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239 テスタ村防衛戦 序・破章 【テスタ村の前日談 - 両軍激突編】

 ここからはナターシャの思惑通り(わたあめ並みにふわふわ)に事が進む訳だが、一度、数日前のテスタ村に戻る。

 先に情報を開示しておかないと、彼らが前線で踏み止まれる理由が分からないからだ。

 


 ハビリス村にローワン一派が逃げ込んだ事で、ウィロー派閥軍の情報が齎された。

 洗脳が施されたオーク行政官・近衛兵の他に、里外から移住してきたオーク――ウィロー精鋭軍が五千、人里襲撃用のゴブリンが四千も居るという情報だ。

 ウィローは“全てのオークに治世と知性と平等を”という正義の旗を掲げ、移民政策によってローワン派を少数派に押し込めたらしい。

 悪人が合法的に国を乗っ取る為の常套手段だ。


 だが、オークサイドの事情など、テスタ村側には不要な情報だ。

 彼らにとって大事なのは、数日も立たないうちに四千ものゴブリンが襲撃してくる、この一点に尽きる。


 そしてその情報は、ハルヤと共にテスタ村を訪れた狩人によって伝えられた。

 ハビリス族については狩人一族から聞いていたものの、唐突に村滅亡の危機を伝えられたので、テスタ村の村人は会合を開く事になった。


 まず彼らに与えられた選択肢は二つ。

 一つ目は、この村を捨てて逃げる事。

 ここから南の街道沿いに進めば、小さな農村が二つや三つほどある。

 そこに急いで逃げ込んで、スタッツ国軍によるゴブリン軍討伐を待つのだ。


 そして二つ目は、徹底抗戦。

 ただ全力で村を守る。それだけだ。


 テスタ村の人々は当然のように後者を選んだ。

 村を捨てられないのと、自分達でここを守ってきたという誇りがあるからだ。

 そこで狩人が『戦力が足りないので、冒険者ギルドを頼る事になるが――』と言うと、彼らは猛反発した。


「ふざけんじゃねぇ、冒険者よりも俺達の方が手慣れてるんだ」

「四千のゴブリンだろうと負けるもんか」

「他の村の援軍ならまだしも、冒険者なんて頼りにならねぇ」


 血気盛んな自警団は、口々にそう言った。

 彼らがここまで冒険者を嫌う理由は様々あれど、その根底にあるのは“嫉妬”だった。

 自分達はこんなにも頑張っているのに、吟遊詩人が謳うのは冒険者や戦争の英雄の事ばかり。

 それが悔しくて仕方なくて、他所者を敵視するに至っているのだ。


「それはそうだ。余所者が信じられないからこそ、全てを守りたいからこそ、俺は強くなれた」


 狩人はちゃんと理解を示した。

 しかしこうも答えた。


「だからこそ分かる。ハッキリ言って、お前達にこの村を守るだけの力は無い。他所者を頼れ」

「「「……っ!?」」」


 テスタ村の人々は衝撃を受けた。

 あの狩人が、まさか自分達の尊厳を否定すると思わなかったからだ。

 彼らはこぞって詰問した。『何故そんな事を言うんだ』、『鍛えてくれたのはお前だろう』と。


 狩人も否定はしなかった。

 だが彼が、『いくら気合を出した所で、四千対三十人という事実は変わらない。もし頼らなければ、一人頭で百体近くのゴブリンと戦う事になるんだぞ。現実を見ろ』と言った事で、自警団は黙り込んだ。


 そのまま会合を続けた結果、冒険者ギルドに掛け合う事に決まった。

 村全体にとっては苦渋の決断だったが、一部は思いのほか清々しい気持ちになっていた。

 何故なら、冒険者になりたい、ギルドを見に行きたい、という欲があっても、同調圧力によって誰も寄り付けない状況になっていたからだ。村社会あるあるだ。


 会合が終わって即、自警団の代表――ナターシャと会話していた男性がギルドに出向いた。

 彼の横を、最近よく見る青髪のメイドがすれ違っていったが、彼が気に留める事は無かった。


 彼はギルドに入って早々、ゴブリン襲撃の情報を伝えた。

 ギルド側は既に情報を把握していて、フミノキース店と軍部に援軍の打診をしている、と伝えてくれた。

 襲撃当日には、冒険者に向けて緊急クエストを発布する予定らしい。


 何故そこまで準備が良いのか、彼はとても疑問に思った。

 だが、襲撃対策を進めてくれているのはありがたい。こちらの仕事に集中出来るからだ。

 彼は冒険者についてはギルドに一任して、村の守りを固める事にした。



 それから襲撃当日になって、自警団に援軍の内訳が語られた。

 フミノキース店からの援軍は千人。各地から戦闘出来る職員をかき集めたらしい。

 早くて今日の午後、遅くても深夜には到着する予定との事。


 テスタ村に滞在する冒険者達は、“合成の魔女”と呼ばれている例の子供魔導士の援護を信じ切っているらしく、とても勇んだ様子で残留してくれた。

 対して、外部の冒険者は犯罪歴の精査が大変なので省かれた。

 自警団としては、そういった横暴な冒険者の対処に困ってはいたが、援軍に来ないとなると少し心許なく感じてしまう。ギルドとの契約上、仕方ないとは言えだ。


 そしてなんと、スタッツ国軍部からの援軍はゼロ。

 ガーネット公爵家の現当主、グレオリオン元帥が突っ撥ねたらしい。

 何でも『エンシア王家が居るのに首都を空にする事は出来ない』という、傍から見れば至極真っ当な理由を言っていたらしいが、実際は辺境のテスタ村程度、滅びた所でどうでも良いようだ。

 交渉に出ていた職員が、とても悔しそうな顔でそう語ってくれた。


 収税役人を拒絶する偏屈な村だからと言えば仕方ないが、彼らにしてみれば、自前で納税から村の護衛を行っているにも関わらず、『役人を入れないから』の一言で見捨てられるのは心外である。

 テスタ村の人々は、改めて“この国は信用ならない”と認識した。


「戦争後の対応の悪さから分かっていたが、グレオリオン元帥は傍若無人が過ぎる」

「全くじゃ、人命よりも金と地位と名声を大事にしているヤツだ、と昔から言われておる。とんだひとでなしじゃ」

「もっと心優しい人が当主になってくれんかのう」


 老人達は、村外れの仮設冒険者ギルドでそんな会話していた。

 この仮設ギルドは、ナターシャのテント魔法を活用しているので、屋内であると同時に魔物が寄り付けない避難場所でもあるのだ。

 内部には老人の他に、女性と子供も逃げ込んでいる。


「今のガーネット家は駄目じゃ、欲に支配されとる」

「本家が国の当主だった頃は良かったのう……」

「ムーア村大惨禍さえ起きなければ……」

「うっ、やめんかその話題は……!」

「そうじゃ。あれは、力が無かったワシらも悪いんじゃ……」

「す、すまん……」


 そうして過去を懐かしんだり、後悔したりしていると、村方面が騒がしくなる。

 どうやら、ゴブリンの襲撃が始まったらしい。

 ギルド内の村人達は恐怖に震えた。





『ゴヒャァァァ―――――――――ッッ!!!!』


 先陣を切って来たのは、ゴブリンのスカベンジャー騎乗隊、総数にして八十体。

 黒いハイエナのような魔物に乗ったゴブリンは、突撃を防ぐ馬防柵など飛び越えてしまわんと、脇を蹴って速度を上げていく。


「来るぞォォ――――!」


 敵は中央目掛けて進んでいて、ほかには目もくれていない。

 何故なら、彼ら騎乗隊の仕事は敵の分断であり、それ以外の事は教育されていないからである。

 後は雪崩れ込む歩兵が敵を殲滅する、という流れだ。


「よし、記念すべき第一射ァッ!」


 だからこそ、対策が容易だった。

 カレーズは騎乗隊に向けて矢を放つ。


 バシュンッ!

「ギャビッ!?」


 放たれた矢は、先頭を進むスカベンジャーの脳天を撃ち抜き、後方の騎乗隊を巻き込むように横転させた。

 

『ゴギャアア――ッ!?』(ガッ、ゴロゴロゴロゴロ――)


 それによって、約半数の騎乗隊が戦闘不能になって、一部は骨折により物言わぬ血袋と化した。

 しかし、それでも敵の進軍は終わらない。


「魔法! 弓矢! 撃てェッ!」

「“火炎球ファイアーボール”!」

「当たれぇー!」


 ディビスは遠距離攻撃の指示を出して、中央を食い破ろうとする敵を食い止めようとする。

 対して、生き残った騎乗隊は何と、冒険者が放つ魔法弾幕を回避してどんどんと距離を詰め始めた。

 

「何だあの操縦技術はッ! 化け物かッ!?」

「良いから敵を近付けるなッ! 気合で当てろォォッ!」


 これは、生き残ったスカベンジャーがたまたま優秀な個体だったから起こった悲劇だが、敵対している側にとってはたまったもんじゃないだろう。

 なおゴブリンはオマケなので、あまりのスピードに耐え切れず、振り落とされて戦闘不能になっていった。


「「「グアア――――ッ!」」」


 数十秒後、不運にも主のゴブリンを失いつつも、魔法と矢の弾幕を突破した二十頭のスカベンジャーが最前線に到達した。


「ガブ! ガブッ!」(バキバキッ、ジュウウウ――――!)

「コイツら柵を……ッ!」

「やめろォッ!」


 彼らは馬防柵を、自身の持つ“悪食”スキルによって捕食して、敵陣中央を突破しようと暴れまわる。

 冒険者は得物を振るって攻撃するが、彼らは上手く避けて柵を食い破っていく。

 何故なら、このまま中央を突破して西に抜ければ、自分達の生息地に帰れると分かっているからだ。

 帰巣本能が起こした執念の賜物だった。


「このままじゃ持たな――――!」

 

 冒険者が悲痛な声を上げると共に、遂に中央の一つがバラバラに砕けた。

 スカベンジャー達は我先にと入り込むと、周囲の冒険者に腐食性の唾液を飛ばす。


「ケハッ!」

「ペッ!」


 ビチャビチャッ、ジュゥゥ……ッ!


「くっ、酸か!」

「当たると爛れるぞ! 離れろ!」


 前衛職の冒険者は、少し距離を取って敵対した。

 対してスカベンジャー達は、唾液を飛ばして中央をこじ開けると、南西へと走り去っていった。


『ワウーン……!』


 ウィニングランである。


「逃げていった……!?」


 敵対した冒険者は呆気にとられたが、そんな余裕はないとすぐさま思い知らされた。

 スカベンジャーの後ろに続いていたゴブリン軍もようやく追いついて、中央へと雪崩れ込んで来たのだ。


「「「ゲヒャハハハハ――――――ッ!」」」


 百二十体にも及ぶゴブリンを盾にして、体長が三メートルもある、とても恰幅の良いゴブリン上位種――五体のギガントゴブリンが、大きな棍棒を振りかぶる。


「ッ、後ろに飛べッ!」

「「「了解――!」」」


 ディビスは中央の冒険者に指示を出して、全力で後方に下がらせた。

 その瞬間、近場の柵が破壊されて、粉々の木材が空を飛んでいく。


 「相変わらず馬鹿見てぇな力出しやがって……!」


 忌々しく呟くディビス。

 そして、指揮としては正しいが、結果としてはゴブリンの侵入を許してしまった。

 ゴブリン達は風穴が開いた中央から、ギガントゴブリンの隣を抜けて、村内部へと走り出す。


「「「ゲハハハハ――――――ッ!!!」」」

「チィッ! 後退しながら対応しろ! 西のギルド方面には進ませるなッ!」

「「「了解ィィッ!」」」


 ディビス含む中央の冒険者は、村内部での乱戦を強いられることになった。

 右舷・左舷陣営は後方から抑え込もうとしたが、ギガントゴブリンが手強く、苦戦を強いられる。

遅れて申し訳茄子。

次話は11月2日です。夜8時~9時。

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