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邪気眼少女の極唱魔法(エクスペル) ~異世界転生したらTSした上に厨二病を再発症する羽目になりました~  作者: 蒼魚二三
ナターシャ7歳編 -テスタ村とハビリス族の隠れ里と、スタンリー秘密工房のアントレ-
193/263

192 次の日。

 またしても場所が変わって、異世界側。

 とある夜の洞窟で、傷を負ったハイオークとオーク二頭が話し合っていた。

 彼らは先ほど、隠れ里を襲ったオーク達だった。


「オノレ人間メ……!」

「カバアニキ、コレカラドウスル?」

「ブフゥ……ウッ、ウゥ……」


 カバという名前のハイオークは、すり潰した薬草を傷に擦り込みながら、親分として方向性を示す。


「復讐ハ必ズスルブヒ、ダガ、今ハ出来ナイブヒ……ダカラ……」

「「……ダカラ?」」

「マズハ里ニ戻ッテ、シバ達ヲ見ツケタト知ラセルブヒ。俺達ガ復活スルマデノ時間稼ギダブヒ」

「ナルホド!」

「オォ! 流石アニキダ!」


 感心する子分。カバも褒められて喜ぶ。


「ブヒヒ、天才ダカラ当然ブヒ。……ダカラ、今日ハココデ休ムダブヒ。明日帰ルブヒヨ」

「「ワカッタ」」


 彼らは、今日は洞窟で休み、明日になってから里に帰る事に決めた。





 そして、視点が変わってナターシャの方。次の日になった。

 目覚めてさっそく両親に連絡したナターシャは、昨日撮影した動画を見た、と伝えられた。

 どうやら天使ちゃんが、リビングのモニターで無編集版を流したらしい。

 ナターシャは感想を尋ねる。


「どうだった?」

『ハビリス族っていう種族どころか、オークやダークエルフとも仲良くなっているなんてビックリしたよ』

『えぇ、ママも驚いたわ。でもナターシャちゃん、森に入っちゃダメって言ったでしょ?』

「ごめんなさい……」


 当然、怒られた。

 だけども、シバ兄妹の事情は両親も聞いている。

 同じ状況になれば自分達もそうすると分かっているので、いくつかの注意だけで済ませた。

 そして話は戻って、オークのシバの話になる。


「……そう言えばさ、お父さんとお母さんの言ってたオークって人食いで怖いイメージだったんだよね。予想外でビックリしたよ」

『……いや、ナターシャ。ウチの近くに住むオークは人を食べるよ。その認識を変えちゃいけない』

「そうなの?」

『そうよ。だから森は危ないのよナターシャちゃん』

「そうなんだ……」


 ママンも同意した事で、それが事実だと改めて理解した。オーク怖い。

 すると今まで静かにしていたリズールが、朝食を作る手を止め、ナターシャ達の会話に参入する。


『……失礼、お二方。私も混ぜて貰っても宜しいですか?』

『あぁどうぞリズールさん。どうしました?』


 画面の向こうのリターリスが尋ねた事で、リズールは自身の見解を話す。


『今述べられていた“人を喰らうオーク”についてですが……もしかするとそれは、オークでは無く“オーガ”かもしれません』

『オーガ……? あ、もしかして』

『パパ知ってるの?』

『うん。そういえばの話なんだけど……魔物退治の時、ちょっと変わった見た目のオークに出会った事があるよ。もしかしたらそれかな?』


 どうやらリターリスは、実際に遭遇した事があるらしい。

 リズールはオーガに関しての説明をした。


 曰くオーガとは、遥か昔にオークと枝分かれした種族で、見た目が近いので混同されやすいらしい。その違いも、頭部に角があるかどうか程度だそうだ。

 そういえば、西洋の(オーガ)って緑肌だったな……とナターシャは思い出す。

 父リターリスも、『あぁ、あのオークにも角が生えていたな……』と思い出したように発言。

 更に、次の発想に思い至った。


『……と言う事はリズールさん、ユリスタシア領にはオークとオーガという、似た容姿の亜人が生息しているんでしょうか?』

『そうだと思います。領民を守り、更に気軽に森へ入れるようにする為にも、オーガの分布調査が必要ですね』

『うわぁ……大変な事になったなぁ……』


 画面の向こうで頭を抱えるパパン。それをママンがあらあら、と慰めた。

 もちろん、リズールもフォローを入れる。


『大規模調査の際にはお呼び下さい。魔法でお手伝いします』

『あぁ、ありがとうございます……人力で行うのは危険ですし、とても時間が掛かりますからね……』


 そう言う父の顔は、過去の苦い経験を思い出したようだった。





 朝の支度を終えると、すぐにハルヤの家へ向かう。会議の集会場所だからだ。

 まぁ隣なのでちょっと移動するだけだが。


 家に入ると、狩人とハルヤ、弟のエミヤ含む他何名かのハビリス族の男性に、斬鬼丸とシバ兄妹も待っていた。

 理由は分からないが、狩人は少々苛立っている様子だった。


「おはよーございます」

『お待たせしました』


 二人が挨拶すると、狩人が真っ先にこう告げた。


「お前達、オークとダークエルフを連れてここを去れ」

「か、狩人さん……!」


 ハルヤが宥めようとするが、狩人は続ける。


「そこの二人が此処に居る限り、オークの襲撃は続くだろう。だから二人を連れて去れ」

「わぉ……」

『……』


 前置き無しの直球ストレートを受けて、つい威圧されてしまう二人。

 しかしすぐさまリズールが反論した。


『ですが狩人様、この里は既にオークに見つかっています。例え二人がここから居なくなっても、食料目当てでの襲撃は続くでしょう。違いますか?』

「それは、そうだが……」


 言葉に詰まる狩人。

 するとハルヤが彼を庇う。


「待って下さい! 狩人さんが強く言うのにも理由があるんです!」

『……理由、ですか?』

「はい。それを今からお話します。……私達ハビリス族が、狩人さんと関わるに至った経緯を」

「っ、待て、それは――」


 狩人が静止するのも聞かず、ハルヤは話し出した。


「……私達の源流が、かつてこの地――この隠れ里の地に存在した、ムーア村の村民達、だというのはご存じですか?」

『……なるほど、そういう事でしたか』


 リズールはそれで大体は察する。しかし彼女は、皆にも分かるように詳しい事情を求めた。

 ハルヤもそれを受けて、ゴブリン族と袂を分かち、ムーア村の地に再び集結したハビリス族と、ムーア村大惨禍で、誰一人として救えなかった事を心から悔やんでいた、一人の老狩人が出会った経緯――――“優しい狩人”という物語について、語り始めた。



 序盤はとても長い話だったので割愛されたが、大体はこういう話の流れらしい。

 ハビリス族が里造りの為に奮闘し、壁に当たってつまづいた時に、ふと老狩人が現れ、アドバイスをして去っていく、というような感じ。ごく一般的な物語だ。


 で、詳しく話されたのが物語の最後。

 老狩人がハビリス族を見守っていた事が発覚した場面から。

 何故いつも見守っていたのか、とハビリス族に尋ねられた狩人は、ついに彼らの誕生秘話を教え、彼らハビリス族にムーア村の犠牲者の面影を見てしまい、見てみぬ振りが出来なかった事、そして、そんな悲劇が二度と繰り返されないよう、彼らへの最後の贈り物として、自らの血脈が途絶えるまで消えない召喚契約を結んだのだった。


 とても悲しい話だな、とナターシャは思う。

 ハルヤの話を静かに聞いていた狩人も、ようやく心境を話す気になったようで、こう言った。


「……これで事情は分かっただろう。俺は曾祖父の無念を晴らすためにも、お前達に頼る訳にはいかないんだ。だから……」


 早く去れ、と言いたいのだろう。狩人としての実力を証明する為に。

 されどもナターシャ、空気は読みつつもこう発言してしまう。


「それはどうかな?」

「……なんだと?」

「確かにムーア村の人達を救えなかったのは、他人――スタッツ国軍に頼っていたからかもしれない。だけど狩人さん、それは違う。本当の意味でハビリス族を助けたいのなら、曾祖父の無念を晴らしたいのなら……リズール!」


 ナターシャは片手を挙げ、パチンと指を……鳴らしたつもりだったが鳴らず、カスッとなったが、リズールは主の意志を汲み取って、夜間に制作していた資料を提示する。


「これは……?」


 狩人は困惑の声を漏らし、ナターシャを見る。


「あぅ……えっと……」


 だが、ナターシャはそれ以上の事を考えてなかった。

 7歳らしく、可愛くキョドりながらもリズールへの接触を図って、続きの言葉を任せた。


「り、りずーる……」

『仰せのままに。……この資料には、この隠れ里を――ひいては、ハビリス族を大幅に強化する方法を書き記しています。お読みになられますか?』


 そう言って資料を差し出すリズール。狩人は戸惑いながらも受け取った。

 リズ―ルは、更に追い打ちをかけるように、狩人の顔を覗き込みながらこう囁いた。


『狩人様。この里を守らなければならないという事は、彼らも共に戦うという事なのですから……どうせなら彼らを、かつてこの地を襲ったゴブリンの軍勢――――更には、これから襲ってくるであろうオークの軍勢にも勝てるような、強い種族へと育ててみませんか?』

「ハビリス族を……ゴブリンやオークの軍勢にも勝てるような種族に……?」


 リズールの言葉を聞いた狩人は考えるように視線が泳いだが、すぐさまその目に闘志が宿った。

 自らだけでは無く、守るべきハビリス族も強いのならば――――二度と大惨禍のような悲劇は起きず、曾祖父の無念を晴らす事が出来る、と理解したからだ。

 それからの彼の決断は早かった。


「……分かった、やろう」

『ふふ、そのお言葉が聞きたかったのです。では皆様ご清聴を。まず最初に行うべき事ですが――――』


 待ってましたとばかりにリズールは、他の面子も交え、今後の防衛方針――強いては、ハビリス族強化計画をプレゼンし始める。

難産だった上に、執筆中に寝落ちしまくったので遅ればせながら初投稿です。

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