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邪気眼少女の極唱魔法(エクスペル) ~異世界転生したらTSした上に厨二病を再発症する羽目になりました~  作者: 蒼魚二三
ナターシャ7歳編 -国と地方と農村と、邪気眼と中二病のヴィアンド-
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210 それぞれの野心《エーアガイツ》

 工房に着く頃には冒険者達も吹っ切れたようで、いつも通りに振る舞っていた。

 やれ酒を用意しろだの、休憩拠点が小さいだの、リズールをデートに誘い始める(約一名の弓兵)だの、わざとらしく喚き始めたので、『あんまりうるさいと斬鬼丸を呼んでくるよ?』と注意すると、途端に静かになった。やはり殺戮熊を討伐した功績はデカいらしい。


「むー」


 とりあえず、シュトルムの背中から降りておこぷんしておくナターシャ。

 一応、この工房の家主なので、それっぽい威厳を出した。


「まぁ、今の発言は俺らなりの冗談(ジョーク)だが――なぁ、ナターシャ。なんでこんな辺鄙(へんぴ)な場所に別荘を建てたんだ?」


 するとディビスが、皆を代表してナターシャに問いかけた。

 どうやらただのジョークのつもりだったらしい。ま、そういう事にしておくか。

 落としどころはそれしかないだろうし。


 ナターシャは『わざわざ建てた訳じゃ無くて、既に亡くなられた、著名な魔導技師の秘密工房を再起動して、有難く使わせて貰っているだけだよ』と説明した所、銀等級冒険者のアストリカが絶叫した。


「私のお宝がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――ー……ッ!!!」

「いやお前のじゃねぇって……」


 リズールから離れたカレーズが、とても呆れた顔でそう呟いた。

 なんでもアストリカは、ダンジョンや遺跡などで宝探しをするのが生き甲斐らしく、誰かに先を越されると必ずこう叫ぶらしい。面白い人だ。


「フン、まぁ、嗅覚だけは鋭いようだな。お子様にしては、だがな」


 そして突然近付いてきたダリスから、お褒めの言葉なのか、侮辱ぶじょくなのか良く分からない言葉を送られる。何と反応しようか戸惑うナタ―シャに対して、ディビスがこう言った。


「お、ダリスに褒められたなナターシャ。良かったじゃねぇか」

「えぇ……?」


 今の誉め言葉だったの?

 ナターシャは、相変わらず舐め切ったような視線を送るダリスを見て、本当に褒めてくれたのか疑問に思った。だが、とりあえず『ありがとう』だけは言っておいた。

 彼は『フン』と言って、少し不機嫌そうに顔を逸らしたが。

 どういう考え方をしているのか全く読めない。


 様々な反応が重なって収集が付かなくなってきた所で、リズールがまとめに掛かる。


『では、立ち話はこれくらいにしまして。私達は工房に入りますが、冒険者の皆様も入られますか?』


 その言葉を受けて、ナターシャと親交のあるディビスとアウラは『気になるから中に入る』と宣言し、その他の冒険者は『周辺を確認したい』と言った事で、二班に分かれた。


 アウラは落ち込んでいるアストリカを心配そうに見送り、ディビスはカレーズに『ダリスはマジで詳しいから色々と聞いとけ』と推奨していた。

 その他はまぁ、あわよくば魔物を狩ってこよう、程度の意気込み。

 時折、餌を求めて現れるだろう、レッサーサーペントには気を付けて欲しい所だ。

 ディビスは、彼らの代表となるカレーズに向かって叫んだ。


「調査は任せたぞカレーズ!」

「あぁ分かった! 後で奢れよな!」

「それは内容次第だ! 期待してるぜ!」

「よっし、言質(げんち)は取れた! 行くぞお前ら! ディビスに全力で(たか)るぞ!」

「「「おぉーッ!」」」


 とても楽しそうに去っていく外出組の冒険者達。

 アウラは、ディビスの懐を心配する。


「ホントに奢っちゃって良いんですか? ディビスさん」

「構わねぇよ。今日の酒代くらいならな」

「そうなんですか?」

「あぁ、多めに回収した備品代で埋められるしな」

「うわ、抜け目ないですねー。見習いたいです」

「いや勉強するようなモンじゃねーよ。勝手に身に着くモンだからな」

「へぇー」


 先輩と後輩の冒険者らしい会話をする二人。

 そこにナターシャからのお呼びが掛かる。


「ディビスー、アウラさーん、入らないのー?」

「あっ、はーい! 今行きまーす!」

「へいへい、今行くよ」


 ディビスとアウラは、ナターシャ達と共に工房の中に入る。



 リズールは早速、二人に工房内部を案内して、地下の研究室に関しての情報を開示をした。

 アウラはいつも通りに驚き、ディビスはある程度の予測が出来ていたようで反応が薄かったが、『我が盟主(マイロード)が事前に行動してくれたお陰で、ここからフミノキースに転移――瞬間的に移動する事も可能です』と伝えられた事で、動きが固まった。


 彼が次に話し出した時には、『ただ休憩拠点を提供された感覚でしか無かったのに、街に帰る手段も用意してくれてるとかお前は神様かなんかなのか?』とナターシャに言っていた。

 いやぁ、まぁ、それほどでも?


「ただ、無料でとは――――」

「分かってるよ、使用料だろ? 幾らが良い」

「――は、話が早いね。まず一人頭だけど――――


 ナターシャは、交渉の余地が無い金額を宣言した。

 転移陣の使用料金は、転移一回につき、一人辺り小銀貨一枚。乗合馬車と同価格。

 この業務は始めたてなので、とっても安価だ。

 当然の事ながらディビスも驚いていた。


「ん、おい、そんなに安くていいのか? 向こうにはノータイムで行けるんだろ?」

「うん、今はこの値段で良いんだよ。全員でフミノキースに帰ったりとかはしないでしょ?」

「まぁそれはそうだが、それでも安すぎやしないか?」


 不安そうなディビス。ナターシャは理由を説明した。


「ま、その安さにも理由があって――ここを教えた理由、説明したでしょ?」

「あぁ、戦力が要る、と言っていたな。それの事か」

「そうそう。実はなんだけど――――


 ナターシャは、彼らをここに招いた理由をもう一度(ナターシャはそのつもりで)説明した。

 ハビリス族、更にはハビリス村の現状、オークの里との対立、逃亡者のシバ兄妹の事。

 アウラは変わらず驚愕して、ディビスは眉間を摘まんでいた。

 そんな二人の反応を見たリズールが『各種防御魔法、結界を使用して、皆様が怪我をしないように細心の注意を払いますので、どうか予備戦力に加わって頂けませんか?』と言った。

 手を降ろしたディビスも『まぁ、支援魔法が完璧なら良いだろう』と答え、『アウラとアストリカ以外の魔法使い(メイジ)回復術師ヒーラーも必要か?』と聞いた。

 何ならギルドで誘ってくるつもりらしい。


「なんだかやる気だねディビス」


 とナターシャが聞くと、


「請け負ったのは事実だからな。報酬分の働きはするさ」


 と答え、追加の人材が必要なのかもう一度聞いた。

 リズールは遠慮して、メイジとヒーラーはもう間に合っている事を伝えた。

 代わりのように『どちらかと言うと前衛が欲しい所ですね』と言ったが、ディビス側としてはこれ以上の前衛は要らないらしく、お互いに遠慮する形で話が終わった。

 ナターシャは“チャンスかも”と思ったのか、ディビスにアピールする。


「ディビス、魔法使い(メイジ)枠に私なんてどう? 凄い魔法をいっぱい使える――」

「子供だからパスだ。十二歳になってから出直してこい」

「ぶー!」


 即座に加入拒否されてむくれるナターシャ。

 その後ろに居たシュトルムはあわわ、と慌てて、主をあやしつつ、その威厳を守るためにこう言い放った。


「ディビス! 我が主ジークリンデをあまり舐めるなよ!? こう見えて、凄くカッコよくて強い魔法や武器を持ってるんだぞっ!?」

「へぇ、どんな武器だ?」


 ディビスは気になったので聞く。

 ただし、少し舐めた態度で。相手の怒りを誘っているのだ。

 それでシュトルムもむきになったのか、長々と説明した。


「フンッ、では脳裏に刻み付けるが良い! その武器の名は――黒・猫・魔・導ブラック・キャット・マジック! 漆黒の妖気を纏う魔法の杖で、敵のLv・HP・MPなんかのステータスや所持スキルの確認、採取物の位置確認、更には素材同士を合成して、新しい武器を作れたりする凄い杖なんだぞっ!?」

「ほう、そりゃ凄い――――待て、今なんつった?」


 どうせ大した物じゃないだろ、と軽んじようとした所で、ステータスという謎の用語やら、とても気になる機能を聞かされて困惑するディビス。

 彼はもう一度シュトルムに尋ねたが、彼女は二度と口を割らなかった。

 そっぽを向いているナターシャの機嫌を直す事を優先したからだ。


「いや、どういう物かもっと詳しくだな――――」


 ディビスは仕方なく周囲を見渡した事で、リズールと目が合った。


「――ど、どうも?」

我が盟主(マイロード)が持っている武器に関しての説明が必要ですか?』

「……それは取引を持ち掛けてんのか?」


 怪しむディビス。リズールは笑顔で肯定した。


『はい、そうです。コチラの条件は――――ディビス様の事情も加味して、前衛後衛は問わず、後三名の増員です。可能ですか?』

「あー……」


 ディビスは少し考えた後――――ふと彼らの事を思い出した。

 だが、表面上は悔しそうにして、こう答えた。


「チッ……わぁったよ。ランクは青銅(ブロンズ)でも良いな?」

『お任せします。では、説明致しましょう』

「あぁ頼む」


 話が纏まった所で、ナターシャの黒・猫・魔・導ブラック・キャット・マジックの機能――更に、ステータス表示魔法についての解説が為された。

 アウラはナターシャをあやしながら驚いた。


「おいおい……」


 話を聞いたディビスは、少し考えた。

 黒・猫・魔・導ブラック・キャット・マジックの合成機能とやらがあれば――とても高価な武具である、スキル付きの魔物装備を安価にゲットする事が出来て、例えソロでも、格上の魔物を狩りに行けるようになるんじゃないか、と。

 ソロでの大活躍を目指しているディビスにとって、とても魅力的な話だった。

 やはりナターシャは幸運の女神だ、と認識するほどに。


「はぁ、仕方ねぇか」


 ここでこのチャンスを逃してはいけない。

 個人的な信条はこの際だ、ひとまず棚に上げて、まずは引き込んでしまおう。

 ディビスは早速、怒りを収めたナターシャに話し掛ける。


「なぁナターシャ。良い話がある」

「なに? パーティに入れてくれるの?」

「いやそうじゃないが、それに近い話だ。ナターシャ、お前――――」

「?」


 彼は少し言葉を選んだ後、こう言った。


「――俺達の鍛冶屋(ブラックスミス)にならないか?」

「鍛冶屋に?」


 なんで?

 全く別方向からのお誘いに、ナターシャは首を傾げた。

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