表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
233/263

232 ハビリス族の児童疎開と、村防衛チームの最終会議《ファイナル・ミーティング》

 左手に包帯を巻き、右目に白い眼帯を巻いた邪気眼系銀髪少女。

 いわゆる、合成の魔女バ―ションのナターシャは、転移して早々、地面に跪いた。


「あぁ何やってるんだろ俺……我に返ったらクッソ恥ずかしいんだけど……」

『正気に戻るのが早いですね我が盟主マイロード?』

「いやだって、クレフォリアちゃんと会えて嬉しかったし、つい興が乗って……」

『私はカッコいいと思いますよ?』

「あぁうん……」


 でもやっぱまだこれはキツい……

 戦争が始まるまでは普段の自分で居よう……


「“終式拘束開放――我が封印を解き放つ――”……」

『あらら、勿体ない……』


 ナターシャは封印を解除し、立ち上がった。

 包帯と眼帯がシュルリ、と解け落ちて、光の粒子になって消えてゆく。


「――はぁ、よし。じゃあハビリス村に行こっか」

『分かりました。“ハビリス村”』


 二人は再転移して、ハビリス村の様子を見に行った。

 




「はーい、ハビリス族の子供達さーん! 集まりましたかー?」

「「「はーいっ!」」」


 転移先の納屋の前には、癒杖のヒールの働きによって、ハビリス族の子供達が集められていた。

 これから戦争が起きるのだ、子供達を巻き込む訳にはいかない。

 まずは安全な場所に避難させるのが先決だった。


 その役目を負ったのが――常日頃から子供達の面倒を見ていた、癒杖のヒールだった。

 彼女は十傑作の回復担当であると同時に、他人のメンタルケアすらも行える万能の回復術師だったのだ。

 だからこそ、子供とその親からの信頼が厚く、賛成多数で任命されたらしい。

 ヒールもかなり乗り気だったらしいので、お互いにWIN-WINだと思う。


「じゃあこれから移動しますよーっ! ちゃんと、ヒールに付いて来て下さいねーっ?」

「「「はーいっ!」」」


 ヒールが子供達を連れて、納屋の中へと入って来る。

 何故なら、子供達の疎開先は、俺達のアジト――スタンリーの元秘密工房だからだ。

 テスタ村にも戦火が届きそうな今、安全に匿える場所はそこしか無かったので仕方ない。


「……はわわっ! ナターシャさん、リズールさん、こんばんはっ!」


 ヒールは、主二人にぺこっと頭を下げる。

 二人は緩く対応した。


「こんばんわー」

『こんばんはヒール。遠足は順調ですか?』

「大丈夫ですよリズールさんっ! 全員ちゃんと集めましたのでご安心をっ!」


 ふんすっ、と威張るヒール。

 ナターシャはとても感動して唸った。

 彼女から、万物を包み込むような強い母性を感じたからだ。

 ヒールはくるっと後ろを向くと、子供達に向かって、元気よく声を掛けた。


「では皆さーん! 今から転移しますからねーっ!」

「「「はーいっ!」」」

「じゃあ最後に、ハビリス村のお父さんとお母さんに向けて、出発の挨拶を叫びましょうかっ! “行ってきまーす!”」

「「「行ってきまーすっ!」」」


 その大声を聞いたのか、遠くの方で見送りの声が聞こえた。

 子供達は嬉しそうにクスクスと笑う。


「では、出発ですよーっ! せーのっ!」

「「「しゅっぱーつ!」」」


 ヒールの立ち振る舞いは、正しく保母さんのようだった。なるほどこれがバブみか。

 ナターシャとリズールは脇にどいて、彼らを笑顔で見送る。


「行ってらっしゃーい」

『行ってらっしゃいませ。――“転移陣・起動(スタートアップ)”』


 リズールの言葉で、転移陣が自動受け入れモードになる。

 子供達は二人に手を振りながら、とても楽しそうに、秘密工房へと転移していった。

 ヒールは残って、子供達を先に進ませている。


「……では、ご武運をっ」(シュンッ)

『任せなさい。――“転移陣・封鎖(ロックダウン)”』


 最後にヒールがそう言い残して、向こうに転移してから、リズールは転移陣に完全封鎖を施した。

 ま、こういう遠足っぽい方法を取らないと、子供達は不安になっちゃうからね。

 あ、でも、敵オーク軍があの工房を見つけたらどうしよう。大丈夫かな?


 他の事情を知らないナターシャは、リズールに防衛面に関して尋ねた。


「ねぇリズール、あっちの防衛は大丈夫なの?」

『問題ありません。先日、十傑作の残りの二名を目覚めさせましたので』


 おぉそうなんだ。

 俺からの魔力供給はもう不要って言葉、本当だったんだなぁ。


「で、第何使徒?」

『第七使徒と第六使徒ですね。氷刀のアイスと樹槌のツリーという名です』

「へぇー」


 聞いた感じ、氷魔法と樹木系の魔法を操るタイプの十傑作っぽいな。

 特にツリーって子は、拠点隠蔽が得意そうな雰囲気がする。

 樹木で覆って秘密工房を隠すんだ。……どっかの漫画で見たな、それ。


「ツリーって子が木で拠点を隠すの?」

『そうですね。彼女のスキル“森羅”と“培養操作”で、一時的に工房を樹木で覆います。本人はサディス……戦闘狂なので、戦えないのが不服のようですが』

「へぇ……」


 ツリーって子、ドSなんだ……


「で、アイスって子はどうするの?」

『彼女は隠密術が得意なので、周辺の警戒と、工房の入口に気付いた敵の排除を請け負います』


 ほーん?

 つまり暗殺者系の子って事か。

 でも、小刀じゃなくて刀って事は……


「もしかして、氷の刀を背後に生成して、相手目掛けて飛ばしたり出来る感じ?」

『はい出来ま――おぉ、よくお分かりですね? 流石は我が盟主マイロードです』

「ふふーんっ」


 そ、それほどでもない。

 褒めても何も出ないよ? ついドヤ顔は出るけど。


『――では、あちらの防衛はその二人とヒールに任せて、私達は私達の仕事をしましょうか』

「あ、うん。そだね、分かった」


 ナターシャはドヤ顔をサラっと流されて、自分の用事に戻った。

 納屋の外に出てみると、村の中では大勢の雌オークとハビリス族の女性陣が入り混じって、晩飯の調理をしていた。


 雌オークは当然のように緑の肌で、胸と腰に麻布を巻いていて、ボンキュッボンの体型。センシティブ。

 んで、更に一部の雌オークは全身ムキムキで、腹筋がバッキバキ。すげぇ。

 ナターシャとリズールは隙間を縫って進み、ハルヤの家に入る。


 そこでは、オーク・ハビリス族の連合防衛チームの面々が待っていた。

 大きな周辺地形図に、木彫りの駒が乗ったテーブルを囲んでいるのは、数人のハビリス族と狩人、シバ兄妹と老オーク、斬鬼丸、シュトルムとスラミーだ。

 全員が此方に目を向けている。圧倒されるような光景だ。


「――お、お久しぶりでーす」

『こんばんは』


 しかしもはや、この程度では俺の心は動じない。

 ナターシャはリズールを連れて、意に介さずに近付いていくと、


「……おぉ、待っていたぞ。人間の協力者、ナターシャ様よ」


 シバ兄妹の隣に座る、一人の老人オークが声を掛けた。

 えっ、あんた誰?


「誰?」

「!?」


 つい言っちゃうナターシャに、驚くシバとトコ。

 すると、老人は軽く笑った。


「ハハハ、冗談が得意な方だ。――しかしまぁ、初めて会ったのだから、それも仕方があるまい。私はローワンだ。よろしく頼む」


 ローワンは改めて名乗ると、ナターシャに向かって手を差し出した。


 あーローワンさんね。

 シバの師匠で、旧宰相だっけか。そんでレジスタンスの主導者。

 ナターシャは少しだけ態度を改めた。


「おっと、失礼しました。私はナターシャです。よろしくお願いします」

「あぁ宜しく」


 軽い握手をする二人。

 リズールとナターシャがテーブルに着いた事で、本格的な防衛会議が始まった。

 もっとも、俺達に出来る戦略はまだ一つだけ。籠城だ。


『ではまず。砦の未完成部分は、ローワンさんと、救出したハーフエルフ達の呪詛で塞ぐ方針で』

「……待ってくれ、リズールさんは良い魔法を知らないのか?」


 ハビリス族の男性が聞くと、リズールは首を横に振った。


『残念ながら。ですが、魔法での修復は可能です。魔力に余裕のある時は“完全修復オールリペア”、無い時は“修復リペア”と詠唱して下さい』

「そ、そうなのか……」


 少し残念そうな表情で男性が下がったタイミングで、ナターシャが手を挙げる。


「はい。砦を塞ぐ魔法、あります!」

「「「!?」」」


 斬鬼丸とシュトルム以外は驚いた。何故かリズールも驚いてスッと主を見た。

 銀髪の魔女っ娘はこほんこほん、とわざとらしく咳をすると、彼らに一つの詠唱魔法を教える。

次話は10月12日。夜8時~9時です。


Q.オークの子は? 疎開させないの?

A.純粋に数が多いのと、食べる量が凄いので、下手に疎開させると餓えてしまうんです。

更に、その餓えを癒すために他人を食べちゃうと、オークからオーガに変化しちゃうので、親元から離すのも危険。

なので今は、ハビリス村近くにある新たな空き地――石切り場周辺に仮設保育所(リズールがテント魔法を大量使用)を造って、そこで世話してます。


Q.子供オークが何処に居るかは分かった、じゃあ大人オークは何処に住んでるの?

A.それは後日明かします。ご安心を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ