19 “組織”の真実 前編
ついにナターシャの闇に踏み込む決意をしたユーリカ。
そして赤城恵が語る組織の全貌とは……?
「……ナターシャ、教えて。“組織”って何なの?」
ぐっ、やはり来たか……!
赤城恵は疼く心の傷の痛みを、歯を食いしばる事で我慢する。
……どうしよう。話したくない。
家族に黒歴史の発表会しなきゃならないとか地獄に他ならない。
でも話さないとお姉ちゃんは多分納得してくれない……。
頭の中で葛藤し、答えが出せなくなっている俺にユーリカは更に追い打ちをかける。
「お願いナターシャ、教えて。……私は知りたい。貴方が何故戦っていたのかを。全てを包み隠さず話して」
問うような視線でナターシャに呼びかける。
私は貴方の姉として、全てを知っておきたい。
いつでも駆け付けられるように。いつだって味方で居られるように。
今のユーリカの瞳がそう教えてくれるのだ。
ナターシャはユーリカの感情を理解し、それでも葛藤して口ごもる。
「それは……」
「……言いにくいのは分かっています。私達を守る為に話そうとしないのよね」
「う、うん……」
いや守るとかそんなつもりじゃなくて話したくないだけなんだけど……
そんなナターシャの思いを知ってか知らずか、ユーリカは言葉を紡ぐ。
「確かに私は貴方のように魔法は使えない。上手く魔道具を扱う事も出来ない。……でも、貴方の為に剣を振るう事は出来る」
「お姉ちゃん……」
「……それに、私達は家族でしょう? 困った時は助け合い、辛い時は支え合う。そんな存在」
「うぅっ……」
家族。その言葉がナターシャの心に突き刺さる。
だから話したくないんだよね……。
「……一人で抱え込まないでナターシャ。お願い、私を信用して。……他の誰にも言わないわ。お父様やお母様にも秘密にするから」
騎士として誓うわ、とも言ってのけるユーリカ。
それだけナターシャの事を知っておきたいのだろう。
話すか話すまいか、堂々巡りの思考に陥っていたナターシャも、遂に姉を信じる事に決める。
「……誰にも言わない?」
「えぇ。約束するわ。お姉ちゃんと、ナターシャだけの二人だけの約束」
「……本当に?」
「もちろん」
「……分かった」
仕方ない、と姉を納得させるために魔法創造(厨二)のデメリットをフル活用。
現在の思考をどんどん鈍らせ心を無にして、奥底から生まれる声を聞く。
そしてナターシャは少しづつ、組織について語り始める。
その声は普段の優しい声とは違い、とても強く、現実的だった。
……まぁ、本来の意識はお空の向こう綺麗って感じに飛んでいってるんですが。
「……“組織”とは、4人の四天王と私によって動かされている。
その構成員は多岐に及び、私が数えた時点では凡そ100万人」
その重々しいその口ぶりは、ユーリカに思わず息を呑ませる。
しかし、臆せず踏み込む。
それがナターシャの姉としてのプライドであり、全てを知ると決めた人間の責務だ。
「……な、なんて規模の組織を……。一体どんな活動をしていたの?」
「……その活動内容は、暴走する“機関”の陰謀を阻止する事。」
「“機関”……?」
聞きなれない言葉を耳にする。
機関。一体どんなものなのだろう。
そしてユーリカは、次に告げられる言葉でその全容を理解する。
「“機関”とは、世界の真理を解き明かす為に“世界の完全解体”を目標としている組織。
私達の“組織”とは似て非なる存在。主要なメンバーはおよそ300人。
彼らは“300人委員会”と呼ばれていて、全員が一般人として日常に溶け込んでいる。
そして、彼ら委員会は手段を選ばない。
他の一般人への洗脳、脅迫、詐欺など、真理に至る為ならなんだってやる非道な連中だ。」
……何という事だ。ユーリカはナターシャが“組織”の事をひた隠しにする理由を理解する。
村の農家の人やパン屋のおじさんなど、そういった身近な人間がもしかしたら自らの敵かもしれないからだ。
そしてナターシャ達の“組織”の存在が“機関”にバレてしまえば、まず間違いなくその友人、愛人、家族が狙われるだろうという事実に戦慄する。
再び固唾を呑むユーリカ。
しかし一度踏み込んだ以上逃げる事は許されない。疑問に思った事を聞いていく。
「……そ、それで、“機関”の目標である“世界の完全解体”だけど、一体どうやって……?」
「……錬金術による世界の完全分解を目標にしている。」
錬金術……ユーリカも聞いた事がある。なんでも、鉛を金に変える為に研究されている魔法だとか。
眉唾物過ぎて存在を信じていなかったが、まさか実在するとは。
しかし、世界の完全分解なんて、どうやって……。
ユーリカは更に深淵へと足を踏み入れる。
「……どうやって分解するのか、詳しく教えてくれないかしら。」
ナターシャは遠い目をして、感慨深く語ってくれる。
「……少し難しい話になるけれど。
世界は第一質料と呼ばれる物質で出来ていて、
それは火・水・風・土の四大元素を第五元素という物質で繋ぐ事によって成立している。
そして“機関”は4000年にも及ぶ研究の末、
第五元素を虚数空間へと追放する術式を発動させる為の魔法陣を開発。
そして世界の真理に辿り着く為に凶行へと至った」
(4000年……!? そんな古い時代から存続している組織なの……!?)
途方もない年月にユーリカは眩暈を覚える。
そして、“機関”が手段を選ばない理由も理解する。
4000年とは魔法使いの家系で言うなれば大魔導士の家系。
大魔導士の家系には必ずと言っていいほど代々受け継ぐ秘術が存在する。
更には秘術を使い、または新たに編み出し、魔法の最奥へと至るという目標もある。
つまり、“機関”にとっての“世界の完全解体”とはもはやその存在意義と同義だ。
“機関”は既に秘術を完成させていて、後は行動を起こすのみといった段階にまで至っている。
手段など選んでいられないのだろう。遂にその悲願を達成できるのだから。
「……“機関”は魔術師の一族なの? それともその集まり?」
「“機関”は“機関”。それ以上でもそれ以外でもない。
世界の裏で暗躍する組織であり、表舞台に出る事は無い。
ただ分かる事は、その中に有名な人間は居ないという事。必ず一般人を演じている。
誰かが有名になって、“機関”の存在意義がバレると目標が達成できなくなるから」
「……なるほどね。
でもそんなに昔からある組織なら、
世界を分解するなんて危険な秘術は世間に知られないように必ず伏せられているわよね。
ナターシャはどうやって“機関”の秘術を知ったの……?」
この疑問は当然である。僅か7歳の少女がそんな情報を知り得るはずがない。
だがナターシャは、とある真実を告げる。
「……正確には調べた訳じゃない。
私は神に授かった力で世界の終焉を、そしてそれを阻止する人間の未来を視た。
だから私は“組織”の結成を決意した」
ユーリカはその言葉で、ナターシャが努力し続ける理由を完全に理解する。
(だからあれほど必死になって神の試練を成そうとしていたのね……!
世界の終焉を止める為の力を身に付ける為に。“組織”を指揮し続ける為に)
「……なるほど、貴方が頑張る理由が分かったわ。それで、“組織”の活動内容の詳細は?」
「……私達の任務は“機関”の魔法陣発動の妨害、そしてその消去。
更に“機関”の中枢である“300人委員会”のエージェントを排除して、
その魔法陣の知識自体を闇に葬る事が任務だった。」
「は、排除……!?じゃ、じゃあ、もしかして……」
長いので2分割。
同時投稿してるのでかんべんしてつかぁさい




