242 テスタ村防衛戦 急章 【防人達の意地 - 光芒一閃】
ダリスの後ろで、ディビスとクランクは剣を構えた。
「グ、ググゴ……!」
ギガントゴブリンは少しだけ攻撃を躊躇った。
だがその僅かな怯えが、彼を激怒させた。
何故、怯えた。俺は勝っている。目の前の敵は数が減ってきている。
たかが盾一つ持ったところで俺の有利は変わりはしない!
「グゥ……ッ!」
だから征け! 進め! 殺せ!
この村の男共を皆殺しにして、女共をしゃぶりつくすのだ――――――!
その燃え盛る欲望は動機へと変わり、二の足を踏んでいた彼を動かした。
「グゴァァ――――――ッ!!!!」
「来るぞダリス!」
「任せろ!」
彼は突撃しながら、両手で持った棍棒を振り上げ、ディビス達に振り下ろす。
「――――ァァアッ!」
「“コッチを見やがれ能無し野郎!”」
「ッ!? ――――ガァァァァァッッッ!!!!」
すると突如、ダリスが相手を挑発した。
その途端、ギガントは狂ったようにダリスを攻撃し始めた。
彼の持つスキル“挑発”の効果だ。
「アアアアアアアアア―――――――――――ッッ!!!!」
「――――ッ!」
棍棒の雨嵐が降り注ぐ――――が、悉く弾かれていく。
ボーンバッシュが持つスキルのお陰だ。
ダリスは敵の攻撃を防ぎながら、後続の二人に向かって叫んだ。
「今だやれッ!」
「任せろ! 行くぞ!」
「おっす!」
二人は前に飛び出して、ギガントを攻撃し始めた。
「“疾風剣”!」
「ギャアアアア――――――――――ッッッ!?」
ディビスは、剣を後ろに引く構えから剣技を発動し、ギガントの右腿をズタズタに切り裂いた。
片足を潰されて絶叫するギガント。同時に挑発の効果も切れた。
「グァッ!」
ギガントは反撃しようとする。しかし――――
「“逃げるんじゃねぇ!”」
「――ッ!? アアア――――――――ッッ!!!!!!!」
挑発スキルで再び発狂し、棍棒で叩き潰さんとダリスを殴る。
その隙に、クランクが攻撃を仕掛ける。
「これはフィズの分ッ!」
「グゲッ!? グゲァ――――――ッッッ!!!!!!」
彼は相手がこん棒を振り下ろす瞬間を狙って、剣を斬り下ろした。
ギガントは左腕を負傷し、叫びながら数歩下がる。
「ググッ、グ――――――!」
だがそれでも彼の腕力は健在で、クランクを排除せんと棍棒を振るう。
「“コッチを見ろォ!”」
「~~ッッ!!! ゴアアアアアァ――――――――――ッッ!!!!」
しかし挑発スキルで、攻撃対象がダリスに固定される。
ギガントはダリスを徹底的に叩く。ディビスとクランクが敵を刻む。
相手が膝を付くまで、そのループが繰り返された。
「ゴ……ゴゴ……!」
消耗しきって膝を付いたギガントは、完全に隙だらけだった。
クランクは即座に接近すると、容赦なくユニークスキルを使用した。
「そしてこれがッ、レンカと先輩達の分だァァッ! ――ユニークスキル! “会心斬”ッ!」
「ガアア――――……ッ!?」
大振りの斬撃で、ギガントの胸が斜めに切り開かれて、血飛沫を散らす。
バックステップで逃げたクランクは、スキルの反動で膝を付いた。
「くっ、全力はキツイな……!」
しかし、これで勝負は決した。
ギガントは斬られたショックで気絶し、グルン、と白目を向く。
体重にして数百キロ、三メートル級の身長を持つ身体が、前のめりに倒れてゆく――――
「ゴ、ゴゴ……ッ! ゴガァァ……――ッ!」
「――えっ!?」
――その直前、なんとギガントは意識を取り戻し、気合と意地で立ち上がった。
彼はふら付きながらも、クランクを狙って最後の棍棒を振り上げる。
「ゴゴグガ――――――!」
「やべ……っ!」
慌てて逃げようとしたクランクだったが、その必要は無かった。
――篝火で照らされた村の広場を、一人の弓兵が駆けていく。
憤怒の形相の彼は、走りながら弓を構え、矢を放った。
『――“ピアースショット”!』
「ゴグッ!?」
強烈な威力の矢が、ギガントの額をピンポイントで撃ち抜く。
『“トリプル・ハートブレイク”!』
「ゴ――――」
更に、三本の矢が敵の胸を穿つ。
心臓を的確に撃ち抜くパーフェクトショットだ。
ディビス、ダリス、クランクは、何も言わずとも、この援護射撃が誰の物か分かっていた。
だが会話は後回しにして、まずはギガントの対処を優先させた。
「ゴ……ォ……」
「今楽にしてやるよ――――!」
ギガントは、棍棒を振り上げたまま両膝を付く。
そして、これ以上苦しませないためにディビスが動いた。
「――“首切り”!」
「――――……」
ドシーン……
彼の必殺技で、ギガントの首が空を飛ぶ。
主を失った緑肌の巨体は、後方へと倒れ込んで動かなくなった。
ギィギィ、と威嚇の声を上げていたゴブリン達も、思わず沈黙する。
彼らの目の前に、身体を失った首が落ちて来たからだ。
「ダリスの元に集まれッ!」
「「「応ッ!」」」
ディビス達はその隙に、再び集合した。
「――大分と苦戦してたみたいだな、お前ら」
そこでようやく、援軍の弓兵との軽い会話が始まる。
「遅いぜカレーズ」
「ハハ、心配性なんでな。悪い」
援軍は勿論、銀等級冒険者のカレーズだ。
彼は仲間の仇を取れて、とても清々しい顔で笑っていた。
しかしダリスが愚痴る。
「フン、クランクの手柄を横取りしやがって」
「べ、別に良いだろ? 俺にも返したい借りがあったんだから」
「お、俺は気にしてないですよ!? あざっす先輩!」
「いやクランク、お前は怒っていい」
「えぇっ!?」
「うぐっ……」
クランクは思わず驚いた。ディビスも便乗してきたからだ。
分の悪さを感じたカレーズは、早々に雑談を打ち切る。
「ま、まぁ、色々と積もる話はあるが――」
「フン」
「おう、そうだな」
「まずは……!」
全員でカレーズの言葉に乗り、ゴブリン軍団を睨んだ。
「「「――さぁ、次に死にたい奴は誰だ?」」」
『ヒ、ヒギャァァ――――――ッ!?』
「ギギギ……ッ!」
その言葉に下っ端ゴブリンは恐怖し、先鋒を助けたギガント怒り狂った。
「ガッ! ギアアッ!」
「ゴアッ!」
彼は後続のギガントゴブリンを前線へと嗾けた。
次鋒戦の始まりだ。
「アアア――――――ッ!」
「来るぞ!」
だが、もう負ける事はない。
「だからどうした! “突撃しか出来ない間抜けめ!”」
「ギギゴア――――――ッッッ!!!!!」
次鋒はダリスの挑発に乗り、ボーンバッシュの効果で弾かれて隙を見せた。
「――――ッ!?」
「行くぞクランクッ!」
「はいッ!」
そして彼の後ろが動く。
まずはディビスが走った。
(単発じゃ動きを止められなかった! だったら――――!)
「行くぜッ! “疾風剣・二連”!」
ザザザンッ! ザザザザンッ!
「ギャアアア――――――――ッ――――!」
彼の疾風斬二連撃が次鋒の両足を完全に潰し、地面に跪かせた。
「今だ! 殺れッ!」
「おっす!」
指示を受けたクランクが、一撃必殺のスキルを発動させながら走る。
「喰らえ……ッ! ――――“会心斬”ッ!」
「ゴグゥ――――!?」
大きく振りかぶった全力の一撃は、ギガントの肩口目掛けて振り下ろされる。
足を潰されたギガントは避けられない――――
「……うっ!?」
――しかし、クランクの身体に異変が起きた。
突然の眩暈に襲われた彼は、攻撃を外してしまう。
ズッドォォ―ーンッ!
「ゴゥッ―――――!?」
ギガントの棍棒振り下ろしよりも、明らかに強力な一撃で地面が抉られる。
土砂や、その下の石礫までもが巻き上げられた。
(クソッ、外した……!)
クランクは悔しそうな顔で地面に着地する。
「ッ!? ぐ……ぅ……!」
が、あまりの疲労感に、逃げる間もなく膝を付いてしまった。
「ゲハハ……ッ!」
「くそっ……!」
次鋒は笑いながら棍棒を振り上げて、近くに居るクランクを潰さんとする。
クランクは避けられない――――
「おっとさせるか! ――“ハートブレイク”!」
ズギャンッ!
「ゴ――――!?」
――かと思いきや、カレーズのスキルショットが次鋒の胸を貫いて、容赦なく即死させた。
「……ア……アァ……」
ズドォーン……
「すげぇ……」
力と心臓を失ったギガントの亡骸が、地面を大きく揺らす。
クランクは思わずぽかんとしていたが、助けに来たディビスが、彼の腕を引いて立ち上がらせた。
「立てクランク! 戻るぞ!」
「お、おっす!」
三度集合するディビス達。
カレーズは余裕の表情だ。しかし、手が震えている。今の射撃でかなり無茶をしたらしい。
ディビスとダリスは少し息が荒く、クランクに至っては少々へばっていた。
「すぅー……ふぅー……」
「大丈夫かクランク。ユニークスキルの影響か?」
「か、かもしれないっす、でもまだ戦えますよッ!」
「よし、その意気だ。だが、無理はするなよ?」
「おっすッ!」
ダリスに心配され、励まされたクランクは、汗を拭って剣を構え直す。
ディビスはクランクの様子を見て、ユニークスキルは後二発が限度だろう、と判断した。
(だが――――)
ギガントゴブリンはまだ三体も残っている。
カレーズの手が怪しい現状、一体分の火力が足りない可能性は捨てきれない。
なので彼には悪いが、多少の無茶をして貰うつもりだった。
「ゴギャギャ――――――ッ!」
「――次が来るぞッ!」
「「「応ッ!」」」
ダリスの警告で、ディビス達は構える。
中堅のギガントは、棍棒を振り回しながらコチラに迫る。
全体重を乗せたジャンプ攻撃で潰す気だ。
「ギャァァ――――」
「“図体だけデカいノロマが!”」
「―――――アァアアアアッッッ!!!!!!」
しかし、挑発スキルの前には無意味。
攻撃方法さえも限定された中堅ギガントは、先人達のようにダリスを殴りつけて、盾に弾かれた。
「ア、ア――――!?」
完全に隙だらけだ。これなら先ほどのように殺せる。
だからこそ、クランクの心に一つの欲望が宿った。
(俺も、カレーズさんのように一撃で――――!)
「――ディビスさん! 俺、行きますッ!」
「なっ!? おい馬鹿、待てッ!」
ディビスの制止を聞く間もなく、クランクは走った。
彼自身の理想の高さと、それが可能だという強い自信が、その気持ちを焦らせてしまった。
それは、彼がまだブロンズ故の、若さゆえの過ちだった。
(次は当てる……ッ! 確実に仕留める――――ッ!)
「ウォォォ――――――ッッ!!!」
「ゴグゥッ……!?」
中堅の目の前まで来たクランクは、思いっきり飛び上がった。
彼は、中堅が見上げる程の高さまで跳躍してから、ユニークスキルを発動する。
「――“会心斬”ッッ!!!!!」
ズッシャァァ――――ッ!
「ギャァァ――――――――ッ!!!!」
中堅は避けられず、身体を縦に斬られて重症を負う。
半月の夜空に血の花が咲く。
だが、まだ、会心斬の発動終了時間では無い。
(まだ――――動ける!)
「――――もうイッパァァァァッツ!」
クランクは着地と同時に剣を振るい、横方向に切り裂いた。
ズバァァァッ!
「アアア――――――……ッ!!!!」
中堅は腹部を斬られて、夥しい量の血と、斬られた臓腑を地面にばら撒いた。
「これで、どうだ……ッ! ぐぅっ……!」
「ア、アァ……」
とんでもない無茶をしたクランクは、そのまま地面に崩れ落ちる。
中堅は腹を抑えたまま、数歩後ろに下がった。
「グ、グググゥ……!」
「なん……だと……ッ!?」
しかし、食いしばって踏み止まる。
道連れを求めた彼は事切れる前に、たまたま近くに居たクランクへと棍棒を振り上げた。
ディビス達はたまらず叫んだ。
「「クランク――――ッ!」」
「この大馬鹿野郎ォ――――――――ッ!」
カレーズは弓を構え、ディビスとダリスは走る。
だが、中堅ギガントの方が僅かに早かった。クランクの真上に棍棒が振り落とされる。
「ゲハ、ハ、ハ――――――!」
「避け、――ッッ、――ッ!?」
(身体が――――――!?)
しかし身体が動かない。
会心斬二連撃のせいで、肉体に相当な負荷がかかったのだ。
「ゲハハ――――――――!」
「くそぉ……ッ!」
「やめろォォ――――――ッ!」
ダリスが叫びながらダイブしたが、もう間に合わない――――――
『――――若いでありますなぁ』
ザシュンッ――
「ゴガ……!?」
「えっ……?」
――と、その時。
銀色の剣線が斜め上空から飛来して、中堅ギガントの腕を斬り落とした。
次の瞬間には、彼の前に銀色の西洋甲冑騎士が立っていた。
「アンタは……!?」
「ふむ……?」
甲冑騎士は不思議そうに首を傾げる。
倒れたダリスは新手の援軍に驚いて、ディビスは思わず停止し、カレーズも弓を降ろした。
その際、ダリスはこう呟く。
「だ、誰だ?」
「よっしゃアアアアアアアア―――――――――――ッ!!!!」
「カレーズ!?」
「うぉぉ……っ! ここで来たかぁ……! でもおせぇんだよぉ……っ!」
「ディビス!? ななな、なんだお前ら!? どうした!?」
「おぉ……!」
ダリスは立ち上がりながら困惑し、ディビスとカレーズは過去最高に喜んだ。
斬鬼丸は静かに驚いた。
そしてようやく、棍棒を持ったままクルクルと宙を舞っていたギガントの腕が、下っ端を巻き込むように墜落する。
『ゴギャァァ――――――……!』
「ギャアア――――――――――ッッッ!!!!」
それと同時にギガントが叫んだ。
死にかけではあるが、まだ痛覚があったらしい。
「ギ――――」
「静かに為されよ」
ザザザンッ――
「ァ――――……」
しかし彼は、斬鬼丸の一言と共に、サイコロのように細かく斬り刻まれた。
ビチャチャチャ、という、みずみずしさと強い嫌悪感を与える音の裏で、剣の血を振り払った騎士は、後ろを確認してからこう言った。
「――ふむ、間に合ったようでありますな」
「斬鬼丸さん……!」
――そう、ここに来てようやく。
ナターシャの従者が一人、斬鬼丸が参戦した。
斬鬼丸は肩掛けバッグを漁って、コルク栓がなされた試験管をクランクへと投げた。
「――これを飲むであります。体力が回復する故」
「分かりました!」
受け取ったクランクは、コルクを抜いてがぶ飲みした。
しかし、数秒後にはむせて咳き込む。
「――ゲホッ、ぶぇっ、まっず! 何入ってんですかこれ!」
「オーク謹製故に、内容物は不明であります」
「不明って……! 何てもんを飲ませ――――……あれ?」
彼は驚いて立ち上がったが、意外にも元気になった事に驚いた。
だがしかし、これでまた戦えるだろう。
『ウォォォォ――――――――――ッッ!!!!!!』
「うぉっ!?」
「おぉ、見事なり」
そして更に、村の入口方面からの雄叫びが轟いた。
何と、四体目のギガントゴブリンが、自警団と左舷に残った冒険者チームによって討伐されたのだ。
元々は二体で拮抗していたにも関わらず、一体が戦線を離脱してしまい、もう一体は単騎での抵抗を強いられたので、当然の結末とも言える。
刺さった矢や切り傷、焼け焦げた跡が残るギガントの巨体が地面に沈んで、ドォン、と重い音を立てる。
『残りは大将のみ! 全員で掛かれば殺せるぞォォ――――――!』
『オォ――――――ッ!』
「ゴギギィ……!?」
自警団と左舷冒険者チームは、じりじりと大将ギガントに詰め寄っていく。
ここまで自分では戦わず、他のギガントを焚き付けていただけのギガントの事だ。
そう、先鋒ギガントを助けたあのギガントが、最後まで残っていた。
「ギギ……! ギギグ……ッ!」
大将ギガントは周囲を見て、あの冒険者が少ない方角はヤバい、と即座に判断した。
既に同胞が三体も討伐されているのと、謎の援軍が現れたからだ。
「グォォ――――――ッ!」
『来るぞォ――――!』
だからこそ彼は、自警団と冒険者チームが待ち構える東方面の突破――本隊への帰還を目指した。
地面を削り取るように棍棒を振り回して、戦線突破を目指す。
『ガアア――――ッ!』
『ウォォ――――――――ッッ!』
防衛軍とギガントが激しく争う声が聞こえる。
(なるほど、危険度を理解するくらいの知能はあるってか……?)
こちらに突進してこなかった事は安堵するべき事象だが、ディビスは、あのギガントの狡猾さに危険な雰囲気を感じていた。
何故なら、知能が高いとはそれ即ち、ゴブリンキングになる可能性を示しているからだ。
(だったら、ここでアイツを取り逃がすわけにはいかねぇなぁ……ッ!)
「斬鬼丸! あのデカいゴブリンまでの道を造れるか!?」
「お安い御用であります」
「やってくれ!」
「任された」
斬鬼丸はディビスの指示に従って先陣を切った。
ダリス・クランクも後に続く。
『ゴ……ゴ……!』
「む?」
「なんだ!?」
『ゴギャギャアアアア――――――ッ!』
「マジかよ……!?」
その途端、下っ端ゴブリン達は自暴自棄になったのか、集団で襲い掛かって来た。
松明を投げ捨て、棍棒を振り回して走り込んでくる。
『ギャギャギャギャ――――!』
あのギガントは討伐しないと不味い、かといってこのまま通してしまえば、ギルド方面に到達する可能性がある。
「クソッ……!」
危機を感じて立ち止まったカレーズは、矢をつがえて弓を引いた。
「戻れお前らッ! 俺達はゴブリン共を――――!」
『――おい、待て! 我を忘れて貰っては困るぞ――――ッ!』
「まさかこの声――!?」
カレーズがそう叫んだと同時に、またしても援軍が現れた。
「破滅嵐斬――――ッ!」
『ゴブギャアアアアアア――――――……!』
上空から襲来した蒼穹の嵐は、斬鬼丸の上を通り過ぎると、最前線を走るゴブリン達を斬り刻んで細切れにした。
彼女は少しだけ地面を滑って、くるくるくる、と回転しながらその場に停止した。
「フッ、決まった……!」
『ゴブブ……!?』
暴徒と化したゴブリン達も思わず足を止める。
何が起こったのか、と。
「おっ、おーい! シュトルムちゃ――――」
「ちゃんは付けるな! ばかっ!」
シュトルムはカレーズが言い切る直前に罵倒すると、ゴブリンとディビス達の間に立ち塞がった。
そして双剣を構え、後ろの面々に向かって強気に宣言する。
「お前達! ここは我に任せて先に行け!」
なお、この登場がやりたかったので、斬鬼丸と一緒に降りてこなかったのは秘密である。
「恩に着るぜシュトルム! 進め斬鬼丸!」
「承知――邪魔であります」
ザザンッ――
『ギャ――――――……』
斬鬼丸は剣を振るって、下っ端ゴブリンの間を駆け抜ける。
「追うぞお前ら! 遅れるなッ!」
「「「応ッ!」」」
ディビス達も彼の後を追う。
そして、西の広場に繋がる通路には、七十匹ほどのゴブリンと、シュトルムただ一騎だけが残された。
『ギャギャギャ――!』
「……遅いッ!」
シュバババッ――――
「ゲッ――」
「ギャ――――」
ゴブリン達はシュトルムの横を抜けようとするが、一匹も残さず斬り刻まれる。
ゴブリンの首や血、手や耳や鼻が空を舞い、血の詰まった糞袋が量産されていく。
(相変わらずとんでもねぇ強さだぜ……)
ディビスはチラ、と後ろを見ながらそう思った。
このまま彼女に任せておけば、下っ端のゴブリン軍は全滅するだろう。
自分達は気兼ねなく、前方のギガントに集中できるという訳だ。
「よぉーっし! 残りは一体だ! あの大将の首を取るぞォ――――ッ!」
「「「オォォ――――ッ!」」」
彼は仲間を鼓舞する目的で、最後の指令を出した。
後ろに続くダリス・クランク・カレーズも、同意するように雄叫びを上げる。
狙うは大将、謎の技量を持つギガントゴブリンただ一体。
テスタ村防衛戦の第一波にして、オーク・ハビリス戦争の勝敗を決する戦いが今、始まる。
勝利の時は近い。
いつも遅れてごめんね……
次話は11月11日です。夜8時~9時。




