227 邪気眼少女の舞台裏《バックステージ》 -ローワン救出大作戦- 前編
そして、その時刻が来た。
「――ローワンがクーデター未遂を起こして捕ま――――――」
『“――……! ~~~~~~!”』
「――――――」
階段の最下段に座り込んでいるクーゲル。
隠匿魔法で隠れたまま無線通信をしている。
奥の通路には数人の看守が立っていて、反逆者であるローワンとその支持者達は、堅牢そうな牢屋にぶち込まれて、膝を抱えて蹲っていた。
それもそのはず、看守たちに『自分達は無実だ、ウィローは長を操って里を乗っ取ろうとしている!』と数時間熱弁しても、看守は耳を貸さなかったのだから。
死刑執行が近く、他の支援者による助けも期待できないような状況。
諦めてしまうのも当然だった。
『“命令です水晶。全員解放して、連れて来れるだけ連れて来なさい。手段は問いません。オーバー”』
「ハハッ――――」
しかし、運は彼らを見放さなかった。
中継器の埋没作業を予定通りに終えたクーゲルが、久々にローワンへと接触しに来ていたのだ。
「――良いね、やっぱりアンタはパーフェクトだよ白銀。俺の前の主――冷血のカヤウン中尉とは大違いだ。喜んで命令を受諾する。吉報を待て。オールオーバー」
クーゲルはとても嬉しそうに、胸元に付けた小型無線機を切り、
「さて、作戦を始めよう。――“召喚指令・白鋼流星銃”」
まずは手始めとして、金の装飾が施された白いマスケット銃をスキル召喚した。
外見では分からないが、銃身内部にはちゃんとライフリング――螺旋型の溝が彫られている。
クーゲルは次に、弾丸創造スキルで一つの弾丸を創造した。
「“弾丸創造”“睡眠弾”」
彼女の手の内に現れたのは、ライフル弾のような形に削り出された、濃い青紫色の水晶一つ。
それをピン、と軽く親指で弾いて、創造主に教わった口上を述べる。
「“眠りに誘う冬の貴婦人、マリーヌ・ディヴェール”――だったっけ? 初めてこの口上述べてみたけど、時間無いしもう止めとこ」
落ちて来た水晶弾をパシッと掴むと、銃口の先から弾を込めた。
そこら辺はちゃんとマスケット銃なのだ。
もちろん、いくつかの抜け道はあるが。
最後は、彼女が持っている特殊な射撃用のスキルを使う。
「――“分裂弾”、“目標固定”」
看守は合計で四名。一射で纏めて眠らせる。
クーゲルは、銃底を肩口に当て、しっかり構えて安全装置を外し――引き金を引く。
パンッ!
「「「グォッ!?」」」
「「「!?」」」
小規模な爆裂魔法の音――射撃音が鳴り、看守達・ローワン達が驚いたが、もう片付いた。
銃口から立ち昇る白煙と共にゆらりと姿を現したクーゲルが、睡眠魔弾が腹に命中し、紫のベールに包まれゆく看守達に一言告げる。
「Good night.(良き夜を)」
「「「ッ……――――グー……」」」
何も言えずに、寝息を立てながら崩れ落ちていくオークの看守達。
何が起こったか分からず、困惑するローワン達。
「さて、こっからか――」
クーゲルは階段の影から出ると、牢屋の前に立ち、銃を肩に掛けながら挨拶をした。
「――よっ、助けに来た」
「「「オ、オォォ……ッ!」」」
「シャラップ」
絶望していたローワン達は、一転して希望に満ち溢れた顔になる。
だが、思わず叫んでしまう前に、クーゲルによって戒厳令が敷かれた。
◇
一方で、神殿の地上では。
地下からは確かに破裂音が鳴り響いたが、誰も気に留めなかった。
まぁ流石に、地下牢への入口前に立つ兵士だけはこういう会話をした。
「オト……? イヤ、気ノセイダヨナ?」
「ソウダヨ」
「オォ、ソウダヨナ」
まるで何も起きなかった、と示し合うような会話を。
「――いやぁ、旧宰相が居なくなると思うと気分が良い――――」
「――――お疲れ様でしたウィロー様、ささ、祝杯を――」
もちろん玉座の裏で、贅沢三昧な暮らしを送っているウィロー達も気付かなかった。
とても浮かれていたのと、外からの報告が無かったからだ。
理由は簡単で――オークキングは既に知っての通り、奴隷化されている。
更に、神殿に仕える文官から近衛兵・看守に至るまで、全員に軽度の認識阻害――洗脳が施されていて、違和感を違和感だと感じられないのだ。
故に、王の御前でカバが供述するまではローワンが反逆者だと、発砲音で外部からの侵入者が居ると、誰も気づけなかった。
「――ハハハ、静かに酔えるとは気分が良い。仕事に追われていたあの頃が――」
「――――そうですなぁ、単純労働は他の者に任せ、我々は頭脳労働によって里を――」
全て、宰相ウィローとその側近のオークドルイドによる犯行である。
群衆に違和感を抱かれる事なく、裏から完璧に里を操ろうと計画したからこそ、名もなき誰かの裏切りが怖かったのだろう。彼らはその不安を、“魔法”で完璧に解決した。
「――しかし、奴なら魔法で逃げられるのでは――――?」
だがしかし、今回に至っては――その周到さが逆に、彼らの首を絞める事となった。
「逃げられる物か。偽エルフ共に創らせた魔法完全反射の牢獄だぞ。私の魔法鍵が無い限り――――」
彼らと同じく、完璧な“魔法”の力を宿した、魔法の無い世界の最終兵器“銃”によって。
ウィローがローワン逃亡の可能性を否定しながら、オークウィスキーのショットを煽ったタイミングで、神殿の地下から凄まじい爆音が響いた。
ズドォォ――……ンッ!
「「「!?」」」
思わず飛び上がり、手に持っていたグラスを落とす現宰相派達。
赤い絨毯に複数の茶色い染みが出来るが、そんな事を気にしている場合ではない。
「――なっ、何事ですかァッ!?」
「「「うぃ、ウィロー様ッ!」」」
慌てて駆け出していったウィローを、他のオークドルイドも追いかける。
彼らが玉座から見た光景は――
「何が起こったんです……!?」
濛々とした白煙と土埃が舞う中、解放感溢れる天井と壁から赤い夕陽が差し込む、半壊した神殿だった。
◇
クーゲルは牢の鍵を開ける前に、ローワンから救出対象を洗いざらい聞いた。
旧宰相派である生産・補給職(全員が統一区画に住んでいるので、救出は容易い)は勿論の事……
現宰相ウィローの方針によって、強い差別を受けている先祖返り達――今は北方の農園で、農奴のように働かされている“ハーフエルフ”(“私達――旧宰相派は先祖返りでも差別をしない”という意思を示す為に、この場でそう名付けた)約百名の住居など、全て。
語り終えたローワンは、クーゲルに作戦概要を尋ねた。
「――以上だ。クーゲル、どうするんだ?」
「分かった、作戦を伝える。ちょっと待て――――“限定解除”」
「?」
クーゲルはぼそぼそと何かを呟いた後、饒舌に話し始めた。
「――まずはこの神殿を半壊させて、中枢を麻痺させる。
その後の混乱に乗じて、統一区画への呼びかけだな。それにはローワン、お前の演説が必要だ。
更にその後は、北方の農奴宿舎に向かって全員で突撃。
立ち塞がる敵を無力化しつつ、ハーフエルフを解放する。
ついでに食糧庫から食料を奪って、証拠隠滅のために放火しておく。
最後は来た道を戻って、ウィローへの仕返しとして里の正面玄関をぶっ壊し、そのまま真っ直ぐハビリス村を目指す、って方針だが……お前ら、俺に付いてくれるか?」
「「「モチロンダ!」」」
「ナイス!」
全会一致で、クーゲルの作戦が支持された。
次はローワンが質問し始める。
「ふむ――演説は任せて貰っていいが、どうやって広範囲に広がる区画への呼びかけを……」
「任せろ、適任者が居る」
「適任者?」
ローワンが訝しむと、クーゲルは一羽の従魔を召喚した。
「召喚・桃色鸚鵡」
ポフン、と空中に現れたのは、名前の通りにピンク色のオウム――ではなく、ピンクのインコ。
そのインコはクーゲルの肩に乗ると、人語で挨拶を述べた。
「hai! I'm a Party Parrot.(やぁ、パーティパロットです)」
「ん? 何と言ったのだ?」
「oh,Wait...(おっと、ちょっと待って……)Ah、あー」
ローワンが首を傾げると、インコは言語を変更する。
「はぁい。私は祭り好きなオウムです。よろしく」
「おぉ、虹色オウムか! 珍しいな!」
「それほどでもない」
そう言いながら、嬉しそうに首を回すインコ。体色を七変化させている。
ローワンは次にこう尋ねた。
「ではクーゲルよ、この鳥に私の演説を覚えさせるのか?」
「いや、コイツらの仕事は人集めだ。何か知らんが、状況説明が上手いからな」
「分かった……――ん?」
クーゲルの発言に引っ掛かりを感じたローワンは、つい聞いてしまう。
「待ってくれ、“コイツら?”一羽しか居ないぞ?」
「あー、えっとなー……」
少し言葉に詰まった後、クーゲルは答えた。
「いや、何か知らんが、コイツを出してると他のインコが集まってくるんだ」
「クーゲル、私はオウムですが?」
「いやインコだろ」
「No」
不満そうに首を左右に揺らすインコ。赤くなったり青くなったりしている。
クーゲルは面倒そうに頭を掻くだけだったが、ローワンはその説明で理解出来たようだ。
「――成程、このオウムは教授種だったのか。分かった、期待しておこう」
「期待しててよね?」
彼の言葉には、インコが代わりに返答した。
クーゲルはさっさと、ローワン派の脱出作戦を開始する。
まずは弾丸創造。一発の特殊弾を生成する。
「“弾丸創造”――“万能の解錠手段”」
それは水晶で出来ていたが、先端は円筒で、内部には黒い砂粒が詰まっていて、何やら物騒な気配を感じさせる弾丸だった。ローワンは恐る恐る尋ねる。
「な、なんだそれは?」
「気にすんな。後、危ないから右の壁に寄って鍵穴から離れとけ」
「わ、分かった。皆コッチへ」
ローワンは言われた通りに、全員を牢屋の右端に寄せた。
クーゲルは無言でマスケット銃に装填して、牢の鍵穴に狙いを定め――――引き金を引く。
バァンッ! という猛烈な破壊音によって発射された散弾は、牢屋の鍵を物理的に破砕した。
その衝撃でギィ、と鉄格子の扉が開き、ローワンは思わず絶句する。
何故ならこの牢屋は、出入りには専用の鍵が必須の、魔法完全反射の牢。
更に、オークの腕力を以てしても、物理的な破壊は不可能なように造られている。
なのでまさか、ここまで容易く解錠出来るとは思わなかったのだ。
彼女――クーゲルの使用している武器は、一体何なのか。
何故そこまで高出力な、魔法と物理攻撃を両立出来ているのか。
ローワンは疑問に思いながらも、本能的恐怖から、その話題に立ち入る事を辞めた。
Party Parrotの名称ゆれはワザとです。
クーゲルはその平坦な胸部の関係から、本来の姿――ピンクオウムとして認識していて、
オーク側は雌オークの豊満な胸部の関係から、彼らがよく七色に光って首を回しているので、虹色オウム《パーティパロット》として認識しています。
ただし見た目はピンクのインコ。
そして、パーティパロットが七色に光る原因は、彼の魔物としてのスキル“模倣”が原因。
エンシア編と旅編で出ていた、極彩色の牛魔物――カウフラージュの隠密スキルを模倣しているので、首を回している間は七色に光って見えます。
しかし興奮対象以外には、ピンクインコのまま首を回しているようにしか見えません。
ただ興奮している事を隠す為だけに隠密スキルを使用しているようです。
以上、異世界ゲーミングインコを雑に考察した結果でした。
自由に使って。




