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邪気眼少女の極唱魔法(エクスペル) ~異世界転生したらTSした上に厨二病を再発症する羽目になりました~  作者: 蒼魚二三
ナターシャ7歳編 -国と地方と農村と、邪気眼と中二病のヴィアンド-
203/263

202 閉鎖空間での精神の破壊者《メンタルブレイカー》

 ナターシャは戸惑った。

 またあの口上を聞くのか、と。苦しむのか、と。

 とても戸惑ったが――――話したくてうずうずしているシュトルムがとても可愛かったので、つい許可してしまった。


「分かった。シュトルム、自己紹介してあげて」

「フッ、これもノルンが定めし運命か。――――良いだろうっ!」


 シュトルムは預かったままのマギカスライムを脇に抱えると、バッ、と立ち上がって口上を述べた。


「我が名はシュトルム! 蒼穹の嵐、ヘルブラウ・シュトルム! 前世では戦乱の世を駆け抜け、双対喰刃(オルトロス)を振るって戦った、嵐を纏いし簒奪者(さんだつしゃ)だ! よろしく頼むぞ? ――フッ」


 そして片目を隠す。おぉ別バージョンだ。

 ナターシャはメンタルに100のダメージを受けた。

 メンタルの最大値が100なので一撃必殺である。


 ナターシャは今にも死にそうな笑顔を浮かべたまま苦しんだが、冒険者の反応は彼女とは真逆だった。


「か、かっけぇぇぇぇっ!」

「素敵ー!」

「あ、あぁ、とてもカッコいい……!」


 各々、感動で打ち震えていた。うっそだろお前ら……

 その反応を見たシュトルムはとても満足そうな笑みを浮かべると、最後にこう言った。


「フフッ――我がソウルに共鳴するとは、中々出来るじゃないか。――――お前達の今後の活躍、楽しみにしているぞ?」


 そしてカッコよくキメ顔。スカイブルーな髪色に入った、赤いエクステのアクセントが素晴らしく、更に元が美少女という事もあって、とても様になっている。

 ナターシャは痛恨の一撃を受けて苦しむ。

 

「うぐっ、ぐぐっ、ぐっ……!」

「だ、大丈夫かジークリンデ? また封じられし力が暴走しそうなのか?」

「う゛ううっ……!」


 シュトルムは慌てた様子で、苦しむナターシャの背中を擦る。

 冒険者三人組は顔を見合わせると、ナターシャが苦しんでいる理由を聞いた。


 シュトルムはリズールに教わった通りに、『我が主ジークリンデは、封じられし記憶に精神を蝕まれている。害は無いので大丈夫だ』と伝え、更に独自のアレンジを加えて『だから私は、我が主ジークリンデの呪いを解くために、現世へと舞い戻ったのだ』と言った。


 冒険者三人組は、上流階級の生まれと思しきナターシャが、わざわざこんな僻地の村へとやってきた理由をやっと察し、ナターシャはそのアレンジのお陰でダメージがオーバーフローして、逆に平静になった。

 というより、考える事を放棄した。


「おー、柔らかいねーお前はー」

「~!」


 朗らかな笑みを浮かべ、シュトルムから返してもらったマギカスライムを撫でながら、現実逃避に勤しむナターシャ。

 冒険者三人組の内一人、フィズは、突然落ち着いたナターシャの事を不安そうに尋ねた。


「シュトルムさん、今のナターシャさんは……?」

「……あぁ、ようやく落ち着いたみたいだ。時折ああして苦しむ事があるから、その時は優しくしてやって欲しい」

「わ、分かりました……」


 彼はシュトルムに了承を示すと、次は仲間と会話する。


「まさか、ナターシャさんにそんな呪いが掛かっていたとは」

「あっ、だから一緒の宿に泊まらなかったのかな? 私達に心配させないために……」

「くっ、俺は全然気付けなかった……! こんなに幼い子が、こんなにも近くで苦しんでいたのに……!」

「クランク……」


 自身に対して強い憤りを表すクランク。

 そして彼は決意新たに、声高々に宣言した。


「俺は……俺は必ず見つけてみせるぜ! ナターシャちゃんの呪いを解く方法を! 白金級冒険者になる誓いに掛けてッ!」


「「クランク……!」」


 残り二人も賛同するように声を出して、エイエイオー! と仲良く掛け声を上げる。

 思考停止しているナターシャは、彼らを見ながら、コテンと首を傾げた。



 日が落ちて、夜に差し掛かった頃。

 ようやく見えたフミノキースの城壁と、門前を煌々と照らすライト。

 馬車の御者はほぅ、と安心したように息を漏らすと、中に居る客に声を掛けた。


「お客人、お待たせしやした! そろそろ到着ですぜ!」

「ハッ」


 ナターシャはその声でようやく正気を取り戻す。俺は一体何を。

 馬車の中はとても静かで、シュトルムは目を瞑り、冒険者三人組はうつらうつらとしている。

 膝に乗っているマギカスライムは、撫でる手が突然止まった事を不思議に思ったのか、ナターシャを見上げていた。


「お、おはよう」

「?」


 マギカスライムは挨拶された理由が分からないようで、首を傾げる。

 いや、首は無いけど。


「む、どうしたジークリンデ?」


 すると、目を開けたシュトルムが尋ねてきた。

 どうやら彼女も、ナターシャが挨拶をした理由が分からないらしい。

 何と答えようか迷ったが、ここで嘘をついても場が混乱するだけなので、正直に言った。


「いや、さっきまでの記憶が無くてね。今気が付いた所なんだ」

「それは本当か!? まさか、極神世界ヴァナヘイムに精神が飛んで行っていたとは――――」

「いや、天国には行ってないよ。思考を放棄しただけだから」

「――そ、そうか? なら良いのだが……だが、どこか痛んでないか?」


 シュトルムはナターシャの頭を撫でて、どこかが怪我をしてないか心配する。

 ゴーレムらしく硬い感触だが――――とても優しく感じた。


「ありがとうシュトルム。大丈夫だよ」

「な、なら良いんだ! でも、怪我をした時はすぐに言うんだぞ!? 一迅の疾風が如く、急いで医者に連れてってやるからなっ!」


 そう言って、くしゃっと笑うシュトルム。

 ナターシャは“医者”というワードと、彼女の笑い方にふと、中学時代の仲間の笑顔――看護婦となったエリカの笑顔を重ねてしまい、更に、ボロボロなメンタルも相まって――――ほろ、と一筋の涙を流してしまった。


「じ、ジークリンデ!? どうしたのだ!?」


 シュトルムはあわわ、と慌てて、ナターシャの涙を(ぬぐ)って、また心配し始めた。

 だがナターシャは敢えて――敢えて本当の事を言わず、大きく深呼吸してから、ただこう答えた。


「いや、これはただの嬉し涙だよ。シュトルムちゃんがあんまりにも優しいからね」

「なっ!? うぅっ、名前に“ちゃん”を付けるなぁっ!」

「あはは」


 さっきのお返しと言わんばかりにシュトルムをからかうナターシャ。

 メンタルが全回復したのか、朗らかに笑っている。


「「「――――」」」


 そして、先ほどまで眠りかけていた冒険者三人組も、二人の声で目を覚ましていた。

 だけども、シュトルムと話し合っているナターシャがとても幸せそうだったので、三人はお互いに目を合わせて、ここは何も言わずに目を閉じておく事を選んだ。


 それから数分ほど経って、乗合馬車はフミノキースに入場する。

 馬車の御者は、夜中に入国審査を受ける冒険者達を横目に見ながら、慣れた手つきで馬を動かし、大通りを先に進んで、中央広場の待合所で停車した。

 御者は到着した事を客に告げて、疲れを払うように一息ついた。


 ナターシャ達は一人づつ馬車から降りて、フミノキースの夜の街並みを見回す。

 街灯のような立派な明かりは無く、街民が持っているランタンや、家々の窓から漏れている光が唯一の光源だ。この光景はまるで、夜空を飛び交うホタル達のようだな、とナターシャは思った。


「ここがあのフミノキースか……昔と比べると、かなり悪い方に様変わりしているな」


 隣に居るシュトルムが、とても不服そうな表情で呟く。

 ナターシャは理由を尋ねた。


「どういう風に悪いの?」

「……ジークリンデは知らない方が良い。だが、何れ分かるだろう。我が師、シグルドがそう言っていた」

「???」


 答えになってない言葉に、首を傾げるナターシャ。

 ここで中二病発症されても困るんだけど……


「おーいナターシャさーん!」


 シュトルムが不満そうに黄昏れ始めた所で、三人組の内一人――クランクがナターシャを呼ぶ。


「はーい!」


 ナターシャは振り向いて対応した。


 彼らはこれから冒険者ギルドに行くようで、手に入れたお宝――スキル本や魔導書の出自を明らかにするために、一緒について来て欲しいようだ。

 ナターシャもそこに用事があったので、快く同行を許可した。


「シュトルム、行くよ」

「あぁ聞こえている。行くとも」


 何故か不機嫌になってしまったシュトルムと共に、ナターシャは冒険者ギルドへと向かう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さん、最近の更新はお疲れ様です! というか、メチャ速くですね!ありがとうございます! ナターシャさんの精神力があまり強くなさそうですね、何度もダメージを受けたようですw 優しいシュトル…
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