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248 年末大将戦 起句③ 【ローワンが語る防衛策 - ナターシャ、最後の休息】

 ローワンが語ったのは、オークドルイドである彼だからこその防衛策だった。

 なんでも、旧道の要所要所には、彼謹製の呪詛を活用した罠が仕掛けられているようで、更にそこには南方の部隊長に任命されたトコと、彼女と同じ褐色肌の女性ハーフエルフ約二十名の部隊――南方工作小隊が待ち構えているらしい。 

 彼女達は、ハビリス村に繋がる旧道の終わり――細く曲がりくねった上り坂、通称“蛇の細道”を最終防衛ラインと定めて、敵の突破状況に応じて場所を移動しながら闇夜に潜んで、上手く嵌めれば数百人を纏めて仕留めてくれる数々の罠と、エルフ特有の弓術を駆使しつつ、二千もの敵軍を迎撃していくようだ。

 更に道案内役として、狩人がそこに参加しているという。


「おぉ……! それだけ強力なら安心だ……!」

「イ、イヤ待テ。ソノ判断ハマダ早イト思ウ」

「そうだ。百倍もの戦力差があるのだから、油断はせず、増援を検討しよう」

「……そ、そうだな。すまない。ではまず、オーク族とハビリス族、どういう配分で――――」


 完全なる無策ではないと理解し、二正面作戦に多少の希望を持てた参謀本部は、増援の内訳を議論し始めた。焼石に水かもしれないが、無いよりはマシだからだ。

 ローワンは、何とか上向いた彼らを見て、少しだけ安堵した。


「後は……ナターシャ令嬢がいつ戻ってくるか。それが一番の問題だな……」


 彼女が笑顔で帰ってくれば、ウィローの敗北は決まったようなものだ。

 リズールアージェントさんが宰相の本陣を捕捉してくれた以上、彼女さえいればいつでも反転攻勢を仕掛けられるようになる。決着が近いと言う事は、コチラの士気が上がる。好循環の始まりだ。


「さて、いつになる事やら……」


 彼は、テスタ村方面からの少女の帰還を待ちわびるように、机上――広域地形図のテスタ村上に置かれた、ガラス製のクイーンをトントンと叩くと、手元にある木彫りの白いキングを転がした。



 テスタ村に戻ってきたナターシャ・ツリー・アイスは、斬鬼丸・シュトルムと合流した。

 戦闘の跡片付け――瓦礫の撤去・穴の開いた地面の埋め立てや、ゴブリンの死体を一か所に集め、火葬の準備を進めるテスタ村防衛チームを横目に見ながら。


「――ディビス、皆に大人気だな」


 特に彼ら――ディビスチームは、本当によく頑張ってくれた。

 彼らにはこのまま、ギルドの援軍を待ちながらゆっくりと休んで貰おう。

 ……さてさて。


「……待たせたな二人共。合成の魔女フェレルナーデ、用事を終えてただいま戻った」

「やっと帰って来たかジークリンデ! ヒーローインタビューはもう終えてしまったぞ!」

「おぉ、お帰りでありますナターシャ殿」


[ナターシャちゃんきちゃああああ!!]

[待ってた!]

[待ってたよー!]


 二人の傍には黒猫カメラと白猫マイクが浮かんでいて、ナターシャが映った途端、マイクが表示している配信画面のコメント欄が爆速になった。


「シュトルム! 斬鬼丸さん! こんばんはでござる!」

「こんばんはなのだわっ!」

「おぉ……」

「ん? どういう事だ!?」


[え!?]

[!?]

[かわいい]

[誰よその女!]

「誰!?」


 更に、魔女の後ろから顔を出した女子二人を見て、シュトルムは眉を顰め、コメント欄も同じように困惑した。斬鬼丸は特に変化していない。

 それを見たナターシャは軽く咳払いをすると


「――ふむ、時間は掛かるが仕方があるまい。説明してやろう」


 彼らに詳しい経緯を説明した。



 加入経緯を知った斬鬼丸・シュトルムは『成程、それなら大丈夫か』と理解を示した。

 二人とは既に面識があるようで、休憩ついでに軽い雑談を始めた。


 因みに、『我が工房とハビリス族の子供達だが――今はツリーの従魔である、超高Lvの樹怪獣たちが守護しているから安心すると良い』と語った瞬間、斬鬼丸のスリット内がギラッと青く輝き、コメント欄が[見に行こう]と[見せて]に包まれた。


 コメントを見ていた魔王候補は、一旦落ち着くように制止した後、こう語った。


「残念だがそれは出来ない。あの樹怪獣たちは、夜に見ると少し刺激が強すぎる。また今度――日曜の朝に見に行くから、それまでは待て」


[草ww]

[ニチアサかよwww]

[いや草www]


 大多数のコメントは、その軽いジョークに笑った。

 一部の怪獣好きファンには申し訳ないが、せめて明日の朝まで待っていて欲しい。

 もっと良いものが見られるからね。


「――さて、では視聴者よ。“テスタ村防衛戦”の感想と、我が作戦の成否を聞かせてくれるか?」


[はーい]

[いいともー]

「いいよー」


 そして視聴者から、テスタ村防衛戦の感想と、英雄創造作戦ヒーローズ・クリエイトの成否が伝えられた。


[ディビスチームの奮闘が凄かった……]

[序盤のピンチがまじで辛かった]

[勝てて良かった]

[俺も斬鬼丸の力と月光剣欲しい]

[斬鬼丸×ディビスが予想外過ぎて……]

[いやいや斬鬼丸は襲い受けでしょ? ディビス×斬鬼丸よ]

[は?]

[なんだぁ?てめぇ……]

[CP論争は草ww]


「ふむふむ、なるほど。作戦は?」


[成功では?]

[成功ー]

[成功ですね]

[それより怪獣見に行こうぜ]


「分かった、成功だな」


 皆、とても好意的な反応を返してくれた。大成功と言っていいだろう。

 ――そう、ナターシャは、テスタ村防衛戦が開戦すると同時に、隠し機能で透明化させた黒猫カメラと白猫マイクを送り込んで、ディビス達の奮闘をライブ配信に乗せたのだ。

 この配信はアーカイブ化されると同時に、後々、ディビス達が見れるようにするつもりである。

 彼らの勇士は、この異世界とあちらのネット世界で永遠に語り継がれる事だろう。


 次に続くのは、有識者達による考察だった。


[クランクのスキルはすげーけど、ちょっと無茶し過ぎててもにょる]

[若輩の冒険者だからしょうがない]

[せやな]

[ダリスの口の悪さ、まさかの挑発スキル由来]

[それな。マジ草w]

[カレーズの出番少なすぎぃwwwって思ったけど、金属製の弓を使ってるんだから、早いうちに手がダメになるのも当然か……]

[それにつけてもディビスの指揮力の高さよ]


「ほうほう……――ん?」


 感心するナターシャ。

 そこで天使ちゃんからのテロップが入った。


【収益化、通させました! 後々スパチャを解禁するのでお楽しみにー! by天使ちゃん】


[いや草w]

[wwww]

[通ったじゃないんかww]

[通させたの草ww]

[天使ちゃんさぁ……]

[流石は天界、俺達に出来ない事を(ry]


「あはは……」


 コメントは笑い、ナターシャからも乾いた笑いが漏れた。

 とても嬉しい事なのだが、本当に色々と大変な事になって来ている。

 チャンネル登録者数が秒速千人を超え、同時接続者が既に五万を超えている辺り、中々に大変な事に。

 SNSも大炎上している今、俺は一体どうなってしまうのだろうか。


「すぅー、はぁー……」


 ナターシャは気持ちを落ち着かせるために、大きく深呼吸をした。

 ――まぁまぁ、色々と困惑する事ばかりだが、後でどうとでもなるさ。

 よし、休憩と雑談はこれくらいにして、そろそろ戦線に復帰しよう。


「よし、休憩終了だ。皆、出発の準備をしろ」

「「「了解!」」」

「良い返事だ。アイス、ツリー。私の箒に――――」


 ――に乗ると良い、と言いかけた所で、箒の先端にポンッ、と白い煙が発生した。

 煙は自然消滅し、後に残ったのはピンク色の教授インコだった。

 ユニコーンたちを引き連れてきた彼だ。


「ouch...(いたた……)」


 箒の先に留まる彼は、痛そうにパタパタッ、と身体を震わせた後、ナターシャに視線を向けた。


「Hai,間に合いました」


 言葉から察するに、何やら用事があるらしい。


「そ、そうか。それで教授よ、どうやってここまで来たんだ?」

「アイスの瞬間移動の術を真似しました。凄いでしょ?」

「えっ!? す、すごいな……」


 マジで凄いな……何者だよこのインコ……


「時間が無いので、用件だけ伝えます?」

「あ、あぁ。分かった」

「その前に――」


 インコは別のスキルを使用した。


「――“収納空間(アイテム・ボックス)”」

「!?」


 ヴォン、とインコの頭上に次元の扉が開いた。

 内部には沢山のユニコーンの角が見える。


「教授、そのスキルは――」

「これはディビスの物真似ですが?」

「……」

「?」


 万能すぎるだろ物真似……


「す、すまない。続けてくれ」

「Okey,ナターシャ、Unicornsからの贈り物です。受け取って怪我の治療に使え」

「おぉ、そうか。ありがたく受け取ろう」


 ナターシャは収納魔法の詠唱を唱えた。その時、


―――――――――――――――――――――――――――


 ユニークスキル【異次元収納(インベントリ)】を取得。

 ステータスのスキル欄に記入します。


―――――――――――――――――――――――――――


「え?」


 というウィンドウが、目の前に表示された。

 文面から察するに、異次元収納スキルをゲット出来たらしい。

 ウィンドウは、読み終わって数秒後に自動で消えた。


「な、なるほど。スキル本を読む手間が省けたな」


 ナターシャは若干困惑しつつも、魔王候補らしく強がった。

 天界も天界で、こういう機能を追加する時は事前に通達して欲しいものだ。

 ……まぁ、ラッキーだと思っておこう。ホントに唐突だったけど。


「――よし。“異次元収納(インベントリ)”。教授、この中に全部入れてくれ」

「Okey」


 インコは、ナターシャが開いた次元の隙間にドサササ、とユニ角を流し込んだ。

 用事を終えたインコは、『私も仕事に戻ります』と言って、クーゲルの元に転移していった。


「……終わったの?」

「でござる?」

「あぁ、今終わった。二人共、箒に乗ってくれ」

「「了解」」


 待たせていたアイスとツリーを箒に乗せて、ナターシャ達は目的地を告げた。


「聞け、皆の衆! 次なる目的地は参謀本部! 理由は顔見せだ! それで良いな!?」

「「「了解!」」」

「よし……――出発!」


 ナターシャの描く白い箒星に続いて、斬鬼丸とシュトルムもバシュン、と飛び立った。

 向かうはハビリス村北方、砦内部の参謀本部だ。

投稿日修正。

次話は12月10日。午後8時~9時です。

24時制で20〜21時。

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