217 ちょっとした日常パートと、それによる副作用《サイドエフェクト》-後編
しかし、シュトルムがナターシャを止めた。
「待てジークリンデ、生死確認は私がする」
「あ、うん。分かった」
ナターシャは数歩下がって、シュトルムの判断を待つ。
彼女が警戒しながらユニコーンに触れた所、彼の角がポロリ、と外れた。
「あっ、角が外れた」
「本当か?」
シュトルムが確認のために視線を動かした瞬間、むくり、とユニコーンが立ち上がる。
「ッ! 貴様、生きていたのかッ!?」
即座に反応したシュトルムは、ナターシャの前に走り込むと、双剣を構えて対峙した。
しかしユニコーンは意に介さず、唐突に人語を話し始めた。
「私を倒すとは流石だ、少女よ」
それもかなりのイケボだ。有名配信者並みの。
何事か、と警戒し、たじろぐ女子二人。
ナターシャが代表して、理由を尋ねた。
「ユニコーンさん、なぜ貴方は人の言葉を話せるの? なんで死んだふりを?」
「義理は無いが――良いだろう、君達の功績に免じて答えよう」
ユニコーンは簡単に理由を話した。
彼が話せる理由は――ポグピッグという豚の魔物が持っている、“声帯石”なる物を体内に取り込んだから。
それを保持していると、魔物でも人の言葉を話せるようになるという。
そして、死んだふりをした理由は――――
「単純な話だ。君と戦っても、私には勝ち目がないからだ」
「その理由は――」
「私がユニコーンだからだ。言わなくても分かるだろう?」
「あっ、なるほど」
理由を察するナターシャ。恥ずかしくて赤面する。
対してシュトルムは、毅然とした態度でこう返した。
「フッ――我が力に恐れをなしたか。勝機が無いと悟るとは、中々に賢い魔物じゃないか」
「おおっと、想定外の反応だ。だが……――――」
少し戸惑うユニコーン。
しかし彼は、ゆっくりと身体の向きを変えながらこう言った。
「――――それもまた良い。その角は私に勝利した報酬だ。君達の好きにしてくれ。では、さらばッ!」
そしてそのまま、森の方角へと走り去っていく。
置いて行かれた二人も、これ以上の追跡は止めた。彼を狩った所で無益だからだ。
何故なら、ユニコーンの金銭的価値は角に全振りされているからである。
ナターシャとシュトルムは、構えていた武器をゆっくりと降ろした。
「行っちゃったね。倒せなかった」
「そうだな。だが、ユニコーンの角は手に入れた。それだけでも十分な成果だ」
「だよねー」
同意を返すナターシャ。
アイアンランクとシルバーランクの耐久力の違いも分かったし、結果は上々だ。
またシルバーランクの魔物と戦う時は、ユニコーンを基準にして、使用する魔法を考えよう。
ナターシャはユニコーンの角を回収して、アイテムボックスに入れた。
その時シュトルムが『なぁジークリンデ? アイツが言っていた“声帯石”があれば、スラミーも話せるようになるんじゃないか?』と言ったので、それもいつかゲットしよう、と決めた。
スラミーは嬉しそうに、俺の頭上でポヨンポヨン、と跳ねた。
その後、クエスト達成に適切そうなアイアンランクの魔物――ブロックボアーを見つけたので、二人は手加減しながら討伐し、ギルドに持ち帰った。
おまけにユニコーンの角を納品した事で、納品所は騒然とした。
納品所の職員は興奮で震えながら、ナターシャに尋ねた。
「な、ナターシャ様、どこでこの角を!?」
「ユニコーンを打ち負かした報酬に貰いました」
「ななな何ですとぉッ!?」
職員は腰を抜かして、後ろに倒れ込む。なんでそんなにビビってんの?
ナターシャとシュトルムは職員に肩を貸して、席に座らせて、納品・討伐証書を書いて貰った。
その手はぷるっぷるだったので、震えないように保持してあげるのが大変だった。
隣のギルドに行って受付に提出すると、いつものモノクルの人も、思わず驚愕の声を漏らした。
ナターシャが『なんでそんなに驚いてるんですか?』と尋ねると、モノクルの人は『ユニコーンは希少で、生息域がはっきりとしていない魔物でしたので、つい驚きの声が漏れました』と答えた。なるほど?
「ではナターシャ様、報酬の受け取りは今日にしますか? それとも後日に?」
「んー」
考えさせられるナターシャ。
実は――――ユニコーンの角の納品書には、金額の記載が無い。
それもこれも、納品所の職員が『ユニコーンの角は、粉末にして調薬すれば、最上級の解毒薬・全疾病への特効薬になるので、正確な値段が付けられない』と言っていたからだ。
だからこそ、俺はこう質問した。
「後日にすれば上がります?」
「それはもう、青天井に」
なるほど。そりゃそうだろう。
「今貰った場合は?」
「当ギルドが現状、出しうる限界の金額――金貨一万枚が支払われます」
ほぉ、それがこのギルドの限界なんだ。
だったら今日、無理に出してもらう必要は無いな。
お金いっぱい欲しいし。
「じゃあ後日でお願いします。角が売却出来たら連絡してください」
「ナターシャ様の配慮に感謝します。では、当ギルドからの報酬支給確約書と、各種商店・商会での決済代行魔導プレートを作成致しますので、少々お待ち下さい」
「?」
首を傾げるナターシャ。
決済代行用の魔導プレート? なんだそれ。
あ、もしかして、クレジットカードみたいなもんかな?
まぁ、詳しい説明は後で聞く事にして、とりあえず待つか。
「分かりました」
ナターシャはシュトルムと共に待機した。
ギルドの酒場で飯を食いながら。やっぱりポグピッグ美味しい。
その時、シュトルムが尋ねてきた。
「なぁジークリンデ、魔導プレートってどういう物だと思う?」
「ん? シュトルムも知らないの?」
「あぁ、前世には存在しなかった物だ。一体どういう物なのか知りたい」
「それは職員さんが言ってた通りじゃない? 私達が払うお金を、ギルドが立て替えてくれる魔道具」
「あぁえっと、そうじゃなくてだな――」
シュトルムは困ったように頭を掻いて、こう言い直した。
「――魔道具を誰でも気軽に使えるようにする設計・魔導技術は、あのスタンリーでも『理論上は可能だけど、作製補助装置を試作するのに三百年は掛かる』と言って匙を投げたのだ。後世の魔導技師達は、その問題をどうやって解決したのか知りたい」
「へぇー」
雑に相槌を漏らすナターシャ。
とりあえずこう返答した。
「私にも分かんない。後で職員さんに聞いてみよう?」
「まぁ、それもそうだな。分かった」
そう同意すると、シュトルムは静かになった。
ナターシャは次の話し相手を求めて、何となくスラミーに話し掛ける。
「あ、スラミー。そろそろご飯食べる?」
スラミーは頭の上で、ぷるぷると否定した。
この子、テイムしてから一切ご飯食べてないけど、大丈夫なんだろうか。
あぁでも確か、リズールが『スライムは食べた物を魔力に分解している』って言ってたし、もしかしたら、魔力だけで生きてる魔物なのかもしれない。
やっぱり魔物って不思議だなぁ、と思った。
食事を終えて受付に行くと、職員から支給確約書と、ギルドの紋章が印刷された魔導プレート――――黒いプラスチック(?)のようなカードを渡された。
これは……見た目は完全にクレジットカードだ。それも現代なら最上級のブラックカード。
なんだか、本物のお金持ちになれた気がして、とっても嬉しい。
そしてその場で、魔導プレートへの所持者登録、更に使い方の説明もされた。
協賛企業に限るようだが、読み込み用の魔道具に接触させるだけで良いらしい。
まるでICカードのようだ。
「――ありがとうございます。それで、聞きたい事があるのですが」
「はい、なんでしょうか?」
ナターシャは『魔導プレートが魔道具だって事は分かるのですが、どうやって万人に使えるように調整したんですか?』と尋ねた。すると職員は、内緒のように教えてくれた。
「……これは企業秘密なのですが、魔導プレートは“カルバグ種”という特殊な昆虫型魔物類の外骨格で作製しましたので、魔道具を使用する際のような、微細な魔力調整が不要なのです。ちなみに、当ギルドオリジナルの品です」
「そうなんですか、分かりました。ありがとうございます」
「ナターシャ様のお力になれて何よりです。では今後とも、当ギルドを宜しくお願い致します」
「こちらこそー」
ナターシャ達は職員に見送られて、ギルドを後にした。
帰り際、シュトルムは『魔導プレートは生体由来だったのか。通りで魔導技師達には作れない訳だ』と話した。
「なんで生体由来の素材で作らないの?」
「フッ、それは何れ分かるさ。ただ、強いて言うなら――無機物由来である事に、魔導技師達の夢が詰まっているから、だな」
「なるほど」
きっとロボットとか、アンドロイドとかを作りたいんだろうなぁ、と何となく納得した。
だって、シュトルムみたいなハイゴーレム・ギュネーを作るほどだし。
それくらいは説明されなくても分かる。
二人はそのまま家に帰って、今日の成果を家族に披露した。
ブラックカードを見せられたエメリアと兄マルスは、それはもう仰天していた。
兄がつい漏らした『金持ちじゃん』の一言は、本当にお金持ちになれたんだ、という実感を沸き立たせてくれた。
そしてナターシャは、飯を食って風呂に入ってベッドに入って、一日を終えた。
明日やる事は明日考えよう。
タイトル思い付かねぇ
大変長らくお待たせしました。
次話は9月7日予定です。




