220 邪気眼少女の始まり。-Mary-Sueish Syndrome:The beginning- 前編
英語の読み方:メアリースーイッシュシンドローム:ザ・ビギニング
ナターシャは今日も工房前で、シュトルム・リズールと共にディビス達――冒険者御一行を迎える。
「ディビスおはよー」
「おう、毎朝ご苦労。俺達の合成屋さんよ」
「今日も良い風だなディビス!」
『冒険者御一行様、本日もおはようございます』
「ハハハ、ありがとよ。元気が出るぜ」
慣れた物だ。
ナターシャはいつも通り尋ねる。
「今日はどうするの?」
「まぁ待て……――――よし、じゃあ、俺達が目指すべき次の方針を言うからな。俺が思うにだな――――
するとディビスが今後の方針を語り始めた。素材合成はしないようだ。
彼曰く、防具はもう十分だろう、という事で、今日からは武器の強化を目指すらしい。
背景モブ……もとい、ブロンズ四人+アイアン等級の冒険者達は特に疑問を抱かなかったが、銀等級二人は熟考を始めて、ダリスはいつも通りに批判的な態度を取った。
「おいディビス。俺が思うに、防具の見栄えは良い。だが、もっと耐久力を上げておくべきだと思うぜ?」
ダリスの言う通り、ディビス達の防具はリザード系統の魔物素材を沢山合成したので、当初の質素で整備性の高い防具から、色とりどり鱗が沢山付いたリザードスケイルアーマーへと変化している。
一見するとドラゴンメイルのように見えるのが特徴の防具一式だ。
まぁ、鱗のサイズの関係で、よく見れば本物じゃないと分かる。
「いやダリス、これ以上は沼だ。キリが無い」
「ほう。ディビス、何故そう思うんだ?」
「確かに、防具の耐久性や強度は高けりゃ高いほど良い。だがな、前にお前が――ナターシャ達が狩ってた四匹目のシルバー・ハードパンチャーが逃げまどって、進路上に居たお前が敢えて避けずにパンチで吹っ飛ばされた時でも、お前の体力、殆ど減らなかったよな?」
「フッ――あぁ、そうだな。その後、俺は不屈の精神で立ち上がって、相手に痛恨の一撃を入れてやった。ざまぁみろって感じだぜ」
鼻を高くするダリス。
脚の甲殻に浅く切れ込みが入っただけだよなぁ、とナターシャは思ったが、彼が被害を受けたのは確かなので、シュトルムと共に黙認した。
パンチャー討伐後に、二人で全力土下座をしたのは言うまでも無い。
ディビスはダリスの発言に同意を示した後、『ハードパンチャーのパンチを余裕で耐えられるって事は、オリハルコン――ランクで言うなら金等級の防具と同等の防御力があるって事だ。これより上の白金級装備を目指す方針は変えないが、次は武器を強化して攻撃力を上げて、狩りを楽にするべきだ』と言って、ダリスを納得させた。
HPやらDEFという単語を使っている所を見るに、ステータスという概念を上手く活用しているらしい。
彼はついでに『それとダリス、避けない戦い方をするなら盾を――』と言おうとしたが、ダリスが途端に不機嫌な顔になったので、『何でもない忘れろ』と言って取りやめた。
ナターシャはダリスに引け目を感じつつも、ディビスに話し掛ける。
「ねぇディビス。私が合成した防具、見栄えが良いってホント?」
「おう、ドラゴン装備っぽくて好評だぞ。中々良い腕してるじゃねぇか」
「えへへー」
褒められて照れるナターシャ。
我ながら素晴らしい合成手腕だと思う。
まぁ、防具のデザインは合成機能の設計者――リズール製なんだけどね。
「あ、武器の性能も統一するの?」
「いや、そこら辺は個人の自由だ。耐久力強化は全員やるだろうがな」
「安定志向だね。リザードが絶滅しそう」
「そん時はそん時だ。何なら神様が何とかしてくれるだろ」
「それもそっか」
神様、実際に居るからね。
仕事が増えて嫌な顔しそうだけど。
次にディビスは、ナターシャから顔を背けて、リズールに話し掛けた。
「――んでよリズールさん、アンタに聞いておきたいんだが」
『何でしょうか?』
「ここで狩りを始めてから1ヵ月経つが、ハビリス村の状況はどうなんだ?」
『平和ですね。もしかしたらオーク襲撃は杞憂だったのかもしれない、と少々思っています』
「ほーん……やっぱ冬だからか?」
『かもしれませんね』
そう――今は、スラミーが声を取得してから三週間後。
秘密工房周辺は冬らしさを感じさせないほどに緑一色な景色で、冬眠が不要なほどにほんのりと暖かな気温だが、フミノキースで感じる寒風と、道行く人々の雰囲気には年末の空気を感じる。
つまりは、そろそろ俺の誕生日が来るのだ。ナターシャちゃん(八歳)になるのだ。
個人的にとてもワクワクしている。
「――傭兵だった俺の師匠も言ってたが、冬に――――」
『その通りです。冬は寒さ――――それにオークという種族は燃費が――――』
「――なら襲撃は春――――」
『いえ、奇をてらって年明けの可能性も――――』
「だったらよ、もっと早く――」
『では――』
「――結論が出ねぇなぁ」
『全ては私の友人――クーゲルがオークの里に潜入してからですね。明日には分かるかと』
「なるほどな。相変わらず仕事が早ぇなアンタは」
『ありがとうございます』
このハッピーな情報はディビス達にも教えた(けど軽くスルーされた)ので、何をプレゼントしてくれるのか楽しみ。くれないなら奪い取る。絶対にだ。
「よーし、こっからは自由行動だお前ら。もし迷ってるならダリスに聞いとけよ。解散!」
「「「うーい!」」」
リズールとの会話を終えたディビスは、仲間に自由行動を促し、今度はナターシャと向き合う。
「おいナターシャ」
「なーにっ?」
プレゼントの事かな? とわくわくしながら聞くと、こう言われた。
「例の件だ。見ててやるから工房で練習しないか?」
「えっ、やだ……」
途端に逃げ腰になるナターシャ。じりじりと後退りながらリズールに近付く。
それをシュトルムが捕らえて、叱った。
「駄目だぞジークリンデ。テスタ村に居る一部の冒険者は、既に合成屋の存在に気付いている。ソイツらに舐められない為にも、私のようなカッコいい言動を――特にダーインスレイブ事変での言動を再現するべきだっ!」
「やーだー!」
逃げようとしてジタバタする。
しかしやはりというか、シュトルムのつよつよ腕力のせいで逃げられなかった。
最終的に地面に座り込み、そのまま不貞腐れる。
「ぶー」
「もージークリンデー……」
「やっぱ子供だなぁ」
ディビスとシュトルムは、見慣れた感じで呆れた。
実際、かれこれ十日くらいは繰り返しているいつもの光景である。
そしていつものように、リズールがナターシャをあやす。
『我が盟主。不本意かと思いますが、そろそろ練習すべきだと提案します。いつ見知らぬ冒険者が訪れてもおかしくないのですから』
「それは……そうだけどさ……」
『ほんの少しでも記憶の封印を解けば、それだけで有象無象の冒険者と対等に渡り合えるんですよ? 一度で良いので、試しにやってみませんか?』
「でも……でもやだの……あれはやだ……」
ナターシャはそう言って、膝を抱えて丸くなる。
リズールの言いたい事は良く分かる。でも俺は、中二病を――過去の事を忘れて生きたいんだよ……
だからいつものように、このまま皆が諦めるのを待つ。
他の面々も、この状態になったナターシャはテコでも動かないと分かっているので、諦めの雰囲気が漂い始めた。
しかし運命とは、時に残酷な物だ。
「おいおい、なんだこりゃあ。まるで春の野原に来たみたいだぜ――――」
自らで綴っていたハズの人生という物語は、時には本人の手を離れて、他人によって動かされていく。
全てはバタフライエフェクト。
胡蝶が起こした空気の揺らぎが、遠方の地で竜巻を巻き起こすかのように。
人は過去の行いから逃れる事は出来ず、張り巡らされた因果の蜘蛛糸に絡め取られるのだ。
今日から始まる一連の出来事は、ナターシャが様々な人々と交流した事によって起きた、因果の収束点だった。
「――――テンション上がるなぁーオイ」
そう呟くのは、少しオラついた感じの雰囲気が漂っている、黒髪の男性冒険者。
彼の後ろには二人の取り巻き雑魚。
「んん!?」
「なぁッ!? どこから現れた貴様らッ!」
『はぁ、やはり来ましたか……』
気が付いた時には、彼らはナターシャ達を直接狙える距離に居た。
両手をポケットに入れているボス格は敢えて喋らず、後ろの取り巻きに説明させた。
「ヒヒ、気付けなかっただろ? 何故なら俺たちゃぁ高レベルの隠密スキル持ちでな!」
「ケケケ! お前らに気付かれずに近付く程度、お手のもんなのさ!」
「ほーう? そりゃ凄いな」
『そうですか』
「くっ、暗殺者か……ッ! 面倒な!」
何ともまぁ、やられ役っぽい演出をしてくれる。
ボス格は一体何を考えて、彼らに語らせたのだろうか。
スキルってそう簡単に開示して良い物なの? 大事な個人情報だよ? バカなの?
少し不機嫌なナターシャは、彼らにジト目を送る。
「クッハハハハハハ!」
するとボスは大胆に笑い、ナターシャを指差してこう言った。
「今、俺を睨んだそこのお前。死んだぜ?」
「は?」
ごめんキレそう。
ただでさえ周囲に中二病を要求されてるのに、俺を煽るとか許さんよ?
すると、代わりのようにシュトルムが怒る。
「ぐぅぅっ、我が主ジークリンデを殺すだと!? 貴様ら不敬だぞッ! 名を名乗れェッ!」
『あ、シュトルムそのセリフは――』
「ケケケ、良いだろう! 耳の穴をかっぽじってよく聞けェッ!」
『あのいえ、名乗らなくても結構で――』
リズールが止める間も無く、隠密三人組は名乗り始めた。
まずは取り巻き。
ボスの背後から、左右に展開しながら自己紹介する。
「ヒヒヒ、俺の名はシン!」
「ケケケケ、俺の名はヒマエ!」
「そして――んんッ、リーダーである俺の名はァッ!」
最後にボスは、キザなポーズを取りながらこう言った。
「“影追い”のシローヒだァァー……ゥッ!」
「は?」
改めてキレ直すナターシャ。
なんでこんなクソみたいな茶番を見せられなきゃならんの?
ディビスとリズールは特に何も言わなかったが、シュトルムはナターシャにギリギリ聞こえる程度の声で呟いた。
「くっ、カッコいい……!」
「えぇ……」
困惑するナターシャ。
しかしシュトルムは、すぐさま大きな声で、彼らに向かってやり返した。
「良いだろうッ、ならば、冥途の土産に我が真名も教えてやろう! 我が名はシュトルム! 蒼穹の嵐、ヘルブラウ・シュトルム――――」
「うぐぉぉぉ……ッ!」
久しぶりに聞いたシュトルムの口上で、ナターシャは微量な精神ダメージを受けた。
B級映画のタイトルみたいなサブタイ
謎英語
Mary-Sueish syndrome
メアリースー(俺TUEEの代名詞)っぽい症候群っていう意味。創作界隈での用語。
転じて痛い言動をしてしまうお年頃の少年・少女達を指す。いわゆる中二病。
たまに発症したまま治らない人が居る。私とか。
後ろはMegalomania(誇大妄想って意味)にしようかと思ったけど、そっちはガチの精神病なのでやめました。
中二病は変な病気じゃない、大人の階段を登る為のちょっとした通過点なのだ。
次話は9月15日予定です。




