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邪気眼少女の極唱魔法(エクスペル) ~異世界転生したらTSした上に厨二病を再発症する羽目になりました~  作者: 蒼魚二三
ナターシャ7歳編 -テスタ村とハビリス族の隠れ里と、スタンリー秘密工房のアントレ-
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175 まずは近くの農村へ

 ナターシャ達が真っ先に目指す事にしたのは北方の村、テスタ。

 フミノキースから少し離れた場所にある農村で、そこの東から南東には、魔物が冬眠しないくらい温暖な気候の森があるらしい。

 その村周辺ならば、まず間違いなくゴブリンの村や集落があるだろう、という判断だ。


 因みに『ゴブリン村の捜索中、とても強い魔物に襲われてみたい』という斬鬼丸とナターシャの希望を叶える為でもある。

 今のうちに強い魔物を倒さないと、有名になるのに時間が掛かっちゃうからしょうがない。


「テスタまで歩いていくのは大変だよね。だって片道20㎞だもん。リズール、馬車とか出てない?」


 リズールは主の疑問に、思い出すようにして答えた。


『……確か、乗合馬車が日に2度出ていますね。早朝とお昼頃に』

「今からでも間に合うかな?」

『時間的には間に合います。ですが、座席が空いているかは分かりません。街中央にある、乗合馬車組合に掛け合いましょうか』

「分かった」

「承知」


 という事で、乗合馬車組合でテスタ村に行く馬車の座席状況を確認した。

 因みに、今回の乗合馬車は合計6席の箱馬車で、現代でいう所のキャリッジという馬車種に似ている。


 座席を取る際、職員さんに『乗合馬車だと、先約の3名組との相乗りになりますよ? 当組合には貸し馬車もございますよ?』と言われたのだが、相乗りを嫌がる理由が無いのでそのまま座席を購入した。

 むしろ、道中の話し相手が増えるから楽しいと思う。


 その後、手に入れた3人分の乗車券を分配し、乗り場に停まっているという馬車を探した。

 もっとも、出発の近い馬車は動きやすい位置に移動しているし、乗車番号も大きく書かれていたので見つけやすかった。


「斬鬼丸見つけたよー! こっちこっち!」

「おぉ、其方でありましたか」


 ナターシャは離れて行こうとしていた斬鬼丸を呼び戻して、先約の迷惑にならないよう、静かに乗車する。

 内部の座席状況だが、左右の壁沿いに縦長のロングシートがあって、その片側には先約らしき冒険者3人が座っていた。

 そしてナターシャの後に斬鬼丸が乗ってくるのを見ると、目を丸くして驚いた。


「お。アンタは俺の洗礼の時に居た……」

「何だと?」

「あ、ホントだ。あの時の騎士さんだ」


「む、何方どなたでありますか?」


 突然注目を浴びたので、冒険者達を見据えて首を傾げる斬鬼丸。

 対して冒険者達は、臆せずにこう言ってのけた。


「いや、自己紹介は後にしようぜ」

「そうそう。時間はいっぱいあるしね」

「そういう事だ。今は出発まで待とうじゃないか」

 

 軽く先輩風を吹かしているようにも見える。

 だが、斬鬼丸も斬鬼丸で呑気な物で、


「そうでありますか。では失礼」


 と言って、ナターシャの左隣に座る。右隣にはリズールだ。


 主のナターシャは早速、お菓子を軽く摘まむモードに入っていて、バッグを経由して取り出したジンジャークッキーをポリポリと食べている。

 リズールは魔導書(本体)を取り出し、読むフリをして時間を潰す。


 そして斬鬼丸は。


「……」


「「「……」」」


 目の前の冒険者達と見つめ合っていた。

 いや、斬鬼丸から仕掛けた訳では無い。彼はただ、見つめられているので見返しているだけだ。

 問題は冒険者達の方。困ったのか、小声で相談し始めた。


「おいどうするよ……」

「ああいった手前、話しかけ辛いね……」

「今は待つしかないだろうな……」


 彼らはとても話しかけたそうなのだが、初手の選択肢を間違えたせいで、第二声を出そうにも出せない状態に陥っているのだ。

 アホだなぁ……と傍から見ているナターシャは思う。

 まぁ、あの状況で謙虚な冒険者は多分得をしないので、とても冒険者らしい選択だったのが。


 だが、今回は残念な事に相手が悪かった。

 この斬鬼丸という精霊は、戦う事以外にあまり興味が無いのだ。

 なので今、見た目はナターシャの警備を装いながら、脳内では魔物と戦い倒す妄想をしているだろう。

 冒険者を警戒していないのが何よりの証拠だ、と雑に証明終了し、ナターシャはジンジャークッキーを食べきった。


 その頃にはようやく出発の時刻になり、冒険者達も気まずさから解放される事になる。

 馬車は検問を素通りすると、北に進路を取って、草原の中の畦道を進んでいく。

 マップアプリを見るに、到着する頃には夕刻。

 宿に泊まるか、自前のテント魔法で野宿するか、早いうちに決めないとね。



◇◇◇



 で、道中の馬車内部。

 ようやく始まった冒険者達の自己紹介の場面。


「三日ぶりだな洗礼の時の後輩騎士! 俺の名前はクランク! スキル無しでブロンズまで登り詰めた強者だぜ! 今は剣術スキルとちょっと強力なスキルをゲットしたから、頑張ってプラチナ級冒険者を目指してんだ!」

「ふふ、私はレンカ。パーティの支援役で、魔法適正を持ってるんだ。得意な魔法はファイヤーランスで、どんな魔物でも炎の槍で串刺しだよ?」

「僕はフィズ。パーティの指揮と、経費管理が主。他にも、身体能力スキルを持っていて、肉弾戦も可能だ。何せ、叔父が洗礼部隊でな。僕にもその血が受け継がれたって事なんだろう」


 めっちゃ語るやん冒険者達……

 ま、首からぶら下げているドッグタグは青銅なので、若さ故の過ちというべきか。

 アイアンランクへの道を歩んでいく間に、自分の情報の重要性を知っていくんだろう。

 

 だけども、ここまで強く語られたなら、此方もある程度の情報を話さなければ友好的にはなれないという物。

 ナターシャは小声で斬鬼丸に、『精霊である事だけは伏せて、それ以外の情報は簡潔に話して良いよ』と伝えた。

 斬鬼丸はちゃんと意図を汲み取ったのか、軽く伏せながら自己紹介を始めた。

 

「では、拙者の自己紹介を。コチラにいる銀髪の少女、ナターシャ殿の護衛にして、ユリスタシア男爵家の騎士であります。ランクは青銅ブロンズ。所持するスキルは剣技、剣術、肉体強化など、前衛職に関するスキルを持っているであります」


 ただしスキルレベルは言わない物とする。


「「「おぉー!」」」


 まぁ、それだけでも冒険者達にとっては驚愕に値する物。

 その強さや凄さを朧気に理解したようだった。


 んで、ナターシャとリズールの自己紹介もぼかしながら済ませて、冒険者達が何故テスタ村に向かう事にしたのか聞くことになった。


「実は、そろそろゴブリン以外の魔物討伐を試してみたいと思っていてな」

「うん! クランクのスキルと私の魔法があれば、アイアンとか、もしかしたらシルバー級の魔物を討伐出来るかも!? って思ったんだ」

「ふふ、俺のスキルは強いぜ? ゴブリンキングやハイオークなんざ、一撃で仕留めてやるよ」


 彼らはとても自信に満ち溢れているようだ。

 斬鬼丸も触発されたのか、それともビジョンが固まってきたのか、意気揚々と返答する。


「ほぉ、興味深いでありますなぁ。拙者もまた、そのような強者と戦ってみたいであります」


「おぉ、騎士さんは既に討伐経験があるようだ。僕達も負けれられないな」

「だな! 強い魔物を倒して、一気に名を挙げてやるぜ!」

「うん! 皆で目指せ有名人ってね!」


 そう言って、三人で可笑しく笑い合う。

 やる気だけでなく、仲間意識も強いようだ。

 良いね。とっても好感が持てる人達だ。仲良くしておこう。



◇◇◇



 それから彼らと色々な雑談を行い、ジョークを言い合い、探索中に出会った時はお互いに情報を交換し合う事を約束をした頃に、目的地であろうテスタ村に着いた。

 御者の合図で馬車から降りた全員は、別れの挨拶をする前にこれからどうするのか、という情報を交換した。


「俺達は安価で泊れる所を探すけど、斬鬼丸さん達はどうするんだ?」

「あ! なんなら、私達と同じ宿に泊まらない? 宿の相部屋って仲間が多い程安心出来るし!」


「ふむ。ナターシャ殿、どうするでありますか?」

「んー……」


 ナターシャはちょっと考えて、一つの決断をする。


「実は、今の内に試してみたい事があるんです。だから、宿は別にさせて下さい」


 そう。まずは、テント魔法の性能を実感してみたいのだ。

 断られた冒険者達は少し残念そうな顔をし、そのまま別れを告げて去っていった。


「そっか。少し残念だけど……ま、また明日も宜しくな!」

「よろしく頼む」

「またねー」


 そして、その場に残されたナターシャ達。

 リズールと斬鬼丸は、この判断を下したナターシャの言葉の意味を聞く。


『宿に宿泊しないのですか?』

「何か良い案が?」


「あるでしょ? テント魔法。あれの利便性をまずは確かめたい」


 不便な所は直さないといけないし、丁度いいタイミングだと思ったんだよね。

 主の真意を知った二人も納得した様子。

 

「成程、理にかなっているでありますな」

『流石は我が盟主マイロードです。では、テントの設営場所を探さなければいけませんね』


「だね。もう夕方だし、夜になるまでには良い場所を見つけよーう! いくぞー!」


「御意」

『はい』


 ナターシャ達は村の中をくまなく探し回った見つからず、最終的に村外れの方で見つけた空き地にテントを設営する事に決めた。

 ここなら文句は言われないだろうし、自由に魔法を創り直せる。

 最適な立地じゃないかな?

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