212 邪気眼度ゼロから始まる事象の地平線《イベント・ホライズン》
次の日から、合成屋としての仕事が始まった。
まず、ディビスから渡された盾みたいな角と、四方八方に伸び散らかした牙を合成した。
そうして出来上がったのが、ボーンバッシュという盾。
衝撃吸収、衝撃反射倍化というパッシブスキルが付いていて、受けるダメージを軽減した上で、逆に相手を吹っ飛ばしてくれる素晴らしい盾だ。
かなり強力なスキルを持っているので、防御目的以外にも色々な用途があるだろう。
因みにスキルは“森羅万象鑑定術”で調べて、名前はその場で適当に命名した。
「はいどうぞー」
「良くやった。よし、ちょっとこれで遊んでみるか」
「あ、面白そうだから私も見たーい」
受け取ったディビスは仲間(ナターシャも含む)と共に外に出て、スキルの効果を試した。
ディビスが構えている盾に、何人かの冒険者が斬り込む。
すると、衝突と同時に、彼らの武器がバンッ、と弾き返された。
盾に傷は無く、ディビスがダメージを受けた様子も無い。
「おっ、良い盾だな」
「そうねー」
「フン、及第点と言った所か」
銀等級の二人と、ダリスがそう呟く。
ナターシャには『なぜダリスが銀等級の二人と並んでるんだろう』と言う疑問が生まれたが、あまり深く考えない事にした。
そして、構えを解いたディビスは、冒険者達を焚き付けるように叫んだ。
「よし、見たかお前ら! これがスキル付き装備の凄さだ! 普通なら金貨にして数十枚も掛かる代物だが、このナターシャに頼めば何と――――小銀貨1枚で作ってくれる! 防具の整備費よりも遥かに安い金額で、最高の装備が手に入るぞ! どうだ! 欲しいか!」
「「「当たり前だァァァ―――――――ッ!!!!!」」」
冒険者達も、その言葉で魔物討伐への意欲が高まったようだ。
ナターシャはとりあえず、ディビスに文句を言った。
「ねぇ給料安くない?」
「ハッ、馬鹿野郎」
ディビスは軽く鼻で笑うと、こう返した。
「まだここで稼がせて貰ってねぇんだ、余裕が出来たら値上げさせてやる。それまで我慢しろ」
「そっか、分かった」
なら仕方ないね。
「それで……その盾はディビスが使うの?」
「あー、これか? いや、実は適任者が居るんだ」
「適任者? 誰なの?」
銀髪少女が首を傾げると、ディビスは――銀等級二人の横に居る、一人のモヒカンに話し掛けた。
「おうダリス。ちょっと良いか?」
「フッ、なんだ? 俺様に何か用か?」
「あぁ用がある。実はだな――――
ディビスはダリスに盾を差し出して、『これを持って、片手剣士にならないか?』と言った。
だが、その一言がダリスの琴線に触れたらしい。モヒカンの彼は盾を跳ね退けると、『俺は盾なんぞには頼らねぇ。この剣一つで十分だ』と呟き、不機嫌そうにそっぽを向いた。
ナターシャはディビスに近付いて、こう言った。
「振られちゃったね」
「ま、分かってたがな。ナターシャ、ダリスがその気になるまで預かっとけ」
「うん」
結局、ナターシャが盾を預かる事になった。
まあ生産職だし、作った装備を保管するのも大事だよね。
それからディビス達は、気慣れた仲間と連れ立って狩りをしに行った。
今の所、格上の魔物に挑む予定は無いようなので、それぞれ自由行動で良いらしい。
ナターシャは彼らを見送った後、リズールにハビリス村の状況を聞いたり、マナリア草がどんな場所に生えているのか聞いた。
ハビリス村はまだ平和の一言。やはり隠れ里なだけあって、見つけにくいようだ。
あの時のオーク三人組――オークのシバ曰く“カバ一味”というらしいが、彼らは相当なイレギュラーだったようで、『ああいった事が起こらないように警戒しないといけませんね』とリズールは語っていた。
で、マナリア草。
青い色をした三又の複葉植物らしく、月の光を浴びて生育するらしい。
フミノキース周辺では貴重かもしれないが、この工房付近のような辺境ならば、軽く探すだけで見つけられるそうだ。手つかずの地って素晴らしい。
ナターシャはリズールに感謝を伝えた後、シュトルムを連れてマナリア草採取を行った。
彼女の言った通り、本当にそこら辺に生えていた。楽に採取出来て嬉しい。
ある程度の量――クエスト達成分の十本を採取し終えると、フミノキースに転移して納品した。
達成報酬は銀貨一枚。まぁ、良いお小遣い稼ぎなのではないだろうか?
ギルド職員からは『もっと沢山納品して頂いても良いんですよ?(意訳)』と言われた。
いや、まるで俺が群生地の場所でも知ってるような感じで対応されても困る。
なんでそんなに期待されてるんだろうか。
とりあえずまた採取依頼を受けて、秘密工房へと戻った。
その頃には、狩りを終えたディビス達が一休みしていた。
狩りの成果は上々で、これから帰って解体するらしい。
何を狩ったのか聞いた所、皆一様に『ハードスキンリザードと食肉用の魔物』と言った。
銅ランクの魔物であるハードスキンリザードは、“硬質化”というスキルを持っている――とダリスが彼らに教えた事で、『もしかしたら防具の強化に使えるんじゃないか』と挙って狩って来たそうだ。
意外と単純な思考をしてて助かる。
「よし、また明日な」
「またねー」
話し終わる頃には休憩を終えたようで、冒険者達は、獲物を担いで帰っていった。
そして翌日の朝、ハードスキンリザードの皮を冒険者全員の防具に合成した。料金は先払い。
まぁ、強化したい部位に皮を当てて“合成”と呟きながら黒・猫・魔・導で小突くだけなので、一時間くらいで終わった。
その後、“森羅万象鑑定術”で調べて、ちゃんとスキルが定着しているか確認した。当然ながら成功だ。
「もっと簡単に調べる方法があったら良いのになぁー」
ナターシャがそうぼやくと、ダリスが『俺は鑑定スキルを持っている』と教えてくれた。
もしかして手伝ってくれるの!? と期待したのだが、ただ長々と自慢されただけだった。ダリス許さねぇ。
「まぁ良いじゃねぇかナターシャ。鑑定スキルをゲットするまでの辛抱だ。ダリスの事は気にすんな」
「う、うん……」
ディビスにはそう慰められた。仕方ないのは事実だ。
ナターシャは今日も、狩りに出向く彼らを見送って、マナリア草を採取――今日は多めに三十本を採取して、フミノキースで納品して、職員に『もっと納品して(意訳)』と言われた。まぁ待って欲しい。
納品後はすぐさま工房に戻って、狩りの成果を聞いて(今度は“強靭化”を持つ魔物を狩ったらしい)、翌日には防具に合成した。
どうやら彼らは、防具の強化を優先すると決めたようだ。
合成作業中、ディビスが今後の方針として、皆に語っていたし。
◇
その一連の流れを三日くらい続けた頃だろうか。新しい仲間が増えた。
「ナターシャちゃん! 久しぶりだな!」
「お久しぶりでーすっ!」
「あぁ! また会えて光栄だ!」
「おぉ、久しぶりー。綺麗な装備になったねー」
懐かしの青銅三人組、クランク・レンカ・フィズが、ディビス達と共にやって来たのだ。
因みに、ナターシャが生産職――合成屋として活動している事は、ディビスから聞いていたらしい。
三人は早速、『自分達の装備も強化して下さい!』と深く頭を下げた。もちろん快く許諾した。
ただ『装備の強化方針はディビスに従ってね』とだけ注意しておいた。
その後はリズールを呼んで、三人に工房内部の案内や、ハビリス族関連の色々な説明をした。
最初は戸惑っていた三人も、ハビリス族、シバ兄妹の境遇を聞いて、正義感がふつふつと湧き上がって来たらしい。
特に、クランクが燃えに燃え上がって、『俺に任せて下さい! 俺が全部ぶっ倒してしてみせますよ!』と大声で宣言した。フフ、だったら期待しておこう。
「「「行ってきまーす!」」」
「行ってらっしゃーい」
狩りに出かける三人組を玄関で見送って、さて今日も薬草採集だ、と後ろを向くと、シュトルムが此方を見つめていた。もじもじとしながら話し掛けてくる。
「なぁ、ジークリンデ?」
「どうしたの?」
ナターシャがコテン、と首を傾げると、シュトルムは、じれったい感情を身体で表しながら迫って来た。
「うぅっ、もうっ、もうちまちまとした薬草採集は嫌なのだっ! どうせなら群生地を見つけて大量に回収して、毎回毎回『もっと寄越せ』と愚痴を言う、ギルドの職員共の鼻を明かしてやろうじゃないかぁ~っ!」
「いや、そうは言うけどさ……」
群生地なんて、簡単に見つかる物じゃないと思うんだよねー……
ナターシャは困ったように頭を掻く。すると、
「――フンッ、今、“薬草の群生地なんざ見つかる訳が無い”って思ったな? 合成屋」
「えっ?」
突然、左から男性の声がして、振り向く。
そこに――工房の壁に寄りかかっていたのは、世紀末漫画の雑魚敵。
「ダリス……?」
そうダリスだ。ダリスがそこに居た。
でも君は、さっき狩りに出かけたはずじゃ……?
「――フッ、俺も居るぜ?」
次は右から声がした。
ナターシャはバッ、と振り向いて確認する。
「カレーズ!?」
「わ、私も待ってましたー……」
「アウラさんも!?」
なんと、カレーズとアウラまでもがここで待機していた。
えっ、何? これはどういう風の吹き回し?
「なんで皆ここに居るの?」
ナターシャが不思議そうに尋ねると、ダリスが『理由はねぇ、気が向いただけだ』と答え、要件を伝えた。
「おい、合成屋。お前――――俺達と一緒に、マナリア草の群生地を探さねぇか?」
「えっ、ダリスと……?」
なんでダリスなんかと……
少し戸惑っていると、アウラとカレーズがこう言った。
「ナターシャ、受けてやれ」
「そうですよナターシャちゃん! 私達と一緒に薬草探ししませんか?」
「えっ、あぁ……うん」
つい流されるがままに頷くナターシャ。
まぁ、アウラさんにまで誘われたのなら、断る理由は無い。
「フッ、決定だな」
ダリスは不敵に笑うと、ナターシャに指示した。
「今から十分後に出発する。それまでに装備を整えておけ」
「う、うん」
「カレーズとアウラもそれで良いな?」
「おう」
「私達はいつでもー」
なんでダリスが仕切ってるんだ……? カレーズじゃないの……?
ナターシャは不服そうな顔をしながらも、出発する準備を終えた。
「――出来たよ。シュトルムも付いてくるけど良い?」
「フッ――我が力が必要か?」
カッコよく決めるシュトルム。ダリスは嬉しそうに微笑んだ。
「ほう、良い面構えだ。歴戦の猛者のような風格が出ているな」
「えっ……? あっ、よ、良く分かったな我が強さを! その慧眼を誉めてやろう! えへへ……」
その一言で、容易く懐柔されるシュトルム。なんかチョロいぞこのゴーレム。
ダリスは戒めるようにゴホン、と咳払いして、出発を告げた。
「よし、全員俺の後ろに続け。……逸れるんじゃねーぞ?」
そう言って、ダリスは草原を歩いていく。
カレーズとアウラは彼の後ろに続き、シュトルムも『風が呼んでいるな』と言って歩き出し、ナターシャは少々戸惑いながらも、彼らに付いていった。




