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邪気眼少女の極唱魔法(エクスペル) ~異世界転生したらTSした上に厨二病を再発症する羽目になりました~  作者: 蒼魚二三
ナターシャ7歳編 -テスタ村とハビリス族の隠れ里と、スタンリー秘密工房のアントレ-
183/263

182 捜索を休止した午後と、ナターシャの初配信

 シャワーを浴びてから暫く経った。


 BLTサンドイッチと紅茶という昼食を終え、コタツでスマホを弄っているナターシャ。

 服は変わらず魔導服。またお風呂に入るつもりなのだ。


 少女は、従者二人の行うオセロを片手間に見ながら、配信に必要な設定を行った。

 配信アプリの再確認・SNSの連携、配信用チャンネルのカスタマイズ。

 カスタマイズも天界側が代理でやってくれるようで、アイコン用の画像を提出するだけで済んだ。


 ただ、可愛い系ではなく、カッコいい系の自撮り画像を要求されたのは謎だ。

 久しぶりに魔法創造のデメリットを活用する羽目になったよ。

 あれだと、7歳の女の子がする顔じゃないアイコンになると思う。

 ま、これでしなきゃいけない事は殆ど終わっただろう。


「んー……」


 暇になったので撮影を開始しようかと思ったが、外の天気は相変わらず荒れ模様。

 白猫マイクはかなり高性能なので、これでは環境音が入ってしまう。


「やっぱ後で良いや」


 スマホの充電しながらお菓子食べよ。

 ショートブレッドにジャムを付けてもぐもぐしていると、リズールが紅茶を入れてくれた。

 とても気の利く従者だ。


 食べ終わるまではそれで時間を潰せたが、その後は本当にやる事が無く、久しぶりに動画視聴を始めた。

 配信者をする上で参考になれば良いと思ったからだ。


 沢山の〇outuberの動画を見て、色々と考えた結果、ただの挨拶動画でも何か面白いネタを入れた方が良い、と理解した。


「人気になるだったら、最初から面白い事をしないとダメだよなー……」


 パッと考え付いたのは、やはり魔法。

 ただ、普通に使っても凄いCGだとしか思われない。

 いい表現方法は無いかな? と考えていると、リズールが案を出してくれた。


『でしたら、外の雷雨を魔法で吹き飛ばせば良いのでは?』

「それはやり過ぎじゃないかな?」

『では、何かしらのターゲットを破壊するなどは如何ですか?』

「あー、それなら良いかも」


 初配信の内容が決まった。

 雨が止んだら、また案山子とかゴーレムを作ってもらおう。


「いや、自分でゴーレムを創るものアリだな」


 そっちの方がもっと斬新で、面白いかもしれない。

 よし、そうしよう。


 内容を決めたナターシャは、早速天使ちゃんにLINEした。


ナターシャ

[初投稿は魔法でターゲットを破壊する動画にするんだけど、今こっちは雨降ってるから撮影出来なくて、投稿が遅れるかも。ごめんね]


天使

[分かったー! リターリスさん達とのんびり待ってるからねー♪]


 何も映っていないモニターを興味津々に眺めているパパン&ママンと、天使ちゃんの顔がドアップで映った写真が送られてきた。

 パパンとママンの反応から、やはり二人も異世界人なんだなぁ、と改めて思った。


 

◇◇◇



 またまた時間が経って、夕食を終えた時間帯。


 その頃には雷雨も収まっていて、外の様子を確認すると小雨になっていた。

 これなら余計な雑音も少ない。撮影が可能だ。


 ナターシャは急いで魔女帽子を被り、黒猫カメラや白猫マイクを浮かべて配信の準備をしながら、リズールを呼びつけた。


「リズール! 撮影手伝って!」

『分かりました。我が盟主マイロードが汚れないように、私のスキルで保護させて頂きます。“防御結界”』

「おぉ!」


 リズールはチートスキルを発動した。

 ナターシャの装備と身体が、柔らかい何かに包まれた。


「これが防御結界?」

『はいそうです。しっかりと掛かっていますよ』

「へぇー」


 実際に触って確かめるナターシャ。

 地肌や物に触れる感覚と一緒に、間に何かが挟まっている感覚がある。不思議だ。


「ま、これで汚れないんだよね? よし! なら早速撮影だー!」

『はい』

「御意」


「あ、リズール。斬鬼丸にも――」

『してあります。私にも掛けていますのでご安心を』

「――そ、そっか! じゃあ行くよー!」


 ナターシャは従者二人を連れて、テントの外に出た。

 雨の中、従者二人を後ろに並べ、カメラとマイクを正面に据えて、動画撮影を開始。

 事前に作った台本のセリフもちゃんと覚えている。何とかなるだろう。



◇◇◇


 

 日本時間、午後8時。夜だ。

 ナターシャの話題で持ち切りだった配信者スレが、ようやく落ち着きを取り戻し始めた頃。

 PCの前で待機し続けていたあの男が、歓喜する時が来た。


(……きたか!)


 ナターシャのチャンネルから、ようやく更新通知が入ったのだ。

 啜っていたカップ麺を乱雑に置き、期待に胸を膨らませて動画を開く。


 そこで待っていたのは朝方とは全く違う服装――強いて言うなら、魔女っ娘姿のナターシャ。

 そして、その少女の後ろには、西洋鎧を全身に着込んだ大柄な騎士と、APPで換算するなら18を超えてそうな美貌を持つ、青髪で黒フードのメイドが待機していた。


『初めまして! 異世界系〇outuberのユリスタシア・ナターシャです!』


(異世界系……? あ、はじめまして)


 画面の中の銀髪の少女が、快活そうな声で話す。

 男は少し虚をつかれたものの、心の中で返事を返した。


 テスト動画で見たナターシャはもう少しほわほわしていたイメージだが、これはこれで可愛い、と男は思った。

 ただ、異世界系〇outuberとはどういう意味なのか気になる。


 ナターシャは、後ろに居る人従者の事を簡単に説明して、早速本題に入った。


『――自己紹介はこれくらいにしまして! 今、私が何処に居るか。まずはこれを簡単に言います! 実は何と! 私ことナターシャは――異世界でこの動画を撮影しています!』


(……嘘だろ?)


『……うんうん、ですよね。当然信じられませんよね!? なので! 今回は異世界に居る事を証明する為に、いくつかの魔法を試してみたいと思いまーす! では、準備が出来るまでカット!』


 カット編集が入って、少し離れた位置に、赤丸が掛かれたターゲットが地面に3本ほど刺さった場面に移った。


『はい準備出来ました! ではでは! 今から攻撃魔法で、このターゲットを壊してみたいと思います! 良いですか? 行きますよー……?』


 ナターシャはターゲットに向かって手をかざし、魔法を三発ほど発射した。


業火球ファイヤーボール! 射出氷槍シューティー・アイスランス! “撃滅の雷撃よ!敵を焼き払え! 雷光破砲ライトニング”―――ッ!』


 ドン! ガキィン! バコォォ――……ン!


(すげぇ……)


 放たれた魔法は、設置されたターゲットを全てぶっ壊した。

 まぁ、最後のライトニングは壊すというより、的部分を焼失させたといった方が正しい。


『ね? 凄いでしょう? これが魔法です!』


「魔法すげぇ……」(パチパチパチ……)


 男は独り言を呟きながら、画面の前で拍手していた。

 ナターシャが本当に異世界に居ると、心から信じてしまう程に驚いていた。


『では最後に、ファンタジー世界なら必ず居るであろうゴーレム! それを魔法で造り出してみたいと思います! では、またまたカット!』


 パッと場面が変わって、大きな黒い鉱石がいくつか地面に置かれている絵になった。

 これはゴーレムを造り出す為に必要な石である、とナターシャが説明し、魔法を詠唱し始めた。


『では、早速ゴーレムを造っちゃいます! 行きますっ! ――――“泥と石にめいを刻み、我が従者とする。低位人形創造アンダーゴーレム・クリエイト”!』


 魔法の効果を受け、黒い鉱石が一瞬だけ白く光って、動き出す。

 身体はかなり雑に組み立てられて、最後に頭部が乗り、子供の落書きのようなゴーレムが生み出された。


『はい完成です! どうですか!? かっこいいですよねっ!?』


「フッ」(変な形のゴーレムだなぁ)


 あまりにも酷い見た目のゴーレムなので、男は鼻で笑った。

 どうやらナターシャは、芸術的な作業が苦手らしい。


『このゴーレムはとっても魔力を込めて作ったので、普通のゴーレムよりもとっても強いんです! 我ながら、中々の力作だと思います!』


(そうなんだ。ナターシャちゃんは強い方が大事なんだなぁ)


 画面の向こうでドヤ顔するナターシャを見て、微笑ましく感じた。

 動画はそこで纏めに入って、『チャンネル登録&グット評価をお願いします!』と言って、『異世界からのおたよりでしたー!』と終わった。


(面白かった……)


 見終わった男は、幸せに包まれていた。

 ナターシャちゃんがとっても元気で、可愛かったからだ。


(……よし、動くぞ。ここからが勝負だ)


 ここからは、彼の仕事だ。

まずはコメント。二コメを颯爽とゲットし、『ファンになりました! これからも応援します!』と投稿者を激励。

 次はナターシャのSNSアカウントをフォローし、動画投稿報告を拡散する。

 最後の仕上げとして、匿名提示板に張り付いた。


 ナターシャの動画配信は始まったばかりだが……

 最初のテスト動画と、今回の挨拶動画さえあれば人気を出せる。

 ナターシャには、それだけの面白さがある。


 動画のテンポの良さ、本当に異世界に居るかも・本当に魔法を使っているかも疑惑、二つの動画のテンションの違いから来る、ギャップ萌えがお勧めポイントだ。


(これは大仕事になるぞ……!)


 既に祭りが終わって、沈静化してきていた匿名掲示板に燃料を投下。

 ナターシャの面白みを全力でダイマしまくる。


 我が一推しの少女の為、裏方で地道に暗躍するのは、彼のリスナー人生を掛けた大仕事となるだろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! ナターシャさんは凄いですね! 凄いですけど、異世界に魔法を見せまくるのは大丈夫でしょうかね? それに、転移ではなく死後転生したのなら、元の世界に接触は控えて…
感想一覧
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