193 第一次ハビリス族強化計画
リズールが語った強化計画は、主に3つの段階に分けられる。
まず第一段階。最優先課題。
隠れ里の防衛強化及び、簡易防衛陣地の構築。
これは盆地という有利な地域を生かすため、オークの里方面に防御要塞を建設する、という事。
オークの里は通常、彼らの結界魔法によって場所を感知できないが、シバが里の存在する方角――北東を示した事で、盆地の北にある抜け口を塞ぐように砦を建築する事が決まった。
流石に襲撃を予告された3日間では不可能なので、長期的なスパンで創り上げる予定だ。
そして第二段階。最重要事項。
里の戦力強化及び、戦闘員の増加。
その中でもリズールがお勧めしたのが、ストーンゴーレム召喚による頭数の増加だ。
ストーンゴーレムは前に作ったアンダーゴーレムよりも弱いが、召喚に特殊な鉱石を必要とせず、更には誕生から長い期間が経つと、稀に精霊が宿ってエレメンタルゴーレムに特殊進化する、という利点があるらしい。
ついでに修復素材も安上がりという事なので、賛成多数でストーンゴーレム生成案が可決された。
しかし狩人が『それは一時的な戦力補充であり、ハビリス族自体が強くなる訳では無い』と反論をしたので、ハビリス族用の武具製作、武術訓練も行う事になった。
武具製作の方はリズール、訓練は斬鬼丸と狩人が請け負う。
そして訓練の方だが、シバ兄妹も参加させる、と斬鬼丸が言っていた。
狩人さんも同意していたが、どうやら二人の未来の為に、ある程度は強くならないといけないらしい。
命を狙われているのだから、自分の身は自分で守れるようになれ、という事だろう。
で、第三段階。最終目標。
それは人里との交流、連携だ。
今はまだ、この隠れ里のみで完結する問題だが、いつかは限界が来る。
その時に向けて、彼らはようやく人里と関わる必要が出てきたのだ。
だけどもこの段階は、ハビリス族全員で決める問題。
リズールはあくまでも最終案として提示するに留めた。
会議はそこから、第一段階の砦建設に向けた日数、必要資材の試算を行った。
まぁリズールが既に計算していたので、他の面子は静かに聞いていただけだったけども。
その結果、今の人数では最短でも2ヶ月は掛かると分かったので、まずは第二段階から開始すると決まった。ゴーレムは土木作業を手伝えるし、戦いにも参加出来るからだ。
そして会議が終わり、参加していた面々はすぐさま行動を開始する。
今日から始まる砦用の木こり、ゴーレム用の石集めの人員手配はハルヤ兄妹が行う。
斬鬼丸と狩人は余った男性陣&シバ兄妹の武器適正の確認、リズールは確認用の武器一式を造り出した後、ナターシャと共に秘密工房へ転移する事となった。
「なんで私も秘密工房に行くの?」
そろそろ良いかな? と思って撮影機材を浮かべ始めたナターシャが尋ねると、武器を生成しているリズールはこう話した。
『我が盟主には、私の魔力補充要員として来て欲しいのです。今日は沢山の魔力を使用する予定ですので』
言われてみればそりゃそうか。
第二段階を達成する為に、あの秘密工房で色々と作るらしいし。
「分かった。私は見てるだけ?」
『はい。残念ですが、今日は見学だけに留めて下さい』
「りょーかい」
彼女がそういうって事は、それだけ忙しいのだろう。
まぁ明日以降にでもやらせて貰おう。
リズールは武器生成を終えた後、ナターシャと共に近くの物置小屋に移動。
内部で指輪の宝石を使って、二重線の正方形が交差するように回転する、紫の転移陣を発生させた。
ナターシャは少々驚きながらも、気になった事を尋ねる。
「おぉー……ねぇリズール、この転移陣って一方通行? 使用回数の制限とかある?」
『いえ、往復可能です。回数の制限もありません』
「すごーい……これって消せるの?」
『はい。私の意志一つで』
「とっても便利だねー……すごーい……」
つい感動BOTのようになるナターシャ。
『では我が盟主、手を繋いで転移陣に入りましょうか』
「あ、うん」
そのまま差し出された手を握って、従者と共に秘密工房に転移した。
◇
転移した先は、もちろん地下の魔法陣の上。
リフォームしたての研究室は、ちょっと眩しく感じるくらいに白かった。
そんな一瞬の景色の変化が楽しかったのか、ナターシャはぴょんぴょんしながらリズールにお願いした。
「転移って凄いわくわくする! ねぇリズール、向こうに転移してみても良い!?」
『だめです』
「なんでー!? 転移であーそーびーたーいー!」
『転移陣はオモチャじゃありませんよ。我慢して下さい』
「ぶー」
『代わりにお菓子をあげますから、上の部屋で待っていて下さいね?』
「わーい!」
なんとも子供らしいやり取りを繰り広げたのち、ナターシャは地上で待機しながら暇を潰す事になる。
◇
リズールの用意してくれたお菓子は、冒険者ギルドで出てきたクッキーの安価な方。
驚いたかもしれないが、ワン・ゴールドコインのクッキーはこの世界に実在する。
更には2種類存在していて、1箱30枚入りで金貨1枚の物と、クッキー1枚で金貨1枚という狂った値段設定の物があるのだ。
ナターシャが冒険者ギルド本店で食べたのが後者で、アレはマジで中毒になりそうなくらいに美味い。
日々を薄味で生きてきた異世界人が、現代のちょっとお高めな市販クッキーを食べた感覚なんだろうな、と個人的に思っている。
「まぁ、この安い方のクッキーも十分美味しいけどね……」
高い方の値段に惑わされるが、安い方でも一箱で金貨1枚だし、これはとても良い物なのだ。うん。
ナターシャはそう思考を完結させて、クッキーを一枚頬張った。
「ひーまー……」
そして、ソファーに寝転がる。
工房に転移してから2時間過ぎて、今は昼の1時。
外は生憎の通り雨で、昨日降らなかった鬱憤を晴らすかのように、ごうごうざあざあ、と音を立てている。
「あー……」
リズールが地下の工房に引きこもってからは一切の音沙汰が無く、ナターシャは不安に思いながらも、昼食に蜂蜜入りのショートブレッドと、自分で入れた紅茶を飲んだ。
紅茶は少し渋かった。ひとりぼっちで寂しい気持ちが味に表れたのかもしれない。
「スマホでゲーム……?」
他にする事ないし……
ナターシャはスマホを起動する。
しかし、適当に画面をスワイプしただけで終わった。ゲームにも飽きたのだ。
LINEすれば良いだろう、という意見が多いと思うが、天使ちゃんにも天使ちゃんの仕事があるらしい。
だってさっき、
ナターシャ
[天使ちゃん構って!]
とLINEしたら、
天使
[今日の昼はお仕事なのー( ノД`)シクシク… 夕方に連絡するね♪]
と返されたし。多分、大事な仕事があるのだ。ぴえん。
まぁ、久しく忘れていた暇な時間を体感するのは良い事なのだけれど、
「どうしよっかなー……」
既に動画撮影が始まって長い上に、これといった盛り上がりの無い状況ばかりで、動画投稿者としては困った物だが……今は動けないのでどうしようも出来ない。
そんなナターシャを映す使い魔型カメラは、主の意志を無視……いや、同調したように、ネタを求めて部屋中を飛び回っている。
逆にマイクはテーブルの上に乗っかっていて、まるで本物の猫のようだと錯覚させ――――あ、猫。
「居るじゃん話し相手」
昨日買ったプラチナリングを見つめるナターシャ。すっかり忘れていた。
「ニャトさん……だっけ? 出て来ておーくれ」
詠唱とか聞いてないので雑に呼び出す。
すると指輪が光って、テーブルの向こうに一匹のケットシーが現れた。
召喚と同時にフードを降ろしたニャトは、手を揉みながら発言する。
「ニャシシ……ごきげんようニャ、ナターシャさん。ご入用ですかニャ?」
ナターシャはそれを受けて、こう言った。
「ねぇ、共に暇を享受しない?」
「ニャニャ?」
ニャトは相手の意図が分からないようで、耳をピンと立てながら首を傾げた。




