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246 年末大将戦 起句① 【北部戦線異常なし - わくわく植物サファリパーク】

 ナターシャが(スミレ)色の髪をポニーテールにした暗殺者――第七使徒、氷刀のアイスからの弁解を受けている間に、時間は少しだけ巻き戻る。


 視点はリズールとウィロー。

 場所はオーク・ハビリス戦争の最前線、ハビリス村の北方付近だ。



『オオオオォ――――――……!』

『ハーフエルフ・オーク混合呪詛隊、構えよ! 火砲呪詛、詠唱開始!』

『戦列補充命令、一番! 石材一斉射出! 着弾指示、待て!』


 戦場はお互いに拮抗している物の、最初のような兵と兵の潰し合いだけでは無く、砦からの魔法や、投石での消耗戦も始まっていた。

 ただ、敵オークの主力部隊は何らかの加護があるのか、魔法はほとんど効いていないようだ。


「なんかやっと攻城戦らしくなったな」

『そうですね』


 塔の上のリズール達は、まぁ、敵もそれなりには出来るようだ、と理解した。

 魔法対策をしっかりしている辺りが、加点評価らしい。


「しっかし、ゴーレムの消耗が激しいな。耐えられるのか?」

『いえ、ハビリス族の皆様は上手くやっていますよ。こちらの絶対数が少なく、敵の攻勢が激しいだけです』

「なるほど、お前はそう見るのか。勉強になる」


 二人の会話通り、ゴーレム軍は残り二百体ほど。

 いくら堅牢といえども、間隙を突かれて一部が切り崩される事もあり、それが積もりに積もって、戦力補充が追い付かなくなってきているのだ。灰色の城塞が瓦解する時も近い。


『さて……この砦と防衛軍の皆様が、どこまで耐えられる事やら……』


 リズールは変わり映えの無い戦場を見ながら、森の奥地へと視線を飛ばした。



「うほほ、良く見える、良く聞こえる……! 戦場を見下ろしているクソガキとメイドの様子が……!」

「ギッギッギ」


 ウィローは新たに飛ばした使い魔で、クーゲルとリズールを観察していた。

 相手の反応を確かめるためだったが、彼の予想通り、少しだけ慢心している様子だった。


(フフ、愚かですねぇ……このまま耐えきれると思っていらっしゃる。この拮抗状態を打開する手は既に打ってありますよぉ……?)


 ニヤリと笑うウィローは、何やらせわしない本陣を見渡して、視線が合った兵を手招きした。


「ハイ、オ呼ビデショウカ、ウィロー様!」

「準備はどうだ?」

「先ホド完了シマシタ! 種子鷹(シードホーク)部隊、イツデモ出セマス!」

「ふふふ……!」


 彼は満面の笑みを浮かべた。

 何故なら種子鷹(シードホーク)部隊は、この大陸にのさばっている人間と、傲慢でいけ好かないエルフ族を滅亡させ、この世界を征服するために創り上げた最高傑作なのだ。


「よし、全機出撃させなさい!」

「ハッ!」


 これならば、あのクソガキの魔法武器にも負けない。

 何故なら――――


「第二波、第三波の準備……いや、種子鷹(シードホーク)が生まれ次第、継続的に送り続けなさい! 敵に反撃の機会を許してはなりませんよ!?」

「ハッ、了解シマシタ!」


 ――此方に弾切れの心配はないのだから。


「ギッ、報告ー! 報告ー!」

「んん?」


 更に、ウィローにとって幸運な知らせが舞い込んだ。


「迂回部隊ガ、テスタ村防衛軍ヲ殲滅! 略奪成功! ゴブリン軍ヲ南下サセル事デ、口減ラシニモ成功! 迂回部隊ハ北西ノ、オーク傭兵部隊ト合流ヲ目指シ、敵拠点南西ノ旧街道カラ北上中デス! 我等の勝利ハ近シ!」

「うぉっほほほ……!」

(――来た来た来た! やはり風は私に吹いている!)


 彼はとても高貴な笑い方をしながら、この戦争での勝利を確信した。


(フフフ、戦争は正面での戦だけではなく、周囲の環境――盤面全てに干渉した者が勝つのです……! さぁさぁローワン! 黒髪のメスガキ! 血に濡れるのはお前達の首だ! 腐って土に帰るまで、永遠に晒し首にしてやりますからねぇ……!)


「ハーッハハハハ――……!」


 ウィローは人生の絶頂を迎えたかの如く、大笑いを始めた。



(……とでも、思っておられるのでしょうね)


 リズールは遠視の魔法を切り、本陣の中で、大将椅子に座して笑うウィローの観察を止めた。


『クーゲル、敵の目を潰しなさい』

「オーケー」


 パンッ!

「ギッ!?」


 クーゲルはまたしても、見えない使い魔を狙撃し、青い光に変えた。

 それを見て、リズールは少し悲しい目をしたが、敢えて褒めた。


『……やはり便利ですね。貴女に宿る“魔弾の射手”伝説は』

「ありがとよ。もっとも、いい話なんざじゃないがね。一人の兵士が使い潰されるだけの話さ」


 敵軍を見ながら、そう答えるクーゲル。

 そんな彼女の目に宿っていたのは、虚無だった。


『捨てる道もあったのではないですか?』

「……あったかもな。でも、俺には見つけられなかった。それだけだ。――――ん?」


 二人がなんとも言えない雰囲気を醸し出していると、クーゲルが気付く。

 何やら森の奥から、未知の鳥型魔物群が飛来してくるでは無いか。

 

「――おっとリズール。昔話はこの辺で。相手が動いてくれたらしい。指示を求む」

『そうですね、分かりました』


 リズールも気持ちを切り替えて、クーゲルに命令を出した。


『――彼の未確認鳥型魔物をバンデットと断定。クーゲル、制空権を奪取される前に殲滅しなさい。手段は問いません』

「了解だマイマスター。喜んで命令を受諾する。制空権は俺に任せろ」


 命令を受けたクーゲルは銃を構え直すと、未確認飛行生物の討伐を開始した。



 そして、視点はナターシャに戻る。

 目の前には、未だに土下座したままのアイスちゃんが居る。


「……なるほど、要は張り切り過ぎたのだな?」

「申し訳御座いません……リズール先輩から急ぎ工房の防衛を任され、ナターシャさんのお顔を拝見する機会が無かったのと、百年ぶりに味わった娑婆の空気と、初めてのカタギの仕事でつい舞い上がってしまいまして……」

「う、うん……」


 カタギて……

 裏稼業でもしてたのかな……?


「自己再生能力持ちの身ではありますが、誠意を示す為に拙の指を、いや、それでも足りぬならばこの首を切り落として差し上げましょう……!」

「えっ」


 そう言って自刃や自傷で許しを請う暗殺者。

 自信の首に小刀を当て、涙目でぷるぷるしている。

 それがショッキングだったのか、背後からユニコーン共の野次が飛ぶ。


『もうやめろよ! あいすたん涙目じゃん!』

『ナターシャ殿、もうやめるべきでござるよ!』

『魔王ムーブ怖い! イクナイ!』


 お、おう……


「そんなに怖いか? これ……」


『『怖いでござる!』』


 ユニコーン一同とアイスがそう叫んだ。

 ご、ござる? アイスちゃん、キャラが安定しないね?


「まぁ、皆がそう言うなら……」


 ナタ―シャは仕方なく魔王ムーブを止めた。

 そして、アイスにもう怒ってない事を告げると、彼女は驚いた。


「な、なんと!? とんでもない失態を侵した拙を、ナターシャさんは許してくれるのでござるか……!?」

「いや、まぁ、便宜上怒っただけで、誰にも失敗はあるから……ね?」

「許された……! まさかまさかの無罪放免……! 何という寛大な処置か……!」


 自刃をやめた彼女はとても嬉しそうだ。

 死の淵から解放されたかのような雰囲気が出ている。

 少し困惑していたが、ふと思いついた。


「……あ、そっか」


 暗殺者系の子だから、失敗=死なんじゃないか?

 そうかそうかなるほど、やっと彼女の根底を理解した。


 じゃあ……ついでに、工房にも行っておいた方が良いかもしれないな。

 ツリーちゃんとも顔合わせして、こういう事故を防ぐべきだ。

 まず最初は……


「じゃ、ユニコーンさん。ここは任せたよ」

『お任せあれー!』


 ナターシャはユニコーンに再び別れを告げた後、何やらそわそわしているアイスに話し掛けた。


「ねぇアイスちゃん」

「はい! 拙にどう言ったご用件で!?」

「一緒に工房に行かない? 今回のような事故を防ぐために、ツリーちゃんとも顔合わせをしておきたいんだ」

「おぉ! そういう事ならばお任せ下さい! 拙の転移魔法でひとっ飛びでござる!」

「……えっ!? 転移魔法!?」


 アイスちゃん転移魔法使えるの!? 詠唱教えて!?


「早速向かいましょう! では箒の後部を拝借して……」

「ちょっと待って!? アイスちゃん転移魔法使えるってマジ――――」

「――――……ニニン! 忍者が一人、忍者が二人……ファイナル忍法!」

「――ちょ、ま、私の話を――――」


 アイスは謎の印を結びながら、ついにこう叫んだ。


「ユニークスキル! “瞬間移動の術”――――!」

「スキルじゃねぇかあああああ――――……!」


 怒涛の勢いに押されるがままに、ナターシャはアイスとシュン、と転移した。

 残されたユニコーンと教授インコは、二人のコントのようなやり取りに大笑いした。



「――着いたでござる!」

「おっふ……」


 工房付近に転移したが、着地のあまりの衝撃に、ナターシャは微量のダメージを受けた。

 こう、ズン、と来るような衝撃が、全身を駆け巡った。


 ま、まぁ、過ぎた事は気にしない。大事なのはこれからだ。

 早速ツリーちゃんを探して、挨拶をしよう。


「はぁ……――」

『コンニチハ』

「――ん?」


 堅い樹皮の上で箒に跨っているナターシャは、唐突に話し掛けられて左を向く。


「コンニチハ」

「――――ぁ、ぁ……?」


 目の前には、黒いサングラスを掛けた人型の向日葵(ヒマワリ)が居た。

 とても渋い声だった。


「えっ、えっ」


 何かの間違いかと思って、目を擦ってもう一度見たが、確かにいる。


「いや、いや、ちょっと待って」

「ええで」


 戸惑ったナターシャは、索敵魔法で周囲を探った。

 するとなんと、ここは工房近辺どころか工房の真上で、周囲には動物型の植物が歩き回っている事が分かった。

 とりあえず、後部座席の忍者に事情を尋ねる。


「ねぇアイスちゃん」

「なんでしょう!?」

「周囲の魔物ってさ――」

「ツリーの下僕でござる!」

「下僕……」


 思わず言葉に詰まって、天を仰ぐ魔王候補。

 あぁ、月が綺麗だ。


「……ま、まぁ、うん、そうだね」


 これから会う予定の第六使徒、樹槌のツリーは、“森羅”・“培養操作”というスキルを持っているのだ。これくらいは朝飯前なのだろう。

 そう思い直して、隣で待たせたままにしていた、人型向日葵との会話を再開した。


「お待たせしました」

「おう、待ってたで」

「こんにちは、貴方のお名前は?」

「は? 夜は“こんばんわ”やろ?」


 何だコイツ……

ギャグ盛り込んでたら遅れました。


次話は12月4日。

午後8時~9時の予定です。

24時制で20時~21時。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アイスさん、暗殺者系て失敗=死という覚悟も出来たのに、主人を間違えるほどドジっ子とは、心配ですね。萌えるかも知れませんけどw ナターシャさんの魔王ムーブ、案外に怖がれますね。 両陣営も偵察…
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