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235 下弦の月《ラストクォータームーン》 ‐主要人物の紹介-

 20〇〇年、12月29日。午後8時。

 現実世界である、日本の某所の一軒家。


『――あー、あー、聞こえますか?』


 ここ最近、様々な事情で点けっぱなしだったノートPCの画面に、一人の銀髪外人少女の動画が映っている。

 PCの持ち主であるニートは、食料の買い込みをする為に、コンビニへと向かった。


『――こんばんは。お久しぶりです。異世界系動画配信者のユリスタシア・ナタ―シャです。色々と更新を止めてしまってごめんなさい。

 えっと、動画投稿が止まった理由ですが――ちょっとリアルで嫌な事があって、塞ぎ込んじゃったんです。けれども、久しぶりに再会した友達に励まされて、また自信を取り戻せました。SNSで心配してくれた皆もありがとう。でも、もう大丈夫。私は元気だよっ!』


 ニートは非常に焦っていて、久しぶりに顔を合わせた両親とも、思わず会話してしまう程だったという。

 まぁ、彼の事情は大事ではない。PCに映る動画の方が重要だった。


『では、現在の異世界の様子をお送りしますね――――?』


 画面内の少女は可愛く手を振ると、カメラを後退・上昇させて、周囲の様子を映した。

 展望台らしき場所には、銀髪の魔女っ娘と、数カ月ぶりに登場した西洋甲冑騎士、見慣れた顔の超絶有能な美人メイド、風使いの中二病患者、国民的ゲーム風スライムが居た。


『――ほら、外の景色はどうですか? 綺麗ですよねー』


 更に、展望台から見えた景色は、二つの半月が昇る夜空を背景に、沢山の松明と、金色に光る石柱によって照らされた盆地の集落だった。

 とても幻想的な景色だが、何やら慌ただしい状況だとは分かる。

 北の抜け口にある砦付近に、何やら大量の物資が運び込まれているからだ。

 一部の有識者達は『ここって“小人族の集落を旅する”の撮影に使われた村じゃね?』と即座に分かったようだが、オークの数があまりにも多い状況が、尚更に不穏な空気を漂わせていた。


『で、ですね。実は――――』


 そこでようやく、少女の口から衝撃の事実が告げられた。


『――実は私達、オークと戦争する羽目になっちゃいました。いやぁ、異世界って怖いですね?』


 少女のこの発言は、純朴なファン達に衝撃を走らせた。

 SNSには数十もの切り抜きが投稿されて、戦争が始まる前に本丸(SNS)が炎上した。

 保守派(ナターシャのほのぼのとした日常が好き)ファンは狼狽え、コメントで異世界の平和を願い、革新派(魔物討伐TA動画が好き)ファンは『おぉ乱世乱世』と引用コメントする事でテンプレ化を狙って、古参と保守派の牙城を崩さんと躍起になっていた。

 まぁ、そういうのは置いておいて。


『では、なぜオークと戦争するに至ったか。今からそれを説明します――』


 異世界系配信者のユリスタシア・ナターシャは、オークとの戦争に至った経緯を、リズールの注釈を交えながら視聴者に説明した。


 ――実は、“村にはオークとエルフの兄妹が居る”、“シバ兄妹は逃亡者だ”という情報は、ファンの間でも密かに知れ渡っていた。

 ナターシャスレでも、『もしかしたら厄ネタでは?』と不安視されていたが、それがついに現実となってしまったのだ。


 ……だがしかし。

 シバの師匠であるローワンが起こしたクーデターと、敵であるウィロー派の真実が明るみに出た事によって、彼らの不安は強い期待へと変わった。


 現代の道徳観によって、“こちらが正義で、相手が悪”だ、と完全に二極化された構図は、『近年稀に見る勧善懲悪の戦記物で、とても貴重だ』として、彼女のファン層、更に、炎上によって異世界の事情を知った層から、『絶対に負けるな』という沢山の応援メッセージを引き出したのだ。

 怪我の功名とはまさにこの事だろう。


『――こちらの事情は以上です。いやぁ、相手陣営の悪逆非道っぷりが酷い。洗脳と王の奴隷化はアウトでしょうよ。そりゃ離反されます。

 ……とはいえ、戦争は起こって欲しくなかったですね。できれば平和裏に終わって欲しかった。だけどまぁ、起こったならば仕方がない。名を挙げる機会だと思って頑張ります。目指せ完全勝利!』


 ナターシャが話すように、成り行き的にも仕方ないのだ。

 起こるべくして起こった戦争と言える。


『……じゃ、重い話題はこの辺にしまして。次は、此度の戦争――オーク・ハビリス戦争で、一騎当千の働きをするかもしれない人達! いわゆる、主要人物さんの紹介していきますねー? ではでは、次の動画でお会いしましょうっ! またねーっ!』


 少女の顔がドアップになると、動画の再生が終わって、次の動画へと移動した。

 主要人物の紹介動画だ。



 ☆人物紹介☆


 ~ナターシャ陣営~


 ユリスタシア・ナターシャ 八歳。

 銀髪蒼眼、超魔力持ち、どんな魔法でも使える天才美少女。

 無詠唱魔法だってお手の物。超強いよ!


 斬鬼丸 0歳三か月

 ナターシャ御付きの西洋甲冑騎士。実は剣技の精霊。

 風精霊の加護と、最強の剣技を使いこなす。


 リズール・アージェント 十八歳(見た目)

 青い髪に赤い瞳をした、超有能な美人メイド。

 そんな彼女、実はゴーレムで、大賢者が造った魔導書が本体だ。


 スラミー 0歳二ヶ月

 小説やアニメなどで見る、球体型のスライム。無性。

 種族名はマギカスライムらしい。

 魔力で生きているので、どんな魔法でも吸収して、無力化出来る。


 クリスタリア・クーゲル 十六歳

 スタンリー十傑作、第四使徒。

 本名は魔弾のヴェノム。黒髪。会話が苦手。白いマスケット銃で戦う。

 弾丸専用の創造魔法や、マスケット銃の欠点を解消するスキルを沢山を持っている。

 特に魔毒式ヴェノムシリーズは、どんな相手でも絶対に死ぬらしい。


 癒杖(ゆじょう)のヒール 十二歳

 スタンリー十傑作、第五使徒。

 金髪ストレートのロリっ子。はわわ系。

 回復魔法、聖属性魔法を主に扱う。母性に溢れている。


 樹槌(じゅつい)のツリー 十五歳

 スタンリー十傑作、第六使徒。

 ライトグリーンの長髪をツインテールに纏めている。

 性格はドS。“森羅”、“培養操作”というスキルが後衛向けで優秀。

 なので戦闘に回されないのが不満。


 氷刀(ひょうとう)のアイス 十五歳

 スタンリー十傑作、第七使徒。

 菫色のポニーテールヘアー。口元を黒布で隠す暗殺者系。

 氷魔法を使う他、スキルで氷刀を生成したり、飛ばしたり出来る。


 蒼穹の嵐、ヘルブラウ・シュトルム 十四歳

 スタンリー十傑作、第八使徒。本名は嵐双剣のウィンド。

 空色の髪に、赤いエクステを付けている中二病患者。

 風魔法の他に、スキルで召喚した双剣を手にして、戦場を駆ける。



 ~ローワン陣営~


 この世界のオークは、エルフとゴブリンの子供が生まれたらどうなるか、という物語が紡がれて生まれた。

 言うなれば、樹木精霊エルフ種から分岐した、樽樹オーク族という亜人。

 なので稀に、何らかの事情で先祖返りを起こして、ハーフエルフが生まれる。


 ‐彼らの見た目‐

 ゴブリン特有の緑肌と成長速度に、エルフ特有の高身長、更に、ゴブリンの元となった土精霊(ノーム)の血も受け継いだ事で、男は筋骨隆々、女はナイスバディに成長する。


 シバ 十五歳

 妹を守るために里を抜けた、心優しいオーク。

 オークキングの息子。

 あまりにも優しすぎて、寝返った同胞を殺せないのが弱点。


 トコ ダークエルフ 七歳

 シバの血の繋がった妹であり、稀に生まれる先祖返りの少女。ブラコン。

 白髪。紫の瞳。年齢こそ7歳だが、オークの血のお陰で見た目は14歳相当。

 長い洞窟暮らしのせいで闇焼けを起こし、褐色肌のエルフ――ダークエルフになっている。


 ローワン オークドルイド 三百十二歳

 シバの師匠であり、旧宰相。老人。オークの里の基礎を創った者。

 温和な性格だが、厳しい一面もある。

 “呪詛”という、オーク固有魔法のプロであり、最高の医者。


 その他モブのオーク・ハーフエルフ

 元は狩りも兼業していたが、生産職に回されて鬱憤が溜まっていた者が前線に、そうじゃない者は後方勤務に回っている。



 ~ハビリス族陣営~


 ハビリス族とは、ゴブリンと人間のハーフで、小人種のマイナー亜人に分類される。

 命名は初代契約者の老狩人。辺境に住む魔導士と話をした時、そういう単語を教えて貰った。

 彼らの見た目を簡潔に言うと、エルフ耳のロリショタ。


 狩人 ??歳

 ハビリス村成立に関わった、老狩人の子孫。

 歴代最高との噂。


 ハルヤ 19歳

 村のまとめ役。うら若き乙女。狩人の事が大好き。

 ハビリス族で一番強い。


 エミヤ 18歳

 ハルヤの弟。鍛冶精霊ドワーフの力を発現して、村専属の鍛冶師になった。


 その他モブのハビリス族

 男が前線、女が後方程度。

 数が少ないので、目立つか目立たないかは運次第。



 ~テスタ村陣営~


 ディビスチーム

 ナターシャのおかげで、防御力だけは白金プラチナ――Sランク級になった冒険者達。

 中でも主要なキャラは、ディビス、カレーズ、ダリス、クランクの四名。

 彼らの活躍を期待してあげて欲しい。


 その他モブの冒険者

 合成の魔女の噂を聞いて、辺境のテスタ村にやってきた冒険者達。戦闘力は不明。

 総勢で四十~五十名くらい。真っ当な人格をしている。


 テスタ村の自警団

 狩人が教育した村の男衆。戦闘力はDからF。人数は三十人。


 冒険者ギルド・テスタ村支部

 まだ出来たてほやほやなので戦力外。

 運用資金もナターシャに依存気味。


~ウィロー陣営~


 倒すべき敵オーク達。


 宰相ウィロー

 敵の親玉。常に人語で喋るオーク。若い見た目。

 とても嫉妬深く、自分より有能な人材を排除しようとする。

 逆に付き従う者には、マインドコントロールを仕掛けて、都合よく操ろうとする。


 オークキング

 シバ兄妹の父。ナラ・オークという名前。名は世襲制。

 現在はウィローの奴隷となってしまっている。

 彼の妻は心労で倒れて、どこかに隠居している。

 名前はナラ・オルダー。ハンノキの女王と呼ばれていた。


 側近のオークドルイド

 ウィローのイエスマン達。基本的に愚鈍。

 彼の成功を助け、甘い汁を啜って生きている。

 合計で八人居るが、三人くらいしか表に出て来ない。


 ウィローの精鋭軍

 五千のオーク常駐軍。勇猛果敢な馬鹿の集まり。

 四千頭ものゴブリンに食料を与えて、飼い慣らしている。



 ――敵陣営の紹介が終わると、映像が変化して、またナターシャが映し出された。

 画面内の少女は、パン、と手を合わせて、元気よく話し出す。


『……はい、主要人物の紹介は以上となります! 結構多いと思いますが、頑張って覚えて下さい! そして私も――――マジになります』


 彼女はスッと真面目な顔付きになると、左手を画面に向けて、静かに叫んだ。


『“終式封印――我が力よ、永久とこしえに眠れ――”……!』


 詠唱が為されて、左腕に包帯、右目に眼帯が付けられる。

 ナターシャは『クク……』と怪しく笑って、左腕の疼きを抑えながら、視聴者にこう伝えた。


『――聞け、我が視聴者達よ。実は、異世界系配信者、ユリスタシア・ナターシャとは、世を忍ぶ仮の姿。……本来の私は、真の最強を目指す魔王候補が一角――“合成の魔女”だったのだ。

 だからこそ、次元という壁を越え、そちらの世界へと動画を配信する事が出来ていた。今までずっと隠していて済まなかった……』


 とても辛そうに振る舞うナターシャ。


『しかしそれも、今日を以て終わりとする。突然で悪いが、これは不変事項なのだ。

 だが、お前達に無理強いはせぬ。受け入れられない者は去り、理解出来る者だけが残ると良い。全ては一期一会だからな。……さて――――』


 しかしふと、辛そうな顔を止めて、視線をカメラに向けると、今度は楽しそうに話し始めた。


『――――本来の私を見せた所で……お前達に次回の動画情報を教えよう! ――フッ、喜べ。次回はなんと()()()だ! お前達が再生数と登録者数を伸ばしてくれたお陰で可能になったぞ! ……故にッ!』


 魔女はバッ、と手をクロスさせて顔を隠し、目元を僅かばかり出して、眼帯の模様がキラ、と光る様子を見せつつ、画面の前に向かってこう宣言した。


『オーク・ハビリス戦争――命名するならば“年末大将戦”は、12月29日――つまり今日の夜9時から、戦争終結までぶっ続けで放送し続ける予定である! 魔王候補である我の初陣なのだ! 戦も放送も、盛大に盛り上げてやるつもりなので、是非に期待しておけ! ではまた会おう、未来の眷属達よ! さらばっ!』


 そこで動画が終了し、再び前の動画に戻って、可愛いナターシャちゃんが映る。

 流出したテスト配信っぽい撮り方をリスペクトしたのか、はたまた偶然の産物か。

 何も語らないノートPCは、誰も居ない部屋を照らし続けていた。


 主のニートは今頃、コンビニで買い込んだ四日分の食料をぶら下げて、全速力で走っている頃だろう。

次話は10月21日。夜8時~9時です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! 長い放送だと思いましたら、しっかりのキャラクター紹介が入れました。わざわざ、誠にありがとうございます!とりあえず使徒さん達の事を判る様に成りました! 私個人…
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