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邪気眼少女の極唱魔法(エクスペル) ~異世界転生したらTSした上に厨二病を再発症する羽目になりました~  作者: 蒼魚二三
ナターシャ7歳編 -テスタ村とハビリス族の隠れ里と、スタンリー秘密工房のアントレ-
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188 オークの追手迎撃戦!

 ナターシャとハルヤの二人は、自らの身体が出せる限界ギリギリの速度で里の入口に到着した。

 そしてすぐさま、戦場の後方で構えているハビリス族の男性の一人に、息切れぎれに話し掛ける。


「はぁっ、お待たせっ!」

「あ、アンタはさっきの人間――」

「エミヤ、話は後ですっ! 状況を!」

「――ハ、ハルヤ! あぁ分かった! 今んとこは見ての通りだ! 甲冑の人が二人も抑えてくれてるお陰で、俺達でもなんとか戦えてる!」


 エミヤというハビリス族の男性が言う通り、斬鬼丸がオーク二体相手に大立ち回りを演じていた。


「邪魔ダァッ!」


「ハッ!」


 ガギンッ!と、激しい音が鳴る。それは、硬い鋼同士がぶつかる音。

 銀色の甲冑騎士は、オークがその剛腕に任せて振るう斧をショートソードで受け流(パリィ)し、


「ヌゥゥンッ!」


「ハハハッ……――ハァァッ!」(ゴオォォ――……ン!)


 次の瞬間には、もう片方のオークが振り下ろした極大剣――柄を含め、全長は優に3メートルを超えていて、刃の部分だけでもナターシャの身長の倍ほどもある――を受け流す為に、相手の武器の横っ面を、右の拳でブッ叩いていた。

 結果、極大剣の軌道が変わり、斬鬼丸の左に打ち下ろされて地面を割り、大地を揺らす。


「ブググ……!」

「オノレ忌々シイ……!」


 斬鬼丸と相対するオーク二頭は武器を引き、再攻撃への準備を進める。

 その表情には、何故仕留めきれないんだ、という焦りと、強い苛立ちが見て取れる。

 相手の表情から心情を察した斬鬼丸は、軽い挑発を投げかけた。


「……先ほどから、貴公達は出しては引くの繰り返し。他の攻撃方法を知らないのでありますか? ――互いに戦士らしく、正々堂々と打ち合おうぞ」


 そしてクイクイッ、と手招き。

 これは一見すると舐めプのようだが、ショートソードを使っている斬鬼丸が、相手の懐に潜り込むチャンスを作る為の発言。

 実はお互いに決め手に欠けていて、戦闘開始からずっと拮抗状態が続いているのだ。


「ググ……ッ、嫌味ナノカ貴様ッッ!!」

「弱キ生物ノ分際デ……ッ!」


 オークも今すぐに打ち合い、正面から打ち勝ってしまいたいという強い欲求に駆られているが、そうなれば相手の思う壺。

 思いとどまれているのは、彼らの持つ本能か、勝利への執念か。


 ……いや違う。本能や執念などではない。

 自分達よりも格上と戦う方法を、オーク達は知っているのだ。

 常に自分の土俵から離れず、安易な挑発や誘いに乗らず、仲間との連携を重視し、相手を仕留める。

 狩猟を生活の糧とするオーク達にとって、それは常識と言っても過言ではない戦闘技術だった。


「……チッ」


 相手が動かぬとみて、斬鬼丸は口惜しいと言わんばかりに舌打ちし、自らの間合いに入るべく突撃する。


「――ではいざッ!」


「ッ!」

「甘イッ!」


 再び、重苦しい剣戟の音と、地面の揺れが繰り返される。

 何度も、何度も。


 ナターシャはすぐさま考察・思考し、援軍無しで勝つ事は出来ないだろうが、斬鬼丸なら耐えられると判断。

 まずは、どう見ても劣勢であるハビリス族のサポートに回る事に決めた。


 ハビリス族が相対するは、斬鬼丸が抑えているオーク二頭よりも強そうな個体。

 肌が変色し、まるで強固な岩を彷彿とさせるような灰色の肌となったオーク。

 そう、ハイオークだ。原典に近い方のオークといえば分かるだろうか。


 ……ただ変わっている点があって、ハイオークの彼は、明らかに豚鼻だった。


「「「イヤーッ!」」」


「ブフゥン!」


「「「グワーッ!」」」


 ハブリス族は数の多さで圧殺しようとしているが、ハイオークが振り回す戦斧に容易く弾き飛ばされる。

 ただ羽虫を払うがごとく、ほんの少しの殺意もない攻撃。

 ただそれだけでも――人間の子供程度の身長しかないハビリス族が、怪我を負うには十分な威力であった。


「く、くそぉ……!」

「ブヒヒヒ! 雑魚が何匹集まろうと、俺様には勝てんブヒ!」


 そう言って威張るハイオーク。

 ……というか語尾がブヒってお前、それ完全に豚じゃ……ま、まぁいい。

 ナターシャはまず、負傷者にハイヒールを掛け、戦線復帰させる事に決めた。


「ハルヤさんっ!」

「は、はいっ!」

「私は怪我人を治します! それで良いですね!?」

「お願いします! 私は狩人さんを出して参戦します!」

「了解!」


 お互いの行動を連絡し合い、二手に分かれる。

 ナターシャは裏方に回り、対ハイオークへの援軍はハルヤに任された。


「来たれ幻霊! 魔獣狩りの狩人よ!」


 拮抗した戦場に、ハルヤの召喚詠唱が響く。

 すると何処からともなく風が吹き、巻き上げられた砂塵が集まって人の形を造り出した。

 

「……」


 召喚された狩人――テスタ村でナターシャに注意を促した狩人は、一言も発さず、目の前で起きている戦闘の光景、怪我をしているハビリス族、それを治療するナターシャ、最後に、召喚者であるハルヤを見た。現状確認をするかのようだ。

 ハルヤは緊張で息を呑みつつも、狩人への指示を出す。


「狩人よ! 我らの里を守り給え!」

「……(コクリ)」


 狩人は無言で頷いた後、ゆっくりと前を向き、事の元凶である三体のオークに狙いを定めた。





 そこからは一方的な戦いが繰り広げられた。

 ハルヤが召喚した狩人が、背に掛ける鞘から抜いた蛇腹剣を使って、ハイオークの全身を切り刻んで戦闘不能にしたのち、残る二体に巻き付けて捕縛したからだ。

 戦闘経験の差だけでは片付けられない、斬鬼丸ですら驚くほどの、圧倒的な強さを見せつけられた。


「ブ、ブヒィ……」

「「ウグゥ……」」


 切り刻まれたハイオークは仰向けに気絶していて、捕縛された二体のオークは、生殺与奪の権利を握られているのを理解しているのか、悔しそうに呻くしか出来ない。

 狩人以外のメンツは、ナターシャの元で怪我の治療を行っていて、狩人はオーク達が逃げないように注意しながら、隣に居るハルヤを無言で見つめる。


「……」

「どうするか選択しろ、という事ですか」

「……(コクリ)」


 ここで殺すか、それとも生かすか。

 それは、里のまとめ役であるハルヤが負わなければならない責務である。

 しかし、余りにも重い決断なのは間違いない。

 戸惑ったハルヤはまず、狩人の考えを聞く。


「狩人さんならどうしますか?」


 狩人は首を切るジェスチャーを行った。

 それを見たオークは、小さな悲鳴を上げる。


「……分かりました。少しだけ、考えさせて下さい」


 ハルヤはその場で黙考を行う。

 出来るならば、無益な殺生はしたくない。


 ……だがしかし。

 彼女もまた、狩人と同じ結論に達した。

 ここで彼らを逃せば、またこの地が襲撃されるかもしれないからだ。

 ハルヤはまとめ役として、決断を下す。


「……確かに、ここで生かして返す理由がありませんよね。申し訳ありませんが、口封じに――――」


 殺した方が……と言おうとしたタイミングで、一体のオークが乱入した。


「マ、待ッテクレ! 彼ラヲ殺サナイデクレ!」

「兄サマ駄目ダ! 家ニ戻ラナキャ!」


 ハルヤ達が匿っていたオーク、シバである。

 その後ろには必死に引き留めに掛かったのか、妹のトコもくっ付いてきてしまっていた。

 狩人も含む、その場に居た全員に動揺が走り、空気が凍る。


 そして、捕獲されているオーク達は、そのチャンスを逃さなかった。


「ブヒィィィ――――ッッ!!!」

「「「ッ!?」」」


 突如、先ほどまでピクリともしなかったハイオークが起き上がり、仲間に巻き付いている蛇腹剣の鋼糸を、刃が手指に食い込むのも気にせず、己が腕力で引き千切る。

 火事場の馬鹿力とはよく言った物だが、やはりオーク。人間とは比べ物にならないパワーだ。

 

 自由を手に入れたオーク三人組は、自身の獲物には目もくれず、里の外に出て、一目散に森の中へと駆け込んだ。

 あまりにも鮮やかな手際に誰も止める事が出来ず、そのまま獲り逃がしてしまった。


 ……だが、ハイオークはバカなのか律儀なのか、逃亡しながら大声でこう叫んでいた。


『ブヒヒヒヒ! オ前ノ甘サニハ感謝スルブヒ、シバヨ! ダガ三日後、怪我ガ治ッタラ必ズ復讐シテヤルブヒ! コノ里ニ、オークノ軍勢ガ襲イ掛カルブヒィィィ――――……ッ!!!』


 それを聞いたナターシャは、治療しながらこうぼやいた。


「なんかめんどくさい事になってきたなぁ……」


 これは、オークに戦争吹っ掛けられたようなモンなのかね?

これで良いんだろうか

一か月ぶりに書いたから感覚が分からん

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さん、1か月ぶりの更新、お疲れ様です! 斬鬼丸と互角に戦えるとは、二体のオークにびっくりです!?それ以上の狩人さんの強さに驚きました!? オーク達、シバ兄妹に酷いの癖に、意外に仲間との…
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