20 “組織”の真実 後編
ナターシャから組織の全貌を聞いたユーリカ。
話を整理する為に自身の中で考え続ける。
「は、排除……!? じゃ、じゃあ、もしかして……」
排除。それはつまり。
「……決して人には言えない事もやった。全ては世界の平和の為に、と言ってね。」
「……そ、そんな……。」
辛い表情をして目を瞑り、顔を俯き背けるナターシャ。
そしてナターシャの重々しい態度から組織の活動内容が事実だと理解し、崩れ落ち、座り込むユーリカ。
……そんな姉の様子を見て、お空の向こうに行っていたナターシャの意識が覚醒する。
ハッ……うわー、やべぇなデメリット。完全に油断しきるとこの有様かよ……。
今言った事は断片的にしか覚えていないけど大まかな設定は覚えてる。だって昔作ったやつだし。
……ってか、300人委員会とかなんだよホント。シュ〇ゲかよ。
そして羞恥心からか、もじもじとしながらユーリカに対して話し始める。
「……お、お姉ちゃん、今話した事は絶対に誰にも言わないで。じゃないと私……」
不安気な表情をするナターシャに手を向け、静止をするユーリカ。
「……それ以上言わなくていいわナターシャ。もう分かったから。……それと、ちょっと考え事するから待ってて」
「う、うん……」
ま、まぁ分かってくれたなら良いんだけど。
ナターシャは恥ずかしさを誤魔化す為に指を合わせていじいじとする。
ユーリカはナターシャの話した内容を頭の中で考え、整理する。
(……ナターシャの事情は分かったわ。
持っている魔道具はきっと組織のメンバーと連絡を取る為の物なのね。
魔道具にはそういう物があると聞いた事があるわ。
運営者は後4人居ると言っていたから、その人達と自由に連絡が取れるようにもしてあるはず。
通信用の魔道具だからきっと魔法で現在地などの情報も常に収集されているわね。
それにおよそ100万人もの部下を動かす際の情報発信用にも利用しているはずよ。
……一体、どれだけ高度な魔法術式を組んであるのかしら。
いくら優秀なナターシャでも、そんな物を1年で組むなんて無理よ。
……もしかしたら有名な大魔導士も絡んでいるのかもしれないわね。
でもそんな人脈はどうやって……)
顎に手を当て、眉を顰めてひたすら考える。
(えっと、神様に貰った力で未来を見たと言っていたから、
6歳の洗礼の日から急いで準備したはずよ。
それを僅か1年で100万人規模に……そして大魔導士まで……?
神様の魔法だけではそんな事は…………神様?)
そうか!と思いつくユーリカ。
(も……もしかして、教会も絡んでいるの!?
……いえ、間違いないわ。それなら大魔導士への人脈も説明がつく。
きっと洗礼部隊の神父様に掛け合ってお願いしたのね。
ナターシャの特殊なスキルの事もあるから、信じてくれたはずよ。
洗礼部隊は教会内部でも非常に強い影響を持っているし、定期的に鍛え直す為に本国へ戻る必要がある。
そして、その際に教皇様に会う事も出来る。
きっとその際に世界の危機について説明したんだわ。
それを理解した教皇様がじきじきにお触れを出して……そうか!
100万人もの構成員への連絡は教皇様が行っているんだわ!
でも、一般の信者の人では構成員の中に裏切り者が混ざっている可能性だってある……)
うんうん唸るユーリカ。その様子を不安げな表情で見守るナターシャ。
(……あぁそうだわ!洗礼部隊よ!その候補生達!
訓練の為に社会から隔離され、
常に規則正しい寮生活を強いられる彼らなら“機関”に関わる事もないわ。
彼らは神への信仰以外を必要としていないし、証も貰えるから詐欺や恐喝程度では揺らがない。
それにいつも鍛えているから戦闘能力も高い。
でも、平和の為に人を殺すなんて彼らがする筈が……。それに人数も……。
ま、まさか、洗礼部隊とはまた別に特殊な部隊が居るって言うの……!?
それが100万人規模で!? それってもうこの世界を制覇できるじゃないの!)
途方もない数字に驚愕するユーリカ。
ナターシャは気まずそうに姉を見つめ、そして今度はきょろきょろとしながらスマホを弄る。
(それに100万人規模の人間を育成するなんて……
いえ、ナターシャは私との戦闘で国家騎士団長のユーシア様の構えを使って見せた。
それはきっと“彼女も関わっている”という暗示なのよ。
国家騎士団も関わっているならその育成も不可能ではないわ。
それに、騎士団になってしまえば必ず目立ってしまう。“機関”も必ずそれは避けるはずよ。
でも洗脳の可能性は……
そ、そうだわ、ここ最近、国から予備校生に対して健康診断と精神鑑定を行うよう義務付けられていたわ。きっと洗脳されているか見破る為よ。
でも騎士団の中に詐欺や恐喝を受けた人が居るかも……
いいえ、きっと騎士団の中にそういう事を調べる部署があるんだわ。
それはきっとユーシア様の直接の人選で……
ま、まさかユーシア様直属の部隊の方がその任務を……!?
……いえ、在り得るわ。
直属の部隊の方々も洗礼部隊に負けない程の国への忠誠心を持っている。詐欺や恐喝に屈するくらいなら躊躇いなく死を選ぶはずよ。
そうなると特殊部隊の構成は……協会の洗礼部隊とその訓練生。
ユーシア様とその直属の部隊に、国家騎士団員。更には予備校生の混合部隊……
つまり、私は気が付かないうちにナターシャの“組織”の一員になっている可能性があるの……!?)
まさかの事実に目を疑う。
ナターシャは自分すら既に手駒の一つに過ぎないと言っていたのか。
冷や汗を流しながらユーリカはその思考を認める。
(……でも、そう考えるしかないわ。
だってナターシャが魔道具を持っている事は事実。
組織の存在と構成までも語ってくれた。間違いなく裏の仕事を行う部隊があるわ。
そして特殊な部隊の人達が秘密裏に大魔導士達へコンタクトし、人脈確保を行ったに違いないわ。
で、魔道具。
一体何人の大魔導士が共同で研究を行っていたのかしら……。
常に位置を発信しつづける術式を組むなんて数人じゃ済まないわ。それこそ何十人規模よ……?
……ま、まさか魔術学会までも関わっているの……!? お、奥が深いわこの情報……)
思考で脳みそがパンクしそうになり、ユーリカは床に手をつく。
(……こ、この物語は壮大ね。
協会や、国家規模の特殊部隊、魔術学会、そして国家騎士団まで絡んでくるなんて。
きっとナターシャは情報が洩れて協力者達に被害が及ぶ事を危惧したから、
魔道具の事を両親にもひた隠しにしたんだわ。
権力者や有名人が多すぎるもの。間違いないわ。
……僅か7歳にしてここまで考え込んで行動していたなんて。
ナターシャの将来は一体どうなってしまうのかしら)
ナターシャの真意とその才能の凄さを理解したユーリカはゆっくりと立ち上がり、フラフラと部屋の入口へと向かっていく。
その行動にナターシャは驚いてスマホを弄るのをやめ、枕の傍に投げる。
手を身体の横にピッチリ沿わせて、今度は何を言われるのだろうかと緊張した面持ちだ。
「……ちょっと疲れたから、少し風に当たってくるわね……。話してくれてありがとう、ナターシャ」
後ろ手にひらひらと手を振り、ナターシャに別れを告げる。
ユーリカがドアに手をかけ、出ようとする所をナターシャが呼び止める。
「お、お姉ちゃん。」
ゆっくりとナターシャの方を向くユーリカ。
その表情はとても疲れている。今にも倒れそうだ。
「……秘密だからね? 誰にも言わないでね?」
その返答に疲れた表情ながらも微笑みを浮かべ、優しく頷くユーリカ。
頷き終わるとゆっくりと前を向き、部屋を後にする。
残され、ベットに寝たきりなままの赤城恵は、昔作った厨二病設定を思い出して頭を抱えて唸るのであった。
怒涛の厨二病&勘違い祭り。
ユーリカちゃんの将来が危ぶまれますね。
頭の回転が速い分大変な事になっております。




