181 捜索開始から休止まで
テスタ村で再会した、冒険者3人組の話はこうだ。
「村の人に話を聞いてもさー、全然教えてくれないんだよねー?」
「そうなんだ。“余所者のお前らに教える情報は無い”ばかりでな」
「何か感じ悪い村だよな? 近くに良い狩場があるって聞いてたのに、ちょっと損した気分だぜ」
やはり、この村の裏事情を知らないんだろう。冒険者との確執を。
まぁ、血気盛んな冒険者らしいから、これはこれでいい勉強になるだろうけど。
『どうしますかマイロード。お教えしますか?』
「んー……」
判断を任され、考えるナターシャ。
一応、索敵魔法は常時展開中。
魔物が集まりそうな場所は、不眠の森以外にもいくつかある事は知っている。
彼らのランク、ブロンズに適合する場所は、アイアンからブロンズ並みの強さのスカベンジャーという犬系の魔物が頂点で、グレートボアという大猪や、ブルディアーという鹿系統の魔物が中間層に居て、その下に小動物系の魔物が生息している草原……命名するならば草食みの草原かな。
場所は、この村の南西に進んだ所にある。
別に行く予定も無いし、教えても良いけど……まずは、相手が何を出せるか聞くか。
「ねぇ、冒険者さん」
「何?」
「なんだい?」
「なんだ?」
「まずは聞きたいんだけど、そっちは何か良い情報を知ってる?」
「良い情報か……」
パーティーの仕切り役である、フィズが考える。
彼は暫し思考して、思いついたように語った。
「一つある。これは宿屋の店主の子供に聞いたのだが……ここ近辺には昔、著名な魔導士が住んでいたらしい。君は魔法使いだろう? 試しに探してみてはどうだ。何か良い魔導書や武器が手に入れられるかもしれないぞ」
「なるほど」
うん、悪くない情報だ。
でもまぁ、その捜索は後回しで良いや。
「面白い情報、ありがとうございます。じゃ、私がお勧めする狩場を教えますね――――」
ナターシャは上流階級の伝手ですが、という裏技を使いながら、南西にある草原の事を教えた。
話を聞いた冒険者達も、それなりに満足したようだった。
「ふむ、初日の力試しとしては悪くないだろう」
「だな! 楽しみだぜ!」
「早速向かいましょう!」
冒険者達はナターシャ達に別れを告げて、急いで南西に向かっていった。
中々良い事をしたと思う。
疲れたナターシャは軽く首を回し、従者二人に告げる。
「んじゃ、ちょっと時間食っちゃったけど、ゴブリン村に急ごうか」
『はい』
「御意」
再度同意を得て、ナターシャ達は南東に進んでいった。
◇◇◇
暫く進んで、ゴブリン村の近くに着いた三人。
感知されない位置まで近付き、草原に伏せて、ゴブリン村の様子を確かめた。
内部には、ゴブリン達が作った簡易な住居がいくつかと、10匹程度のゴブリン。
村の中央では宴を開催しているらしく、獲った獲物を解体して、生のまま食べていた。
「結構文明が進んでるね」
『はい。ですが、最近出来たばかりの村のようですね。メスが見当たりません』
そうなんだ。でも、ゴブリンと言えば。
「……ちょっと気になったんだけどさ、ゴブリンって他種族のメスを攫ったりは?」
『する事もあります。その末路は言うまでもないですが』
やっぱそうなのか。
やはりゴブリンは悪い魔物だな、という偏見が固まった気がする。
『現状はまだ、様子見でも大丈夫ですが――殲滅しますか?』
「む、出番でありますか?」
個人的見解を話すリズールと、少しやる気が溢れた感じでナターシャを見る斬鬼丸。
しかし、ナターシャは首を振る。
「……いや、今は座標石の設置だけで収めておくよ。発見情報は村にも流して、その反応次第で判断する。そうした方がテスタ村の人達の防衛方針と合わせられるからね」
『分かりました』
「合理的でありますな」
という事で、座標石をこの場に設置する。
座標石とは、特殊な魔力反応を出す魔導石の一種で、現代で言う所のビーコンのような物。
専用の魔道具を使用する事で、設置された方角や位置を特定出来る優れものだ。
冒険者ギルドはこれがあるからこそ、危険地域の注意喚起や、高難度魔物の住み家を特定して、的確な討伐依頼を出せる。
座標石のビーコン効果を発動するには、“起動”と唱えて地面に突き刺す。
釘のような形状なので、簡単に地面に刺す事が可能だ。
「――――よし、終わり。ゴブリン達に気付かれない内に退散しようか」
『分かりました。次の村はここから北に進んだ場所です。向かいますか?』
「いや、そろそろ雨が降りそうだから一旦帰る。残りは明日以降に回そう」
動画の撮影もあるからね。
従者二人からも同意を取り、ナターシャ達は次第に暗転してきた空模様を見ながら、テスタ村に帰還した。
◇◇◇
ナターシャは、不眠の森の近くでゴブリン村を発見し、座標石を設置した事を、村の見張りをしていた男性に伝えた。
「――どうするでありますか? 必要ならば、拙者が駆除するでありますが」
伝え終わった後、斬鬼丸が後ろから問いかけた。
つまりはそういう事だろう。
「それは有難い申し出だが、今、ゴブリン達を刺激するのは待ってくれ」
「何故?」
疑問を呈する斬鬼丸。
見張りの男性は『コチラにはコチラの事情がある』とだけ言って、静かになった。
彼はそれ以上は話したくない雰囲気だったので、ナターシャ達は別れを言って、その場を去った。
「……ふむ、やはり嫌われていると実感するでありますな」
「しょうがないよ。彼らには彼らなりのプライドがあるんだし」
『そうですね。必死に村を守ってきた彼らからすれば、私達のような冒険者は突然現れた若輩者で、異端者ですから』
「そうそう」
もしこの村で、冒険者が嫌われている事を知っていなかったら、今の塩対応がショックで寝込んでいただろう。
俺のメンタルはオランダの涙の尻尾並みに脆いのだ。
折れると爆発するし。
「ま、話をしてくれるだけマシだよね。酷い時にはそれすら出来ないだろうし」
心の底から嫌われてるならそもそも村に入れないし、下手をすれば総出で殺しに掛かるのが村社会の恐ろしさ。
犯罪者達が村を追われ、徒党を組んで野盗になるのも当然だろう。
斬鬼丸も納得し、諦めた感じで同意した。
「……確かにそうでありますな。真面に話せるだけで行幸也」
「そーそー。じゃ、空き地に戻ろっか。駆け出し冒険者らしく、宿代は節約してかないとね」
「御意」
『はい』
ナターシャ達は再び、村の外れの空き地へと歩を進めた。
冒険者が語っていた、著名な魔導士については気になるけど――今は空模様の方が大事だ。
少女が見上げた空は灰色で、所々黒く、ゴロゴロと怪しい音が鳴っている。
これは大雨になるだろう。
◇◇◇
ポツ、ポツ、と空から雫が降り始めた頃に、ナターシャ達はテントに入った。
ナターシャは入って早々、ブーツを脱ぎ捨てて、全速力でコタツに入ってしまう。
「ふぅ……」
落ち着く。さすがコタツ。
詠唱解除をしない限り、熱源が消えないのもグット。
そして靴を脱ぎ、服の埃を払ったリズールもコタツに入り、足裏を拭き終わった斬鬼丸も何故か入る。
「……皆もコタツ好きなの?」
ナターシャはコタツに顎を乗せながら聞いた。
二人の反応はこうだ。
『いえ、特にする事もないので、我が盟主の真似しようかと』
「拙者も興味本位でありますが、中々良いでありますな」
『同意します』
「そっか」
コタツは精霊やゴーレムも駄目にする、究極の暖房器具だという事がここで証明された。
まぁ超どうでもいい事だけど。
「んー……」
よし、そろそろ動くか。
早いうちに動画を撮って、アップロードしてしまおう。
「よし、動く」
ナターシャはコタツから抜け出した。
そしてまずは、気分転換にシャワーを浴びる事にした。
「ちょっとシャワー浴びてくる」
『行ってらっしゃいませ』
「……ふむ」
主が行動を始めたのを見て、従者二人――主に斬鬼丸が、思いついた事をし始める。
「リズール殿。魔法でオセロを召喚して欲しいであります」
『初耳ですね。詠唱は知っていますか?』
「あれは確か――」
斬鬼丸はリズールに詠唱を教え、二人はオセロをする事になった。
その事をまだ知らない主は、風呂前に作った簡易脱衣場で、見えない空を見上げながらぽつりと呟く。
「今日の天気は荒れてるなぁ……」
外では雷が落ちる音が聞こえる。少し怖い。
俺が撮影を始める事には、多少はマシになっているだろうか?




