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174 初めての魔物討伐って言ったらやっぱゴブリンっしょ。

 3つのクエストの内、魔物討伐って分かりやすいのは1つ目と2つ目。

 ナターシャは斬鬼丸に、どちらを先に受けたいか尋ねたら『両方受けたいであります』と言われた。

 俺だってそうしたいよ。でもギルドは許してくれないんだ。

 当然、ギルド職員にも注意を受ける。


「ごめんなさい。皆様はまだ、クエストの同時受注は出来ません。複数のクエストを同時に受けられるようになるには、アイアンランク以上で、そして、ギルドから一定以上の高い評価を得た冒険者にならないと難しいですね」


「……無念也。では、どちらか片方でありますか」


「しょうがないよ。で、どっちにする? 私はガーディアン討伐が良いかなー」


 そう言ってチラッ、と斬鬼丸を見るナターシャ。これで行こう?

 だが、今回の斬鬼丸はいつもとは違った。

 他のクエスト用紙を退けて、ゴブリンの集落らしき絵の描かれた用紙に人差し指を置く。


「否、拙者はゴブリン村の捜索をしてみたいであります。其方の方が、沢山の魔物と戦えそうな気がする故に」


「おぉ?」


 なんだ反抗期か?


「それに、マルシェ・ガーディアンはゴブリンより強いとカレーズ殿が言っていたであります。ならば、最初の腕試しはゴブリンから始めるのが道理かと」


「あぁー」


 納得するナターシャ。

 斬鬼丸、意外とちゃんと考えてた。


「じゃ、まずはゴブリン村捜索にしよっか。キノコは後回しで」


「承知。リズール殿もそれで構わないでありますか?」


『はい。私は我が盟主マイロードをサポートする役目ですし、まだカッパーランク。まずは、自分の身は自分で守る事をモットーにしていきたいと思います』


 そしてぺこっ、とお辞儀をするのだ。

 か弱い人間のつもりらしい。


「ふっ」

 

 その様子に、ナターシャの口からつい笑いが漏れる。

 チートスキル満載なのに、よく平然と言ってのけるなこのゴーレムメイド……

 まぁ、人間らしいからそれで良いんだけど。


 ギルド職員も優しく微笑んで、ナターシャ達に尋ねる。


「では、ゴブリン村捜索でクエストを発行させて頂く、という事で宜しいですか?」


「はーい」

「御意」

『はい』


「分かりました。受注書を発行致しますので、皆様の冒険者カードをお出し下さい」


 冒険者カードを提出し、諸々の事務処理が終わった後、職員はこう一言残して、三人を見送ったのだった。


「今回はカッパーの方がパーティに居られますので、青銅のお二人は先行せず、しっかりと守って上げて下さいね? では、よき一日を」


 ごめん職員さん。

 多分、俺と斬鬼丸が守られる側なんだよね……



◇◇◇



 ゴブリン村捜索は間違いなく数日単位になる、というナターシャとリズールの適切な判断から、三人はエメリア旅行雑貨店に帰還し、報告する事にした。

 帰宅後、さっそくガレットさんに許可を取り、スマホで実家の両親に連絡。

 当然、ブロンズランクになった経緯に触れる事になるが、そこは上手くはぐらかした。


『ナターシャ、どうやってブロンズになれたんだい? フミノキースに着いてまだ3日目だよ?』


「実はねー、私も詳しくは分かんないんだよね。斬鬼丸がブラッディデスベアーを討伐したのが関係してるんじゃないかな?」


『あーなるほど、飛び級か。それなら確かにあり得るなぁ……』

『そうね。斬鬼丸さんの力は、ナターシャちゃんの力でもあるものね』


 パパンもママンも納得したようにうんうん、と唸っている。

 ふっ、慣れたもんよ。


「じゃあ、次の連絡は休憩時間にするよ。いまから携帯食料とか買ってくるし」


『分かった。糧食を選ぶときは、安さよりも美味しさで選ぶんだぞ。僕はそれで苦労した事があるからね』


「はーい。程々に良い物を買うねー。ばいばーい」


 通話終了。早速天使ちゃんからLINEが来て、


天使

[天使ちゃんも仕事で忙しくて、毎日の夜食が必要だから、美味しそうなお菓子をアイテムボックスに入れてくれると嬉しいな☆]


 とお土産を催促された。

 後で食べて良い物リスト送るからね、と返して、商店の皆に出発を告げ、ナターシャ・斬鬼丸・リズールの三人は旅の準備を始める。



◇◇◇



 次に来たのは、エメリア商店から少し離れた場所にある食料店、カリーナ食料・保存食店。

 見た目はエメリア商店と似ているが、食料品店だけあって買い物客が多い。

 ここを選んだのは、エメリアさんに『ウェンウッド商会が経営してる商店の一つだから、私かお父さんの名前を出せば正規の値段で売ってくれるよ』と言われたので。

 いやぁ、商人の伝手があると冒険者活動も楽だ。


「おじゃましまーす」


 玄関を開けてベルの音を鳴らし、ナターシャ達は入店した。

 内部はエメリアさんの店よりも広く、畳で表すなら12畳ほど。

 主な販売物はオートミールなどの穀物、乾パンなどの量り売り商品に、棚に並べられた多種多様の乾物、瓶詰めのドライフルーツ、豆類、漬物。

 レジ近くには干し肉や燻製肉、ソーセージ、そして何故か干し芋が吊るしてあって、カラフルな暖簾のれんのようだ。


「はいいらっしゃーい……あら、可愛い魔女っ子さんね」


 と、出迎えてくれたのは女商人さん。

 エメリアさんが可愛い系なら、この人はちょっとクールなタイプ。

 ダメージジーンズっぽいズボンの露出部から覗く肌のきめ細やかさから、身体の管理にとても気を使っている事が分かる。

 女商人の年齢? 知らん。

 スリーサイズを聞くのは良いとして、年齢を聞くなんて半分犯罪だろ。


「初めましてカリーナさん。エメリアさんの紹介で来た、ナターシャです。春先までそこに下宿しています」


「あらそうなの。じゃ、値段の駆け引きは辞めとかないとね。会長に怒られるし」


「ありがとうございまーす」


 やっぱ後ろ盾があるって楽だわー。これからもここを贔屓にしよっと。

 そしてナターシャは、主食や栄養食の選択はリズールに任せて、嗜好品選びに没頭する事にした。

 自分で稼いだお金で買うなら、多少は贅沢しても許されるでしょ?


「どんな甘い物食べよっかなー?」


「ならば砂糖などは如何でありますか?」


「それただ甘いだけじゃん却下。――出来れば、甘味の中にちょっとしたスパイスが欲しいよね?」


「ふむ……ならばこの、シナモンと蜂蜜を使用した、少しお高めのジンジャークッキーセットはどうでありますか? 人形ひとがたを催していて、食味の際に首の落とし甲斐があるであります」


「斬鬼丸ちょっと言い方……ん、でも良いね。美味しそう! これ買う!」


 ナターシャはまず、一袋10枚入り、金貨一枚の高級クッキーを一つ選んだ。

 そして、天使ちゃん達へのお土産用に追加で三つ。


「他は何にしよっかな。次はリンゴ系統が良いなー」


「ふむ、ならばショートブレッドに付けて食べる、リンゴジャムなどが理想でありますなぁ。硬く焼いた堅パンを食べるには、唾液の分泌が必要不可欠故に」


「へぇー斬鬼丸物知りー……じゃ、この小瓶のリンゴジャムで!」


 次は銀貨10枚相当のリンゴジャムを選んだ。お土産も含めて三つ。


「こんな物かな? 買い過ぎても食べ切れないと思うんだよね、あと太るし」


「否、あと一品は選ぶべきだと提言するであります。出来れば飲料系統で一つ選び、捜索途中の休憩時間に飲めるような物がお勧めでありますな」


「糧食に関して詳しいねぇ……なら、紅茶とか……あ! ここコーヒー売ってる! 凄い!」


「ッ!」


 コーヒー、という単語に反応した女店主のカリーナは、音も立てずにナターシャの傍に移動してきた。

 そして同士を見つけた、と言わんばかりの嬉しそうで、尚且つ恥ずかしそうな顔で、話し掛けてくる。


「……な、ナターシャちゃん。コーヒー、知ってるの?」


「え? あっ……えっと……は、はい! お父さんが貴族なので!」


 何とか誤魔化すナターシャ。

 やべぇ前世バレしかけた……あぶねぇ……


 その言葉を聞いたカリーナはとても嬉しそうに笑って、コーヒーの良さを語り始めた。

 産地によって違うアロマ的な香り、飲んだ時に感じる苦味、酸味、後味に残る甘味と、香りの濃さ。淹れ方や、その日の気候によって七変化するコーヒー、たまたま好みのバランスを引き当てた時の嬉しさなどなど……

 それはもう、強く強く熱弁してくれた。


 スタッツ国では紅茶を飲む事が上流階級の主流で、コーヒーを好む人はマイノリティ。

 コーヒーを知ってる人が店に来ただけでも、とても嬉しい事だったらしい。


「――あ、ごめんね! 長く語り過ぎちゃった。でも、子供にコーヒーはまだ早いと思うから、お姉さんは紅茶を選ぶ事を勧めておくね。じゃ!」


 そう言って、音も立てずに商品整理に戻っていった。

 見た目はクールだけど、中身は意外とオタクっぽい人なのかもしれない。

 

 気を取り直してナターシャは、ガーベリアママンが好んでいる茶葉を買う事に決定した。

 実家で飲み慣れた味なのは言わずもがなで、淹れ方も知ってるから当然だね。

 ティーセットはリズールに創ってもらうさ。


 で、リズールが選んだ食料も含めて、合計で金貨10枚と銀貨11枚。

 買った物は全てアイテムボックスに入れて、カリーナさんに魔法の事を口止めした後、ナターシャ達はようやくゴブリン村捜索へ出向く。

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