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邪気眼少女の極唱魔法(エクスペル) ~異世界転生したらTSした上に厨二病を再発症する羽目になりました~  作者: 蒼魚二三
ナターシャ7歳編 -国と地方と農村と、邪気眼と中二病のヴィアンド-
206/263

205 7歳少女な交渉者《ネゴシエーター》

「ジークリンデ、その人も知り合いか?」


 すると、シュトルムが話し掛けてきた。

 主の嬉しそうな反応を見ていたので、特に警戒していない。

 ナターシャはアウラとの抱擁(ハグ)をやめて、シュトルムに冒険者達との関係性を軽く説明した。

 アウラさん達は、旅の護衛に関わってくれた冒険者さんなんだー、程度だ。


 シュトルムもそれで分かってくれたらしく、『ジークリンデは知り合いが多いのだな』と呟いた。

 ただその表情は、再び訪れるであろう自己紹介のチャンスを期待するように、キラキラと輝いていた。

 やめてくださいお願いします。


 そして、ナターシャ達の隣で銀等級冒険者のカレーズと話し合ったディビスは、周辺調査の報告を受けて、軽く頭を抱えていた。


「おいおいマジかよ……」


 気になったナターシャは、ディビスに可愛さ重点で尋ねる。

 ちょっと身体を傾けつつ、目を潤ませ、上目遣いで、相手の顔を覗き込むように、こう。


「ねぇディビス、どうしたの?」

「ん? あぁ、聞きたいか?」

「うん」


 スルースキル高すぎだろ。もうちょっとドキッとしてくれよ。

 ディビスは少しため息をついたあと、こう言った。


「いいだろう、教えてやる」


 なにやらディビスにしては珍しく、お金などを要求してこない。

 相当参っているのだろうか。


「実はな――」

「うん」

「――ここフミノキース周辺では、ソロでの冒険者活動は厳しいんだってよ」

「へぇ、なんで?」


 ナターシャが首を傾げると、


「まぁ、流石のフミノキースでも、冬場だけあって魔物が減少しててな。ソロで見つけるのがキツイんだとよ。はぁ、困ったもんだぜ」


 ディビスは素直に教えてくれる。本当に珍しい。

 ナターシャが面を喰らっていると、更に驚く出来事が起こる。

 一人の冒険者――髪や服装は、世紀末漫画に出てくる雑魚敵(モヒカン)のよう。旅の護衛中に見た顔では無いので、現地の冒険者だろう――が、カレーズを横に押しのけながらディビスの前に現れて、彼を罵倒した。


「フンッ、他国からの流れ者が情けねぇな。それでアイアンってんだから、全くお笑いもんだぜ」

「だ、誰?」


 ナターシャは思わずそう呟く。

 すると、こちらでの出来事を静観していた現地の冒険者達が、口々にこう囁いた。


「あれは、不屈のダリスじゃねぇか」

「マジかよ初めて見たぜ……!」


 異国の冒険者集団が現れた時よりも、ざわざわ、ひそひそ、という話し声が増える。

 どうやらモヒカンの彼は“不屈のダリス”なる異名で呼ばれているらしい。有名人なのだろうか?

 ディビスは怒りを覚えて、睨むように見上げる――――かに思われたが、なんと、


「しょうがねぇだろダリス。俺はソロ専なんだから」

「ハッ、だったら徒党を組めば済む話だろうが。何が楽しくてソロを選んでるんだ馬鹿め」

「同じソロ専のお前に言われたくねーよ」


 以外にも、気を許した友人のように接していた。

 とっても知りたがりなナターシャは、空気を読まずに話し掛ける。


「ねぇねぇディビス。二人ってどういう関係? 旧友?」

「ん? いや違う。ダリスは――――」


 話し掛けられたディビスは否定すると、こう言った。


「――泊ってる宿で、たまたま相部屋になった現地の冒険者だ。コイツはこう見えて色々と詳しいから、折角なんでって事で、俺達の仲間に誘った」

「おぉ、そうなんだ」


 少しだけ感心するナターシャ。

 対してダリスは、ナターシャを若干軽んじているような視線を送る。

 子供だと思って舐めているのだろうか。

 ナターシャはぷくっ、と頬を膨らませて対抗した。

 ディビスはあぁそうだ、と思い出したように呟いて、彼の情報を詳しく教えてくれた。


「因みにダリスは――万年青銅(ブロンズ)の冒険者だ。あんまりにも魔物討伐が下手で、同ランク相手に負けまくってるのに、それでも諦めずに上を目指すその姿勢から、付いた仇名が不屈のダリス。フミノキース界隈では有名人なんだぜ?」

「えぇ……」


 困惑するナターシャ。

 だがダリスは、その称号がとても誇らしいようだ。

 カッコつけるようにこう言い放った。


「フッ、俺の勇猛さを表すような、素晴らしい二つ名だろう? ……おや? 余りに衝撃にビビって声も出ねぇようだな、嬢ちゃん」

「えっ、あ、はい」


 ナターシャは何とも言えない返答をして、その場を濁した。

 彼は何故そこまで自信たっぷりなんだろうか。

 後ろのシュトルムは――当然の事のようにダリスの心構えを理解(わか)ったようで、『その絶対に諦めない姿勢――流石だ。いずれはヴァルキュリアに認められ、大英雄(エインヘリヤル)として名を残すだろう』と呟いて、ナターシャのメンタルを七割ほど削った。


 その様子を傍から眺めていた銀等級のカレーズは、ようやく本題を切り出した。


「ハハ、じゃあディビス。どうせここで魔物狩りをしても実入りが少ないんだ、全員で少し遠出をする選択肢を選んだ方が良いと思うんだが?」

「あー、そうだな。多少遠出してでもプラスになる狩場の情報を仕入れるしかないな」


 ディビスが情報屋との交渉を考え始めた所で、ナターシャが見慣れている、三人組の男女がギルドに入場した。

 彼らも現地冒険者と同じように、見慣れない冒険者集団に驚いて、何事かとざわつく。

 そしてふと右を向いた所で、昨日とてもお世話になった銀髪少女の姿を発見し、元気よく声を出した。


「おおっ! おーい! ナターシャちゃん!」

「おはようございまーすっ!」

「昨日はとてもお世話になった! ありがとう!」


 彼らは、テスタ村で色々と関わった青銅(ブロンズ)三人組、クランク、レンカ、フィズだった。

 ナターシャとシュトルムは振り向くと、近付いてくる彼らに軽く手を振った。


「おはよー」

「昨日ぶりだな! 魂の共鳴者達(ソウルレゾナンターズ)よ!」


 カレーズは先輩らしく、微笑ましそうに呟いた。


「お、ナターシャにも現地の冒険者仲間が出来たんだな。ちっこいのにやるじゃんか」

「そうだなカレーズ。ちょっと静かにしててくれ」

「ん?」


 対してディビスは少し訝しんだようで、そっぽを向きながら聞き耳を立てて、ナターシャ達の動向を観察する。

 これは冒険者としての勘だが、彼らは何か良い情報を知っている、と思ったからだ。

 特にナターシャは、出会った時から色々と利益をもたらしてくれていたので、また何か良い事あるかも、と、なおさら気になっていた。


 クランク達は早速、ナターシャに昨日の謝礼として金貨2枚を手渡した。

 どうやら、色を付けて返して、という言いつけを忠実に守ってくれたらしい。

 ナターシャも『魔導書を買い取って貰えて良かったね』と言って『これからどうするの?』と聞いた。

 ブロンズ三人組は、豊富な資金を手に入れたので装備を新調する事、その後はまたテスタ村周辺の狩場に向かって、魔物を狩って実力をあげるつもりだ、と言った。


(ビンゴ……!)


 ディビスはニヤリと笑うと、すぐさまナターシャ達に話し掛けた。


「おうナターシャ! そいつらは知り合いの冒険者か?」

「え? うん、そうだよ? どしたの?」

「いや、ちょーっと気になる言葉が聞こえて来てな。その、テスタ村って場所が何処か教えてくれるか?」


 クランク達はよく分かっていないようだったが、ナターシャはすぐさま察した。

 7歳らしからぬ悪い笑みを浮かべると、こう尋ねる。


「あ、ディビス知りたい? なら……分かってるよね?」


 相変わらず食えない少女だ、と思いつつも、ディビスは聞く。


「……簡単に出せる物なら出す。何が欲しい?」

「ま、単純な話だよ。テスタ村周辺に暫く滞在しておいてほしいんだ」

「は? なんでだ?」


 金とか魔物の素材じゃないのか? と言うディビス。

 ナターシャはチッチッチ、と指を振って、理由を話した。


「まぁちょっと深い事情があってね。もしもの時の戦力が必要なんだ」

「何に駆り出す気だ?」

「いや、ホントにもしもの時だけだよ。ただの予備戦力。一か所だけ、狩場内での休憩拠点を提供出来る場所があるから、出来るだけ長い間、そこ周辺で狩りをしていて欲しいんだ」

「ん、ん……?」


 考え込むディビス。聞いている限りは悪い条件ではない。

 しかし、ナターシャの意図が読めない。情報が無さ過ぎるからだ。

 テスタ村がどういう所で、そこの村人はどういう考え方をしているのか、彼は全く知らない。

 何も考えずに向かって、骨折り損になるのは避けたかった。


 だが、返答をするのに必要な情報は、口の軽いブロンズ三人組によってもたらされる。

 新しい装備でどう戦おうか仲間内で考えていて、その時に話していた情報がディビスの耳に入ったのだ。

 それは、彼らが再び訪れるテスタ村周辺には、最低でも二ヵ所の狩場があって、魔物の冬眠しない森がそこにあるかもしれない、という情報。

 更にクランク達は、酒場の常連の何人かと仲良くなれたようで、次に逢った時はまた一緒に飲みたいな、という些細な話。


 ディビスがナターシャの提案を受けるには、十分すぎる情報だった。


「ディビスどうする? やめとく?」


 ナターシャの最後通告のような問いかけに、ディビスはこう対応した。


「いや、受けても良いぜ。ただし条件がある」

「条件?」

「簡単な話だ。俺達全員でテスタ村に向かってやる。だから――――行きの駄賃を出してくれ」

「???」


 疑問に思うナターシャ。尋ねる。


「なんで行きの駄賃を?」

「多少は節約しときたいからな」


 なるほど。


「本当にそれだけで良いの? 今日の分だけ?」

「あぁそれでいい。他は自分達で何とかする。慣れてるからな」

「そっか」


 まぁ、長年冒険者やってそうだからなぁ。

 わざわざ俺がパトロン――お金を出す人になる必要は無いのだろう。


「分かった。行きは乗合馬車で良いよね?」

「等級は別に何でもいい。ただ、俺達は合計で十四人居るから、その分の座席をちゃんと準備してくれよ?」

「十四……なんか、三人ほど増えてない?」


 旅の護衛って確か、十一人の冒険者だったよね?

 その質問に対してディビスは、『ダリスも含めて、同じ宿に泊まってた現地の冒険者三人を仲間に引き入れたんだよ』と答えた。

 どうやら、旅先で安全な宿を確保するために必要な事なのだそうだ。

 ディビスは色々と考えて行動してるんだなぁ、と思った。


 座席の必要数も分かった所で、もう少しだけ話を詰める。


「出発はいつ頃が良い? 今から?」

「いや、昼間が良いな。荷物の確認や消耗品の購入をしておきたい」

「ん、分かった。今から乗車券を買って来るから、それまで待ってて」

「おう。ここで待ってるぞ」


 よし、話が付いた。

 ナターシャはさっそく、アウラやクランク達に『またテスタ村で会おうねー』と言って別れて、シュトルムと共に乗合馬車組合に出発。

 乗合馬車・一番安い貸し馬車も含めて、合計で十四枚の乗車券を購入し(職員はちょっとお高めな貸し馬車を進めてきたが、今回は私が乗る訳じゃないんです、と言って理解して貰った)、冒険者ギルドで待機していたディビスに渡しておく。


「はい、全員分の乗車券。確認して」

「……ん、よし。ちゃんと十四枚だな。ありがとよ」

「どういたしましてー」


 お互いにビジネスライクな会話が出来た気がする。

 ディビスに別れを告げたナターシャは、ギルドの受付で、ブロンズ用のオススメクエストを見せて貰った。

 テスタ村周辺で狩りをするついでに、ランク上げとギルドからの評価稼ぎもしておきたいのだ。


 幾つか見たが、討伐系は相変わらずマルシェ・ガーディアンの頭数減らしのみ。

 ゴブリン掃討とかがあれば良かったのだが、それは何故か人気のようで、クエストが発布される度に、競い合うようにして持っていかれるらしい。

 ゴブリン討伐って報酬が不味いクエストで有名なんじゃないのか? 良く分からんね。


 まぁ個人的には、今回は縁がありませんでした、と受注を断念したい所。

 だがしかし、クエストを受けないとランクは上がらない。魔物討伐で手に入るのはお金だけだ。

 なのでナターシャは仕方なく、マルシェ・ガーディアンの頭数減らしを受注する。


 わざわざそれを受けたのは、期限が大盤振る舞いの無期限だから。

 それなら、空き時間を見つけては軍管轄下の森で討伐すれば良い、と思ったのだ。

 マルシェ・ガーディアンの体内にあるという“菌心塊(マルシェ・ハート)”という素材が、討伐部位だという事は忘れないようにしよう。


 よし。これで冒険者ギルドでやりたい事は終わった。

 ナターシャは外に出て、次の目的地に歩いていく。

 

「ジークリンデ、次は何処だ?」

「カリーナさんの食料品店。私用のご飯と、いくつかお土産を買うんだ」

「分かった、付き従おう」


 シュトルムの了承も得た所で、ナターシャは食料品店に向かった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] シュトルムさんはナターシャさんに多大なダメージを与えるようですね(笑)
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