23 か弱い少女に修行パートなんて必要ないと思う
父の修行から一か月後。
一体ナターシャは何をしているのでしょうか。
それでは覗いてみましょう。
「ハァッ……ハァッ……くぅっ……!!」
一か月ぶりですね。赤城恵です。
秋も深まり森の木々も少しずつ隙間が空いて光の差し込みが多くなってきています。
地面に舞い落ちた葉もやがて土へと帰り、また木々を育てるのだと思います。
まぁ、今の時間帯は夜ですが。
さらっと景色の説明してましたが辺りは全く見えないです。スマホで起動してるナビの道案内だけが頼り。茂みなども事前予測してルートを作ってくれているらしくとても快適に走っています。
そもそも何故こんな夜に森の中を爆走しているのかというと、
『ナターシャー! 逃げないでくれー! 僕の剣術完成まで手伝ってくれー!』
「もうやだって言ってるでしょぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!」
はい、剣術馬鹿と化した父に追いかけられています。
背後ではキンッ、シュキンッ、という刃物の音と共に森の木々が倒れる轟音が鳴り響いています。
まぁ何故こんな事になったのかを説明しましょうか。
あ、過去の回想とか時間食うだけなんで入りません。サラッと行きます。
まずあの日、父に流されるままユリスタシア流剣術の奥義の作成を始めた俺。
斬撃に炎を乗せて“爆炎斬”、斬りながら水の刃を発射する“水光波斬”などなど、様々な奥義を実演する羽目になりました。
厨二病の記憶だけでも十分辛いのに、厨二病な行動を強制させられるというのは更に辛いです。顔も引き攣ってたに違いない。
1時間でおよそ20個ほど奥義を作った所で終わらせると、こんどは修行パートに。
基本を覚えないと真の完成には至らないとの事なので。
……あぁ、1回だけだったはずだろ? ですよね。勿論聞いたよ? そしたら、
『1回とは言ったけど何が1回とは言ってないし、奥義も完全には完成してないよね?』
という理不尽で大人げない言葉を告げられました。子供か。
その為、これからの父の1回だけは“完成するまで”という意味だと受け取る事に決定。
なので今回はもう色々と諦めました。付き合うと認めたのは事実だしね。
そこら辺は大人の対応です。流石俺。
まぁそんなこんなで修行が始まりました。
最初は“魔法使えない時の自衛手段として覚えるくらいならいいかな”、という軽い気持ちだったんだけどそれがもうキツいのなんの。
まずは基礎体力を付ける為にと毎日素振り1000回から始まり、近所の走り込み10㎞。それが終われば技術を身に着ける為に模擬戦。ホントキツイ。
模擬戦ではバフ魔法込み込みで殴り込みに行ってるのに当たる瞬間に父が“ブレ”て攻撃が当たらないの。ブゥンって。
魔法使っても良いって言われてるからガンガン使っていってるんだけど、当たったと思う瞬間にシュンッと父の身体が霞んで魔法が通り過ぎる。もう意味わかんない。
まぁそこら辺は良いです。まだ魔法でズル出来るからね。
……あぁ、デメリットの筋肉痛?
あれは姉と本気で戦った結果の産物なので、無理しすぎないように加減すれば一日二日で済むんです。
まぁ強制的に筋力とか引き上げてるから多少筋肉痛になるのは仕方ないね。
暇潰しついでに筋肉痛を治す魔法も作れたんで、それで筋肉痛を治して2日程悠々自適に過ごしては1日修行してを繰り返していたんですが、父が突然、
『そろそろナターシャも新たなる段階へ至るべきだ』
と言って少年漫画でよく見る修行シーンみたいな事をやる計画を話してきたんですよ。馬鹿なの?
剣山の上に立ち続けたり、直立した丸太の上に立ち、針の付いた鉄球を避ける訓練だったりと命の危険を感じる内容を1か月後に行うと言われたので、やらされる前に周到に準備をして夜逃げしました。勿論逃げる目的地も決まっています。
あ、ちゃんと書置きも残しましたよ?
『お母さんへ お父さんが訓練と言って私を殺しにかかっているので逃げます。ついでにお兄ちゃんの所に暫く泊まろうと思います』
こんな感じの書置き。聡明な母なら気づくでしょうが心配しているのは間違いないですね。迷惑をかけますがそれより命の方が大事。
多分、母はこの書置きを父に見せたんでしょうね。父も急いで追いかけてきたと。
最初は森の街道を歩いていました。兄の居る国への道筋は事前に覚えたので。それにNAVIもありますから迷っても大丈夫。
そして今日は満月。夜道も明るく先もよく見えます。怖さも軽減です。満月かどうかはスマホの天気予報で見ました。便利ですね。
そんな感じでのんびりと星を眺めながら歩いていると突然、『見ーつけたぁ』という声。
振り返ると真剣を持ったハァハァと息の荒い父が、とんでもない笑みで満月を背に受けて立っているんですから怖いのなんの。
ぎゃああああ!!!と女の子らしくない悲鳴を上げてダッシュで逃げました。
だから現在スマホの最短経路を頼りに森の中を駆け、父と楽しい楽しい深夜の鬼ごっこしています。
多分帰ったらまた剣の鍛錬が待っています。俺は剣より魔法が使いたいんだっての。
更に剣術訓練に関しては前回の事があるので母が俺の味方してくれるかどうか分からず、疑心暗鬼になっているので下手に家に戻れません。なので逃亡一択。
そして多分なのですが、父は本気を出していないと思います。だって剣を薙ぐ音が全然離れないんだもん。一定距離を保ちながら後ろを追いかけてくるとかなんのハンティングゲームだよ。
『ナターシャー! お家に帰ってパパと修行しようよー!』
「死にそうな思いしてまで上達したくないんだってばぁぁぁぁぁあああああああっ!!!!!」
くぅ、完全に余裕ぶっこいてる。コッチはハァハァ息を切らしてるっていうのに!
くそう、何かお父さんの足を引っ張る物は無いのか……!
NAVIアプリの裏でカメラを起動、照明をオンにして先を照らしながら進んでいくと少し先に複数の小さな影が。
「ゴブッ!?(眩しっ!?)」 「ゴブブっ!?(なんだ!?)」 「ゴブゴブ!?(なにあれ!?)」
どうやらゴブリンのようだ。
それも3体ほど。
「どいてぇぇぇぇえぇぇぇええぇぇえええっっっ!!!!!」
ナターシャは叫びながらゴブリンの集団に突っ込む。
普段なら喜んで襲い掛かってくるだろうが、夜中に光を放ちながら疾走する謎の物体なんて怪しさMAXなようでそのまま棒立ち状態。
自分達の集団の中央を突っ切って走り行く少女を茫然と眺めている。
「ゴブ……(なんだったんだ今の……)」 「ゴ! ゴブブ!(待て!さらになんか来たぞ!)」
『ナターーーーーシャーーーーーーー!!!!!!』
『ゴ、ゴブギャアアアアアアアアア……!!!』
背後で剣音と共にゴブリンの断末魔が響く。
ナムアミダブツ。哀れゴブリンは斬刑に。
まきこんでゴメンとゴブリンに謝罪しながらも、まぁ魔物だし良いよねという免罪符を使っておく。
しかし父の足止めをするにはまだ力が足りない。
父の足止めになる事を祈りつつ近場の木を真空斬撃で切って後ろに倒していくもただ斬撃の音が増えるばかり。
……え? 何で? もしかして避けたりジャンプするんじゃなくて倒れてきた木を切り刻んで道作ってるの?
父の剣術の腕前の凄さが推測されるような感覚がしつつも気にせず走っていると今度は大きな影。
「……ナンダ? ヨナカニヒカルモノ? ヨウセイカ?」
今度はオークのようだ。しかも大きな斧を持ってる。これは使えるかもしれない。
「おじゃましまぁぁぁぁあぁあぁあぁぁっす!!!!」
そう言ってオークの後ろに潜り込む。
そしてオークの背中に手を当てて……
「ナッ!? ニンゲン!? ナニヲ……!?」
オークが驚いて固まっているのを良い事に魔法の詠唱をする。
「“この世界に存在せし古今東西の英雄よ、その膂力を我が前の肉体にて再現せよ”……!」
「……ッグ、グオオ!? チ、チカラガアフレル……!」
そう、オークのリミッターを外してあげました。
これなら10分は足止めできるはず……!
「後は任せたよ名も無きオークさん!」
ナターシャは掛け終わると同時に再び走って逃げる。
普段なら容赦なく襲い掛かるオークも余りにも現実離れしているせいで茫然としている。
「イ、イッタイナンダッタ……」
頭をポリポリと掻き、ナターシャが走ってきた方向を見て……
『ナターーーーーシャーーーーーー!!!!』
「ナニッ!?」
オークの前にバッ、と飛び出てきたのは眼光から赤い光を迸らせた一人の男。その剣の先は血で塗れている。
少女が逃げていたのはこの男からだったのか、と理解したオークは斧を構える。
俺は騎士などでは無いし、人間の事情に興味など無い。
だが、意味の無い殺戮は許せない。殺したら必ず美味しく頂く。それ事こそが生命だ、とオーク流の正義の心が奮い立つ。
しかし男は既にオークの真下へと潜り込み斬り上げの構えを取っていて……
「邪魔だァァアァアアアア!!!!!」
「グ、グオオオオオオオオ!!!!」
……背後からガァン!ガィン!という重い剣戟の音が響き始める。
やはりオークは強い。騎士に正々堂々と1対1で決闘を挑んでくる種族は伊達では無いなと改めて思う。
まぁ負けるとお持ち帰りされて食べられるんですけどね物理的に。なんで良い種族ではないです。
でも比較的知的なんで交渉次第では生きて帰れるそうですね。その分膨大な量の食糧を要求されるようですが。
ナターシャは父親を完全に振り切る為、「“疾走”!」「“爆走”!」と単語魔法を起動して更にスピードを上げ、父を振り切る為に全力を賭す。あばよー! 〇っつぁーん!
そのままナターシャの姿は森の闇の中へと消えていった。
……まぁ、スマホのライトの光で割と目立つんですけどね。
はい。7歳にて家出です。
尾崎豊もびっくりですね。
まぁこういうノリでドンドン文章を書いていきたいです。
9日から極力毎日投稿しようと思ってたんですが間が空いてしまい申し訳ない。
職場に新人が入ってきて時間が足りねぇ……なんの嫌がらせだ
多分これからも一日空いたりします。ご了承ください。




