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邪気眼少女の極唱魔法(エクスペル) ~異世界転生したらTSした上に厨二病を再発症する羽目になりました~  作者: 蒼魚二三
ナターシャ7歳編 -国と地方と農村と、邪気眼と中二病のヴィアンド-
224/263

223 邪気眼少女の始まり。-Mary-Sueish Syndrome:The beginning- 後編-下

分割した片割れ。

  現代ではクリスマス当日――キリスト生誕祭だとしても、この異世界で同じような聖人が生まれた訳ではないので、盛大な生誕祭などはない。

 けども、ナターシャにとっては嬉しい、ちょっとしたクリスマスプレゼントが届いた。

 いつものように部屋に引き籠っていると、ガレットさんが一通の手紙を持ってくる。


「ナターシャ、お手紙ですよ」

「誰からですか……?」

「良く見れば分かります。それと、ちゃんと読んで、後で教えに来なさい。お菓子とお茶を用意しておくので、ちゃんと来るのですよ?」

「はい……」


 ガレットさんは、ナターシャを数度撫でた後、部屋から出て行った。

 彼女に渡されたのは、白い羊皮紙の便箋を折り畳み、赤い蜜蝋で封をした手紙。

 表には、ただ“親愛なるナターシャ様へ”とだけ書いてあった。

 送り主が誰か理解するのは、その一文だけで十分だった。


「ごめんシュトルム、ちょっとだけ一人にして」

「分かった、外で待とう」

「うん、終わったら呼ぶね」


 ナターシャは一人にしてもらった後、机前の椅子に座って、緊張しながら手紙を開いた。

 手紙には、形式的な挨拶の後、“聡明なナターシャ様ならもうお気づきでしょう、そう私です! 貴女のアル・クレフォリアですよっ!”と、元気よく書かれていた。

 予想通りの相手からの手紙で、とても嬉しかった。少女の目から、一筋の涙が流れる。


 それからの文面には、クレフォリアちゃんの近況――――


“色々な事情で、宿に引き籠りっぱなしで辛いです……

 こんなにもナターシャ様が近くに居るのに会いたくても会えなくて、時には泣きそうにもなりました……

 でも、でもですね!? 美味しいケーキ屋さんが近くにある事が分かって、そこのパティシエ様にナターシャ様を模した銀色のプチケーキを作って貰って、それを毎日美味しく食べて、寂しい気持ちを紛らわせてますっ!

 うふふっ、ナターシャ様ってとっても美味しいんですねっ!”


 という、一種の捕食的恐怖を感じるような文の後に、


“そして手紙が届いてから四日後――ナターシャ様の誕生日に、旅の謝礼も兼ねて、私の護衛様方と共に、ナターシャ様のご自宅――エメリア旅行雑貨店を訪れる予定です! 

 やっと外出許可が降りました! 長かったですっ! 

 ナターシャ様に言われた通り、『お礼をしたいから外出させて』といっぱいごねた甲斐がありました!

 そして更に! このお手紙を、私が泊まっている宿――――パスク・ケットシーへの永久招待状として、魔法的な効果を持たせる事にしました!

 お礼として付与するので、大事に持っていて下さいね!

 毎日、美味しいお菓子を沢山用意して、わくわくしながら待ってますよ~!”


 という、心が躍るような情報がもたらされた事によって、荒んでいたナターシャの心が、優しい何かで癒された。

 そして最後の文で、ナターシャは衝撃を受けた。


“――なので、最後に。

 本当の私がどういった身分なのか、教えておこうと思います。

 だって、身分の差なんて関係なく、ナターシャ様とずっと仲良くしていたいから。

 それにナターシャ様なら――あんなにも負けず嫌いで強気で、魔王様の弟子で、私の救世主であるナターシャ様なら、きっと私の秘密を知っても、いつもどおり接してくれるはずだから!

 誰に何と言われようとも、私はそう信じてます!

 だって貴女は、私の勇者なんだから!


 エンシア国家騎士団副団長兼ユリスタシア男爵家、その次女である、親愛なるナターシャ様へ。

 エンシア王国第二皇女、アルフォンス・エンシア・エイルダム・クレフォリ=アリアより。”


 ナターシャは手紙を読み終えて、ぼそりと呟く。


「やっぱり、そうだったんだね。クレフォリアちゃん」


 薄々感づいてはいたが、やはりクレフォリアちゃんは王族だった。

 しかし、それは最初から分かっていた事だ。ナターシャが本当に驚いたのは……


「これが……クレフォリアちゃんのこの想いが、本気で人を信じるって事……? 私が信じたい人だから信じるって気持ちなのかな……?」


 アニメや漫画などではよく見ていたものの、中学での出来事以降、他人を信じられなくなって、少し心の距離を置く事を決めた自分には縁遠い物だったから、ただただ『熱い展開だなぁ』と感動するだけで、深く理解出来なかった考え方。


「グ〇ンラガンの、カ〇ナ兄貴が言ってたっけ。“お前の信じるお前を信じろ”って」


 今更ながら、その言葉の重みがようやく理解出来た。

 自分が何かを信じたいと思ったなら、信念を貫き通すように、その正しさを信じろ。

 その考えは、他人に対してだけじゃなく、自分自身を信じる事に繋がるから。


「アハハ、当時はあんなに熱中してたのに、なんで今の今まで分からなかったんだろ。くそー、馬鹿な自分が悔しいなぁ」


 ナターシャは涙を拭って、ゆっくりと椅子から立ち上がる。

 その表情に陰りは無く、きっとそう、ほんのちょっぴりの勇気で出来ていた。


「じゃあまずは――この泣き腫らした顔を、治さないとね。今日はお風呂入ってお菓子食べて寝よう」


 しかし行動原理は基本的に引きこもり。

 クレフォリアちゃんに会えるその日まで、期待しながらスヤる事にした。



 そしてようやくその時が来た。

 12月29日、ナターシャの真の誕生日(天使ちゃんに聞いた)である。

 いつもは春の謝肉祭で祝われるのであまり重要では無かったが、今日に限っては別だ。


 ナターシャが身支度を整えて待っていると、いつものようにリズールが転移して来て、主の体調を尋ねた。


『おはようございます我が盟主(マイロード)。今日の気分は如何でしょうか?』


 対してナターシャは、朗らかな態度で答えた。


「おはようリズール。今日からまたそっちに行くよ」

『そのご様子……ようやく吹っ切れたようですね。何か良い事がありましたか?』

「うん。実はね――――」


 ナターシャは数日前に届いたクレフォリアからのお手紙によって、元気が出て、勇気づけられた事を再び語った。

 だからこそ、ついに最初の一歩を踏み出す覚悟が出来た事も。


 リズールはナターシャを優しく抱きしめて、主を褒め称えた。


『よくぞご決断なされました、我が盟主(マイロード)。再び他人を信じる道を歩むのは、過去のトラウマを乗り越える上で、とても良い一歩目だと思います。これから少しづつ頑張りましょうね』

「あはは、そこまで大袈裟じゃないと思うけど……リズールが言うならそうなんだろうね。よっと」

『あぁ、我が盟主(マイロード)?』


 少々戸惑いつつも、リズールから離れたナターシャは転移陣に乗る。


「ふぅ、はてさて――――」


 そして、軽く俯いて、前口上を述べ始めた。

 これから秘密工房へと転移する前に――その後に控える、クレフォリアちゃんとの再会前に、自身の覚悟を示しておこうと思ったらしい。


「――本当は心から求めていたにも関わらず、追随する辛い過去から逃れるために、人に嘘を付き、〇out〇beチャンネルの視聴者にも嘘を付き、自身にさえも嘘を付いてきた大嘘つきの転生者が、今日今日に至って、ようやくアイデンティティを――厨二病を取り戻す覚悟を決めた。そして皮肉な事に、今日は師走の大晦日――年末最終日の二日前、12月29日。以前、熾天使アーミラルが語ったのだが、今日が私の――ユリスタシア・ナターシャとしての誕生日らしい。この偶然のような必然は、運命がそう選択したからと言っても過言ではないだろう。だからこそ――」


 ナターシャはゆっくりと顔を上げると、スッと腕を組み、上方の手を上げて、顔の片面を隠しながら宣言した。


「――我が源流にして究極至高の組織、そして何れ帰るべき哀愁の我が家(ホーム)暗黒の月曜日(ブラック・マンデー)も、再結成される事が決まった――――! 今日はその始まりの日であり、更にッ! 私がこの異世界に真の魔王として生誕した、歴史の始発点でもあるのだッ! さぁ、祝えリズール! 新たなる魔王の生誕を!」


 最後に、リズールに向かって、カッコよく片手を差し伸ばす。やみのまっ!

 リズールも嬉しそうに拍手しながら、ついに勇気を出した主を褒め称えた。


『流石は我が盟主(マイロード)――いえ、我が魔王です。組織――我々の企業であり、世界の裏で暗躍する秘密結社、暗黒の月曜日(ブラック・マンデー)再結成の決意表明、そして真なる魔王としてのご生誕、おめでとうございます。心からの祝福を捧げると同時に、貴女に永遠の忠誠を誓いましょう』

「んふー、ありがと。次からはリズールが口上を述べて祝ってね?」

『貴女のお望みとあらば如何様にでも』

「ふふふ……」


 丁寧にお辞儀を返すリズール。難しそうな言い回しといい、とても良く分かってる。

 ナターシャは嬉しそうに微笑んだ後、転移の準備を始めた。


「ではまた会おう。新たなる我が首脳陣(マイ・ブレイン)、大魔導書リズールアージェントよ。お前の活躍、楽しみにしているぞ?」

『はい。我が盟主(マイロード)のご期待に沿えるよう努力致します』

「良い返事だ、フッ――」


 そして最後に、こう呟いた。


「あぁ、ここから消える前に、君に我が組織の根底を伝える事とする。決して忘れる事なかれ――――“全ては、運命に抗う人々のために。ル・メンダス・リスティータ”」


 そのままシュン、っとナターシャの姿が消える。そうした方がカッコいいからだ。

 残されたリズールは、嬉しそうに微笑みながら、目を瞑り、軽くお辞儀をしつつ返答をした。


『はい、無辜で無垢なる民のために。貴女のその元気な姿を見れば、大賢者ウィスタリアもきっとお喜びになられるでしょう。では、私も記念に一筆――――』


 更にリズールは、本体である魔導書を取り出して、今日の出来事を綴った。


 タイトルは“原始回帰”。

 見出しは――“初代魔王の血を引く真の魔王候補、現代にてようやく復活せり”。

 誰にも語られぬ衝撃の事実が、リズールの内部に記された。


『さて、私も戻りますか』


 リズールはさっさと本体を仕舞うと、自身もあちらへと転移した。

 工房のリビングでは、ナターシャの復活を今か今かと待ちわびていた冒険者達、それに混ざってシュトルムとスラミーが待っていた。


 彼らは、ようやく表れたナターシャの変わりように、思わず息を飲んでいた。


「待たせたな静かなる多数派サイレントマジョリティーよ! 辺境に住まう魔王候補――合成の魔女、ユリスタシア・ナターシャの復活であるぞ! 盛大に喜ぶが良い! そして我に平服せよ! ……どうした!? 何か言ってみよ! 今日は無礼講だぞ!?」


 まぁ、ようやく表れたと思ったら、唐突に高圧的な態度を取ってくるのだから、全員ポカンとするのも当然だった。

 リズールは『相変わらず不器用な主ですね』と少し笑いながら、皆が理解出来て、更に主が喜ぶような説明台詞を引き受ける。


『皆様、お待たせしました。私がご説明しましょう』

「お、おうリズールさんよ、これはどうい――」

『祝え!』

「「「!?」」」


 ディビスが代表して話し出すのを止めるように、リズールは叫んだ。驚く面々。

 そしてそのまま、即興の長台詞を話し出す。


『これは、運命という荒波に揉まれ、過去の恩讐に囚われ、ついに自己喪失に至ってしまった我が主が、友人との絆で再び立ち直り、世界最強の魔王――その候補者として再誕した瞬間である―――――!』


「「「お、おお……――――!?」」」


 冒険者達・シュトルムとスラミーもようやく、『あ、ナターシャがやっとトラウマを乗り越えたっぽい』と理解したようで、褒め称えるような大歓声を上げた。


「「「“合成の魔女”の誕生だァァァ――――――ッ!!!!!」」」


「えへへ……」


 ナターシャはとても満足そうに微笑みながらも、少しだけ涙目になっていた。

 ちゃんと自身の中二病を受け入れて貰えて、本当に嬉しかったからだ。


 彼女がようやく踏み出せた一歩は――馬鹿にされるだけだった前世の妄想は、この魔法溢れる異世界では存在していて当然で、歓迎されるべき物なのだ。


 ナターシャは七年――いや、八年経ってようやく、この世界に生まれて良かったと、心から思えた。

やっと中二病と向き合ってくれた!第三部完ッ!

マジで☆5評価くれた人ありがとう!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


次話は9月の21日です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 復ッ活ッ!ナターシャ復活ッッ!!(烈海王風) やっと物語が始まりそうな予感。 [一言] 全く関係ない話ですが、良い点にひらがなを入れないと感想送信できないんですね…
[良い点] 蒼魚さん、とても詳しい説明はありがとうございます!相変わらず背後には物凄く厚い設定がありますね! おおぉ、遂にクレフォリアさんの励ましによってナターシャさんが勇気を出せてトラウマを乗り越え…
[一言] ······もう1度やる?
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