208 生き物、物、作り物達の繋がり《レガーメ》
そして自宅――エメリア旅行雑貨店に帰ってきて、自室に移動。
転移の指輪の宝石を使用して、紫の転移陣を発生させた。
「じゃあ転移するよ」
「あぁ」
ナターシャとシュトルムは転移陣に入って、秘密工房へと転移する。
転移先は地下の研究室、中央の魔法陣。一瞬で景色が変わるのはとても楽しい。
「リズールー?」
多分作業しているだろう、と思っていたナターシャは、転移して早速、リズールの名前を呼んだ。
しかし返答は無い。研究室は片付いていて、作業していたような気配もない。
「あれ?」
念のため、と地上のリビングなども見てきたが、やはりリズールは居なかった。
後ろに続いていたシュトルムも、主と同じような結論に達したようで、こう発言した。
「ジークリンデ、ここにヒルドは居ないようだぞ」
「そうだね……」
リズールは何処に行ったんだろうか。
――――あ、そっか。もしかしたらハビリス村に居るのかもしれない。
意外とすぐに思いついたナターシャは、まずは研究室に戻る。
そして、彼女からの書き置きなどが残されていないだろうか――と思って周囲を捜索すると、研究机に一枚のメモが置いてあった。そこにはこう記載されていた。
“我が盟主へ
現在リズールアージェントは、ハビリス村に移動しています。
御用の際には其方までお越しください。
*注意*
転移可能地点が二か所以上になっている時は、転移場所を指定しないと転移出来ません。
ハビリス村に来られる際は“ハビリス村”と、フミノキースに戻られる際は“フミノキース”と発言して下さい。”
「なるほど」
ふむ、転移場所の指定が必要なのか。
まぁそれもそうだよな、と思う。常識レベル。
それが無いとランダム転移になっちゃうだろうし。
メモの内容を理解したナターシャは、シュトルムに話し掛ける。
「よし、リズールはハビリス村に居るみたい。もっかい転移しようかシュトルム」
「あぁ、構わないぞ。魔法陣に入ってから転移先を指定、という事だな?」
「そうそう」
シュトルムは順応性が高いね。
二人は魔法陣の上に立って、転移先の名称を言った。
「「“ハビリス村”」」
次の瞬間には納屋の中に転移していて、外ではハビリス族の子供達が、不思議そうにコチラを伺っていた。
見た目は3歳から4歳くらいの人間の子供で、幼くて小さい顔も相まって、長い耳が目立っている。
端的に言うと見ていて微笑ましい。
「おはよー」
「「「!」」」(サッ、タタタ……)
ナターシャに話し掛けられた彼らは、驚いて逃げて行ってしまった。
人見知りなのかもしれない。可愛かった。
まぁ、ほっこりするのはそれくらいにしておこう。仕事がある。
ナターシャとシュトルムは納屋から出て、リズールを探した。
ハビリス村の状況を知る為だ。
リズールが何処にいるかは、おおよその検討が付いていたのですぐに見つかった。
彼女はハルヤ宅に居て、狩人・斬鬼丸・数人のハビリス族と共に、今日から起こるかもしれないオーク襲撃への対策案を練っていた。
中に入ったナターシャが『失礼しまーす』と声を出すと、リズールと斬鬼丸が歓迎してくれた。
真剣に話し合っている狩人さんとハビリス族さんには申し訳ないけども、俺も話に寄らせて欲しい。
リズールは一旦情報を整理するようにして、ナターシャにハビリス村の状況を教えてくれた。
彼女が言うには、ストーンゴーレムは四体分の素材が揃っているが、ハビリス族との連携訓練がまだなので、盾以外の利用方法は今の所無い、との事。
他にも、ハビリス族は戦闘に関してはずぶの素人らしく、武術訓練の前に基礎訓練が必要だ、とも言っていた。
まぁ、三日じゃそんなもんだよなぁ、と思うナタ―シャ。
そして再び、襲撃への対策案が話し合われた。
しかし憶測からの提案が飛び交うだけで、一向に答えが出ない。
何故ならオーク達の動向が分かっていないからだ。
敵がいつ来るのか、何処から来るのか、何人来るのか、それが分かっていなければどうしようもない。
対策とはそもそも、そういった情報から練り上げる物なのだから。
なのでナターシャがやる気を出した。
はい、と手を挙げて、『これから超広範囲の索敵魔法でオークの動向を探ります』と宣言した。
今この場で最も足りていないのは、敵がどう動いているか、という情報。
それさえクリアすれば、ちゃんとした対策が立てられるだろう、と判断したのだ。
「リズール、早速だけど魔導書を貸してくれる?」
『畏まりました我が盟主』
ナターシャは早速、リズールに本体を貸して貰って、魔力を再登録した。
とても面倒なのだが、この作業をしないと装備状態だと認めてくれないらしい。
まぁ初回登録と違って、表紙をポンとタッチするだけなので、楽な方だけど。
「じゃあ行きます。“――森の監視者”」
ほぼ全力で発動した索敵魔法によって、敵――オーク達の状況が分かった。
オークの里の位置は、あちらの結界に弾かれたのか判明しなかったが――外に繰り出しているオークをつぶさに観察した事で、彼らが普段どういうルートを通って動いているのかが判明した。
その情報をリズールに精査して貰った所、『オークがこのハビリス村に向かっている様子はありません。というより、ここに気付いている素振りすらありません』と断言してくれた。
更に更に、彼女はオマケのように、索敵魔法によって得た地形情報を処理して、魔導書(本体)から複数枚にも渡る大きな地図を生み出した。この魔導書有能すぎる。
その一連の様子を見ていた狩人とハビリス族達は驚いて、君達は一体何者なんだ、と尋ねた。
まぁ、そりゃそうだろう。こちらとしては、今まで聞かれなかった方が不思議で仕方が無いけど。
そこでナターシャ達はようやく、自分達がどういう存在なのか、彼らに説明した。
ナターシャは熾天使の紋章を、斬鬼丸は口元を上げて中身を、リズールは――敢えて、『私も魔導書の所有者の一人となっている、一介のメイドで御座います』と答えた。まぁ、彼女が答えたくないなら仕方ない。
ついでにシュトルムも自己紹介した事で、ナターシャはまた苦しみ、その理由をシュトルムが説明してしまった事で、狩人達は『ナターシャは呪われた少女なんだ』という認識も持った。
いや誤解なのだが、その間の記憶の無いナターシャが気付く事は無いだろう。
まぁこれで必要な情報が揃った。
オーク襲撃への対策会議は順調に進んで、今は戦力の底上げ――ストーンゴーレム用の素材集めを重点的にする事に決まった。
襲撃は確かに怖いが、それよりも先に頭数を揃えないと戦いにならないのだ。
基礎訓練も並行して行う、との事なので、ハビリス族にとっては大変な時期が続くだろう。
それでも挫けずに頑張って欲しいな、とナターシャは思う。
『では、第二回防衛会議はこれにて終了とします』
リズールがそう宣言した事で、話し合いは終わった。
各自、急いで作業へと戻っていく。素材集めが大変なのだ。
その場に残ったナターシャは、同じく残っているリズールに話し掛ける。
「ねぇリズール」
『どうしましたか我が盟主?』
「ストーンゴーレムの石ってさ、リズールの物質創造で創った石じゃダメなの?」
『正当な疑問ですね。ですが――』
リズールは少し溜めた後、こう言った。
『――私の物質創造には一つ、重大な欠点があるんですよ』
「欠点?」
眉を顰めるナターシャ。リズールは簡単に説明した。
なんと、彼女の物質創造で創った物質は、通常の物質よりも脆いのだという。
分子レベルでの物質構造、内包可能な魔力量などには問題が無いはずなのだが、天然物には遠く及ばないらしい。
だが結局のところ『詳しい理由は私にも分かりません』と言っていた。
リズールにも分からない事があるんだなぁ。
まぁ、物質創造によるゴーレム大量生産は、リズールなりの最終防衛手段として残しておきたいようなので、後の布石として覚えておこう。
「じゃあリズール、これからどうするの?」
『工房に帰還します。魔力供給はもう大丈夫ですので、我が盟主はご自由にお過ごしください』
「そっか、分かった」
じゃ、フミノキースに行こうっと。
マルシェ・ガーディアン狩りをして、ランク上げに勤しむんだ。
◇
転移するために納屋に向かうと、ハビリス族の子供達が転移陣の上で遊んでいた。
彼らは入口にやって来たナターシャ、シュトルム、リズールを見ると、『やばい!』『みつかった!』と叫んで、急いで逃げ去っていった。
「可愛いもんだね」
『そうですね。しっかり守ってあげないといけませんね』
「あぁ、そうだな。平和は守られるべきだ」
三人がそれぞれの想いを口にした所で、遠くから親に怒られる声が聞こえてきて、また少し微笑ましくなる。
彼らもまた、この世界での生誕を許された一個の生命なのだ。
この場所がずっと平和になるように、俺も頑張ろう、とナターシャは誓った。
◇
工房に転移した後、リズールにドントゥ・ウォーリーなる魔道具について尋ねた。
リズールは当然のように知っていて、『材料さえあれば作れますよ』と言ってくれた。
その材料というのが――――ファイアドレイクの眼と呼ばれる宝石。
なんでも魔力の通りが良くて、魔道具への加工適正が高いかららしい。
ドキッ、としたナターシャは、リズールに話した。
「り、リズール」
『なんですか? 我が盟主』
「それ持ってる。それだけはニャトさんから買った」
『おぉ、本当ですか?』
そう、ニャトから、ファイアドレイクの眼だけは購入していたのだ。
ナターシャはアイテムボックスから、黄金の中に灼炎の輝きが灯っている宝石を取りだした。
「これで足りる?」
『はい。完成までには暫く――6時間ほど掛かりますので、それまでお待ちください』
「分かった。お願いね」
リズールに宝石を預けて、ナターシャとシュトルムは魔法陣の上に移動する。
「じゃあリズール、私達はフミノキースに戻るよ」
『分かりました。装備状態が一時的に解除されますが、宜しいのですか?』
「う、うん」
そう言われるとなんだか緊張するなぁ。
外しちゃダメかも、ってつい思っちゃう。
いやまぁ、そんな事は無いんだろうけどさ。
「い、行ってきます」
「フッ、また会おうヒルド。そして我が転移を刮目せよ!」
『はい。行ってらっしゃいませ我が盟主。シュトルム』
リズールは手を振って、転移していく二人を見送った。
ナターシャ達はそんな彼女を見ながら――――フミノキースの自宅へと帰還したのだった。




