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邪気眼少女の極唱魔法(エクスペル) ~異世界転生したらTSした上に厨二病を再発症する羽目になりました~  作者: 蒼魚二三
ナターシャ7歳編 -国と地方と農村と、邪気眼と中二病のヴィアンド-
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213 まさかまさかの大当たり《ジャックポット》

 ナターシャ達は工房を離れて、森の中に入っていった。

 ここで一から探すのかな? と思っていたら、ダリスが『付いてこい、群生地に案内してやる』と言って、ずんずんと進んでいった。


「ねぇ、何でマナリア草の群生地に案内してくれるの?」

「……」

「何か言ってよダリス」


 道中、ダリスは無言を貫き、何も語らなかったが、カレーズとアウラが理由を教えてくれた。


「――えっ、合成のお礼なんですか?」

「そうなんですよ。ね、カレーズさん?」

「あぁそうだ。ナターシャお前、工房近くに生えてたマナリア草、片っ端から採取してるだろ」


 コクコク、と頷く。

 それからカレーズはこう語った。

 何でも、最初にマナリア草が減っている事に気付いたのがダリスで、それも工房周辺に集中している事から、俺――ナターシャが採取しているんじゃないか、という結論に至ったらしい。

 その理由は聞かないとして、ナターシャには今も、そしてこれからも世話になるだろうから、お礼を兼ねて、皆で群生地を探し出したんだとさ。


「――――で、その中でも、先陣切って頑張ったのがダリスだ。アイツは普段、薬草採集で生計を立ててるらしくてな。どういう場所に薬草が密集しやすいか良く知ってるんだよ。だから見つけられたんだ」

「へぇー、ふーん……」


 カレーズの言葉を受けて、ちょっとダリスの事を見直したナターシャ。

 ちょこちょこっ、と近付いて、話し掛けた。


「ねぇダリス」

「……」

「ありがとねっ」

「……フンッ」


 無言を貫いていたダリスも、少し恥ずかしそうに頭を掻いた。

 ここでようやく、ダリスがどういう人なのか分かった。

 なんだ、単純に不器用な人だったんだね。



 マナリア草の群生地は、大きな崖によって日光が当たりにくい広場だった。

 目に見える範囲、全ての草がマナリア草だ。流石は群生地。


 ナターシャは早速、この位置をスマホのマップに登録しておいた。

 出来ればまた、ここで採集したいからね。マナリア草がいつ復活するかは分からないけど。


「ははっ! 見ろジークリンデ! 大漁だぞっ! これで職員共を見返せるなっ!」

「うん、やったねシュトルム」


 マナリア草の束を抱えて、大喜びしているシュトルム。

 年齢相応でとても微笑ましい。


「ナターシャちゃーん、どれくらい取りますかー?」

「そりゃ勿論、あるだけ全部ですよアウラさん!」

「はーい!」


 鎌でザクザクと切って、紐で束ねるアウラ。

 ただやはりというか、ちょっとぎこちない手つきだ。


「子供にこき使われるって何か不思議な気持ちだな」

「フン、喋ってないで手を動かせカレーズ。俺とお前が薬草採取の主戦力だ」

「へいへい……」

「おい、根は傷付けるんじゃねぇぞ? 上手くいけば二年後にまた採取出来るからな」

「二年……場所を忘れちまいそうだぜ……」


 カレーズとダリスは、慣れた手つきで収穫していった。

 それだけ冒険者活動が長いからだろう。


 ナターシャ達はそれから5時間掛けて、群生地のマナリア草を採取した。

 それでも全部は収穫できないのだから、どれだけ多いかが良く分かる。

 アイテムボックスに入れる様子も見せたが、その事に関して聞かれる事は無かった。

 まぁ多分、アウラさんから事前に聞いてたんだろうね。


 ナターシャ達が薬草採取を終えて、秘密工房に戻る頃には、他の冒険者達も帰って来ていた。

 彼らはいつも通りの成果だった。


「ようナターシャ! 合成代金の補填はどんな感じだ?」

「うん大漁だよ。良かったらこれからも宜しく」

「おう、また見つけられたらな。じゃあ行ってこい」

「行ってきまーす」


 と言う感じでディビスにも見送られて、シュトルムと一緒にフミノキースの冒険者ギルドに行った。

 納品所でドサドサドサ! とマナリア草を納品した時の、他の冒険者や、納品所職員の驚愕した顔が気持ちよかった。


 更に、これで採取依頼の十割+αを纏めて納品したので――――総額にして金貨二千枚がナターシャの懐へと入る事となった。

 達成報酬自体は金貨百枚程度なんだけども、ナターシャが採取したマナリア草の鮮度の高さと、元々の流通量の少なさ、更には『出来るなら在庫が欲しい』という要望を受けて、購入権をオークション形式で販売してみた所、価格が暴騰したらしい。マジかよすげーな。


「ナターシャ様なら必ずやって頂けると信じていましたよ」


 モノクルの職員さんにそう言われた。

 とても嬉しそうに微笑んでいる。


「何でそんなに私の事を信用してるんです?」


 あまりにも不安だったので、ナターシャは尋ねた。

 すると職員は『ではナターシャ様、二階へお越しください』と言って、カウンター内へと導いた。

 ナターシャとシュトルムはビビりながらも、職員に連れられて二階の応接間に向かった。



 応接間で待っていたのは、旅の護衛に関わってくれた冒険者ギルドの職員。

 知的な雰囲気を匂わせる風貌に、キリっと決めたギルドの制服。そして眼鏡。


「お久しぶりですねユリスタシア・ナターシャ様。今か今かとお待ちしておりました」

「アーデルハイドさん!?」


 そう、魔法教官のフォンダン・アーデルハイドさんだ。とても懐かしい顔である。


「えっと、それで、どういったご用件ですか……?」


 ナターシャが不安そうに尋ねると、彼は少しだけ笑って『いえ、その前に椅子へお座り下さい』と言った。まぁ、それもそうだ。

 シュトルムと一緒に彼の対面に座って、話を聞いた。


 なんでも俺が信用されているのは、エンシア本店ギルド長から直筆の手紙が来た、というのもあるが、何よりも大事なのは――――収納魔法のスキル化が完了した事。

 アーデルハイドに一冊の黒い魔導書を見せられて、これが収納魔法のスキル本だ、と言われた。中々の厚みだ。


 それをギルドの職員・解体場の従業員に使用させて、異空間収納スキルの利便性を確かめた所、尋常じゃない程に仕事効率が上がったらしい。

 結果、職員間で『この魔法を創ったのは誰?』という話になり、俺――ナターシャの名前が出て、そこから一気に俺への期待・信頼度が上がったんだそうだ。なるほどね。


「――そして、ナターシャ様。よければ教えて頂きたい事がありまして」

「はい」


 アーデルハイドは眼鏡をクイッ、と上げると、本題に入った。


「今回のマナリア草、何処で収穫なされたのですか?」

「んー……」


 ナターシャは考えた。教えようか、教えまいか。

 正直、無料タダで教えるのは嫌だ。何かしらの良い条件をゲットしておきたい。

 とりあえず、思いついた事を尋ねてみた。


「じゃあ仮に、の話ですけど」

「なんでしょう?」

「仮に、採取場所を教えたとして――――ギルド側はどういった対応を取るつもりなのですか?」

「此方の対応ですか……」


 アーデルハイドは眼鏡の位置を軽く直してから、語った。


「当ギルドとしましては、ナターシャ様の採取量から、マナリア草の群生地が存在する、と判断しておりますので、その近くへの拠点作製――さらには、中継拠点となる村への簡易依頼受託所の開設を行い、迅速な供給網の確保を行う所存です。もしや、何かお求めになられる事が?」

「なるほど……」


 うん、まぁ、マナリア草って栽培できないみたいだし、良く売れるみたいだからね。

 だったら俺から群生地の情報を仕入れて、そこを占有してしまって、更なる安定供給を目指そうって魂胆なのか。

 俺の教えた収納魔法があれば、薬草の鮮度を気にしなくても良いだろうし。

 中々に効率的な商売方法を取ってるよね冒険者ギルドって。良い意味でも、悪い意味でも。


「んー……私から求める物はー……」


 ナターシャは少し考えて、こう答えた。


「じゃあ……テスタ村の住民さんに優しくしてあげて下さい。あの村の人達は、悪い冒険者さんに酷い目に会わされたみたいなので」

「なるほど、つまり群生地は――テスタ村周辺に存在する、という事なのですね?」

「えぇ、そうです。ただし、彼らとの交流は難しいですよ?」

「ハハハ、それはお任せください。交渉は我々の得意分野ですし、真っ当ではない冒険者を捕まえるのも、冒険者ギルドの職務ですから」

「えぇ、期待していますよ。あの地域の治安が良くなるように、ね?」

「分かりました。ご期待に沿えるよう最善を尽くしましょう」


 そんな感じで、二人はビジネスライクな話し合いを終えた。

 あぁ、収納魔法のスキル本を使用させて欲しい事を伝えたが、アーデルハイドさんに『スキル本には最大使用回数がありますので、二冊目が出来るまではお待ちください』と言われた。

 二冊目が出来るのは、


「えっと、二冊目はいつ頃になりますか?」

「二週間後になりますね」


 だってさ。

 んー、とても残念だ。まぁ、収納魔法は使用頻度が高いから、詠唱するのに慣れちゃったけども。


「ではナターシャ様、今後とも冒険者ギルドを宜しくお願い致します」

「えぇ、今後とも仲良くしましょうね。では」

「フッ、また会おう!」


 ナターシャとシュトルムはアーデルハイドに見送られて、一階に降りた。

 ついでに新たなクエストでも受けようとしたが、残念ながら営業時間外だと告げられた。

 仕事時間に関しては厳密だよねホント。しょうがない。


「帰ろっか」

「あぁ、そうだな」


 ナターシャはシュトルムと共に、職員達の反応を思い返しながら帰った。

 大儲けしたし、今日はいい夢が見られそうだ。

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