前を見る。

 その犯人であるハンマー使いの少女は、考えるポーズを取っていた。


「ふーんなるほど、フルパワーはこんな感じなのね? じゃあ、次は……」


「ヒッ、ヒギャァァ――――……ッ!」

「ウワァアアア――――……!」

「オ、オマエ達……!」


 ツリーが前を見た途端に、最前線の傭兵達は逃げ出した。

 ウィローの主力部隊なら迷わず突っ切っていただろうが、彼らはそもそも金で雇われただけで、里や宰相への忠誠心は無い。どれだけ覚悟を決めようとも死ぬのは怖いのだ。


「ク……クゥッ! 全軍撤退セヨ――――!」

『ギャアアア――――――……!』


 傭兵長も流石に一人で立ち向かう気にはなれず、全軍に撤退の指示を出した。

 広場に躍り出た傭兵達は、一目散に旧道を下っていく。


「……帰ッテイッタナ」

「アァ、アノ人間ガ味方デ良カッタ」


 南方部隊はビビりながらも安堵したが、ツリーは少々納得がいかない。

 背後のアイスにこう指示した。


「むぅ、物足りない。ちょっとアイス。あの傭兵長にマーキングしてきなさいよ。じゃないと追撃しながら暴れるのだわ」

「うむむ、それは困った。では、今回ばかりはツリーの指示に従うとしましょう! 行って来るでこざる――――!」

「「「!?」」」


 アイスは颯爽と飛び出して、仲間の撤退を指揮する傭兵長の元へ駆け寄る。

 彼も当然気が付いて、斧を構えた。


「貴様、何者――」

「通りすがりの忍者で候! ――“召喚指令(オーダー)・妖刀雪月花”!」


 彼女は白い冷気を放つ、薄氷のように薄い蒼鋼の刀を出すと、敵に向かって霞の構えを取った。


「理由は無いがお主の命、もらい受けるッ! いざ尋常に――――勝負!」

「――クゥッ!」


 アイスは前方に飛び、上段から斬り込んだ。

 傭兵長は間一髪で避けると、反撃の横薙ぎを繰り出した。


「ハッ!」

「甘いでござる!」


 当然のように空中で飛んで避けたアイスは、


「――“氷遁・氷柱針つららばり”!」

「グウウッ……!」


 ビシュシュシュッ、と細長い氷の針を連射して、空中から傭兵長の頭を狙った。

 傭兵長は即座に斧を盾代わりにしたが、それこそがアイスの狙いだった。


「……隙有り! “瞬転身”!」

「ナ、嘘ダロウッ!?」


 アイスは針の一つと自身の位置を入れ替え、一瞬で傭兵長の背後に移動すると、彼の背中に手を当てて、特殊なスキルを使用した。


「――“秘術・八咫烏(やたがらす)の刻印”!」

「グアァァ……ッ!?」


 彼の背中に燃えるような痛みが走る。しかし動けない程では無い。


「クソッ、ヤメロォ――ッ!」

「おぉっと!」


 背後に向かって振るわれた斧をササっと避けたアイスは、再度距離を取って彼と対峙した。


「さて、仕切り直しでござ――――」

『傭兵長――――!』

「――なんと新手!?」


 その時、最後続に居たせいか状況を知らず、未だに勇猛果敢なままの傭兵オーク達が戦闘に加勢してきた。


「傭兵長! 大丈夫デスカ!?」

「ア、アァ……! 怪我ハナイ……!」

「オノレ人間メ!」

「覚悟シロ!」


「およよよ……」

 

 十数人ほどのオークが、傭兵長を守るように、怒りの形相で武器を構える。

 だが、アイスの仕事は既に終わっていた。


「ふむ、これは不利でござるな……! では、あいや失礼! 忍法“瞬間移動の術”――!」

「「「ナッ!?」」」


 菫髪の暗殺者はドロンと姿を消して、忽然と居なくなった。


『さらばでござる――!』


 森の中には、彼女の声が響いていた。


「クソッ、逃ゲラレタ!」

「何者ダッタンダ……!?」

「イヤ、ソレハイイ! オ前達、撤退スルゾ!」

「「「ハイ!」」」


 傭兵長は仲間と共に撤退し、旧街道を通った先にある本陣を目指した。

 木陰からツリーの元に戻ってきたアイスは、ふぅやれやれ、と言いながらこう話した。


「任務完了。これでいつでも、彼の元に瞬間移動出来るでござるよ」

「良くやったわねアイス。じゃ、行くわよ」

「合点承知!」


「オ、オイ、二人共」

「「?」」


 するとトコが、傭兵たちを追跡すべく、この場を離れようとする二人に尋ねた。


「コレカラ何ヲスルツモリダ?」

「ふふん、そりゃあもちろん……――」


 彼女は髪をサッ、と払うと、


「――私の武器で、傭兵部隊を完全殲滅するつもりなのだわっ!」


 キメ顔でそう言った。

 その答えを聞いたトコは、部隊長としてこう言った。


「ナラ、私ト狩人ヲ連レテ行ケ。目視スル人材ガ必要ダロウ?」

「あら、それもそうだわ……でも……」


 彼女は今すぐにでも転移をしたいようで、戸惑う素振りを見せる。

 そこにアイスがフォローを入れた。


「いやツリー、敵が完全に撤退するまでは時間がかかるでござる。それまでは徒歩で良いと思うでござるよ?」

「あら、それもそうね。じゃあ部隊長さん、貴女の提案を受諾するのだわっ!」

「アリガトウ。デハ狩人、旧街道マデノ道案内ヲ頼ムゾ」

「……はぁ、分かった。案内しよう」


 狩人とトコは、ツリーとアイスの追撃を見届ける事になった。


「オ前達ハ、私達ガ戻ルマデ、コノ場デノ防衛ヲ続テクレ!」

「「「ハイ!」」」


 トコは工作部隊と増援達に、蛇の細道での待機・防衛を命じると、先を進む狩人・ツリー・アイスについていく。

サプライズニンジャー!

次話は12月13日。午後8時~9時です。

24時制で20時~21時。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱりナターシャさんよりリズールさんこそ最高指揮官じゃんw 怪獣の番組は日曜朝ですねw 忍法、中々格好いいかも!
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