198 黒・猫・魔・導(ブラック・キャット・マジック)という杖が出来ました。
「んーヴェノムちゃんの名前ねぇー……」
暫く考えたナターシャは、王道っぽい命名方法を選んだ。
「ね、ヴェノムちゃんって水晶弾を撃つんだよね?」
「まぁそうだな」
「じゃあ、クリスタリア・クーゲルなんてどう? 訳すと水晶弾って意味」
「お、良いね。人間らしい名前だ。それにするよ」
「えへへ、決まりだね」
という事で、双方円満に決まった。
ヴェノムは、元の前は真名として隠し、クリスタリア・クーゲルを普段の名前――通名として使うらしい。
彼女もいつかは人間の社会に出るだろうから、これくらいまともなのが丁度良いだろう。
「あ、そういえばさ」
「ん、どした?」
「ヴェノ……違う違う、クーゲルちゃんって私から魔力供給されてるの?」
「ん、んーどう説明すれば良いか分からん……」
首を傾げる魔銃のヴェノム改め、クリスタリア・クーゲル。
どうやら彼女も良く分かっていないようだ。
すると、朝食の片付けを終えたリズールがやってきて、説明してくれた。
長い説明だったので要約すると、クーゲルへの魔力供給はリズールが行っているらしい。
ナターシャを主にしても良かったらしいが、クーゲルにはハビリス族の隠れ里――略してハビリス村で色々な任務をこなして貰う予定らしく、時にはオークの里への偵察も行わなければならない、という事情も加味して、魔力操作に長けるリズールが代理契約を結んだんだってさ。
それならしょうがない。
「でもさヴェノムちゃん。お仕事大変じゃない?」
「いや、俺はそもそも戦闘用に作られたゴーレムだからそっちの方が性に合ってるし、何より平和過ぎるとそわそわして落ち着かないんだ」
「そっかー」
しょうがない事尽くめだ。
雑談はそのくらいで終わって、ナターシャはお風呂と身支度、リズールとクーゲルは研究室へと向かった。どうやら残りの十傑作を復活させるつもりらしい。
リズールがスタンリーとウィスタリアに託された魔導核――ハイゴーレム・ギュネーのコアだが、それは後5つもあるようで、我が盟主にはもう暫く魔力供給係としてこの工房に残って欲しい、とリズールにお願いされた。
ただ、後は魔力を供給して復活させるだけと言っていたので、地下の設備は自由に使っていいらしい。待ちかねていた自由時間の到来だ。
だけど、その前にまずは風呂。付与魔法の練習はスッキリしてから挑みたい。
「さーてお風呂お風呂ー」
リビングを抜け、キッチンの右手にあるドアを開けると、そこが風呂場になっている。
ナターシャが事前に作った風呂・トイレ生成魔法を上手く利用し、更にリズールによる修正が掛けられたシステムバスルームだ。
程よく暗く、そしてオレンジ掛かった照明が、心に安らぎをもたらしてくれる。
「なんでも出来るよねリズールってー……ん?」
颯爽と脱衣場入った所で、ナターシャが何かに気付いた。
「あ、カメラ切り忘れてた」
そう、なんと。
昨日寝落ちして、電源を切り忘れた使い魔カメラがここに居た。
マイクも珍しく一緒になって飛んでいる。
二匹の使い魔は、洗面台の隣の隙間をジッと見つめていた。
何を撮影しているんだろう。
「どれどれー……?」
覗き込んで見ると、そこには何やらもけもけとした、光さえも吸い込まれるような暗黒物質が転がっていた。
こ、これはもしや……暗黒猫毛玉なのでは!?
ナターシャは急いで鑑定を行った。
「“――森羅万象鑑定術”!」
ズズッ、と脳内に、謎の暗黒物質の情報が流れ込んでくる。
その名称は――もちろん“暗黒猫毛玉”。大当たりだ!
とても嬉しいけども、一つの疑問がある。
「でも影の猫さん、何処にいたんだろ? 近くには居ないと思っていたのに……」
しかし、考えた所で答えは出ない。
ルナシャドー・ブラックキャットの生態なんて知らないからだ。
「ま、これも私のLUKが高いお陰だって思っとこ」
きっと、たまたまどこかから迷い込んで来たのだろう。
ナターシャはニャークマター・コアを掴み取って、急いでリビングへ向かった。
使い魔カメラ・マイクも後ろに続く。
◇
シルバーグラススタッフにニャークマター・コアを合成して、黒・猫・魔・導に派生させるまでの一連の様子を撮影した。
台本無しの一発撮りで、とても噛み噛みだったが、まぁ何とか撮れた。
編集は天界に任せよう。
「んで、これが黒・猫・魔・導かー……」
ナターシャは手の内にある、色は底知れない程に黒く、何やらもやもやとした黒いオーラを纏う杖を見て呟いた。個人的なイメージでは、顔の無いデフォルメ黒猫ヘッドが付いた可愛い系のスタッフになると思っていたので、この禍々しさは予想外なのだ。
「これは……クレフォリアちゃんには見せづらいなぁ……」
何とかして、可愛い系の見た目に変更する方法はないだろうか……と考え、派生図を呼び出し、解放された右上の魔物派生――今は黒・猫・魔・導となったアイコンをタップして、詳細ウィンドウを開いた。
これは昨日、寝落ちする前に見つけたウィンドウだ。
派生図の武器名・もしくは武器の見た目を表したアイコンをタップする事で、武器のスキルや性能などが表示される。
更に、ロックされていて名称や性能が不明な段階でも、タップすれば必要素材だけは表示される。
まぁ、そういった段階の真名を解放するには、ちゃんとそこに行きつくように素材合成をしていくしかない。
しかし、とてもゲーム的でやりがいのある作業だな、と個人的に思っている。
で、話は戻る。
詳細ウィンドウを見たところ、黒・猫・魔・導の所持能力はこうだ。
―――――――――――――――
スキル
解析(敵・味方のLv・HP・MPを解析して表示する)
探索(素材を発見できる)
合成・分離(この武器・その他を含め、色々な素材同士を合成したり分離したりできる)
魔力集積(魔法の威力を高めるチャージが使える)
影潜り(影の中に潜れる)New!
―――――――――――――――
つまり、影猫のスキルを新たにゲット出来た、という事なのだろう。
使い勝手は良く分からないが、影系のスキルだから何となくチートの香りがする。
俺は詳しいんだ。
「でも、今大事なのはスキルとかじゃないんだよねー……」
ナターシャは詳細ウィンドウの色んな所をポチポチして、見た目変更や、スキン合成などの機能が無いか探した。
武器作成がメインのゲームではたまに見る機能だったし、勘のいいリズールの事だから、もしかしたら実装してくれているかもしれない、と思ったからだ。
そしてその勘は当たった。
武器名の左上にある、杖の模様を〇で囲ったミニアイコンをタップすると、見た目変更ウィンドウが表示されたのだ。
もっとも、変更できる見た目は“銀縁眼鏡”と“シルバーグラススタッフ”だけで、殆どは“?”のアイコンだったけども。
「……まぁ、序盤だから仕方ないよね」
ある事が確認出来ただけで十分だ。ナターシャは見た目変更ウィンドウを閉じた。
「さて、じゃあ次の派生の確認をしよ……あっ」
そのまま流れるように派生図を確認しようとした所で、そういえば風呂に入る前だった事を思い出す。
「やば、寝癖立ったまま撮影しちゃったかも……」
手櫛で髪を梳き、ぴこんと立ったままのアホ毛を触る。
「……まぁいっか! 気にしない!」
録画し終わっちゃったし。今更どうしようもない。
「じゃ、とりあえず風呂のお湯を入れて、その間に次の派生を確認しよっと」
ナターシャは漆黒の杖をテーブルの上に置いて、まずは風呂場に向かった。
そして帰って来て、黒・猫・魔・導の派生先を確認した。
派生は2つ。当然のように魔物派生。
片方はやはり猫派生で、“黒・猫・大・魔・導”という名前。
多分、強化派生に似た物だと思う。
もう片方は指定無しで、ただ別の魔物素材を合成するだけ。
ただ、名称は決まっていて、“夜会への招待杖”らしい。
「これはもう……」
動画のネタ的に考えて、後者を選ぶしかないよなぁ……




