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225 邪気眼少女の舞台裏《バックステージ》 -その頃、オークの里では何が?- 中編

 それから二週間が経過するまでの間に、ハビリス村でも一つの出来事が起こっていた。

 いや、“方針が決まった”と言った方が正しいだろう。


 ハビリス村防衛チームは、お昼時に今後の方針を議論し合い、砦・オーク監視塔などの、土木関連の進捗報告や、ストーンゴーレム軍の育成状況――ハビリス族によるゴーレムの生産、更にはシバ兄妹を含む、ゴーレム軍とハビリス族の合同訓練に関しての報告を聞いた。


 ストーンゴーレム軍は、単純労働ゴーレムによる採掘自動化に成功し、たまたま近くにあった岩山――石切場での岩石算出がようやく本格始動し始めた事と、ハビリス族がゴーレム作成・操縦に慣れてきた事が合わさって、ドンドンと効率化していき……

 最初は四頭しか居なかったのに、今ではその百倍近く――四百十七体にまで増えていた。

 そして、オーク監視塔はいつの間にか五塔に増えていて、里の北――盆地の抜け口の砦は、完成まで残り二割といった所だった。


 ここまで早まったのは、やはりゴーレム軍の増加――それに伴う、ハビリス族の種族的成長が関係している。

 以前にも『ハビリス族は土精霊の亜種であるゴブリンと人間のハーフである』と語ったが、その忌むべきゴブリンの血が奇跡を起こした。


 彼らがゴーレム作成・操作――土属性魔法を習熟していくにつれて、四大精霊(エレメンタル)の一つであり、ゴブリンの源流でもある土精霊(ノーム)としての性質が強く現れ始めたのだ。


 最初は数人がかりでゴーレムを作るだけでも精一杯だった彼らは、成長によって次第に魔力が増えてきて、最終的に一人でゴーレム作成と操縦を熟せるようになり――特にハルヤは、一度に五体ものストーンゴーレムを造り出し、同時に操る術を習得した。

 弟のエミヤに至っては、ノームどころか鍛冶精霊(ドワーフ)としての才能まで発揮し始めた。


 ナターシャがここに居れば、思わず『〇ateじゃん』と呟いていた事だろう。

 しかし今のナターシャは、それどころじゃないので悪しからず。


 ――では、裏話はこれくらいにしておこう。

 状況確認を終えたリズールが、会議を占めに掛かる。


『それでは、本日の防衛会議は終了で――――』

「待って下さい!」


 するとハルヤが手を挙げて、椅子の上に立ち上がった。

 それでも、座った斬鬼丸や狩人よりやや高いくらいである。


『――ハルヤ様、どうされましたか?』


 リズールが尋ねると、ハルヤはこう語った。


「実はそろそろ、議題に上げようと思ったんです。私達ハビリス族――ハビリス村強化計画の第三段階。人里との交流・連携について」


 ざわ……と、ハルヤ以外のハビリス族達――最近は人手不足から、男性陣だけではなく女性陣も混ざり始めている――が、色めき立つ。ここで来たか、と。


 少し前まで――大体一ヶ月前の彼らには、外と関わるという発想が無かった。

 自分達は安全な場所に住んでいて、何かトラブルがあっても狩人が助けてくれたからだ。


 しかし今、オーク撃退に向けてどれだけ自分達が努力して、剣や魔法の腕を鍛えても……

 教官をしている狩人どころか、マイナーな精霊騎士である斬鬼丸にも追い付けず、魔法の腕も、リズールアージェントとその仲間――二人の十傑作にさえも敵わないと知った。


 それがハビリス族にとっての、真の意味での障害であり、乗り越えなくてはならない壁だった。

 ハビリス族は、夜な夜なハルヤ宅の隣――今は使用されていない、ナターシャのテントに集まって相談会を開いていた。


「どうすれば、私達は彼らの領域――あの強さに辿り着けるのだろうか?」


 最初はいつも、その疑問から始まった。

 彼らは心から思い悩み、ふと思いついては、自分達の限界を知った。

 体格・体重、魔法適正の幅の無さ、戦う事への恐怖、様々な理由があった。


 そして遂に至った。

 戦争の基本にして、どのような戦況でさえも容易に覆す、最強にして単純な戦術。


「――じゃあさ、個で勝てないなら、とにかく数を増やすしか無いんじゃないか?」


 そう、数の暴力だ。

 彼らは、リズールがゴーレム軍の量産を急ぐ理由について、ようやく理解したのだ。

 発言者のハビリス男性はその後、『ハビリス族を増やす為に、沢山セッ――』と言いかけた所で、怒った女性陣に袋叩きにされた。真面目な発言ではあるが、下ネタは厳禁である。


 だからこそ、相談会でその結論が出た次の日に、まとめ役のハルヤが第三段階についてを議題に上げたのだ。自分達だけでは解決できない問題を知る目的で。


 防衛チームの面々――特に狩人は、目を見開いて驚いた。

 しかし同時に、嬉しそうな顔もしていた。彼も彼で、ハビリス族の行く末を案じていたのだ。

 狩人の血脈が――彼らとの召喚契約がいつ途切れるか、彼にも分からないのだから。


『まだまだ先だと思っていましたが、よく勇気を出されましたね?』


 リズールがそう尋ねると、ハルヤは強く頷いた。


「えぇ、私は元よりそのつもりでしたから。むしろ、遅かったとも思っています」

『それは何故でしょうか?』

「ええとそれは――――」


 ハルヤは、ハビリス族の現状に関して言及した。

 ハビリス族の総数は、男五十名、女五十五名、子供が百名近く。

 毎日数十体――多い日には百体近く増加しているストーンゴーレムで数を補えると言っても、精鋭部隊――彼らが完璧に操作出来るゴーレムは百体ほど。

 このままでは、現在確認されているオークの総数――非戦闘員を除いても、それでも五千を超えるオークには到底及ばない、とようやく理解したらしい。


 リズールは、独学で戦術の基本に至ったハルヤ達を褒めて、第三段階についての議論を始めた。

 彼女の最初の解説は『人とハビリス族の関わり方、認識のされ方』だった。


 とても長い話だったので要約すると、『ハーフリングに見間違われた場合はそのままで良いとして、それ以外の場合はちゃんと“土精霊と人のハーフ”であるハビリス族です、と言うように』だった。

 ゴブリンの血については都合よく闇に葬り去るべし、らしい。


 ハルヤは不安そうに『それだけで良いのですか? 詳しく聞かれそうな気がするのですが……』と言ったが、リズールが『土精霊とはゴブリンの事だ、と思いつける人なんてまず居ません。貴女達と同じような背丈をしている、ノームの事だと思いますよ』と答え、狩人もそれに同意した事で、ハビリス族達は安心した。


 その後リズールは、人々と関わる上で発生するであろう問題――通貨を扱う危険性(外部からの窃盗・強盗など)、他種族の商人との関わり方(ここら辺はケットシーのニャトを頼るべきだ、と言った)、スタッツ国による収税、果てには性犯罪者についての対応策など、中々にエグい話題も含めて議論しあった。


 その際、一人のハビリス族の女性が質問を出した。


「つまり……私達ハビリス族の事を好きになる人間さんは、“ロリコン”という存在なのですか?」

『……』


 リズールは軽く頭を抱える。

 しかしそこは大魔導書、言葉を選びながらこう答えた。


『判断が……難しい所ですが、貴女達の年齢が18歳を超えているならば、その方は“ロリコン”ではないと思います』


 ようは『登場人物は18歳以上なのでセーフ』理論である。

 ハビリス族の女性は、その説明で納得してくれた。


「なるほど、外見ではなく私自身の年齢で判別すれば良いのですね! 分かりましたわ!」

『えぇ、理解して頂けて何よりです……』


 リズールは、あまりにも辛い言い訳を述べた自身に対して、少し動揺していた。

 しかしまぁ、他の判断基準を述べていれば、順調に進んでいるハルヤと狩人の恋を邪魔してしまうので、そう答えざるを得なかったと言える。


 会議が終わったのは夕方になってからで、ようやく解放された防衛チームのハビリス族達は、疲れた表情で家へと帰っていった。

 狩人・斬鬼丸は夜間の警備に、リズールはヒールに村の守りを任せて、無線通信室――砦の地下に造り上げた、設計図にも乗せていない秘密の部屋へと向かった。

 そこで各種機器の調整を行い、遠く離れた場所にある秘密工房との通信状況を確認していると、敵地へ潜伏しているクーゲルからの連絡が入った。


『“コチラ水晶。白銀、早急な返答を求む。オーバー”』


 かなり焦っている様子だった。

 リズールは慌てて手に取ると、相手の状況を聞く。


『コチラ白銀。水晶、何がありました? オーバー』


 少しして、相手側の状況が簡潔に伝えられた。


『“ローワンがクーデター未遂を起こして捕まった。対応策を求む。オーバー”』

『クーデター未遂……!?』


 リズールはつい無線機を取りこぼしそうになったが、落ち着いて対応策を述べた。

 しかしその口調は強く、焦りが混じっているようだった。


『聞きなさい水晶。全力でローワンを助けなさい。彼に死なれては困ります。オーバー』


 クーゲルは少しだけ無言になった後、こう答えた。


『“了解した、全力を賭す。それと、“旧宰相派”のオークはどうする? そいつらも捕まってるんだ。オーバー”』

『“旧宰相派”までも……?』


 一体、オークの里で何が起こったのだろうか。

 彼らは非戦闘員だったはずなのに。


 リズールは少し不審に思いながらも、こう命令した。


『命令です水晶。全員解放して、連れて来れるだけ連れて来なさい。手段は問いません。オーバー』

『“ハハッ――――”』


 クーゲルは嬉しそうに笑うと、命令を受諾した。


『“――良いね、やっぱりアンタは完璧パーフェクトだよ白銀。俺の前の主――冷血のカヤウン中尉とは大違いだ。喜んで命令を受諾する。吉報を待て。オールオーバー”』


 通信が終わって、静かになる無線室。

 リズールは無線機を机に置くと、狩人と斬鬼丸を探しに出かけた。

 まずは警備チームに掛け合い、情報を共有すべきだと思ったからだ。


(あぁ、アダマンタイトが一欠片しか手に入らなかったのが心苦しいですね。あれさえあれば、全員分の小型無線通信機を創れたのですが……)


 リズールはそう考えながら道を急いだ。

 いや、物質創造スキルがあるじゃないか、と君は思っただろう。

 実はアダマンタイトは、リズールの物質創造スキルで唯一創れない物質なのだ。

 アダマンタイトは――――この異世界で最も硬い物質にして、純度99.9999999……%の魔力結晶であり、更には魔力側の意思によって、ダンジョンの最深部でしか生成されない、と決まっている。

 こればかりはリズールにもどうしようも無かった。


 そしてまた時間が戻り、ローワンがクーデターを起こした場面に移る。

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― 新着の感想 ―
[良い点] オークの軍勢は五千も居るのか、確かに多いですね。 ハビリス男性さん、気持ち良くて人数を増やせる手段ですけど、間に合わないじゃん(笑) そういえば、ゴブリンは悪いイメージですから差別されるか…
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