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邪気眼少女の極唱魔法(エクスペル) ~異世界転生したらTSした上に厨二病を再発症する羽目になりました~  作者: 蒼魚二三
ナターシャ7歳編 -国と地方と農村と、邪気眼と中二病のヴィアンド-
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209 ナターシャのちょっとした苦悩《アングイッシュ》

 自宅に転移して早速、ナターシャはこう言った。


「よし、またあの森に行こうか」

「あぁ! 心が躍るな!」


 二人は意気揚々と、軍管轄下の森へと繰り出した。

 そこでマルシェ・ガーディアン狩りを行ったが――――とても物足りなく感じた。


 理由を説明する前に、黒・猫・魔・導ブラック・キャット・マジックが持つ“詳細解析”スキルと、“森羅万象鑑定術オールマイティ・アプレイザル”で判明した、マルシェ・ガーディアンの情報を出しておこう。

 勘のいい人なら、それだけで分かるハズだ。


―――――――――――――――――――――――――――


 マルシェ・ガーディアン

 Lv3

 HP50/50

 MP10/10


 体長が二メートル近くある、マルシェルームの巨大種。

 見た目は短い手足が生えたエリンギ。

 母体である大菌糸体に行動を制御されているので、

 一定の範囲内から出る事は無い。


 敵の攻撃方法・対処方法

 生物の熱を察知して近寄り、その短い剛腕から

 繰り出す強力なパンチで敵を屠る。

 ただ、とても緩慢な動きなので、

 相手が攻撃する前に倒すか、

 魔法などの遠距離攻撃で仕留めよう。

 

 スキル

 感覚共有(菌糸類) 熱源察知

 養分吸収(土壌・朽木)

 生物化


―――――――――――――――――――――――――――



 以上の通りだが、ガーディアンのステータスはとても低い。

 詠唱魔法・単語魔法では火力が高すぎて燃え尽きてしまい、仕方なく無詠唱で処理していたのだが――敵の動きがあまりにも遅すぎて、その場に棒立ちしていても対処が出来てしまった。

 シュトルムも最初こそ、スキルで双対喰刃(オルトロス)という双剣を生成して、縦横無尽に駆け回っていたが、次第に延髄蹴りなどの体術で倒し始め、最終的に、


「――遅いッ」


 と言いながら、すれ違いざまにガーディアンのコア――“菌心核(マルシェ・ハート)”を抜き取ると、少し離れた位置で停止して、グシャッ、と握り潰す事で倒していた。

 完全に遊び始めていた。


「もーシュトルム、討伐部位を潰しちゃダメだよー」

「し、仕方ないだろうジークリンデ! 敵の歯応えが無さ過ぎるのだ! 感覚共有スキルで仲間を呼んで、大群で押し寄せてくる気配とかも無いし!」

「まぁそうだけどさー」


 ナターシャもつまらなさそうに返答しながら、木陰からヌッ、と現れたガーディアンに、無詠唱の“業火球ファイアボール”を当て、丸焼きにして倒していた。

 実家に居た頃のように、状態異常からの一撃必殺を狙うほどでもない。

 何というか、『青銅(ブロンズ)くらいの冒険者なら倒せて当然』程度の強さなのだ。

 二人の実力は確実にアイアン以上なので、格下相手では飽きがくるのも当然だった。


「なぁジークリンデ、そろそろ帰らないか? 私は飽きてきたぞ?」

「そうだね、帰ってクエスト達成しよっか」


 もはやただの作業プレイになってるし。

 ナターシャとシュトルムは狩りを打ち切って、ギルドに報告した。

 総数にして100個ほどの“菌心塊(マルシェ・ハート)”を見た魔物回収所の職員は、


「おぉ、よく飽きませんでしたねナターシャさん。他の青銅(ブロンズ)級冒険者は『歯応えが無いから』と依頼達成分の10体で打ち切るんですよ」


 とつい言っていた。

 まぁ、コッチにはレベル上げっていう別のモチベもあるからね。

 普通の人よりは多く狩れるともさ。


 そしてギルドの受付にて、通常の十倍の報酬を受け取ったナターシャは、ちょっとした虚しさを感じながらアイテムボックスに収納した。

 あぁどうせなら、程々に強い魔物と戦いながらランク上げしたい。くそぅ、何故青銅(ブロンズ)には魔物討伐クエストが無いんだ畜生め……

 せめて楽なランク上げ方法でも無いか、と思ったナターシャは、受付の職員に尋ねてみた。


「ねぇ職員さん」

「はい、なんでしょうか?」


 モノクルを掛けた職員が対応する。


青銅ブロンズの冒険者さんって、どんな風にクエストを受けてアイアンになっていくんですか?」

「そうですね、これは一例ですが――――


 と言って、職員は教えてくれた。

 通常は二ヵ月ほど掛かるアイアン級冒険者への道だが、とある青銅ブロンズ級冒険者が“事前に沢山採集しておいた薬草や魔物の討伐部位を、納品所でクエストの達成分だけ納品し、ギルドの受付でまた同じクエストを受けて、また達成分だけを納品”という作業を何度も繰り返した結果、僅か2日でのアイアン昇級を果たしたらしい。

 とてもグレーに近い裏技だが、その冒険者は優秀な薬草採取屋でもあったので、ギルドも黙認したようだ。


「そんな事、私に教えても良いんですか?」


 ちょっとコンプライアンス的に不味いんじゃない? と思うナターシャ。

 しかし職員はこう返した。


「本来はダメなのですが、冒険者に夢や野心を与えるのもギルド職員の役目ですから。それに――――」

「それに?」


 彼女はモノクルの位置を直して、困った顔で呟いた。


「――ナターシャ様には、薬草採集クエストや、この街で完結するクエストに興味を持って頂けると有難いな、と考えましたので、つい語ってしまいました。宜しければまた、専属冒険者の生存確認をして頂けませんか?」

「あぁ、なるほど」


 俺にそういう裏方のクエスト――もっと言うなら、専属冒険者の生存確認をして欲しいのね。

 それって、そんなに人気の無いクエストなのだろうか。

 ナターシャはとりあえずこう返答した。


「それはまた今度受けます。今回はとりあえず、薬草採取のクエストを受注して良いですか?」

「そうですか、期待しております。では、採取依頼の出ている薬草一覧をお出ししますね」


 職員は、薬草の採取方法に関する諸注意がびっしりと書かれた、用紙の束を取り出した。

 色々と精査した結果、必需品と言っても過言ではない程に、依頼件数が多い一つの薬草――――マナリア草の採取クエストを受注した。


 ただ、数があまりにも多い事から、ふと疑問に思ったナターシャが『これはどういった薬草なんですか?』と尋ねると、職員は『マナリア草には微量な魔力回復・思考力向上の効能があって、そのお陰か、この街の魔法研究者や魔導士、更には軍部からの需要が高い薬草なんです』と教えてくれた。

 つまりは、このギルドの稼ぎ(がしら)となっている薬草、という事なのだろう。

 国が絡むとはそういう事だ。


 で、肝心の採取方法。

 マナリア草は根、葉、茎、全てに効能があるらしいが、“栽培不可能なので、最低でも根っこは残して採取するように”と、赤文字で鬼のように書かれていた。

 丸ごと採取してくる冒険者に『頼むから根っこは残せ』と言い聞かせるような感じだった。


 まぁ、他の薬草――特に、最下級回復ポーションの材料で、微量な体力回復効果のある“やくそう”(原文ママ)という薬草は、『栽培したいので根っこごと持ってきて』という依頼が多いので、冒険者が間違えるのも仕方ないとも言える。


「薬草採集って大変なんですね」

「はい。マナリア草は貴重な薬草ですので、ナターシャ様が採取法を間違われないようお祈りしております」

「えぇ、気を付けて採取します。では」


 受注書を受け取ったナターシャは、職員に優しく見送られながら、シュトルムと共に自宅へと帰った。

 今日はもう日暮れ。薬草採集は明日からだ。



 そして次の日になった。

 ナターシャはまず工房に転移して、リズールから生死連絡石(ドントゥ・ウォーリー)を受け取った。赤い色の宝石が、金色の宝石で縁取られたブローチだ。


 使い方は簡単で、生存報告をしたい者の血をブローチに垂らす。それだけ。

 どうにか髪の毛で代用出来ないか、と聞いたが、『戦時中はその需要の高さから、とても高度に洗練されていった魔道具ですので、改良の余地が無いのです。傷は回復魔法で治せますので諦めて下さい』と宣言された。

 指先を針でチクッ、とされるのが痛かった。


 血を吸収したブローチ――生死連絡石(ドントゥ・ウォーリー)は、中央の赤い宝石が緑色に変わった。

 リズール曰く、『中央部の宝石が緑の時は“元気に生存中”、黄色の時は“病気”、赤になった場合が“死亡”を表します』との事。

 色の変化がなんだか信号機みたいだな、と思った。

 まぁ、意味が分かりやすいからしょうがないか。


 ナターシャは早速、そのブローチをガレット達に届けて、魔道具としての効果を説明した。

 受け取ったガレット達は『これでナターシャが生きているかいつでも分かる』と、深く安心してくれた。

 プレゼントして良かったと思う。


 ガレット達に出発を告げて、次に向かったのはテスタ村。

 既に到着して、そこで夜を過ごしたであろう冒険者達――ディビス達を迎えに行くためだ。

 お迎えには、護衛のシュトルムは当然として、ナターシャの説明を聞いたリズールも一緒に来てくれた。

 リズールとしても、咄嗟の戦力になるような人材が欲しかったようで、『流石は我が盟主(マイロード)です。私リズールアージェントは大賢者の魔導書として、我が主の有能さを誇りに思います』と言ってくれた。

 いやぁ、そこまで言われると照れるね。交渉した甲斐がある。


 テスタ村では相変わらず疎外感を感じたが、比較的見慣れた顔達が、此方に手を振ってくれる光景はとても嬉しかった。

 ディビスは何も聞かずに、真っ先にこう言った。


「ようナターシャ! 言われた通り、全員で来てやったぜ? どこの狩場で茶やワインを飲ませてくれるんだ!?」

「あはははは」


 狩りの途中で酒を飲む気かよ。

 あまりにもふてぶてしい態度に笑ったナターシャは、彼らを狩場に案内する前に、リズールやシュトルムが軽く自己紹介出来るような時間を作った。

 ――そう、シュトルムが自己紹介するチャンスを作ってしまった。


「待たせたな冒険者共! 我が名はシュトルム! 蒼穹の嵐、ヘルブラウ・シュトルム! 前世では戦乱の世を駆け抜け、双対喰刃(オルトロス)を振るって戦った、嵐を纏いし簒奪者(さんだつしゃ)だ! フッ――あまり舐めるなよ?」

「あははっ、ははっ……うっ、うぐっ、ぐぅぅぅう……っ!」

「ジークリンデ!?」


 ナターシャは、どんどん進化(悪化)していくシュトルムの自己紹介で、同じようにバージョンアップしていった中二病な過去を思い出し、唐突に苦しみ始めた。

 更に、シュトルムの善意によって、ディビス達に『ナターシャは実は呪われていたんだ、熾天使の紋章はその呪いを抑え、完全に制御するべく授かった物なのだ』という認識を植え付ける事にも成功した。


 次に気が付いた時には、シュトルムにおんぶされていて、秘密工房に向かっている途中だった。


「あれ……私は……?」

「起きたかジークリンデ。今回の暴走は短かったな。きっと力が馴染んできたのだろう。良い傾向だ」

「えっ、何が……?」


 言葉の意味が分からないナターシャ。

 とりあえず周囲を見渡したが、とても悲痛な表情で眉間を抑えているリズール以外は、誰一人としてナターシャに目を合わせようとしなかった。

 あの優しかったアウラでさえ、こちらには目もくれず、重い表情で顔を伏せている。

 彼らはナターシャの呪いに恐怖しているのか?

 関わりたくないと思ったのか? いや、違う。

 彼らは優しいからこそ、ナターシャの境遇に同情して、悲しんでいるのだ。

 目を合わせられないのは、感情が整理出来ていないから。普段の調子で話し掛けるのに、もう少しだけ時間が欲しかったのだ。


「マジで何があったの……?」


 なので、その問いかけに答える者は誰も居らず、シュトルムもただ、『気にするなジークリンデ。みなは事情を知って、驚いているだけなのだ』と呟いただけだった。


 再びフラッシュバックで苦しんだ以外の記憶が無いナターシャは、そのシュトルムの言葉で、“あぁ、リズールからハビリス族の事情を聞いたんだろうな”と勘違いしたらしく、『そうなんだね』と返して、秘密工房に着くまでぼーっとして過ごした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ナターシャさん、地味に努力していますね!レベル上げは重要だと思います。 ナターシャさんの精神はヤバ過ぎるでしょう、ここまでダメージを受けるですか!? 閑話休題ですが、蒼魚さんは最近凄いや…
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