241 テスタ村防衛戦 破章 【苦戦 - 覚醒するモヒカン】
『ウォォ――――――ッッ!!!!』
「ゴゴ……!」
雄叫びを上げながら走る冒険者達、迎え撃たんと棍棒を構えるギガントゴブリン。
ギガントはまず、先陣を切るディビスとダリスを狙った。
「――ゴアッ!」
「避けろッ!」
「おうっ!」
ズドンッ!
棍棒が振り下ろされて、二人は左右に分断される。
しかし、ディビスは攻撃を予測した上で避けていた。
彼はすぐさま体勢を立て直し、伸びきった相手の腕を狙う。
「そこだッ!」
「グッ!? グゥ――――!」
ギガントは慌てて腕を引く。
ディビスはそれでも良い、と、なりふり構わず剣を振り抜いた。
「オラァッ!」
「グギィ……ッ!」
「チッ!」
結果として右前腕に命中したが、傷は浅い。
彼は悔しそうに舌打ちをした。
「次は俺様だッ!」
「――!?」
更に、ダリスが追撃を仕掛けた。
中段の構えから上段に振りかぶり、ジャンプをしながらギガントに斬りかかる。
ギガントは避けられずに、左腕に怪我を負った。
「ゴグゥッ――!」
「ざまぁみやがれ……ッ!」
ギガントを嘲笑うダリス。
だが今度は、ギガントが動いた。
「――ァァアッッ!」
「何ッ!? ぐっ――――!」
至近距離に居たダリスを蹴り飛ばしたのだ。
ダリスはギガントの反撃をモロに受けて、近場の民家に叩きつけられた。
「――――ぐぁぁッ!」
「ゲハッハッハ……!」
「ぐっ……、こな、くそ……ッ!」
それでも彼は不屈の精神で立ち上がったが、脚が震えている。
もしかしたら脳震盪を起こしたのかもしれない。
「ゲハハ……ッ!」
それを見て、舌なめずりをしたギガントは、ダリスを集中的に狙い始めた。
「ゲハァ――――ッ!」
「ぐぅぅッ!」
一撃、二撃、と棍棒が振り下ろされる。
ダリスは二度、横に転ぶ事で避けた。
しかし三度目で脚の震えがピークになり、体勢を崩し、回避不可能になってしまう。
「こんな所で……ッ!」
「ゲッハッハァ――――――!」
喜々として振り落とされる、超重量級の棍棒。
天から迫る必死を、ダリスは意地と反逆心で睨み付けた――――
「――――させるかよォッ!」
その瞬間、一人の冒険者が躍り出た。
茶髪でミドルヘアーの彼は、ショートソードの腹で敵の棍棒を受け流し、その軌道を僅かに変えた。
ズドォォ――ン!
「……ググッ!?」
地面が凹む勢いで棍棒を叩き下ろしたにも関わらず、犠牲者が出なかった事に驚くギガント。
そのインパクトから、僅か数十センチの場所に居る立年の冒険者は、冷や汗を流しながら呟いた。
「ふぅー……上手く行ったぜぇー……」
「で、ディビス……ッ!」
そう、ダリスの前に立ち塞がったのはディビスだった。
彼は背後を見て微笑むと、また敵を睨み直してからこう言った。
「おう、危機一髪だなダリス。敵の反撃には気を付けろよ?」
「うるせぇ……ッ! 言われなくても分かってるッ!」
ダリスは反抗して立ち上がったが、まだ足元がおぼつかない。
完全回復にはもう少しだけ時間が掛かるようだ。
「避ける準備はしとけよ、また成功するかは保証出来ねぇからな」
「フンッ、今度は俺様がそれをやる番だ……! 舐めんじゃねぇ……ッ!」
「ハハハ、期待してるぜ?」
ディビスはそのまま、ダリスの直掩に入った。
しかし、その時には既に、ギガントの狙いは変わっていた。
後続の冒険者達が攻撃を仕掛けたからだ。
「「「でぇィやァ――――ッ!!」」」
クランクを含む、三人の冒険者が剣で斬りつける。
ギガントは棍棒を振り回して、露を払うが如く、まず先頭の二人を吹き飛ばした。
「ゴグァッ!」
「「――ぐあああッッ!」」
「先輩ッ!」
二人は民家の外壁に叩きつけられて動かなくなった。
クランクは怒りで歯を食いしばり、憤怒の表情のまま突撃した。
「この、野郎ォ――――ッ!」
「ガァァッ!」
「当たるかよォッ!」
再び襲い来る棍棒を、軽々とジャンプで回避する。
しかし、それこそがギガントの狙いだった。
「ゲハハ……!」
「なっ……――――!?」
敵は左の拳を握りしめると、空中のクランク目掛けて振り抜いた。
「ゲハハァ――――ッ!」
(うぐっ、避けられ――――ッ!?)
猛スピードで眼前に迫る敵の拳。
クランクはせめてものガードに、腕をクロスさせた。
そのまま吹っ飛ばされて、また一人、戦闘不能になる――――筈だった。
「――クランクッ!」
ドンッ!
(ッ!? フィズッ!?)
後方から走り込んできたフィズが、空中のクランクを弾き飛ばした。
その結果、クランクは横に飛ばされて助かった。
だがフィズはその代償として、ギガントの拳をモロに受けた。
「グハ……ッ……!」
「ゲハハ――――ッ!」
吹き飛ばされた彼は、後方へとすっ飛んで行き、地面をゴロゴロと転がって停止した。
「フィズ――――!」
「フィズ! フィズしっかりして!」
クランクは叫び、レンカは駆け寄って無事を確かめる。
それを受けたフィズは、ボロボロになりながらも身体を起こした。
「い、生きてるさ……! 受け身は得意だからね……ッ!」
「フィズぅ……!」
「良かったぁ……っ!」
多少の怪我は負ったが、戦闘に支障は無さそうだ。
レンカとクランクは安堵した。
「グギギ……ッ、ゴアア―――――ッ!」
しかし、ギガゴブはそれが不服だったようで、フィズに追い打ちを掛ける。
棍棒をぶん回しながら走り、速度を乗せたジャンプ攻撃を繰り出した。
「ガァッ!」
「おっと!」
「とぅっ!」
二人は前方に飛んで攻撃を避けた。
ズドォ――ン!
「グゴ……!?」
回避された事に驚くギガント。
彼が反転する間もなく、体勢を立て直したレンカが魔法を使用する。
「“炎の槍よ敵を貫け! 火炎槍”!」
「グガァッ!? ギ、ギィアアアアアア―――――――ッッ!!!」
彼女の手から放たれた炎槍が、ギガントゴブリンの背中を焼き尽くし、悲鳴を上げさせる。
しかしそれでも、ギガントの目はレンカを鋭く睨んで離さなかった。
「ギギ……! ギゴゴァ――――ッ!」
「逃げるが勝ちっ!」
レンカは囮を兼ねて、逃亡を選択した。
仲間が体勢を立て直すまで、この仕事を担っておく事が最善の一手だと思ったからだ。
「こっちだよー!」
「ゴガァァ――――――ッ!」
キレたギガントゴブリンが追う。
レンカは挑発しながら、東へと一目散に逃げた。
「こっちこっちー!」
「ゴガァッ!」
ズドォン!
「遅いよっ!」
レンカは、下っ端ゴブリンが目前に迫った場所で、ギガントの攻撃を回避しつつUターンを行った。
仕切り直すにあたって、出来るだけ距離を離しておいた方が得だという判断だった。
そして、その判断は正しかった。
気絶した冒険者二名を回収するのと、足元がおぼつかないダリスが移動するのに時間が掛かるからだ。
(よし、このまま逃げ切れば――――!)
しかし彼女は忘れていた。
ゴブリンはタイマンを張れと言ってないし、なんなら彼らは中立ですらない、という事実を。
――――ガッ!
(え……っ!?)
突如、レンカの足に、何かが引っ掛かった感触がした。
彼女はそのまま地面に倒れ込んでしまう。
「きゃああっ!」
「「「ゲヒャハハハハハハハハッ!」」」
それと同時に、ゴブリンから笑い声の大合唱が響く。
「な、何……っ!?」
足元を見ると、重り付きの細い縄紐が巻き付いていた。
手綱は一匹の下っ端が握っていて、此方に引き寄せようとしている。
「ゲハハ、ゲヘゲヘゲヘ……!」
「ひぃっ……!」
彼らの目は血走り、口元からは涎が垂れていて、明らかに邪な欲求で満たされている。
思わず生理的嫌悪感を抱かせるような表情だった。
それでも彼女は、なんとか外そうと藻掻いた。
「うっ、くっ、こんなの……っ!」
しかし、いくら力を込めても千切れない、動けない。
その間に、背中を焼かれたギガントが近付いてくる。
「ゲハハハハ……ッ!」
「ひぃっ……は、早く解けてよぉ……っ!」
彼には、情欲よりも、背中を焼いた彼女に対する復讐心が強く出ていた。
ゆっくりとレンカの近くまで来ると、彼女目掛けて棍棒を振り上げた。
「ゲゲ……! ゲハハハ――――!」
「い、いやぁぁ――――っ!」
ギガントがこん棒を振り落としたと同時に、またしても一人の冒険者がエントリーする。
「レンッ、カァァァ――――ッ!」
「ゴ……――――!?」
それはクランクだった。背後には他の冒険者も続いている。
剣を下段に構えたまま突貫してきた彼は、スキルを使用して敵に攻撃を仕掛けた。
「――ユニークスキル! “会心斬”!」
「ゴグッ!? グァァッ!」
何かヤバい雰囲気を感じたギガントは、棍棒の軌道を変えて、相殺を狙った。
ショートソードと極太の棍棒がぶつかり合って、何とそのまま拮抗する。
しかし数秒後には、スキルの効果が切れてしまった。
「グゥゥ……ァアアッ!」
「うっ……! ぐはッ――――!」
クランクは打ち負けて、敵の攻撃を受けてしまう。
しかし、威力が相殺されたのと、防具のお陰でダメージが軽減された。
地面に膝を付きながら、ズズズズ、と滑っていく。
「畜生、なんてパワーだ……!」
「よくやった! 早く来いよ!」
「あざっす! ……ウォォ―――――ッ!!!」
すれ違いざまにディビスに褒められた彼は、再びギガントゴブリンへと突撃した。
そして、ギガントの真下に潜り込んだディビスは、真っ先にレンカの救出を行った。
ショートソードで細縄を断ち切る。
「オラァッ!」
ブチンッ!
「ゲギャ!? ギャ――――――ッ!」
縄を切られた下っ端ゴブリンは激昂し、ディビスに向かって走り出した。
数名も釣られて疾走し始める。
「「「ギャギャギャ――――!」」」
「チッ、お前ら早くレンカを――――」
彼が後続のフィズとダリスにレンカ回収の指示を行った瞬間、
「グゴオオオオオ――――――ッ!」
「コイツ……!?」
ギガントは怒り狂って、周囲を一掃するように棍棒を振り回した。
「クッ、避けろォッ!」
「「「応ッ!」」」
ブオンッ!
「きゃああああ――っ!」
「「「ゴペッ――――」」」
ディビス達は飛んで、間一髪で避けた。
レンカは近距離に居たので当たらなかったが、乱入してきたゴブリンは一匹残さず肉片になった。
ビチャァッ、という音と共に、突進してきた下っ端ゴブリンの血と臓腑が撒き散らされる。
他の下っ端達は被害を恐れて、数歩ほど後退した。
「ゲハハハハ……!」
「いやっ、やめて……っ!」
しかしギガントは下っ端の犠牲など意に介さず、再びレンカを狙ってこん棒を振り下ろした。
「ゲハァ――――――ッ!」
「いやあああ――――っ!」
ディビスとフィズは無理に飛んだ影響か、未だに体勢を戻せていない。
ダリスに至ってはうつ伏せの状態で、この場で唯一動けたのは、片膝を付く体勢に移行していたクランクだけだった。
「レン……ぐぅ……ッ!?」
なので彼が真っ先に助けようとするが、脚が縺れてしまって初動が遅れた。
(しまった、これじゃ……ッ!)
レンカの頭上にこん棒が迫る。
それでもクランクは、必死に手を伸ばした。
「レンカ――――ッ!」
「クランク……ッ!」
しかし無慈悲にも、二人は手を取る事は無く、棍棒が彼女の頭部に当たる――――
「ふざけるんじゃねぇ――――――――――ッ!」
――――その直前のタイミングで、一人の男の絶叫が響く。
更に、突如現れた黒い影が、猛スピードでクランクの横を通り過ぎて、レンカを掻っ攫っていった。
棍棒は地面だけを抉り取り、周囲に土砂をまき散らした。
「ゴゴグ……!?」
黒い影はそのまま地面を滑っていき、停止すると、相手の無事を確かめた。
「……無事か、青銅」
「だ、ダリスさん……!?」
影の正体はダリスだった。
彼は気力を振り絞って地を蹴り、レンカを救い出したのだ。
「ナイフだ、後は自分でやれ」
「あ、ありがとうございますっ!」
レンカを手離したダリスは、彼女にナイフを渡して、自力で縄を斬らせた。
彼は立ち上がると、ディビスに向かって話し掛けた。
「ディビス……てだ」
「ん、なんだ!?」
「く……っ!」
ダリスは悔しそうな顔をしながら、今度は大きな声で言った。
「……盾だ、盾だディビス! さっさと盾を寄越せ!」
「ダリス……! おうッ!」
彼からの要望を受けたディビスは、一つのスキルを使用する。
リズールとのコネを利用し、彼女からの仕事を引き受ける代わりに、推薦状と大枚を出して貰って、冒険者ギルドから購入したスキル。
その名も――――
「――“収納空間”!」
そう、スキル化された収納魔法そのものだった。
彼は次元の隙間を漁って、ボーンバッシュという盾を取り出すと、ダリスに向かって投げた。
「受け取れ!」
「ありがとよ!」
受け取った彼は、右手で剣を、左手で盾の持ち手を掴み、片手剣士の構えを取った。
そのままギガントゴブリンをジッと睨み付けて、大きく息を吐いた。
「ふぅー……」
「お前らッ! ダリスの後ろに集まれ!」
「「「は、はいっ!」」」
ディビスの指示で、全員がダリスの背後に回る。
その際、彼はこう指示を出した。
「フィズ、レンカ。気絶した二人を連れてギルドに行け。後は俺達が何とかする」
「「えぇっ!?」」
まさかの発言に、フィズとレンカは焦った。
「そんなっ!」
「これ以上戦力が減ったら……!」
しかし、ディビスはこう返した。
「問題ねぇ、もう勝ったも同然だ」
「「でもっ!」」
食い下がるフィズとレンカ。
それも当然だろう、こんなに苦戦しているのだから。
ここから更に人数を減らした上で、あの強者から勝利をもぎ取れるとは到底思えないのだ。
すると、クランクが二人の前に出て、ディビスの言葉を補強した。
「二人共、ディビスさんの言う事を信じてくれ。多分だけど、もう負けない」
「クランク、君まで……!」
「どうして言い切れるのっ!? あんなに強いんだよっ!? 人数が減ったら勝てっこないよ!」
フィズとレンカは――特にレンカは、クランクに対して本音をぶつけた。
クランクは『分かってる、分かってるよ二人共』と言いながら、次のように述べた。
「あぁそうさ、あいつは――ギガントゴブリンは強い。でも、あいつでも、今のダリスさんは破れない。格が違うんだ。そんな雰囲気がする」
「「格……!?」」
そう言われて、片手剣士となったダリスを見る。
クランクの言う通り、ダリスの雰囲気が明らかに違う。
理由は分からないが、今までのような猪突猛進で危なっかしい雰囲気が消えて、後続に安心感を感じさせる構えだった。
命名するならば巨岩の構えとでも言うべきか。
二人は、息を呑ませるような圧力を感じた。
「「ゴクリ……」」
「……チッ」
ダリスは軽く舌打ちをすると、離脱予定の二人を安心させるべく、強気な発言をした。
「後は俺様に任せろ青銅共。誓いを破った以上、もう負けやしねぇよ」
「「ダリスさん……!」」
なんというカッコいい発言だろうか。
俺様に任せろ、誓いを破る、とても甘美な響きだ。
その言葉の感動したフィズとレンカは、ディビスの指示に従う事にした。
「わ、分かりました!」
「気を付けて下さいダリスさん! ではっ!」
「おう、頼んだぞ」
二人は後方に居る、戦闘不能になった二名の回収して、ギルド方面へと走り去っていった。
敵を睨み続けているダリスは、とても落ち着いた口調で尋ねた。
「――ディビス、行ったか?」
「あぁ」
「そうか」
ダリスはそれっきり何も言わなくなる。
対してディビスは、棍棒を構えて警戒しているギガントゴブリンを見据えながら、強く言い放った。
「――――さぁ、反撃開始と行こうか!」
「「応!」」
ごめんマジで全然書けない……
次話は11月8日。夜8時~9時です。
Q.何でディビス達はこんなにも上手く行かないんじゃ……?
A.ダリスが悪いんや……
ここまで追い詰めないと盾持たないくらい信条が強すぎるんや……




