表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪気眼少女の極唱魔法(エクスペル) ~異世界転生したらTSした上に厨二病を再発症する羽目になりました~  作者: 蒼魚二三
ナターシャ7歳編 -国と地方と農村と、邪気眼と中二病のヴィアンド-
207/263

206 食料品店での奇妙な運命《ストレンジ・フェイト》

 食料品店に到着すると、中からコーヒーの香りが漂っていた。

 前世の俺だったら心地よく感じたかもしれないが、どうやらナターシャちゃんな俺は嗅覚も初期化されているようで、あまりにも濃厚な香りにちょっと気分が悪くなる。


 シュトルムは、少しげんなりした様子のナターシャを見て、心配の声を掛けた。


「ジークリンデ、大丈夫か?」

「いや大丈夫だよ。ちょっとコーヒーの香りがきつかっただけ」


 しかし我慢できず、鼻を摘まむナターシャ。

 当然ながらシュトルムは止めに掛かる。


「む、無理をするなジークリンデ。そうだ、風で香りを遠くに飛ばしてやろう!」


 シュトルムはパタパタ、と手で仰ぐ。

 ナターシャはそれを聞いてピン、と閃いた。


 そうか、風か。

 風を――空気の層を纏えば、キツい匂いを弾けるんじゃないか?

 成功するかは分からないが試してみよう。


「“風の層が我が身を包み、逆巻く渦が我が道作る――”」

「おぉっ!?」


 詠唱が始まり、ゴウ、とナターシャの周囲に風が渦巻く。

 とても驚いたシュトルムだが――――始まりの詠唱があまりにも心に響いたので、マギカスライムを抱き締めて、ワクワクしている。


「あー……」


 それを見て、少々困るナターシャ。

 期待させておいて悪いのだが、今回使うのは短縮版。

 中二病患者のロマンの一つである、完全詠唱版を聞くのは、また今度の機会にして欲しい。

 流石の彼女もそれくらいは理解しているだろう、とナターシャは考え終えて、同時に詠唱も終えた。


「“――さぁ風の渦繭よ。我の身体を包み込め。渦繭気流(カプセル・エアフロー)”」

「おぉ?」


 ナターシャの周囲に風の繭が出来て、シュトルムはちょっと首を傾げる。

 すぅー、と大きく深呼吸したナターシャは、コーヒーの香りをちゃんとシャットアウト出来ていると理解して、一安心した。


「オッケー、これで中に入れる」

「なぁジークリンデ。聞きたい事があるのだが」

「どうしたの?」


 話し掛けられたので、隣に居る水色髪(スカイブルー)で赤エクステな美少女を見ると、少々非難をするような視線でこう言った。


「その詠唱――――完全詠唱じゃないな? 何故端折(はしょ)ったのだ?」


 はっきりとは言わなかったが、“全部聞きたかった”という強い欲求が感じ取れた。

 軽くため息をついたナターシャは、完全詠唱じゃない理由を説明した。

 それを聞いたシュトルムは、逆に興奮したようだった。

 ナターシャから視線を背けて、彼女らしくカッコよく振る舞いながら、聞いた説明を反復する。


「フッ、フフフッ、そ、そうかっ! 余りにも強力過ぎる魔法が故に、短縮詠唱(スペルカット)を使わざるを得ない程とは――――フフ、フフフッ」

「しゅ、シュトルム?」

 

 しかし恰好は付けながらも、ニヤつく口元が隠しきれていない。

 うずうずとした彼女は、チラ、とこちらを見ると――ナターシャが纏っている風の繭を見てしまい、ついに我慢できなくなったようで、バッ、とナターシャの両肩を掴んだ。


「なぁジークリンデ! いや我が主ぃ!」

「えぇっ!? あっ、スラミー!?」


 その結果、彼女に抱えられていたスラミーは宙を舞う。

 スラミーはそのままくるくると空を飛んで、ナターシャの腕の中へと運よく収まった。

 じ、地面に落ちなくて良かった。


 シュトルムも、スラミーの事で少々狼狽えたようだったが、それでもこっちの方が大事なのだ、とナターシャに尋ねた。


「そ、それは一体どれだけ強力な風魔法なんだ!? 詠唱を教えてくれぇっ!」

「まぁ良いけど……」


 ナターシャは、空を飛べたのが嬉しかったのか、キラキラした光の粒を空中に生み出すスラミーを見てから――まずはこう言った。


「とりあえず、スラミーを放り投げちゃダメだよ?」

「うぅ、気を付けます……」


 シュトルムも反省したようだ。

 まぁ、スラミーを彼女に預けたのは俺なので、物凄く注意しづらいんだけども。


「じゃ、今から詠唱を言うけど、覚えられる?」

「当然だ! カッコいい事なら何でも学んで吸収するぞ!?」

「そ、そうなんだ。えっと、詠唱はね――――――――


 シュトルムに本来の詠唱――――超速・筒渦気流ハイスピード・スリップストリームの完全詠唱を教えた。

 彼女はとても満足してくれた。『フッ、まさかここに来て新たなる段階(ステージ)が開くとは。最強の風使いへの道は遠――――』とか言ってた。とてもキツイ。つい涎が零れる。

 ナターシャは涎を拭きとった後、シュトルムに告げる。


「よし、じゃあお店に入るよ」

「あぁっ!」


 新たなる力を手に入れたシュトルムと、頭にスラミーを乗っけた(抱えていると地味に疲れるのだ)ナターシャは、ドアを開けて食料品店に入った。

 二人は店主のカリーナに挨拶して、店内を物色した。


 ナターシャはいくつかのお土産を見繕って、保存の効きそうな食料品を仕入れた。

 特に玉ねぎとか、野菜なのに日持ちするから便利だよね。


 そしてカリーナさんにお金を支払って、商品をアイテムボックスに入れていると、また見た事のある顔と出会う。


「失礼しまーす、コーヒーの良い香りがしたんで、気になって寄らせて貰ったっすー……」


 入店してきたのは、黒髪にスタッツ国の黒い軍服。目の下の万年隈。

 どことなく感じる、だらしない気配。

 彼は確か……


 しかし、ナターシャが答えに至るより先にカリーナが動いた。

 コーヒーという単語を聞いた彼女は、同士を見つけた! とでも言うように、素早く近付いてコーヒー談義をし始めた。

 ナターシャは遠くから聞き耳を立てる事で、彼の事を思い出した。


 彼の名前はフィリカルド・オスカー。魔導士学園の先生だ。

 初めて出会った時は、軍管轄下の森の中で爆睡してたんだっけ。

 睡眠胞子をばら撒くマルシェルームを踏んづけて。


 ナターシャが離れた場所から見ていると、オスカーも気付く。

 まぁ、彼は基本的に引っ込み思案なようで、軽く会釈をされただけだけども。

 だがその目は、明らかに助けを求めていた。

 彼が大人な分、カリーナのコーヒー圧がヤバいのだ。


「はぁ……」


 仕方なくナターシャは、二人の傍に近寄って、カリーナを止めた。


「カリーナさん落ち着いて下さい。お客さんが戸惑ってます」

「えっ? あっ、ごめんなさいつい熱くなっちゃって! 悪い癖がでちゃったっ!」


 カリーナも、ナターシャに言われて反省する。そして、


「――――で、さっきも言ったけど、貴方にオススメのコーヒーはセカシアーテ・モンテネグロっていうからねっ! 眠気をぶっ飛ばすような苦味と、目覚めに優しく導いてくれる程よい甘さが特徴だからねーっ!」


 オスカー向けのオススメコーヒーを伝えながら、棚の整理へと戻っていった。

 とても上機嫌に、ふんふん、と鼻歌を歌っている。

 やっぱり変わってるなぁ、と改めて思う。


 ナターシャに助けられたオスカーは、軽く謝罪した。


「すみません、御迷惑をお掛けしたっす」

「いえいえ」


 雑に返答するナターシャ。

 とりあえず、ふと気になった事を聞く。


「そう言えばなんですけど」

「なんすか?」

「軍管轄下の森での調査って終わりましたか?」

「ん? なんで君がその事を――あっ」


 オスカーはナターシャの顔をしっかり確認して、ようやく思い出した。


「あー、あの時に会った女の子だったっすか、お久しぶりっす」

「お久しぶりです。それで、どうなりました?」

「えっと、あはは、実はっすね――――」


 彼は少し困ったように、こう話してくれた。


「一応、新種マルシェルームの発生源らしき場所は分かったんすけど、マルシェ・ガーディアンがあんまりにも多くて先に進めないんすよ」

「へぇー」

「それに教頭には『場所が分かったなら早く片付けろー、今日中に片付けろー』って急かされてて、でも僕じゃ力不足でどうにも出来ないし、ホントに困ってるんすよねー……」

「へぇー」


 雑な相槌をするナターシャ。

 仕事の愚痴は天使ちゃんで聞き飽きた。

 ただまぁ、条件はなしにして、彼を手伝おうとは決めた。

 何故なら新種のマルシェルーム――シイタケ種(勝手に命名)を食べたいからだ。なのでこう言った。


「じゃあ、私が手伝ってあげましょうか? こう見えて戦うのは好きなんで」

「えぇっ!? そ、それはとても有難い申し出っすけど、でも君はまだ幼いっすから、そういう危ない事はちょっと……へへ」


 正当な理由を付けて拒否はしつつも、嬉しそうな笑みが漏れているオスカー。

 俺が美少女だからってのもあるかもしれないが、仲間になろうか? と言われて普通に嬉しいからだと思う。もう一押しかな?


「それに今ならもう一人、強い女の子が付いてきますよ?」

「フッ――我を求むるのはお前か?」


 後ろでカッコつけるシュトルム。

 オスカーは紹介を受けて、首を傾げる。


「そ、そうなんすか? でも、本当に強いのか分からないのでちょっと不安っすね……」

「そっかー」

「我が力を測れぬとは――愚か者めっ」


 カッコつけながらオスカーを威圧するシュトルム。

 オスカーはビビって謝った。


「うぅっ、失礼な事を言ってすいませんっす! あぁでも、ここで僕が鑑定でも使えれば、スキルの確認とかが出来て、君の凄さが分かったんすけどね……」


「……ん?」


 スキルの確認が出来れば良いの? ならいい方法があるよ?

 オスカーの言葉を聞いて、また閃いたナターシャ。

 とある情報を彼に教えた。


「ねぇオスカーさん。鑑定スキル以外で、しかもこの場で。皆の強さを知る方法、ありますよ?」

「えっ、そんなのがあるんすか? ……あっ、ま、まさかここで戦うとかは遠慮させて貰うっすよ!?」

「違います違います」


 ビビるオスカーを窘めるように否定して、ようやく本題に入る。


「それはですね――――」

「ゴクリ……」


 息を呑むオスカー。微笑むナターシャ。暗黒微笑を浮かべるシュトルム。

 そうそれは、ナターシャがこの世界で初めて作った魔法――――――


「――ステータスオープン、という魔法です」


「す、ステータスオープン……?」


 初めて聞いた魔法に、オスカーは困惑する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ