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邪気眼少女の極唱魔法(エクスペル) ~異世界転生したらTSした上に厨二病を再発症する羽目になりました~  作者: 蒼魚二三
ナターシャ7歳編 -国と地方と農村と、邪気眼と中二病のヴィアンド-
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215 暗示魔短剣との戦い《バトル・オブ・サジェスティー》

8月21日追記:ちょっと後に響く事が分かったので、大改編しました。ごめんなさい

「――やれやれ、また殺気が漏れてしまった。今のはただの忠告で、他人を威圧(おど)す気なんてないんだけどな――――表の僕には」

「うっ、ぐぅっ、これはぁ……っ!」


 ダガーの発する言葉に苦しみだすナターシャ。

 しかし、シュトルムの時よりも反応が薄い。何故か。

 それは何と、ダガーがまだ表の人格しか出していないから――つまり、本気を出していないからだ。

 彼の闇人格関連による精神的揺さぶりが発生した瞬間、ナターシャはいつも通り轟沈するだろう。

 他人の心に容易く干渉してくるとは、なんて恐ろしい魔剣なんだ、と彼女は思う。


 だからこそナターシャは、今すぐに彼を始末する事に決めた。

 何故なら、彼を討伐するのが自分達の仕事だからだ。


「……シュトルム、倒すよ。こんな危険な魔剣、この世に存在しちゃいけない」

「了解だジークリンデ、須らく滅ぼそう。召喚指令・双対喰刃(オーダー・オルトロス)!」


 決して“シュトルムが共感しない内にこの黒歴史を葬り去ろう”などと考えたからではない。

 ナターシャはブラック・キャット・マジックを出し、シュトルムはジャキン、とオルトロスを構える。それを理解したのか、ダガーはこう呟いた。


「力ずくで消そう、ってかい? まったく、今日はなんて日だ」


 そうは言いつつもダガーは動かない。

 まぁ純粋に動けないだけだが。

 だが、ナターシャもシュトルムも容赦なく、彼に攻撃を仕掛けた。

 まずはシュトルムが飛び掛かって、武器破壊用の剣技を使う。


「行くぞダーインスレイブ! 刀身破壊(ソードブレイク)!」

「援護するよ! 雷撃弾(サンダーバレッド)!」


 ナターシャも高速で発射される雷撃の銃弾を放って、先手を奪った。

 双方から襲い来る絶死の双撃。当たれば破壊は免れない。


「砕けて消えろッ!」

「――やれやれ、仕方ないな」


 サジェスチョン・ダガーは残念そうに呟くと、


れ、闇の“僕”――――!」(シュンッ)


 突如、台座の上から姿を消した。


「何ッ!?」


 シュトルムの斬撃と、ナターシャの魔法によって、台座が爆発するように破壊される。

 悔しそうな表情を浮かべるシュトルムは、衝撃でパラパラと舞う土埃を振り払いながら叫んだ。


「何処に隠れたダーインスレイブ!」

「……後ろだ」

「なッ――!?」


 彼女が驚いて振り向いた時には、ナターシャの背後にダガーが迫っていた。


「――ジークリンデ! 後ろだ!」

「えっ!?」


 ナターシャもバッと振り向いたが、もう遅い。

 ダガーは、ナターシャの胸――心臓に目がけて飛び込み――――


「あぁもう駄目だ、動けない……」

「痛っ」(ボスッ)


 ――鞘から抜けていなかったのと、エネルギー切れで失速したのも相まって、ナターシャの胸にコン、と当たるだけで済んだ。

 次の瞬間には、ダガーは地面に転がって、満足そうにこう言っていた。


「ハハハ……これで君は死んだ……、僕の勝ちだ……」

「ま、まぁ確かにそうだね……」


 ダガーが抜き身だったら死んでたからね……

 少しだけ痛む胸を抑えながら、ナターシャはホッと溜息を付いた。

 そして、慌てて走って来たシュトルムは、ナターシャの怪我を確認した後、ダガーに剣先を向けた。


「やるではないかダーインスレイブ。私達の負けは認めよう。――だが、これでお前は死ぬ。言い残す事は無いか」

「そうだね……」


 ダガーは考えるように沈黙した後、こう言い放った。


「僕は不滅だ。人々の心に中二病がある限り、何度でも蘇るよ。何故なら僕は、“中二病”の精霊だからね――――」

「えっ」

「な、なんだと? 今“中二病”の精霊、と言ったか?」

「えっ、そうだけど……何さ?」


 戸惑うような素振りを見せるダガー。

 シュトルムは――仲間を見つけた、と言わんばかりの笑みを浮かべて、高らかに発言した。


「ほう、奇遇だな! 我も――蒼穹の嵐、ヘルブラウ・シュトルムも、中二病というスキルを持っているぞっ!」

「へぇー……そ、そうなんだ? ま、まぁ、僕もそのスキルを持ってるよ。Lv7の中二病スキル」

「おぉやるではないか! 私よりもレベルが高いぞ! 流石は中二病の精霊だなっ!」

「あ、あはは、ありがとう。死の間際だけど、初めて褒められたから嬉しいや」


 ダガーは少し嬉しそうに話した。シュトルムもニコニコしている。

 ナターシャは二人の間に割って入って、こう言った。


「ちょっと待ってよー、もー、仲良くしたら倒し辛くなっちゃうでしょー?」

「いやジークリンデ、別に倒さなくても良いんじゃないか? コイツは中二病の概念なだけだし、私も同じスキルを持ってるから、悪い存在じゃないって分かるし」

「そ、そうだけど……うん、そうだよねぇ……」


 まぁ流石に、ここまで空気が緩むと、“討伐してやろう”という気概も失われる物だ。

 ナターシャは諦めたようにため息をついて、未だに棚の裏に隠れている店主に掛け合った。


「店主さん、ちょっと良いですか?」

「な、なんだ?」


 声が震えている店主。ナターシャは気にせずに用件を言った。


「このダガーは悪い存在じゃないんで、討伐するのは止めておこうって思うんですよ」

「……どういう事だ?」


 そこでようやく、店主が棚の影から出て来た。

 ナターシャは、ダガーが何の精霊なのか、彼に説明する事になった。



 その頃のオークの里では、カバ一味が目を覚ましていた。

 三人は大きく伸びをすると、ぐぅ、となる腹を抑えて、部屋からゾロゾロと出てきた。


「腹ヘッタブヒィ……」

「――目ガ覚メタカ」


 リビングでは、ローワンが椅子に座って待っていた。

 カバは一味を代表して、開口一番にこう言った。


「ブ、ローワン。飯ヲ食ワセロブヒ」

「ナゼダ? 長ノ所ニ行カナイノカ?」

「ブヒ? 何ノ事ダブヒ?」

「ハ?」


 思わず固まるローワン。

 とりあえずもう一度尋ねてみた。


「イヤ、シバノ発見報告ヲシニ、長ノ元ヘ行クツモリナンダロウ?」

「ブゥ、寝起キニ質問スルノハ止メルブヒ。ソンナ事ヨリ飯ヲ寄越セブヒ」


 どうやらカバは、空腹のせいで思考が鈍いようで、飯の事しか考えていないらしい。

 一週間近く寝ていたのだから、それも当然だろうな、とローワンも考えた。

 そしてローワンは、カバの要求に対してこう答えた。


「飯ヲ出スノハ構ワン。ダガ、外ニ行ク事ニナルゾ?」

「ブ? 食糧庫ニ飯ガ無イブヒカ? ローワンナノニブヒ?」

「違ウ。マタ空ニサレタラ敵ワンカラ、知リ合イノ飯屋ニ、飯ヲ用意シテ貰ウヨウ頼ンダンダ」

「アァ、ソウブヒカ。ダッタラ早ク案内シロブヒ」

「分カッタ。付イテコイ」


 ローワンはカバ一味を引き連れて、二軒隣の飯屋へと足を運んだ。

 彼は早速、飯屋の店主に掛け合って、カバ一味用の食事を出して貰う。

 勿論、医者としての長年の勘から、今日中にカバ一味が目を覚ますと分かっていたので、ノータイムで大量の料理が運ばれてきた。

 白米と普通の焼き物をメインにしつつ、醤油が香るスープや、味噌を使った煮込み料理など、沢山だ。

 その全てに、紫の大きなキノコが添えられていたり、具材として混ざったりしている。


「「オォ! 美味ソウダー!」」

「ブッヒィー!」


 大喜びするカバ一味。ローワンはこう言った。


「サァ食エ。好キナダケナ」


「「「ウォォ―――――!!!」」」


 許可を貰ったカバ一味は、目に付く料理を片っ端から食べて――添え物の紫キノコも残さず食べた。

 彼らが食べ切った後にはソースの一滴すら残っておらず、文字通りの完食だ。


「「「食イ切ッタァ~……」」」


 満腹の腹を擦り、一息つく一味。すると……


「ブゥ、満腹デ眠イ――――ブヒィー」(ドシャァッ)

「「グゴー……」」(ドドシャァ)


 眠くなったのか、そのまま後ろに倒れ込んで爆睡し始めた。

 飯屋の店主はそれを見届けると、ローワンに話し掛けた。


「上手クイッタナ、ローワンサンヨ」

「アァ。コレデマタ、一週間稼ゲル。アリガトウ」

「ハハ、ソリャヨカッタ。――シッカシマサカ、胞子抜キヲシテナイ、マルシェルーム・ドルミーネヲ食ッテシマウナンテナ。普通ノオークナラ、臭イデ気付クモンダガ」

「イヤ、コノ一味が気付ク事ハ無イダロウサ」

「ハハハッ、ソウダナ! ナンセ“カバ”ダカラナ! ガハハハハ!」


 豪快に笑う店主。ローワンは逆に呆れている。

 その後店主は、皿を片付けるついでに、店の従業員数名に『カバ一味をローワンの患者用の部屋に運んで、寝かせておけ』と指示した。


「彼ラハ信用出来ルノカ?」


 ローワンがそう尋ねると、店主はこう答えた。


「ソリャナ。ナンセ、“旧宰相派”ダゾ?」

「ソウダッタカ。マダ慕ワレテイルンダナ、私ハ」


 感慨深く、自身の手を見るローワン。

 店主は彼の肩を軽く叩いて、片付けを手伝うように促した。

 ローワンは老体に無茶をさせるな、と言いつつも、彼らへの感謝の意を込めて、店の手伝いをした。



「――という事なんです。なので彼はテレパシーを使ってる訳じゃなくて、ちょっと斜に構えて悟った風を装っているだけなんですよ」

「そ、そうだったのか。なんだ、俺の早とちりだったんだな」

「理解して頂けて何よりです。はぁー……」


 ナターシャは精神的に疲れたのか、思いっきり肩の力を抜いた。

 するとシュトルムとダガーが、ワクワクしながらナターシャに話し掛ける。


「じ、ジークリンデ! さ、さっきのカッコいい言動や振る舞いは何だっ!? (ソウル)が揺さぶられるような凄みがあったぞっ!?」

「あ、あぁ! 中二病の精霊の僕でも、思わずひれ伏したくなるような、そんなカリスマ性が感じられたよ……! 凄いね君は!」

「あぁそりゃどうも……はぁ~……」


 そして、思いっきり落ち込む。

 店主に中二病の概念を説明する上で、ナターシャ本人が実演して見せる、という中々にキツイ精神修行を行う羽目になったからだ。

 今生では二度と使うまいと思っていた物を、まさかここで使う事になるなんて……


「ジークリンデ! もっとさっきのを見せてくれっ!」

「僕からもお願いするよ! 君の指導を受ければ、僕はもっと強くなれる気がする!」

「だめだめ。私の中二病は安売りしちゃいけない物なんだよ」


 今は亡き“組織”を運営する為だけに使うモードだからね。


「「そんなーっ!」」


 シュトルムとダガーは、悔しそうに叫んだ。

 だけどまぁ、ここまで全力で慕われるのなら、組織の長として振る舞うのも悪い気はしないけども。

 ナターシャは少しだけ、自身の過去に向き合えた気がした。


 店主はその後、討伐証明を出してくれて、『お嬢ちゃんにダガーを譲ろうか?』と言ってくれた。

 しかしダガーはそれを拒否した。


「なんでだ? 話が合う奴らと一緒に居られるんだ、悪い話じゃないだろう?」


 疑問に思った店主が尋ねると、彼はこう言った。


「いや、自分の主は自分で決めるよ。何故なら生きる意味が出来たから。それは――――」


 彼は――ナターシャの眼前に乗り出して、強気に発言した。


「――僕は中二病の精霊として、君に勝ちたい。その時までは、君達の仲間になるつもりは無いよ」

「が、頑張ってね……」


 ナターシャは困惑の言葉を返した。

 まぁ、頑張って欲しいとは思う。


「では、失礼しましたー」

「おう! また来いよー!」

「またな呪われし魔剣(ダーインスレイブ)! 強者となって相まみえよう!」

「やれやれ、それはコッチのセリフだ蒼穹の嵐。だが、またどこかで会おうじゃないか」


 ナターシャとシュトルムは、店主とダガーに見送られて武具店を後にした。

 二人はその足で冒険者ギルドに向かう。

次話は8月24日予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さん、最近の速い投稿、お疲れ様です! フュージョナーとは何か大役ぽいですね! 燃える厨二心を持つシュトルムさんにとって、薬草収集はつまらないでしょう。 それにしても、厨二病持つの魔剣が…
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